〔 私の残り、君にあげる 〕
ごめんね。
心の中で今日も君に呟く
色々考えたんだけど
やっぱこれしかないと思うんだ
「ね、瑞樹」
『ん?』
「未来って、明るいと思う?」
急にこんな事聞いたら
驚かせちゃうかな
なんて考えていると
案の定、瑞樹は
は?とでも言いたげに眉根を寄せ
怪訝そうな顔をした
『急になんだよ』
「いやー、朝の占い見てたら
私最下位でさー
今日は上手くいかないらしいんだよね
だから、未来が明るいか
ふと気になっちゃって」
えへへ、と笑ってみせると
呆れたように溜息をつかれる
『相変わらず意味わかんね』
「まあまあ、そんな顔しないの
私が意味わかんね、なのは
いつもの事でしょ?」
『自覚あんならなおせよ』
「やなこった!」
笑いながら大きい声で宣言すると
瑞樹はビックっと肩を揺らした
『急に大声出すなよ、驚くだろ』
「相変わらずビビりだねー」
ニヤニヤする私
また深いため息をつく君
「あ、ねえねえ瑞樹!」
『なんだよ』
「もー、女の子相手に
面倒くさそうに返事しないの
そんなだから瑞樹はモテないんだよ」
『うるせーな、別に良いだろ
モテたいとか思ってねーし』
「またまたぁ」
冗談めかして私が言うと
彼はまたまたため息をつく
その姿を見て
君は一日何回ため息つくのよと
呆れて苦笑してしまった
「それでね、瑞樹」
『ん』
「私、瑞樹に笑って欲しい」
『はぁ??』
お前本当訳わかんね、と
瑞樹が目だけで言う
「ね、お願いお願い!」
『いやなんでだよ』
「今日が占い最下位だったから!」
『説明になってねーし』
「今日最悪の運勢なんだぁ
やだぁって思いながら生きるより
幼馴染兼恋人の笑顔を見て
一個はいい事あったなぁった
思って生きる方が楽しいじゃん!」
『思考回路謎すぎかよ』
「とにかくお願い!一生のお願い!」
『あぁ、もう』
心底面倒くさそうに
瑞樹が声を出す
『一回だけだかんな』
「分かってるって!」
ニコニコしながら答えると
瑞樹はやっぱりため息をつく
『ほれ』
不器用に。口角を少しだけ上げて
『これで満足か』
「うん!すっごい満足!
苦しゅうない!
ありがと瑞樹!大好き!」
『はいはい分かった
分かったから離れろ
くっつくな』
「えへへーっ」
瑞樹、本当にありがとう
最後に君の笑顔が見れて
すごく嬉しかったよ。
心の中でそっと呟く
「じゃ、私そろそろいくね」
『おう、気をつけて帰れよ』
「うんっ」
私がかえるのは
家じゃなくて土だけどね
なんて言える訳もなく笑って答える
「みーずーきっ」
『なんだよ』
「いっぱい生きてね」
は?と瑞樹が言うより先に
「さよなら!」
私は笑顔で彼の病室を出た
__
『別れは済んだか』
「うん」
『それでは、約束通り』
『君の命を貰おう』
私は死を間近に感じ
ゆっくりと目を閉じて
目の前の"悪魔"との出会いを思い出す
『立花瑞樹は3日後に死ぬ』
なんて、言われた時は吃驚したな
頭の中が真っ白になった
そんな私に悪魔は言ったの
『俺と契約すれば
立花瑞樹の寿命を伸ばせる』って
『ただし代わりに
お前の命をいただく』って
迷いなんかなかった。
なんて、言ったら嘘になるけど__
私知ってるんだよ、瑞樹
私に冷たくしてたのは
自分がもうすぐ死んじゃうって
分かってたからなんだよね
自分の事これ以上
好きになって欲しくないって
思ってたんでしょ
瑞樹、本当は優しいもんね
でも、残念でした
私瑞樹にちょっと冷たくされたくらいで
嫌いになんてならないよ
さっき君を抱き締めた時
心臓の音がハッキリ聞こえてきた
すごくドキドキしてたなぁ
私の事、好きでいてくれてるのかな
って思ったのと同時にね
強く感じたのよ
"瑞樹に生きて欲しい"って
だから、私の命を君にあげるわ
私の命の残りを使って
好きな物をいっぱい食べて
好きな場所に行って
人生を楽しんで
私は微笑む
「瑞樹」
もう彼に届かないと知っていながら
最後に呟いた
" 大好き。いっぱい生きてね "