別に幸せになりたいとか
そういうことじゃなかった。
ただ_
誰かの正義になりたかった。
--------------------
冷たい雪が降る
「っ!化け物!!」
人間達はそうやって、
私達を恐れた。
私達だって元々人間で、
ただ、上手く生きれなかった者と
いうだけなのに。
でも、紅い瞳、白すぎる肌、
妖怪にも見えるこの醜い姿を
受け入れてくれる人は
いるはずもなかった。
「姉ちゃん…」
妹の祭鈴(まつり)が
私の着物の裾を引っ張った。
「ごめんね、祭鈴。
もう少しでご飯だから」
私達は別に人間を喰うとか
そういう漫画みたいな者ではない。
野菜や果物など、
人間と同じものを食べる。
でも今は冬だから、
余計に何も食べれなかった。
「祭鈴、しぬの?」
凍えながら祭鈴は呟いた。
「そんなわけないよ、大丈夫よ」
必死に祭鈴の背中を撫でる。
山の麓に小屋がある。
そこには秋にためておいた
食料が少しだけあった。
「祭鈴、もう少しだけ頑張ろうね」
祭鈴の手を引き、山をおりた。
小屋に入ると果物があった。
「よかった、祭鈴ほら食べな」
祭鈴は嬉しそうに果物を食べた。
でもこれからまたどうしよう。
どこか食べ物を探さなきゃ。
本当に今年はこの山で…。
嫌な考えをかき消して、
私は小屋から出た。
すると、
「いた!あれよ!化け物!!」
人間がこちらに銃を向けた。
私は祭鈴の手を引っ張り、
小屋から飛び出した。
「ね、姉ちゃん…!!」
どうしようどうしよう!
ころされる!!
長い時間逃げ続けたが、
人間は諦めが悪かった。
仕方がないから
祭鈴を木の影に隠し、
話で解決しようと試みた。
「じ、銃を向けないでください!」
震える声で叫んだ。
「わ、私達は人間を襲いません
何もしません!だから、
ころさないでくださいっ」
人間は驚いた顔をした。
「本当なのか?
嘘をついてるんじゃないのか?」
「ついてません!!
私も前は人間だった!
今まで何もしてこなかった!」
しかし、人間はまだ
信じてくれなさそうだった。
「醜いものは嘘をつくわ」
私に銃を向けている男の隣にいた
女がそう、呟いた。
「…え?」
「あ、こっちに子供がいるぞ!」
私は弾かれたようにそっちを向いた。
「祭鈴!!!」
祭鈴は人間達に引っ張られていた。
「いたい!やめて!」
「祭鈴から手を離して!
お願いします!離して!」
私は必死にもがいた。
けど、人間はこう言った。
「悪いけど身の安全の為なんだ」
私達は何からも救われないの?
「や、めてぇぇぇ!!
祭鈴は!!私の大切な妹なんだ!!
私はころしてもいいから!
せめて祭鈴だけでも助けてっ」
そう言って
祭鈴に駆け寄ろうとすると、
パァン!!
ピチャ…
私の胸から血が垂れる。
「姉ちゃん!!」
人間達はぞろぞろと
村の方に歩き出す。
そして、1人の人間が、
「この子供は私が預かるわ。
普通の人間に戻すから。」
そう言って私の肩を持った。
「ま、つり…」
「姉ちゃん!しなないで!」
あ、私、死ぬんだ。
どんどん血が溢れていく。
祭鈴は泣きそうな顔をする。
「ご、めん、ね…。
辛い、思いばかりさせて…」
いつもいつも祭鈴は
我慢ばっかだったね…。
貧乏で辛い生活だったけど、
あの頃はまだ幸せだったな…。
「姉ちゃん、いやだ!!
おいていかないでぇ!」
ぽろぽろと涙が私の頬に落ちる。
「姉ちゃんは私のヒーローだよ。
いつもいつもすくってくれたもん。
だから、いなくなっちゃいやだよ」
私は嬉しくて悲しかった。
私は祭鈴の為になれてたんだね。
「祭鈴…ありがとう…」
だんだん力が抜けていく。
「姉ちゃん、…珠音(たまね)!!」
「ごめんね…ずっと見守ってるから…」
「ずっと祭鈴の味方だから…」
女の人が祭鈴の手を引く。
祭鈴は私に何が叫んでいた。
祭鈴、どうか…次こそ
幸せになってね。
白い息が溶けていく。
冷たい雪が降り積もる日。
私は、
この残酷な世界から
飛び立った。
end.
♡♡