雨久花・2025-04-21
愛
死
いつか命の終わる日に、貴方が隣にいてくれたら良い。
君がいない世界を愛せるほど、僕は強い人間じゃない。
俺にとってもお前にとっても、愛とは都合の良い言葉なだけだったんだ。
そのあとはもう、あんたらのご存じの通りカー・クラッシュ。
痛みに発狂する体。 薄れる意識と視界。 うるさいくらいの耳鳴り。
ゆっくりと俺に伸ばされた"死の手“は、惚れ惚れするほど美しく。
ああ、やっと俺は幸せになれるんだって。
心の底から安堵した。
本当に自分が愛する人と生きて死んで同じところに骨を埋めてまっさらになりたい。
きっとそれは、許されないことなんだろうけれど。
『心臓』
自分の心音を確かめるように息をする。
それで何か変わるわけでもないけれど、時たまどうしてもそれがしたくなる。
何が怖いんだろうと自分自身に問いかける。
大体答えは返ってこない。
そりゃぁ、自分で言葉にしないと答えにはならないだろうけど。
一定のスピードで刻まれるその音は、確かに自分が生きている証だ。
あんな不健康な生活をしていても、この心音だけは変わらない。
死ぬまできっと、音階が違くなっても、音を刻むことはやめないだろう。
きっとそれが安心するのだ。
自分がここにいるという証が、きっとそれだけは本当なのだ。
目を閉じる。 音を聞く。
今日も死に損なった証。 それが存在を主張する。
愛おしくも悍ましい生よ。 どうかこのまま物語を刻んでおくれ。
観客が飽きるまで、人形が壊れるまで。
それまで鼓動を鳴らしておくれ。
気力のなくなった花は
ただ枯れに向かって息するのみ
足掻いて崩れたひとひらも
変わらず愛でてよ
データは引き継いだ。
見た目も喋り方も、全部彼と一緒。
果たしてこれは彼なんだろうか。
それとも彼の見た目をした新しい"彼"なんだろうか。
テセフスの船。
わかりはしない。
あれは考えるからこその意義がある。
答えを見つけたらきっと意味はなくなる。
でも君の見えないところで、きっと彼の残像が泣いているんだろうね。
そういうところが好きだから別にいいんだけどさ。
あの感情は嘘なんかじゃなかったのに。
あの言葉も、本当だったのに。
生きた証が欲しいと思った。
こんな僕でも生きていたんだと、誰かに知ってもらえるような。
そんな証が欲しかった。
海に沈めば呼吸ができると思った。
海に嫌われたこの身でも、もしかしたらなんて。
仮に沈んでも、きっと彼らが引き上げてくれる。
だから俺は何回でも沈む。
眠るように呼吸をして、この深い深海であの人に会いに行くのだ。
揺れ動く波を見る。
揺籠のようなそこで目を閉じる。
母なる海の中で俺は眠るように命を終える。
あの人が愛した青い世界で全てを終える。
それは、幸せな死なのだ。
君の隣に立てる人間になりたかった。
お前を超えれる存在になりたかった。
私は/俺は
勝手に失望して望んで、手を出してはいけないものに手を伸ばした。
自分の為だけに走った先にあったのは、世界を破滅に導く船頭役。
そうやってみんなに迷惑をかけて。
それでも泣きながら、或いは笑って手を伸ばしてくれた。
そんなみんなの為に。
これ以上、ただの1人だって殺させてなるものか。
僕は君から幸福だけを与えられたい
その分君は何十年後かの
僕の死を背負っておくれよ
『俺のこと、忘れないでね』
そう言って、風船が割れるように消えたあいつの居場所は未だにしれない。
「死体をまだ見てないんだ」
言い訳のようにそういう俺を、彼らは好きにさせてくれている。
それが何よりありがたい。
これは、俺があいつの死を認めたくないだけだとわかっている。
それでもーー。
坂を登っている間はいい。
怖いのは、急な下り坂だ。
全部最低に向かって行く気がする。
『最も底』なんてあるはずがないから、永遠に苦しいだけ。
血反吐を吐くような絶望と、最高を求めてしまう浅ましさ。
醜い自分に怖気がして、それでも私は生きている。