はじめる

#病気

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全3026作品・

真白な病室以外の

鮮やかな景色を見てみたい

Raimu・2020-03-30
君と見たい景色
ポエム
病気
景色
病室

『別れー君と見た夢―』



「ごめん、ごめん、ね…」



苦しげで切なげな声と共に



大好きな大切な命がまた



一つ消えようとしている



「だっ…や、だ…っ」



どうか、どうか…助けて



1、一人ぼっち



朝起きて



目が覚めたことに溜息をつく



いつものようにテーブルに向かい



「またこれか」



と、溜息を吐き



割引シールのついたトンカツを食べる



「いただきます」



一人寂しく食べるご飯は



何も美味しく感じない



”ちゃんと食べてね”



そう書かれた紙の上に



500円玉が一枚



毎日起きたらこうなっている



お父さんとお母さんは二年前離婚した



それからお母さんは



朝から晩までパートづけ



「ごちそうさまでした」



まだお父さんがいた時



いただきます、ごちそうさまは



絶対言いなさいって



よく言われてたな



そんな事を思いながら



パーカーに着替える



カイロをポケットに入れて



「行ってきます」



一人寂しく家を出る



バスに揺られて



あの場所で降りる



重い足を一歩一歩動かして



あの部屋の前へと向かう



「ふぅ…」



そっと溜息を吐いて



笑顔を作って



コンコン。



控えめにドアをノックする



「蒼くん!」



「待ってたよ!想羅!」



そう言ってお決まりのハグをする



この時が、一番幸せ



「体調大丈夫?」



「んー、ちょっと熱っぽいかな」



「そっか…」



大好きな彼、蒼くんは



不治の病に倒れ



余命一ヶ月と宣告されたばかり



蒼くんは残りの一ヶ月を



大切に大切に使っている



「蒼くん、この問題解ける?」



「ここ?これはこの方程式を…」



蒼くんは頭が良くて



学年1位の成績を持っている



それに比べて私は



中の下くらいの成績で



いつも宿題を教えて貰っている



”最後の一ヶ月くらいは”と



先生に頼んで



休みを取ることが出来た



「あ、ごめん。検査行かなきゃ」



「あ、うん。頑張ってね!」



「おう」



私達は今中学三年生



高一になったら、蒼くんはいない



そう考えると涙が溢れてくる



だからなるべく考えないように



したいのに、な



蒼くんは



とぼとぼと痩せこけた体で



検査室へと向かった



「なんこれ…」



ふとベッドを見た時



枕の下に小さなノートが見えた



ハラハラとページを捲る



「蒼、く……」



視界が歪んでよく見えない



涙を一生懸命拭って



ゆっくり、ゆっくり読み返した



「一日目。



余命一ヶ月。



そう言われた。



何で俺なのかな。



とか思うより先に



想羅を残して死ぬのが嫌だ



こう思った。



もしも願いが叶うなら



想羅とずっと、一緒にいたい」



本音ノートと仮題が付けられた



小さなノートをまたハラリと捲る



「二日目。



想羅が休みを取った。



残り、一ヶ月。



そんな事言うなよ。



俺はずっと一緒に居たいのに。



ごめん、こんなわがまま。



大好きだよ、想羅」



涙が一粒、紙に落ちた



蒼くん、こんな事思ってたんだ…



苦しみの中



少しでも蒼くんの事を知りたくて



次のページを捲ろうとした時



「想、羅…?」



「あ、お…くっ…」



____________後書き______________



急ですが



小説(?)始めます



感想とか貰えると



めちゃくちゃ書く気になります



もしかしたら



途中で諦めてしまうかもだけど((おい



生きる意味が欲しくて



多くの人の心に残したくて



始めました



何卒、宜しくお願い致します

Raimu・2020-03-30
小説
物語
病気
別れ
運命
ポエム
サヨナラ
別れー君と見た夢ー


『別れー君と見た夢ー』



5、一時の幸せ



いつも通り蒼くんと一緒に宿題して



蒼くんとくだらない話を沢山して



そんな時間が幸せだった



「想羅ー」



「なに?」



「病院の庭、久しぶりに行きたい」



蒼くんは真っ直ぐ私の目を見て



お願いしてきた



「許可…取らなきゃ」



「ごめん…」



「いいよ。待っててね」



私は松居さんの元へ走った



「すいません。松居さん居ますか?」



受付の人にそう尋ねる



しばらく待つと松居さんが来た



何となく、気まづい雰囲気が流れる



「想羅ちゃん…」



申し訳なさそうに眉を下げた松居さん



「この前は、すいませんでした。



ちょっと…言い過ぎちゃいました」



私は深々と頭を下げた



松居さんも気にしていたんだろう



目を丸くしたあと



「い、いや…謝るのは僕だよ。



諦めたような言い方、本当にごめんね」



松居さんは20秒ほど頭を下げて



泣きそうな目でこちらを見てきた



「あ、あの…松居さん」



私は蒼くんを待たせてる事を思い出し



「病院の庭、行きたいんですけど…」



そう先生に頼んでみた



「んん…分かった。いいよ」



「…有難う御座います!!」



松居さんは、少し悩んでから



そう言ってくれた



私は蒼くんの病室まで走った



途中途中看護師さんに注意されたけど



蒼くんの喜ぶ顔を想像すると



そんな事、どうでもよかった



「蒼くん!!」



「ど、うだった…?」



切なげな視線



行けないと思ってるんだろう



「出て、いいってさ!!」



「ほ、ほん、と…!?」



「うん!!」



「よかったっ…!!」



私と蒼くんは



自然とハグを交わした



この顔



この嬉しそうな顔



これが見たかったんだ



それから私と蒼くんは



手を繋いで病室を出た



「辛くない?」



「大丈夫だよ」



久しぶりに病室から出た蒼くんは



物珍しそうに辺りを見回していた



「ね、見て!水槽ある!」



小さな子供のようにはしゃぐ蒼くん



見ていると切なくなってくる



「少し前に設置されたんだよ!」



「へぇ…!」



蒼くんは庭に向かう途中



何度も何度も変わった所を見て



小さな子供のようにはしゃいでた



「じゃ、行こっか!」



「うん!」



小さなベンチに腰掛ける



もちろん手は、繋いだままで



「空が綺麗だね…」



「そっちの空も綺麗だけど



俺には想羅が一番綺麗に見えるよ」



沈みかけた夕日を見ながら



そんな甘い事を言ってくれる蒼くん



永遠にこの時間が続けばいいのに



そんな夢みたいな事願っては



叶わない夢に打ちひしがれる



「ねぇ、蒼くん」



だから今だけは



「ん、何ー?」



今だけでいいから



「ずっと…一緒だからね」



叶わない夢を、嘆いても



「…うん、ずっと、一緒」



いいでしょうか



「あ…」



「あ…」



夕日が沈む



辺りが暗闇に変わる



そんな時だった



「…想羅」



儚げな声が聞こえたかと思うと



「…っ」



蒼くんとの距離が



0になっていた



「う、あ…っ」



「ビックリした?」



いたずらっ子のような笑みを浮かべ



私に微笑んでくる蒼くん



「ビックリ…した」



「自分からしたのに…照れるな」



そう言って笑う蒼くん



でも…



その笑顔はいつの間にか



「…っ」



大粒の涙に変わっていた



「あ、れ…っ、なんで…泣いて…っ」



その涙はいつの間にか



「…あ、れ…っ」



私に移って



溢れる涙をそのままに



私達はそっと



優しく短いキスを交わした



「…か、えろか」



「うん…」



蒼くんとの初めてのキスは



甘く切ない



恋の味がした

Raimu・2日前
小説
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病気
キス
切ない
甘い
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君と見たい景色
別れー君と見た夢ー

『別れー君と見た夢ー』



4、少し世界が変わった時



それから私は全部話した



お母さんの再婚のこと



松居さんが諦めかけてること



そして蒼くんまで…



「春川はそれでいいわけ?」



俯き気味に空雅くんは言う



「良く、無いけどさ…」



どうにも出来ないんだよ



弱い私に



出来ることなんてないんだよ



「私…弱いから…」



「弱いとか誰が決めてんの」



「わた、し…?」



でも、本当に弱いし



「俺からしたら春川は



十分に強いと思うけどな」



そんな優しいこと言われちゃ



涙止まんなくなるじゃん



「今泣いてると、母さん心配するぞ?」



お母さん…今頃どうしてるのかな



心配かけちゃったよな



「家どこ?」



「え、なんでなんで」



「送ってやるから家帰れ」



「どんな顔して帰れば…」



あんな酷いこと言って



家を飛び出した娘を



受け入れるお母さんなんて



居るんだろうか



「謝りたいなら、俺が一緒に謝るよ」



「や、いいよ…てか、空雅くんは…」



こんな時間に出歩いて、大丈夫なのかな



「俺?俺はいんだよ



親どーせ兄ちゃんしか見てないし」



当たり前のようにそう言う空雅くんは



どこか寂しそうだった



「ほら、行くぞ」



「あ、ちょっ…!」



力強く私を起立させ



途中途中道を聞いてきた



「ここ?」



「うん…」



「よし、押すぞ」



「あ、ちょっ…!」



空雅くんは



何のためらいもなくチャイムを押した



しばらくすると



泣き腫らした顔のお母さんが出てきた



「そ…っ、ら…」



お母さんはうろたえてから



「ご、ごめんなさい…っ!!」



思い切り、謝ってきた



「ごめんなさい…ごめん…なさい…っ」



溢れる涙をそのままに



お母さんは謝り続けた



「ほら、春川も…」



「ご、ごめんなさい…っ」



謝り合う私とお母さんを見て



空雅くんは言った



「もう俺は帰るね」



「う、うん…」



まだ謝り続けるお母さんを



私はそっと抱き締めた



「お母さん。寒いから家入ろ?」



「わ、わか…った」



お母さんをそっとソファに座らせて



私は話をした



「お母さん、私ね」



「う、うん…」



「最近、色々重なって…限界で…



お母さんに…八つ当たりしちゃった…」



後悔してもしきれない想いが



涙に変わって頬を伝う



「蒼くん…も…っ、松居さん、も…っ」



「お母さん、も…、だ、よね」



お母さんは切なげに呟いた



「う、ん…ごめん…」



「謝るのは…お母さんの方だよ…」



お母さんはガタリと音を立てて



起立する



「ほんっっとうに、ごめんなさい」



「いいよ、もう、いい」



私は、満面の笑みをお母さんに向けて



「今日は遅いし、もう寝よっか」



そう言った



「そ、うだね…っ」



「おやすみ、お母さん」



「おや、すみっ…」



そのうち自然と眠くなって



静かに眠りについた



「ん…んっ…」



何だ、もう朝か



いつも通りテーブルに向かう



「…っ」



そこには、いつものトンカツじゃなくて



お母さん手作りの、カレーがあった



そして、その横には



「誰よりも大好きだよ」



そう書かれた上に、500円玉



「お母さん…」



私は暖かい気持ちのまま



いつもの電車に乗った



しばらく電車に揺られて



いつもの場所で降りる



コンコン



いつもより何倍も何十倍も



暖かい気持ちで病室に入る



「蒼くん…!」



「想羅…!」



そしてそっとハグをする



いつもの幸せの時間が始まる



「昨日、さ…」



「ん?」



私は、昨日の事を全て話した



お母さんが再婚すると知って



夜中に家を飛び出して



空雅くんに助けられたこと



空雅くんのおかげで



お母さんと仲直りできたこと



「…で、空雅と仲良くなったんだ」



全てを話し終えた時



蒼くんはつまらなそうに言った



「ま、あね?」



「へー」



いつもと違うこの態度



前に一度だけ見たことがある



「蒼くん、もしかして拗ねてる?」



この顔は絶対、拗ねてる



「拗ねてないし…」



完全に拗ねてる蒼くん



私は強く抱き締めて



「大好きだよ、誰よりも」



そう言った



「ん…俺も大好き」



こんな幸せな時間が永久に続けばな



そう思ったのは秘密にしとこ



蒼くん、世界一好きなんだよ



蒼くん、ずっと一緒に居たいんだよ



心の中でそっと呟いてみる



チクリと心が傷んだのは



ずっと一緒になんて無理だって



分かってるから

Raimu・3日前
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「想、羅…?」



「あ、お…くっ…」



____________________________________



2、本音ノート



「俺居ない間に…なんか…み、た?」



恐る恐るといった感じで



蒼くんは言う



どうしよ、どうしよ



焦る思いが



汗になって流れる



「や…っ、え、と…」



手元にあったノートを



そっとパーカーのポケットに入れた



「な、何も…見てないよ!」



蒼くんを苦しめたくなくて



私は小さな嘘をついた



「なら何で泣いてるの?」



鋭く、でも不安げに



私の目を見てくる



「め、目に…ゴミ、入っただけ!」



在り来りな答えを



蒼くんは信じてくれるだろうか



「ん…そっか」



蒼くんは何かを察してくれたのか



優しく優しく抱き締めてくれた



「検査の結果、悪かった」



そう言った蒼くんの肩は



震えていた



「大丈夫…蒼くんは絶対死なないから」



絶対なんて言葉



存在するわけないけど



今は、今だけは



そんな言葉に期待しても



いい、かな



「想羅…ずっと一緒」



「ん…ずっと一緒」



蒼くんが居ない世界なんて



主人公のいないドラマと一緒だよ



絶対に…やだよ



しばらく蒼くんに抱きしめられて



私はやっと落ち着いた



私が落ち着いたのを確認して



蒼くんは離れた



蒼くんが離れても



優しく暖かい温もりが



まだ少し残ってた



「想羅」



「ん、ん…?」



優しく微笑んだ蒼くんは



私の肩に優しく手を置いて



「クリスマスの日、どこか行こっか」



そう言った



その笑顔からは、諦めの匂いがした



「え…?」



「最後の思い出、作ろっか」



最後



蒼くんが一番嫌ってる言葉



前、言ってくれたじゃん



最後じゃないよ、ずっとだよって



その言葉、忘れちゃったのかな



「最後じゃ…な、い」



「最後なんかじゃ…ない!」



私が、負けちゃダメだ



私だけは、ずっとを信じなくちゃ



「ごめん…想羅」



「んんん…大丈夫」



「大丈夫だから、ベッド入って…?」



熱っぽいって言ってたし



検査結果悪かったって言ってたし



「ん…分かった」



ちゃんとベットに入ったのを確認して



「クリスマス、何しよっか」



私はそう言った



未来の話をしたいんだ



明るい明るい未来の話



私は強く決めたんだ



決して最後なんて言わせないし言わない



未来を信じなきゃ



夢ある未来が



本当に閉ざされてしまうから



「クリスマスツリー…見に行く…?」



蒼くんはとても真剣で



切なげな顔で



私に言ってきた



「蒼くん…無理だけはダメだよ絶対」



「たまには大好きな人の為に、



少しの無理くらい、させてよ」



大好きな人



そう言われて素直に喜べないのは



やっぱり無理をして欲しくないから



「…考えとく」



曖昧な答えしか出ないのは



大好きな人って言われて



心が揺れたから、なのかな



「あ、想羅。時間大丈夫?」



「あ…」



ふと時計を見てみると



時刻は五時を指していた



「帰らなきゃ…」



「ん…また明日ね」



「ん…また明日」



私が帰る時は、必ずこの言葉



サヨナラでも



じゃあねでもない



次があるこの言葉



私はそっとハグをしてから



静かに病室を出た



帰る前に、蒼くんの担当医の



松居さんに



今の現状を聞きに行かなきゃ



受付の人に



「松居さん居ませんか?」



そう聞く



しばらくして、一人の男性がやって来る



この人が松居さんだ



「想羅ちゃん…その…伝えたい事が」



この妙な胸騒ぎが



バクバクうるさい心臓が



今から起こる何かを示しているようで



とても怖い



どうか、その何かが



悪いものでありませんように

Raimu・2020-03-31
小説
物語
ポエム
病気
カップル
病院
別れ
別れー君と見た夢ー



「え……?今なんて…」


「もう、会わない」


「……なんで」


「ごめん」



心の手が離れてく…。


これという理由も伝えず


縁の温もりが


心から離れてく。



「や、やだ、待って…!」


「病気、治るように祈ってる」



そんな悲しい言葉いらない。



「縁ぃ…っ」



こっちを振り向いて


いつもみたいに笑ってよ



ねえ、縁


もう、前も見えないよ…


【surgicalmask~第七話 捨てないで】



「……!」


ふわふわと漂う意識の中で


私は確かに誰かの声を、聞いた。



はっきりしない感覚


記憶を辿る…君は誰……?


私の…大好きな、人……?



「……にし」



重たいまぶたを


こじ開けると


白い天井



そしてガウンを着込み


マスクと帽子をつけた、



お父さんとお母さんの姿があった。






「き…、づき、結月…っ!」



私の名前を呼んでいたのは


お父さんとお母さんだったんだ…。



酸素マスクが、邪魔だ。


よく、前が見えない。


とりたい、けど


体が上手く動かない。




縁はどこ?


キョロキョロと


眼球だけ動かして


私は必死に縁を探した。



いない。



だんだんとはっきりしてくる記憶。



熱があることを隠した



私は縁に嘘ついて



大切な誕生日に



倒れちゃったんだ…




そう思った途端に涙が溢れ出す。




「きょ、何日……?」



「今日は24日よ」


お母さんがゆっくりと


優しく答えた。



「24……日」



縁の誕生日から


三日も経っている。



「あなた転んで大出血起こしたの」



涙目のお母さんは


私の掌をぎゅうっと握った。



「危なかったんだぞ…」



お父さんは私の頭を撫でる。



「ごめ……なさっ」



酸素マスクのゴムに


染みた涙が密着して


頬がヒリヒリ痛む。



「そんなに泣かないで。大丈夫よ」


「無事でいてくれたんだ、それでいいさ」


涙に滲んだのは両親の笑顔。


その柔らかな表情に


私は心底、安堵した。






「えに、しは…?縁に会いたい…」


言葉にすると想いは


大きな風船みたいに膨らむ。


会って伝えたい言葉があった。


「……謝りたい、お母…さん縁、は」


私は途切れ途切れに言葉を送る。


ぐっと躊躇ったお母さんの様子に


私は不安に満ちた視線をむけた。




「あんな男の事は忘れなさい」


いっときの沈黙の後で


思いもよらない言葉が


お父さんの口から発せられた。


「え……?」


体を揺さぶる程の動悸が駆けた。



「ど…ゆ、こと?」


動悸が駆け巡ると


呼吸まで絶え絶えになっていく。


「お父さん、今そんな話やめて」



お母さんは


私の様子に気がついて


お父さんを咎めた。



「お母…さん、何?…縁は?」


思わず縋りついた私の手を


お母さんは両手で握り返し


「結月、今は何も考えずに休みなさい」



そう、話をすり替えて苦く笑った。






それから間もなく私は


一般病棟に戻った。



戻ってすぐ縁に


一言だけ入れたLINE


「元気なふりしてごめんね」


既読がついただけ。



待てど待てど


返信はなかった。



縁…怒ってるんだ…



そう思ったら


しつこくLINEを送ることが


どうしても、出来なかった。





「縁……」


病室の窓から見える空は


どうしてこんなにも


清々しいのだろう。



縁が病室に顔を出さない今


青空はただ、ただ


虚しいだけ。



溢れるのは涙と


逢いたい…


その気持ちだけだった。




逢いたい、逢いたい


逢いたい、逢いたい


願うように何度も思う。



だけど



「ゆーづきっ♪」


その声は、聴こえない。



一目でいい。


マスクに隠れていてもいい。


縁の顔が見たい。



願えば願うほど


元気がなくなっていく気がした。






「結月、先生がね話があるって」


「え……?」



縁の誕生日から三週間後のある日


主治医の先生から打診された、


今後の治療方針…。




寛解導入療法


体の中の白血病細胞を


極限まで少なくするために


大量の抗がん剤の投与を 行う治療だ。



1度目の寛解時


私はこの治療を受けて


自由になったのだ。



今まで


白血球の数値や免疫力低下で


この治療になかなか


踏み込むことが出来なかった。



やっと全ての条件が揃ったという。




死ぬ程辛かった治療を


思い出すと手が震えた。


死ぬ程苦しかった副作用


思い返しただけで涙が湧く。



でも。


もしも、寛解出来たら


学校に通えるようになる。


そうしたら縁に会えるかな


謝れるかな


また……笑い合えるのかな。


そう思って


私は、もう一度


寛解導入療法を頑張ろうと


強く、決意したのだった。




治療開始の、前日


落ち着かない気持ちを胸に


ベッドに横たわる私。


明日からは無菌室だ。


これまで以上に自由がなくなる…。


そんな事を考えていた時


ごろごろと


スライドドアが開いた。


視線をそちらに向けると


ゆっくりと病室に入ってきたのは


マスクをした縁だった。



逢えた……


逢えた……


「っ…」


伝えたい気持ちがあるのに


言葉にならない。



嬉しくて、私の心臓は跳ねるのに


縁はなんだか浮かない顔だ。



縁は無言のまま


私の側のパイプ椅子に座り


スクールバッグを


ボンッと音を立てて


無造作に床へと放る。





そして、息をつくと


やっと私に声をかけた。



「……元気そうで安心した」


「うん……大丈夫だよ」


「うん」


縁の目は笑わない。


「縁…あの」


「ん…?」


「誕生日の日は、ごめんね」


長い沈黙が私の胸を貫く。


眉を顰めた縁の表情が痛い。


やがて、縁は小さく口を開いた。


「こんな事あると困るんだよ……」


「うん……」


「俺……別れたい」


「え……?今なんて…」


「もう、会わない」


「……なんで」


「ごめん」



心の手が離れてく…。


これという理由も伝えず


縁の温もりが


心から離れてく。


あの嘘は……


そんなにいけないことだった?


縁の誕生日、100%


二人で笑い合いたかっただけ。


好きだから。


大好きだから。


口をついた隠し事……。



「や、やだ、待って…縁、元気なふりしたのはっ」


「病気、治るように祈ってる」



そんな悲しい言葉いらない。


弁解も聞いてはくれない。


どうしよう、どうしよう


縁を、なくしてしまう…


両手がぶるぶると震えた。



「縁ぃ…っ」



こっちを振り向いて


いつもみたいに笑ってよ




縁はあっという間に


再びバッグを担ぐと


足早に病室を去った。


1度も振り返ることなく


1度も私の顔を見ることなく


1度も私とこの手を繋ぐことなく


1度も温もりを分かち合う事なく


1度も……微笑むことも無く



縁が勢いよく閉めた扉が


どん、どん、どんどん


と、余韻を残して


やがて完全に閉じられた。



「捨て…ないで……縁……縁っ」



誰もいない、ひとりぼっちの部屋


独白のように呟く。





もう、前が見えない。



未来も見えない。



明日からの辛いであろう治療に


何の価値もないように思えた…。



【surgicalmask~第七話 捨てないで(終)】

ひとひら☘☽・2020-03-29
幸介
幸介による小さな物語
surgicalmask
病気
寛解導入療法
寛解を目指して
白血病
高校生
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無菌室
大好き
失恋
苦しい
副作用
人生
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君と見たい景色
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『別れー君と見た夢ー』



6、優しい成さん



バスに揺られて



家に帰って



部屋に篭って



その間、ずっとモヤモヤしていた



「あ、れ…っ、なんで…泣いて…っ」



あの言葉が



あの顔が



頭の中を埋め尽くす



初めてのキス



嬉しかった、とても



でも、それと同じくらい



”苦しかった”



寝るに寝れなくて



私はしばらくうずくまっていた



その時ふと、パーカーのポケットに



あのノートがある事を思い出した



「…あった」



ふぅと息を吐いて



三ページ目を開く



「三日目。



こんな辛いのなら



早く死んでしまいたい。



何で俺なの?



俺、なんかしたっけ



俺、恨まれるようなことしたっけ



一人の人を一生懸命愛して



普通に生きてきただけなのに



神様、酷いよ



俺と想羅との時間…引き裂かないで」



ぎゅーっと胸が締め付けられる



本当、何で蒼くんなの



病気になるのが



私だったら良かったのに



溢れる涙を拭って



次のページを開こうとした時



「…ただいまぁ」



お母さんが帰ってきた



「…おか、えりっ」



何とか嗚咽を抑えて



心配かけぬようにと返事をした



「まだ、起きてたんだ」



買い物袋を床に置きながら



お母さんは言った



「寝れなかったから… 」



蒼くんと…なんて言えない



そっか、と間を置いて



お母さんは言う



「あの、ね…」



「な、なに」



「外に、成、来てるんだけど…」



そう言った



「…成」



再婚相手の名前だろう



「会って、くれない、かな…?」



不安げな視線



震える拳



「い、いよ…わかった」



私はそう言うしかなかった



「ほ、んと?じゃ、あ、呼んでくるね」



何となく気まづい時間が流れる



しばらくすると、お母さんと



成さんがやって来た



「成…この子が、想羅」



「想羅ちゃん?」



成さんはしゃがんで



私の目を真っ直ぐ見て来た



「想羅…です」



「成です」



優しく微笑んでくれた成さん



「その…急で、驚いた、よね…」



申し訳なさそうに眉を下げた成さん



「でも、ね、青葉の事、本気なんだ」



青葉



お母さんの名前だ



とても真剣な目をした成さん



悪い人ではないんだろう



でも



「ご、ごめんなさい…っ」



やっぱり耐え切れなくて



私はあの場所に向かった



「…はぁ…はぁ…はぁ…っ」



無我夢中で走った



あの場所まで



「…い、た…っはぁ…はぁ…っ」



「どしたんだよ…その格好…」



驚いた顔の空雅くん



そりゃそうだろう



泣き腫らして腫れた目



ボサボサな髪の毛



草か何かで切れた足



「再婚相手の人…っ、き、て…っ」



「ったく…取り敢えずここ座れ」



空雅くんは私を座らせて



「痛くても我慢しろ」



そう言ってから怪我の手当をしてくれた



「うっ…準備いいね…」



「女子みたいとか思ったら潰す」



「お、思ってないです」



そんな冗談を交えながらも



最後まで手当してくれた空雅くん



「意外と優しいね」



「一言余計じゃあほ」



「いたっ」



少し強めに頭を叩いて来た空雅くん



私の涙はもうすっかり止まっていた



「で、どんな人だった?」



空雅くんが聞いてくる



「…優しそうな人だったよ」



私は答える



そんな人なのに私は…



「でも…逃げてきちゃった」



ちゃんと、信じきることが出来ない



私は、どうしようもなく弱いから



「春川が優しいって思うんなら



春川の考え信じてやれよ」



「私の、考え…?」



相変わらずぶっきらぼうだけど



空雅くんは優しい



「自分の一番の味方って自分だよ」



儚げにそう言う空雅くん



「へぇ…」



「でも、一番の敵も自分なんだよ」



「矛盾してるね」



「それ言ったらアウトだから黙っとけ」



「ごめんって!?」



優しいのか怖いのか



空雅くんは不思議な人だ



「ほら、立て」



ゆっくりしようと思っていたら



空雅くんに起立させられた



「い、た…ぁ」



「ほら、行くよ」



「ん…」



空雅くんは道路側



私は歩道側を歩いた



車が来たら私を安全な場所に追いやり



「お前本当に危なっかしいわ」



そう言いながら守ってくれた



「あ、ちょ…」



家に着いて早々空雅くんは



チャイムを押した



「…昨日、の」



お母さんが出てきた



「想羅…」



「ごめん…また逃げちゃった」



「大丈夫…」



お母さんはそう言って笑ったけど



私はモヤモヤした気持ちのままだった



「…その、成さんに…酷いこと…」



「成は…何とも思ってないから」



大丈夫だよと言うように



私の肩に手を置いた



「…ほら、行ってこい」



空雅くんは背中を押してくれた



「うん…っ」



ふと後ろを振り返ると



そこに空雅くんはいなかった



ふぅと息を吐いて



家に入る



本当は、怖い



本当は、家に入りたくない



お母さんと私



二人きり



この当たり前が壊れる気がして



嫌なんだ



「…想羅ちゃん」



成さんは少し寂しそうに



私の方を見てくる



「成さん…その…」



「いいんだよ。謝るのは俺の方だし」



成さんは真面目な顔で



「想羅ちゃんと青葉の間を



こんな部外者が引き裂いてごめん」



「……」



「お母さんを取られるようで



今までの時間が無くなるようで



怖いんだよ、ね?」



そう言った



そんな事言われたら



泣きたくなくても泣いちゃうよ



暖かな涙がそっと溢れる



嗚咽を我慢しようにも



やっぱり我慢できない



「俺は、青葉も想羅ちゃんも



どっちも守っていきたい」



「成…」



「…成さん」



成さんは、とてつもなくいい人だ



優しくて正義感があって



成さんなら、お母さんを任せてもいい



でもやっぱり



怖い



「…少し、時間を下さい」



少しでいいから



考える時間を



心の余裕を作る時間を



「ゆっくりでいいからね」



そう言って成さんは



家から出ていった



そっと息を吐いて



バクバクうるさい心臓を



落ち着かせようと頑張った



苦しくて痛い



蒼くん、助けて



蒼くんに、甘えたい



会いたい時に会えない



このもどかしい距離さえなければ



「…想羅」



「な、なに…?」



「小さい頃の話、しよっか」



そう言ったお母さんの顔は



今までにないくらい



暖かい顔をしていた



「想羅はね、奇跡の子なんだよ」



「え…?」

Raimu・1日前
小説
病気
お母さん
家族
再婚
悩み
苦しい
物語
病院
カップル
別れー君と見た夢ー

『別れー君と見た夢ー』



3、優しさに包まれるということ



「ここ、座って」



「はい…」



通された個室の椅子に腰掛ける



松居さんは険しい顔をして



「蒼くんは…新しい治療方法じゃ



治せない体…なんだ」



そう告げた



「で、でも…だからって…!」



頭が混乱して



上手く言葉が出ない



「想羅ちゃん…」



松居さんは



悲しそうに笑って



私の肩に手を置いた



「悔いのないように、過ごしてね」



最後が近い事を意味する言葉



「も、もう帰ります…!」



私は耐えきれなくなって



病院を飛び出した



嘘だと信じたくて



信じずにはいられなくて



バスに揺られても



家に着いても



何をする気にもなれず



泣き疲れたのか



眠ってしまった



「ん…」



「…起きたの」



「あ…お母さん」



久しぶりに見たお母さん



少し、痩せた気がする



「想羅に、言いたい事あるんだけど…」



「な、なに…」



「ここ、座って?」



いつもと違う様子のお母さん



言われた通りお母さんの正面の席に



腰を下ろす



「ど、どしたの…」



「あ、あのね…お母さん、ね…」



「うん…」



嫌な、予感



さっきと同じような、感じ



「あの…ね」



「再婚、しようと思うんだ」



「え…?」



さい、こ、ん…



”いい人だから”



”きっと気に入る”



”仲良くなれる”



お母さんはそんな言葉を繰り返す



「…ね、だから…許してほし…」



「いつまで…私を振り回すの…?」



「え…?」



お母さんは、目を丸くしていた



そりゃそうだ



今まで大人しかった娘が



初めて反抗したんだから



それでも、言葉は止まらない



「何で…何で…?」



「そんなの急に言われても…知らない」



「お父さんの時もそうだった…っ」



そう、そうだ



お父さんの時も



急に…



「離婚するって…急に…っ!!」



「…ごめ、なさい」



お母さんは泣いていた



それでも言葉が止まらない



「私…お父さん大好きだったのに!!」



「私…三人で過ごす時間が…っ」



大好きだった…のに



「ごめん…ごめんね…」



「もういい!!出てく!」



私は呆然とするお母さんを置いて



家から飛び出した



行く宛てなんて無い



ただあの家に居たくなかった



「な、んで…っ」



松居さんも



お母さんも



蒼くん…まで



何で…何で…っ



「う、ぅ…っ」



寒い、寒いよ



怖くて、たまらないよ



助けて、誰か助けて



「春川…?」



誰かの声がした



「く、うが…くっ…」



空雅くんは…同じクラスの友達



今は確か…夜中の一時をすぎてるのに



「お前…こんなとこ居たら死ぬぞ」



「あ…」



ここは、道路の真ん中だった



このまま車に轢かれて…なんて



「何があったか知らねーけど…



取り敢えず移動するから立て」



「ん…」



差し出してくれた手を優しく握ると



「うあ…っ」



力強く引っ張られた



「あ、ありがと…」



「いーえ」



とっておきの場所があると聞いて



私は空雅くんの後を着いて行った



「ここ」



そこには小さな小屋があって



中に進むとある程度の食料があった



「ここ、は…?」



「俺の第二の家」



そう言って笑う空雅くんは



春川も食えと



チョコレートを投げて来た



「う、ちょっ…!」



「食えって」



「あ、ありがと…」



トンカツ以外の食べ物



久しぶりに食べたな



「美味し…」



「だろ?」



「うん…有難う」



空雅くんは、何を考えてるか分からない



こんな時間に当たり前のように



外出していたし



第二の家と題されたここに



通い慣れているようだし



そんな私の思いに気づいたのか



空雅くんは言った



「俺が怖い?」



「…ちょっと」



そう答える私に



空雅くんは言う



「んー…俺はお前を助けたいんだけど」



空雅くんはまるで



当たり前のように言う



「な、なんで…こんな奴」



「夜中に道路で同級生が泣き喚いてて



無視する奴いるか?」



「い、ない…」



「だろ?だからだよ」



「ん…」



優しさに包まれる



その意味が少し、分かった気がした



「で、何があった?言ってみな」



その一言が欲しかった



誰でも良いから聞いて欲しくて



でもそんな事言えなかった



でも今、空雅くんが言ってくれた



そっと涙を吹いて



私は言う



「あのね…」

Raimu・2020-04-01
小説
物語
病気
病院
医者
カップル
別れ
余命
サヨナラ
再婚
別れー君と見た夢ー




「縁……学校出てきてないんだよ」


「……え」


あんなに学校が好きで


あんなに部活が好きだった縁が


学校に、出てこない……?



襲い来る副作用も


気にならない程


愕然とした私は、


ただ、ただ


縁の身を按じた。





【surgicalmask~第八話 切なる想い】




「う……ぇ、」


もう吐き出す物も残っていないのに


嘔吐きが止まらない。


込み上げた胃液を吐き出せば


口内炎が飛び上がるほど痛む。



涙で霞み続けた目には


もう、青空すら希望には映らない。



それなのに…



「ねえ、結月少しでも食べて?」


お母さんは毎日毎日毎日毎日


同じ台詞ばかり言う。



「…いらない」


「ね、少しでも」


「いらない…無理」


「結月、お願い」



わかってる。


わかってるけど…。



「…何食べても苦いんだよっ!!気持ち悪い!!いらない!!」


目の前の机に置かれていた、


食事のお盆を


私は腕で払い除けた。



「結月……」



「……ごめ」


誰のせいでもない。


みんな必死だ。


わかってる。


私の身体を治そうと


みんな必死になっていた。



だけど


体がだるいのも


嘔吐がとまらないのも


頭が禿げてるのも


口内炎や胃が痛いのも



無菌室に閉じ込められているのも


全部、全部……私だけ。



当たり前のことなのに


やさぐれが止まらない。



苛立ちが止まらない。



コントロールのつかない感情が



心の底から嫌だった。




私の頬に



一筋の涙が流れる。




「……いいのよ、大丈夫」



お母さんはそう言って


床に落ちた食器を片付け始めた。




寛解導入の集中治療はじまって


2週間も経つと


私の舌は味覚を無くした。



何を食べてもざらざらと


砂を噛むような食感と


苦みを感じて


副作用の嘔吐感に拍車をかける。



あと、1週間


長ければ2週間


この治療に耐え


その後も


抗がん剤の治療は続く。




先は見えてる。



治療の終わりも


ちゃんと見えてる。




でも、


「う…ぇ、」



果てしなく、遠い。


独りじゃ……遠すぎる。



辛い治療


自分との闘い


孤独


不安…



ぽろぽろと


涙が溢れて止まらない。





「えに、し……えにし……」



別れを告げられてから


一度も逢えていない。



何を送っても


LINEは未読のまま。



もう、ブロック


されたのかもしれない。


確かめる方法は


知っている。



でも縁との最後の繋がりが


断たれてしまう事が恐くて


確かめられずにいた。





「結月」


食器を片付けて


戻ってきたお母さんが


私に声をかけた。



「お部屋の外に、お友達がきてるよ」


「え…?誰?」


「菅家くんっていう男の子がね」



剣道部の主将


縁の先輩…。


お見舞いに一度も顔を


出した事がない菅家先輩が


どうして。



苦虫を噛み潰すような


予感めいたものを感じて


思わず、息を飲む。



「体調悪いなら今日は、断ろうか」


お母さんは私の身体を気遣って


私の顔色を窺った。



「ううん…大丈夫」



私はニット帽をとると


縁のデートにしていった、


ウィッグを頭に乗せ


先輩を通してもらえるよう


お母さんに伝えた。



ベッド脇のブラインドを


時間をかけて自力であけると


大きなガラス窓の向こう側に


菅家先輩の姿が見えた。



受話器をとりあうと


菅家先輩は躊躇いがちに言う。



「おう、笹部…体調、どうだ」


「お陰様で」


なんて、社交辞令をひとつ吐く。



「先輩……急に、どうしたんですか」


「縁に、様子聞けなくなったからな」


「あー……別れ、ちゃいましたから」


私は、笑ってみせたけれど


口に出すと途端に実感が押し寄せて


小さな世界は涙で滲む。



一方先輩は


唖然として口を開いた。



「は…?別れた…?」


「え…?」


「そうか、お前ら別れたのか…」


「どういう、ことですか?」



問うと、先輩は


しばらく悩んだあと


言いにくそうに告げた。




「縁……学校出てきてないんだよ」


「……え」



あんなに学校が好きで


あんなに部活が好きだった縁が


学校に、出てこない……?



「もう2週間も休んでる」


「2週間……」



ちょうど私と別れた頃…。


どくん、どくんと


鼓動がやけに高鳴る。



「どうして……」


「理由がわからない」


「わからないって…」


「LINEも電話も繋がらない」



私の脳裏に


未読のままの


縁のLINEが浮かぶ。



「高体連も近い。あいつ今年、副将任されててさ……でもこのままだとコーチが縁は外す他ないって。困り果てて笹部なら何か知ってるかと……」



声も出ない。


視界がぐるぐると回る。



襲いくる副作用は


気にもならない。


「縁……」


私はただ、ただ


縁の身を按じた。


流すつもりのなかった涙が


ひとつぶ、落ちる。



私の涙を見た先輩は


バツが悪そうに


「すまん、治療中なのに余計な不安を」


と、受話器から私に


優しい声を届ける。



ひとつでも返事をしたら


みっともなく声を上げて


泣きじゃくってしまいそうで


私は、息を止めて


ふるふると首を横に振った。









先輩が帰ってから


だるい体をベッドに横たえ


スマートフォンを手にする。




血管に沿う様な痛みがひどくて


長時間、持ち上げることが


出来なくなったスマホ画面に


縁とのLINEを映し出す。



まともにLINEしたのは


あの、縁の誕生日前夜。



「楽しみだね」


「俺も楽しみ」


「ドキドキして眠れないかも」


「大丈夫」


「ん?」


「心の手、繋いでてやる」


「笑」


「一緒に寝よ結月」


「うん寝よ、また明日ね」


「うん、迎えに行くよおやすみ」


「おやすみ(o^3(>ω<๑)」


「笑(っ´>ω<))ω<`)」




笑って終えたはずの、LINE。



もう、1ヶ月以上前のこと。



あんなに好きって気持ち


表してくれていた。



どうなるかもわからない、


血液の癌に侵されている私に


結婚しようって言ってくれた。




その縁に


別れを切り出させたのは


きっと私が軽率だったからだ。



学校を休んでいるのも


部活に出てこないのも


全てが私の責任のように感じる。



「このままじゃ……だめだ」



縁には笑ってて欲しい。



例え、私と別れても



例え、私が



病気に負けたとしても。



滲んだ涙を拭い、


縁にLINEを打ち込む。




「話がしたいの」


「今から行くね」



一人相撲。


独りよがり。


未読のままかもしれない。



でも…縁のこと知りたい。


会いたい。


話したい。




スマートフォンを


しっかりと握りしめると


切なる想いを胸に


私は冷たい床に


痩せた足を下ろした。

ひとひら☘☽・3日前
幸介
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決意
集中
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《コラボ小説》

今日で高校生活が終わる。

3月7日 卒業式

相変わらず長い校長先生の話を聞きながら私はそっと目を閉じる。

高校の3年間の思い出が鮮やかに脳裏を駆け巡る。


高校1年生 入学式

とてつもない美系男子がいるって

友達と騒いでたら目が合って、

会釈されて驚いた。

1つ上のお姉ちゃんの春陽の

男友達の弟って聞いて、

偶然!!って笑ったのが

私と橋口夏樹との出会い。

体育祭、

学園祭、

打ち上げカラオケパーティー。

たくさん遊んだ。

ふざけて、

「春花ちゃーん」って呼ぶ橋口。


高校2年生 クラス替え

私も橋口も理系で、成績順に決まるクラスは2人ともA組だった。

1人で運命感じたっけ。

校長先生のマネして、

テストの点数競い合って、

放課後一緒に勉強して。

たくさん話した。

好きなこと、苦手なこと、家族のこと、くだらない世間話。

恋人なんかじゃないけど、

確かに友達以上の関係にあった私たち。

そして、高校3年生。

学年掲示板に張り出されたクラス替え。

見事に橋口と3年間同じクラス。

思わずガッツポーズしたっけ。

「えー、今年も春花と違うクラス!!」

仲の良い友達とは離れたけど、

橋口がいるからどうってことなかった。

高3に上がる頃には学年の誰よりも

橋口と仲良かったと思う。

他の女子には冷たいのを見て、

私、特別なのかな、なんて自惚れた。

優しいトーンで話す姿。

努力家で真面目に勉強してるとこ。

友達と楽しそうにサッカーするとこ。

実は子供っぽくて無邪気に笑うこと。

仲良くなるにつれて、

様々な橋口を知って、

どんどん好きになっていった。

でも関係が崩れるのが怖くて、

告白する気なんて微塵もなかった。

高3の夏頃からは毎日は

とにかく忙しくて、

時間が飛ぶように過ぎていった。

医者に小さい頃からなりたくて、

難関の国立大学を目指して、

猛勉強を始めたから余計に。

橋口との時間はだんだんと減っていった。

それでも休み時間には喋ったり、

問題教え合ったりはしてたけど。


「村田ー、今日残って勉強しない?」

「今日、塾あって…」


「テスト終わった日、息抜き行こーよ」

「時間なくて、ごめん!!」

なんて断ることが増えた。

受験を前にあまり余裕がなかった。

受験生だからしょうがないよね、

終わったら思いっきり遊ぶから、

今は勉強に集中って言い聞かせて。

でも考えてみたら、

橋口はこの時からおかしかったんだ。

私がもっと周りを見れる人間だったら。

ちゃんと気づいていたら。

自分のことばっかりで馬鹿な私。

何度腹を立てて、否定して、

後悔した、かな…


時間は刻々と過ぎていき、受験まで1ヶ月。

模試の結果とにらめっこしながら

ひたすらシャーペンを動かす。

この数カ月でシャー芯何本買ったかな。

学校に来る生徒は、

だんだんまばらになってきて、

橋口もずっと休んでる。

私は、とにかく勉強した。

幸せな春を夢見て、

今の自分に出来ることすべてを

精一杯やった。

橋口に会えなくて寂しい気持ちも

ごまかすように勉強に必死だった。


そして受験の日。

緊張して会場に向かう電車の中で

メッセージが届いたんだ。

『差出人:橋口 夏樹
  村田はすげぇ頑張ってたから
  絶対大丈夫
  自分を信じて頑張れよ
  いってらっしゃい 』

久しぶりの橋口からの連絡に心が温かくなる。

『 ありがと!!
  橋口もファイト!! 』



それが、最後の会話だった。

その日の夜、橋口は帰らぬ人となった。


ステージⅣの末期膵臓癌。

骨と肺への転移。

橋口は18歳の若さで亡くなった。


『時間なくて、』

去年の秋頃に私が橋口に言った言葉。

本当に時間がなかったのは、誰。

お姉ちゃんからの連絡を聞いて、

何も言葉が出なかった。

病院にかけつけて目に入ったのは

泣き崩れる橋口の両親と兄と妹。

そして、穏やかに、眠る、橋口。

涙が、出なかった。

信じれなかった。

「橋、口…?」

ねぇ橋口、なんで…?

今にも起きて、

嘘だよっておどかすんでしょう?

近づいて手にそっと触れる。

「なん、で…!!」

あったかいはずなのに、

どうして、

どうしてぬくもりがないの?

「橋口…」

ねぇ、息、してないじゃん。

目、覚ましてよ。

「橋口…!!」

寝てないで返事しなさいよ、ばか。

起きてよ、ねぇ…

もう笑って村田って言ってくれないの?

まだ、なんにも伝えてないのに。

橋口のおかげで、

何気ない毎日が幸せだったこと。

橋口の笑顔を見て話すたびに私、

橋口のこと、

どんどん好きになってたんだよ…?

ほんとはずっと、

好きだったんだよ…?

橋口の存在が、

私の心の支えだったのに______!!



合格発表の日。

掲示板に自分の番号を見つけて

ホッとして緊張していた顔が緩んだっけ。

春が来た。

なのに、私の心はどこか曇り空だった。

なんでかな、

「そっか、君がいないせいか…」

ぽつりと呟いて私は空を見上げる。

風が吹いて桜が宙を舞う。

ねぇ、橋口。

今、何してるの?


お母さんに合格の報告をしてから、

私はお姉ちゃんの家に向かった。

橋口が死んだ時ぐらいから、

ずっと元気がなくて、心配だった。

合鍵を取り出して鍵穴に挿すと

マンションのドアがウィーンと空く。

ピーンポーン

家の横のベルを鳴らしても返事がない。

あれ、留守なのかなって

ドアを回したら空いていた。

なんだか、嫌な胸騒ぎがする。

「お姉ちゃん?」

お風呂に入って息を飲む。

扉にガムテープで目張りがしてあった。

…練炭、自殺。

時々ニュースで聞く言葉。

ヘモグロビンの関係で一酸化炭素中毒を起こす、やばいやつ…

「お姉ちゃん!!」

返事は、ない。

ふぅと一度深呼吸をしてから

ドンッと扉に体当たりする。

4、5回体当たりするとバンと開いた。

息を止めて中に入り急いで窓を開ける。

今考えれば、危険だから

こんなことしたら絶対にダメだけど、

お姉ちゃんを助けたい一心で

体が動いていたんだ。

息がもたなくなるギリギリで

お姉ちゃんをお風呂場から連れ出した。

息が、まだある。

…生きてる!!

「お姉ちゃん!!ねぇ、起きて!!」

スマホの119番を押す手が震える。

どうして、みんないなくなるの。

なんで死のうとしたの?

死なないでなんて私のわがままだけど、

理由も聞かずに死なせるなんて無理だよ。

大好きで、大切なお姉ちゃんだから。

橋口の時みたいに、

何も伝えられないまま終わるのは

もう、嫌だったんだ_________



「お姉ちゃん…!!」

「春陽…!!」

1日後、病院で目を覚ましたお姉ちゃん。

「先生呼んでくるわ…!!」

急いで病室を出ていくお母さん。

「……」

私達の間に流れる無言の沈黙が痛い。

「春花、助けてくれてありがとう」

「…え?」

怒られるかと思った。

どうして死なせてくれなかったのって。

お姉ちゃんの穏やかな表情には、

後悔と安堵が滲み出ていた。

「春花には、話さないとなぁ…」

ショートカットの髪を

さらっと掻き上げて笑うお姉ちゃん。

「何が、あったの…?」

おずおずと聞くと、

お姉ちゃんは窓の外を見ながら、

ぽつりと呟いた。

「好き、だったんだ」

「…え、?」

好き?誰が、誰を。

「私、夏樹くんが好きだったの」

夏樹。

もしかしてもなく、橋口夏樹のことだ。

私の、

大好きな人。

「遊びに行こうって誘ったんだけど、
夏樹くんのお兄さん、つまり私の友達が
私のこと好きだったみたいでさ、」

まって、理解が追いつかない。

橋口、お姉ちゃんに誘われてたの?

橋口の兄はお姉ちゃんが好きだった?

「結局1回もデート、しなかったなぁ」

私の知らない、橋口。

私が1番知ってるって思ってたのに。

時々お姉ちゃんの話するのを

楽しそうに聞いてたのは、

もしかして橋口はお姉ちゃんのこと

好き、だった…?

私はお姉ちゃんの妹だから

仲良くしてくれてたってこと?

「私にとって夏樹くんは
好きって言葉じゃ表せないほど
とてつもなく、大切な人だった」

だから、お姉ちゃんは、

夏樹くんの後を追おうとしたんだね…

「ねぇ春花、どうしたらいい…?」

お姉ちゃんの顔が苦しそうに歪む。

「私…無理だよ︙」

あまりにも切ない表情で泣くから、

私は思わず抱きしめていた。

何も言わず、ただただ。

橋口のことが大好きで、

壊れてしまったお姉ちゃん。

その姿を見たら

私が泣いたらいけない、

この想いは絶対に

誰にも言ったらいけないって思って。

お姉ちゃんが、

必ず辛い思いをすることになるから。

もう、大切な人を失いたくないの。

私は唇をきつく噛み締めていた____

色々なことがありすぎたこの3ヶ月。

私は大学に進むため、

上京の準備を着々と進めていた。

お姉ちゃんはリハビリによって

少しずつ元気を取り戻している。

私たちの話を外で聞いていた

お母さんと先生が精神面でも

サポートしてくれているらしい。

このままいけば、

後遺症もほとんど残らないという。

あとは、私の心だけ。

まだ、全然ダメなんだ。

この町は橋口との思い出に溢れている。

夜遅くまで喋っていた公園のブランコ。

よく2人でジュースを買った自販機。

1日中歌っていたカラオケ。

変顔ばかりのプリクラ。

自転車で海まで遠出して。

おもしろグッズを見つけては笑った

ショッピングモール。

カメラロールの数々の写真。

3年間毎日通った高校。

どこもかしこも、

橋口との思い出ばかりが溢れてて

慌てて空を見上げるんだ。

ねぇ、橋口。

叶わない願い、聞いてよ。

橋口の声、聞きたいよ…

橋口の笑顔、見たいよ…

橋口に、もう一度、

橋口に会いたいよ_______


「卒業証書授与」

校長先生の話は

いつのまにか終わっていた。

「村田 春花」

「はい」

おめでとう、という先生の言葉と共に

卒業証書を受け取る。

もう、高校生活が終わっちゃうんだな。

「…橋口 夏樹」

少し後に呼ばれた、大好きな人の名前。

彼の友達が遺影を抱えて受け取る。

ほんとは、

一緒に卒業するはずだったのにね。

事実が心に突き刺さって痛い。

卒業式が終わって、

私は橋口の家に行った。

「ありがとね、夏樹も喜ぶわ」

穏やかに笑う夏樹のお母さんに

いえ、と頭を下げてから

お線香を上げて手を合わせる。


『橋口、村田春花です。

高3の1年間、誘い断ってばっかで

本当にごめんね…

もっと、

話したり遊んだり、したかったなぁ

もう遅いって分かってるけど、

ごめんなさい…

それから…ありがとう。

いつも仲良くしてくれて、

毎日がめちゃくちゃ楽しかったよ。

受験の時のメッセージも、

すごく、すごく嬉しかったんだ…

感謝してもしきれないや。

それからね… 』

そこまで心の中で伝えた時、

ふいに橋口の笑顔が浮かんできて

思わず泣きそうになる。

『それから、ね…

私、橋口のことっ…

大…好き…だったよ…

ずっとずっと…好きでした…』


「ありがとう、本当に…」

立ち上がると橋口のお母さんが

後ろにいて白い封筒を差し出された。

「春花さん、ずっと渡したかったの」

受け取ると、懐かしい字で

村田 春花 様と書いてあった。

「これ…」

驚いて顔を上げると、

橋口のお母さんが優しく頷いた。

入っていたのは短いメッセージ。


『 村田へ


 生まれ変わったら、


 どこにいても会いに行く。


 そしたら今度こそ、


 俺の彼女になって。


 橋口 夏樹 』



それは間違いなく、

橋口から私へのメッセージ。

何これ…

こんなの、ずるすぎるよ。

「橋…口…うわぁぁぁぁ!」

私は涙が枯れるまで泣き続けた。

本当に、大好きだった。

背中をさする橋口のお母さんの手が

とても温かく、

懐かしく感じた。


橋口 夏樹、

私の大好きな人______



泣きつかれてとぼとぼと帰っていると

隣でビッと短いクラクションが鳴った。

ウィーンと窓から顔を出したのは

お姉ちゃんとお母さん。

「ほら、帰ろ。」

「あ、お姉ちゃん、あのさ、」

橋口のお兄さんはお姉ちゃんが好きで、

お姉ちゃんは橋口が好きだった。

複雑すぎるこの恋。

「そんな顔しないの、もう大丈夫だから」

「お姉ちゃん…」

「私のためにありがとう」

いつでもお姉ちゃんは私のお姉ちゃんだ。

収まったはずの涙がまた溢れる。

どうも涙腺が緩みっぱなしみたいだ。



「はい、じゃあ春陽は退院おめでとう。
春花は卒業、合格おめでとう!!」

やっとリベンジとなったごちそう。

久しぶりに家族4人が笑顔で囲む食卓。

私は今、すごく幸せだ。


お姉ちゃんの自殺未遂と、

橋口の死をきっかけに、

前よりもっと命に向き合えている。

病気で苦しむすべての人を助けたい。

そう強く思うようになった。

ねぇ橋口。

私にもちゃんと春がやってきたよ。

これからまた、頑張るから

空から見守っててね。


『いってらっしゃい』

橋口の優しい声が聞こえた気がした。


_____________________________

あとがき

こんにちは、涙色。です。
初・憂弦さんとのコラボ小説、
いかがでしたか?
今回は、卒業式、別れ、春をテーマに書かせていただきました。
話が中々まとまらなくて倍の文量になってしまいました。
今回も長くなってしまい、最後まで読んでくれた方に感謝です。
まだまだ未熟だけど、
誰かの心に届いて響くような
そんな投稿を目指して頑張ります。
これからもよろしくお願いします。

そして憂弦さん。
コラボ有難う御座いました。
とても楽しかったです!!
たくさん迷惑かけてしまったのに、
優しく対応してくださりました。
また機会があれば、小説書きましょう。



本当に有難う御座いました。

良かったら感想ください((土下座

涙色。・3日前
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「結月、ゆづっ、おい、結月!!」


私を抱き寄せて


縁が、叫んでる。



「お願いしますっ、誰か、誰か救急車!!頼むよ、たす、助けてっ」


そんなに涙浮かべてるくせに


そんなに怖い顔して


……どうしたの?



ねぇ、縁……笑ってよ




伸ばした手のひらは


真っ赤に染まっていた。




【surgicalmask~第六話 チャペル】



タクシーで向かうのは


病院の方角だった。



「ねえ、縁…病院、帰るの?」


「んー…?」


縁はマスクの奥で


微笑むばかりだ。


やがて、車は


病院に向かう道を反れ


上り坂に差し掛かる。



こっちの方って…


こっちって……


もしかして。



とっ、とっ、とっ、と


走り出す鼓動を感じた。



タクシーはどんどん


思い描く方へと走ってく。


思わず、縁と繋ぐ手に力が入った。




「さぁ、着いた」


縁は私の手を引いて


タクシーを降りる。



「ここ……」



そこは、


いつも病室から見えていた、


チャペルだった。


ゴーン、ゴーンと


鐘が鳴る度、ここで世界の誰かが


幸せになる瞬間を感じてた。



私まで幸せで…


心が暖かくなって


そしてほんの少し


羨ましくて悲しかった。




縁は笑う。



「結月、いつか、俺と一緒に来たいって言ってたろ?いいチャンスだと思ってさ」


確かに言ったかもしれない。


独白のように呟いたかもしれない。


きっと普通だったら


拾い上げられることもなかった、


その願いを…縁は受け止めて、


現実のものにしてくれた。



「えに…し…っ」



チャペルが建つ小高い丘は


一面の菜の花。


穏やかな風に揺れる菜の花は


朗らかな香りを鼻先に届ける。



こんな優しい場所で


大好きな人と手を繋ぎ


チャペルの鐘を見つめる…


病気と闘う今、そんな幸せを


感じられるなんて


私はなんて、


恵まれているんだろう。



零れ始めた涙は


止めどない。



でも、病室で


一人流す涙とは違う。


寂しくない。


苦しくもない。


こんなにも幸せだ。



「なあ、結月」


「うん」


縁は私のすぐ側で


凛とした視線を一心に


チャペルの鐘を見つめて


やがて、告げた。



「俺、結婚すんなら結月がいい」


「……プロポーズみたい」


「……プロポーズだよ」


「私、こんな体だよ、いいの?」


「俺だってこんな性格だよ」


「縁の性格は最高だよ」


「結月だって最高の女だよ」



負けじと言い合うと


真剣な目をした自分たちが


なんだかとても可笑しくなって


私たちは噴き出して笑った。


私は泣きながら


縁はお腹を抱えて


一緒に笑った。



一頻り、笑った後で


私たちは向かい合う。



縁はマスクをとって


私のマスクのゴムにも手をかけた。



真剣な眼差しが心を打つ。



「誓いのキス……の予行演習する?」


照れくさそうにそう笑う縁が


心底、好き。


離れたくない。


私も……キス、したい。



「うん…する」


そう呟くと


ゆっくりと私のマスクは


外される。



今は、


ごっこ遊びかもしれない。


口約束かもしれない。


いつ、死んじゃうかもわからない。


本当になるかもわからない。



でも、


信じたい。



いつか、ここで


本当の誓いのキスしたい。




「縁…」


「うん?」


「好き」


「俺も結月が好きだ」



笑い合い

寄り添う。



そして、唇が重なる。



触れるだけのキス。


溶けるような幸せが


そこにはあった。




チャペルでしたキスは


いつものそれとは違う。



幸せだけど


とっても照れくさくて…



「ゆっくり歩いて…帰ろっか」


「うん…帰ろ」


縁も私も、ちょっと他人行儀。


それでも離れない手のひらが嬉しい。



夕暮れが近付く。



伸びる影を踏みながら


二人で歩む、一本道の下り坂。



明日から、また頑張ろう。




そう、思った時だった。


目の前が、揺れる。


ぐるぐると回って


足がもつれた。



そして、私は縁の手も離して


ズザザザッと音を立て


小さな石のごろついた下り坂に


顔から卒倒してしまった。



「結月!?」


心配、させちゃう。


立ち上がろうと

肘を立てたけれど

力が入らない。



誰かが抱き起こしてくれる。


霞む視界をさだめれば縁だった。



「えに、し?」


「あ……あああ」


縁の口から漏れるのは


嗚咽ばかり。


縁が必死に額を押さえてる。



「血が……止まらな……っ」


泣きそうな顔。



「ゆ、結月、ゆづっ、おい、結月!!」


私を一層に抱き寄せて


縁が、叫んでる。



「あ……、おね、願いしますっ、誰か、誰か救急車!!頼むよ、たす、助けてっ」


そんなに涙浮かべてるくせに


そんなに怖い顔して


……どうしたの?



泣かないで



ねぇ、縁……笑ってよ




伸ばした手のひらは


真っ赤に染まっていた。


あ……血……


やだなぁ、白いワンピース


汚れちゃうね



この期に及んで私は


そんな事を考えながら



狭くなる視界を



完全に……閉じた。




【surgicalmask~第六話 チャペル(終)】

ひとひら☘☽・2020-03-27
幸介
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7、奇跡の子



「それって…どう、いう」



すぅーっと風が吹き抜ける



お母さんは数秒間を置いて



「想羅はね…」



全て、話してくれた



お母さんは、体が弱く



何度も流産を経験していること



私がお腹に宿った時も



”今回もダメだろう”



”諦めなさい”



と、沢山の人から言われた事



私がダメだったら



子供はもう諦めようと思っていた事



予定日の1週間前



お母さんが倒れた事



「…青葉…青葉っ…!!」



幸いお父さんが横にいて



頭を打つことは無かった



それでもお母さんは



「…お腹の子が無事でよかった」



と、泣きながら言った事



お母さんは三日間眠っていた事



そのまま死亡…という可能性も



少なくは無かった事



倒れる数日前



トイレに行った時に



大量の血が溢れ出て



その時にはもう、諦めていた事



「…お母さん、想羅が無事なら



想羅が生きててくれれば



それだけでいいって、心から思うよ」



柔らかな笑みには



悲しみの色が混じっていた



お母さんは、私のお兄ちゃんの話をした



出産まで、あと少し



そんな時だった



「う、うぅ…っ…」



信号待ちをしている時に



倒れてしまった



頭から大量の血を流してしまった



緊急手術を受けた



お母さんが目覚めて



最初に言った言葉



「…お腹の子は…!!」



お父さんは泣き腫らした顔で



首を横に振った



お母さんの命を考えると



どうしても断念しなきゃいけなかった



お母さんは小さな箱を抱えて



一晩中泣いていたらしい



「…私が、倒れさえしなければ」



後悔の色でいっぱいだった



震えるお母さんの肩を



優しく抱き締めた



「お母さん。産んでくれてありがとっ」



「う、うぅ…っ」



しばらくお母さんを抱き締めて



私は布団に入った



早く蒼くんに会って



この事を伝えたい



そう思った



次の日



いつも通りテーブルに向かうと



割引シールの付いたトンカツと



チーズが1つ、置いてあった



”大好きだよ”



そう書かれた紙の上に



500円玉



昼を食べずに



500円玉は貯めてある



その事は秘密だ



パーカーを被り



いつものバスに乗る



あっという間に蒼くんの病室に着いた



コンコン



控えめにドアをノックして



「蒼くん!」



それからお決まりのハグを…



するはずだった



「…あれ、検査かな」



そこに蒼くんの姿はなかった



しばらく待ってみた



10分後、乱暴にドアが開かれた



「あ、あ、お…くん…?」



全てを諦めたような



そんな顔



「…想羅」



今までで一番強くキツく



抱き締められた



動こうとしても



更に力を込められて



少し、痛い



「あ、蒼くん…?」



「…これで、最後だから」



苦しそうな蒼くんの声



逃げるに逃げれなくて



私は蒼くんの肩に顔を置いた



「…空雅と仲良くなっとけよ」



「え…?」



「…こんなすぐ死ぬ奴、早く捨てなよ」



小さな小さな声だけど



私にはちゃんと聞こえた



本音、だと思う



蒼くんの、本音



「そ、そんな…」



「それが嫌なら…離れないで」



「離れるわけないじゃん…」



弱々しい蒼くんの声



「死にたく、ないよ…っ」



蒼くんの涙が



私の肩を濡らす



何があっんだろう



何かしてあげたいのに



何も出来ない



「松居さんのとこ…」



「だめ…行かないで」



更に強まった力



どうすればいいか迷っていた時



「蒼くん…」



松居さんが入ってきた



「来るな…来るな!!」



今までにないくらい



荒ぶった声だった



私を後ろに隠して



まるで悪魔でも見るような目で



松居さんの事を見ていた



「松居、さ…」



「この前から始めた薬の副作用だよ」



悲しそうに松居さんは言った



蒼くんは何人かの医者の人に抑えられて



麻酔を吸わされ眠らされた



「蒼 くんの病気の進行を遅らせるには



この薬しかないんだ…」



ただ、その薬の副作用が…と



松居さんは話してくれた



幻覚が見える、幻聴が聞こえる



物凄い不安に取り憑かれる



「そんな蒼くんでも、好きでいれる?」



先生のその問いに



「もちろんです、大好きでいれます」



私はそう答えた



優しく微笑んでくれた松居さん



松居さんが何か言いかけた時



「蒼くんが目を覚ましました!」



看護師の柚音さんが



私と松居さんの元に走って来た

Raimu・6時間前
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ひとひら☘☽・3日前
mch
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ももヘッダーに好きと言葉の贈り物よろしく !!・2020-03-29
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