はじめる

#長編小説

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全375作品・

僕の愛した小説家が死んだ。

繊細かつ丁寧な言葉遣いで表現の豊かさは計り知れない。

登場人物の心情の汲み取り方が美しすぎて誰しもが感情移入してしまうような。

そんな小説を書く人。

物語の紡ぎ方はまさに天才。

天才小説家の松下蓮斗がこの世を去った。


―――――――――――――――――――――


「向日葵が咲いた冬」

このタイトルを聞いたことがない人はいないんじゃないか。

そう思えるほど俺の小説が売れた。

業界では誰もが目指す有名な賞を頂き、瞬く間に俺は天才小説家になった。

無数のフラッシュに目を細めながら俺は認められた幸せを噛み締めた。

その日からあっという間に大忙し。

雑誌のインタビューで1日が潰れることもあった。

連載企画のオファーや、次回作の催促。

映画化の話まで舞い込み、俺の小説家人生は大いに充実していた。

8年前までは。

俺はまた売れない小説家人生を送っている。

売れたのはあの小説だけで、賞を取れたのもきっと神様の気まぐれだ。

それからは世の期待に負け、スランプに入り、気づけは8年たっていた。

連載は打ち切られ、新作を待ってくれる人ももういない。

あの頃のように物語が描けず、言葉は浮かんでこない。

今は「向日葵が咲いた冬」略してひまふゆ時代に稼いだお金でなんとか生きている。

だけど寿命まで生きることは厳しいだろう。

おまけに今日は雨。

天気も気分も最悪だった。

もう正直、生きていける気がしない。

このスランプが抜ける光はないし、スランプから引っ張り上げてくれる人もいない。

まだ恋人でもいれば頑張れたのかもしれないが、こんなガリガリで青白い不潔な奴誰も相手にしない。

男以前に人間としても認知されてない気がする。

一歩外に出れば汚物を見たような顔される。

もう、うんざりだ。

1度思い立つと早く、俺はあっという間に死への道を歩みだした。

4日ぶりに出た外は思ったより肌寒く、たった1枚のシャツは雨で濡れた。

水分を含み重くなった服とは逆に俺の足取りは軽かった。

向かうは高台。

街を見渡せる穴場スポットで人は滅多に来ないが俺は1番美しい場所だと思ってる。

前々から死ぬなら高台と決めていた。

飛び降りが1番楽そうだし怖くなさそうだから。

そう、今日この高台で人が死ぬ。

生きる活力を失った男が。

松下蓮斗がこの世から逃げる。


―――――――――――――――――――――


もう疲れた。疲れた。疲れた。疲れた。

またいつものように地獄が始まる。

バイトで汗水流して働いて、嫌味を聞きながら残り物のご飯を貰って、お風呂では殴られた痣を見てうんざりして、埃っぽい物置部屋で寝る。

もう母親が死んだ2年前からこの生活が続いている。

浮気性で男グセの悪い母親に呆れ、父親はまだ3歳だった私と母親を置いて出ていった。

それから母親は一人で私を育ててくれた。

家にはいつも知らない男の人がいたし、決して居心地のいい家とは言えなかったけど、仕事でどんなに疲れていても美味しいご飯を作ってくれたし、寂しいときはいつもそばにいてくれた。

そんな母親も私が中2のときにあっけなく死んだ。

その後、顔すら覚えてなかった父親の新しい家族に引き取られた。

実の父親も義理の母親も血の繋がった兄弟も私をゴミのように扱った。

15歳までは家に閉じ込められ、奴隷のような生活をしていた。

父親のストレス発散道具になり、母親の代わりに召使いになり、兄の欲を満たす玩具になった。

弟は決まりが悪そうに目が合うとすぐに逸らして、私を助けてくれたことはなかった。

16歳になりバイトを始めた。

毎日、朝から夜までバイトをいれ、なるべく家に帰らないようにした。

今日ももうすぐバイトの時間。

でも体が心が疲れたと叫んでいた。

もう、いいかな。

お母さんごめんね。もうそっちに行くよ。

私はバイトとは反対方面に歩き出した。

死ぬならこんなとこより綺麗な所がいい。

薄暗い部屋でもなく、見慣れた道路でもなく、美しい場所。

前にバイトの配達で隣町に行ったときに見つけた高台。

とても綺麗で泣きそうになった。

死ぬならそこがいい。

今日あの高台で人が死ぬ。

生きる希望を見失った女が。

遠山蓮花がこの世から消える。


―――――――――――――――――――――


そう消えてしまうはずだった。

着いたときにはたぶんお昼を過ぎていてお腹が空いていた。

死ぬ日もお腹が空くんだな、なんて呑気に考えながら街を眺めていた。

雨で遠くまで綺麗に見えないけど、やっぱり美しい場所だと思う。

雨が地面に弾ける音を聞きながらただぼうっと景色を眺めていると、明らかに違う音が聞こえた。

人が歩くような音。

雨の音とは相性が悪く、不協和音に気が取られ、音の先を見た。

見た先には男がいた。

長身で線の細い男の人。

無造作に伸びた髪と髭で顔はよくわからないけど、いい雰囲気は纏っていない。

あっちも私に気づいたのか顔を上げた。

髪の隙間から覗いた鋭い瞳が私を捉えた。

私は動けなくなった。

その人に怯えたのもあるけど、その人がきっと私と同じことを考えてるから。

雰囲気から顔から瞳から死の空気が漂っていたから。

もしかしたら今日死ぬのは私じゃないかもしれない。


―――――――――――――――――――――


最悪だ。

高台に着いたのはお昼を過ぎてからだった。

ちんたら歩いてたら思ったよりかかった。

そこに先客がいた。

たぶん俺の一回りくらい若い女の子。

でもそれにしてはあまりにも若くない。

雨で服が濡れてできた体のシルエットに女性らしいふくよかさはない。

不自然に骨ばっている。

顔色も悪く、10代20代の健康的な赤みを帯びていない。

そんな女の子を睨む形で俺は固まってしまった。

見つめ合う時間ができる。

下手に声をかけられないのはこの子からも死の気配がするから。

悲しいとか苦しいとかの向こう側に行って何も感じませんみたいな顔しているから。

しばらく見つめ合ったあと女の子はとぼとぼと高台を後にしようとした。

“あの…!”

ちょうど俺の横を横切った時、思わず声をかけてしまった。

久しぶりに出した声は裏返り、小さかった。

それでも女の子には聞こえたようでゆっくり振り返った。

その後の言葉を考えてなかった。

焦った結果ナンパした。

“…うち、来る?…”

女の子は小さく頷いた。

この高台で今日は死なないみたいだ。


―――――――――――――――――――――


“入っていいよ”

ナンパした結果、この汚い部屋に初めて女の子が入った。

いや、ナンパじゃないけど。

“濡れてる…”

女の子の第一声はあまりにも弱々しく鈴の音のように綺麗だった。

“大丈夫。俺も濡れてるから。”

そう言って笑ってみせた。

女の子は恐る恐る入った後、俺が本と本の間に作ったスペースにすとんと座った。

とりあえず風邪を引かせるわけにもいかないのでお風呂に入らせた。

俺も入った。

そして二人で遅めの昼ご飯を食べた。

誰かと食べた牛丼は久しぶりに美味しいと思った。

“…おじさん、ありがとう。”

女の子の声はやっぱり鈴の音のようで癒された。

“おう。あと、俺、松下蓮斗な。”

自己紹介してないことを思い出し、名乗ってみた。

“…蓮斗さん。”

そう呟いた女の子はようやく頬に年相応の赤みを帯びた。


―――――――――――――――――――――


死にそこなってから3週間。

すっかり蓮斗さんとの暮らしにお互い慣れだした。

すぐに追い出されると思ってたけど、蓮斗さんは追い出さなかった。

“帰りたい?”

初めて蓮斗さんと夕飯を食べた後、聞かれた。

あそこで帰るべきだった。

今ならそう思う。

でも帰りたくなかった。

私は首を左右に振った。

蓮斗さんは私の頭を乱雑に撫でたあと笑った。

嬉しそうに見えたのは私の期待かもしれない。

蓮斗さんは自分のことを進んで話さないけど聞けば何でも答えてくれた。

34歳の独身で地元は九州の福岡だってこと。

小説家で1度爆発的に売れたこと。

そのお金で暮らしてて今はニートのような生活をしていること。

自炊は出来なくて近所の牛丼屋さんとコンビニで食を満たしていること。

家族は物凄くお堅いらしく、大学受験失敗を期に縁を切ったこと。

恋人は何年もいなくて、モテ期は高校時代に終わったこと。

蓮斗さんは髭を剃って髪を束ねた。

すると見違えるほど顔が整っていて、もったいない人だなと思った。


―――――――――――――――――――――


蓮花と生活し始めて2ヶ月。

蓮花のことはだいぶ理解した。

16歳で高校には行かせてもらえずバイトに明け暮れていること。

母親は中2の時亡くなったこと。

それからは昔別れた父親の家族と暮らしていること。

父親には暴力を振るわれ、義母には家事を全部押し付けられ、兄には虐められていること。

俺は今まで感じたことのない憤りを知った。

16歳の少女行方不明事件

最近どのニュース番組を見てもこの話題で持ちきりだった。

2ヶ月もたって流石におかしいと思ったのだろう。

蓮花はこのニュースを見るたびに怯えた子猫のように小さくなる。

蓮花なりに罪悪感と不安を抱えているのだろう。

俺も不安がないと言えば嘘になる。

こんな生活いつまでも続くはずないと。

世から見れば俺はロリコンの犯罪者。

もう小説家松下蓮斗じゃなく犯罪者松下蓮斗になる。

そうわかっていても蓮花を追い出すことは出来なかった。

蓮花の笑顔をもう少し見たいと思う俺がいた。


―――――――――――――――――――――


行方不明事件はとうとう誘拐事件として調査が始まった。

私のせいで蓮斗さんは捕まってしまうかもしれない。

そう思うのに私は蓮斗さんから離れられなかった。

久しぶりに感じた温かさと愛が私を留まらせた。

蓮斗さんはニュースを見ても私を追い出さなかった。

それだけでなく、私を必要としてくれた。

“蓮花がいなかったら俺はまだ牛丼生活だっただろうなー。

不潔の部屋の中で楽しいこともなく野垂れ死んでたかもなー。

蓮花、ありがとうな。”

蓮斗さんは笑ってくれた。

頭を撫でて優しく抱き締めてくれた。

嬉しかった。

初めて居場所を見つけた気がした。


―――――――――――――――――――――


木々が赤、黄色と色づき始めた頃。

誘拐事件も忘れ去られ始めた。

俺はある決意をした。

“俺、書くわ。”

蓮花は全く意味がわからないという顔で俺を見た。

出会ったときに比べて蓮花は16歳らしくなった。

よく笑いよく怒りよく泣きよく悩む。

素直に気持ちを伝えられるようになったし、16歳の蓮花をようやく見れている気がする。

そんな蓮花が愛おしくなって頭を撫でた。

“小説。”

そう言うと蓮花はまるで花が咲くようにぱあっと笑顔を零した。

蓮花は過去の俺の本を読んだことがある。

もちろん、ひまふゆも。

一緒に住んでた弟が読ませてくれたらしい。

随分気に入ってくれたようで、もっと読みたい!と幼い子供のようにねだられた事がある。

“蓮花を書きたいんだ。”

蓮花は、え?と不思議そうに首を傾げた。

“蓮花という女性はこんな女性で、そんな蓮花と出会った蓮斗という男はこんな男で、そんな二人の物語。

蓮斗という男が伝えたい蓮花への想い…”

言い切る前に蓮花が突進するように俺に抱きついた。

“楽しみにしてます。”

俺は照れ隠しのように蓮花の頭を撫でた。


―――――――――――――――――――――


あの宣言から2ヶ月。

蓮斗さんはあっという間に本を書き上げた。

今の小説家さんは大概の人がパソコンで書くらしいけど、蓮斗さんは手書きだった。

何十枚もの原稿用紙に蓮斗さんの言葉が紡がれていた。

“これ、蓮花に読んでほしい。”

と言われ、私は今蓮斗さんの隣で読んでいる。

物語は空想世界というより、ノンフィクション物語だった。

出会ったあの日の高台のこと、二人で過ごした日々。

そこに蓮斗さんの気持ちと蓮斗さんが汲み取った私の想いが綴られていた。

「高台には天使がいる。雨の日にぽつんとそぐわない表情を浮かべた天使が_」

天使。

蓮斗さんは私をそう例えた。

本当にそう思ったらしい。

物語はクライマックス。

残りの原稿用紙もあと2、3枚だ。

「_彼女と過ごした日々はきっと他の人からすれば当たり前のよくある日常にしか過ぎないのかもしれない。_」

気づけば涙が原稿用紙を濡らし、蓮斗さんの文字を滲ませた。

堪えきれず溢れた涙を蓮斗さんは優しく拭ってくれた。

「_彼女はちゃんと笑っているだろうか。僕のことなんて全部忘れて。_」

「_サヨナラ、僕が愛した天使よ。」

読み終わった頃には原稿用紙に大きな染みが沢山出来ていた。

蓮斗さんは私を諭すように頭を撫でた。

私は頭の上にあった蓮斗さんの手を握った。

“これが蓮斗さんの求めた結末…?”

そう言うと蓮斗さんは目を伏せて悲しそうに頷いた。

明らかに嘘なのがわかる。

“蓮斗さんは嘘が下手だなぁ。”

私は泣きながら笑った。


―――――――――――――――――――――


蓮花は俺の小説を読み終えた後、しばらく赤ん坊のように泣きじゃくった。

涙が枯れるほど泣いた後、蓮花が言い放った。

“蓮斗さんは嘘が下手だなぁ。”

想像してなかった言葉と表情に俺は次の展開を予想できなかった。

“こんな結末、私は求めてないよ。”

蓮花はそう言って俺の手を愛おしそうに握った。

“蓮斗さんがいないと私生きていけないよ。”

蓮花は必死に俺を求めた。

俺は蓮花の言葉を遮るように手を振り払った。

“っ…それでも!もう無理だ…

最近警察がこの辺を彷徨いている。

金だって底が見えだしたんだ。

こんな生活続くわけない。

なら…もう終わらせたい。”

そう。こんなの日常じゃない。

蓮花がいるべき所はここじゃない。

どんなに苦しくても辛くても元いた場所が蓮花の居場所だから。

蓮花を助けるのは俺じゃない。

“なら…全部終わらせよ…?

私は蓮斗さんとこれからも一緒にいたい…”

蓮花は泣きながら笑った。


――――――――――――――――――――


俺らはまたあの高台に来た。

あの日は雨が降っていた。

今日は雪が降っている。

あの日は薄着で下着までびしょびしょだった。

今日は沢山着込んでコートのフードまで被っている。

あの日は一人で来た。

今日は二人手を繋いで。

あの日は苦しかった。

今日は清々しい。

“…本当にこれでいいのか…?”

“しつこい。これがいい。”

俺らはコートを脱いだ。

靴を脱いだ。

木で出来た柵を乗り越えた。

左手では蓮花の手をしっかり繋いでいる。

蓮花の右手は俺の手を、左手には俺らが紡いだ物語を抱えている。

さあ、サヨナラの時間だ。

ここで俺らの結末を迎える。

“あっちではずっと一緒にいれるかな?”

“大丈夫。ずっと一緒だ。”

消えゆく意識の中で蓮花の手を強く握った。

もう2度と離れないように。

僕らに春は訪れない。


―――――――――――――――――――――


僕の愛した小説家が死んだ。

誘拐事件で一躍有名になった少女と共に。

世にはそれほどの情報が出回らなかったが、SNSでは嘘か真か沢山の情報と、それに対する人々の厳しい声が呟かれた。

そこに気になる情報があった。

〈少女は松下蓮斗の書いた小説を抱えていた。そのタイトルは_〉

“「雪に溺れた夏」”

声に出して読み上げた時、初めて涙が出た。

とても松下蓮斗らしいタイトルだった。

僕は今すぐにでも読んでみたかった。

もちろん出来ないことはわかっているが。

松下蓮斗はすべてを捨てても少女を選んだ。

地位、金、社会、家族、世界。

すべてを捨ててたった一人の少女を選んだ。

僕には出来なかったことだ。

天才小説家の松下蓮斗がこの世を去った。

僕の愛する人と共に。

湖雫まなみ・2021-09-11
長編小説
0423*0617
雪に溺れた夏
愛するということ
愛に溶けた哀
狂愛に犯されてしまえば
間違いだらけ正解探し
天使しかいない世界
拝啓、僕の天使
天国で咲く花
タグお借りしました
恋愛だけが愛じゃない
愛の形と想いの違い
伝えたい想い











消えた1年  後編
~死にたがりの僕と生きたがりの彼女~














朝は嫌いだ。
毎朝、絶望と嫌悪に生きなきゃいけないから。
あれから僕は様々な所を回った。
向日葵畑に近所の海、学校の校舎裏に公園。
ほとんどが近所だったのは有難かったけど、万年帰宅部の僕の体力はもう殆どない。
それももうすぐ終わる。
あとたった1つ。
そのために僕は今電車に揺られている。
【これが最後のデートになっちゃったね。
 初めての遠出デート。
 めいいっぱいのお洒落も初めてのメイクも
 気づかなくてちょっといらっとした笑
 彼はそういう奴だ。
 それでも大好きなんだなぁ。
 「⛩ ▲800665 馬を絵かく」】
この謎を解くのに1番時間かかった。
どこかの神社なのはわかる。
でもどこか。
6桁の数字がわからない。
結論から言うと、これは事務管理コードというらしい。
国鉄が定めたコード番号。
そしてこの番号が示す駅に向かっている。
僕は僕の行動力に呆れている。
関係ないことの為に電車に乗ってまで行くか普通。
僕は普通じゃないらしい。
なんとなくあの人に振り回されてるのが癪に感じながら電車に揺られた。














夜は嫌いだ。
毎晩、明日も生きてるのかなんて考える自分が嫌いと誰かが言っていたから。 
着いたそこは懐かしい気がした。
来た記憶はない。
幼い頃に来たのだろうか。
なぜこんなにもこの場所は切ない気配が漂っているのだろうか。
頭と胸が傷んだ。
何でもない日の神社に朝早くから人はいなかった。
ひんやりした空気が僕の身体中を駆け巡る。
「馬の絵かく」
これは絵馬のこと。
絵馬掛所には溢れ返るほどの絵馬が飾られていた。
(ねぇ!せっかくだから埋もれないとこに飾ろ!)
頭がズキッと痛み、思わずしゃがみこんだ。
今のはなんだ?
クリアに聞こえた声はここ最近感じている懐かしさと重なった。
でも誰の声かはわからない。
埋もれないところ…
顔をあげると凄く下、一番下の一番端っこの絵馬掛所にたった2つの絵馬が飾られていた。
【奏汰とずっと一緒にいます!
          坂本百合子】
【百合子とずっと一緒にいられますように。
           竹本奏汰】
目を疑った。
なぜ僕とあの人の絵馬がある?
ずっと一緒?意味がわからない。
まるで…まるで付き合ってたみたいじゃないか。
(いますって宣言してるあたりお願いじゃねえよ。)
(いーの!神様に言いたかったの!)
頭が混乱する。
僕はなんだ。あの人はなんだ。









 




悲しみは嫌いだ。
他の全ての感情を忘れて死にたくなるから。
絵馬の裏には暗号のかわりに伝言が書かれていた。
【総合病院501号室にて待つ】
待つって果たし状かよ。
そう思いながら僕は2時間以上かけて来た道のりを戻っている。
県内1の大きさと充実さを誇る総合病院には少しの嫌悪すら感じる。
書かれていた通り、501号室に向かう。
名札には坂本百合子と書かれていた。
緊張が増す。
これで全て終わってしまうような、そんな恐怖すら感じた。
ノックし、ドアをゆっくり開ける。
独特な消毒の匂いがする病室は悲しみと絶望とほんの少しの希望が混じり合っていた。
ベッドで眠いっているあの人。
沢山の機械に繋がっているあの人から検査入院なんて嘘なことくらい僕にでもわかる。
あの人の両親であろう人が困惑した顔で僕を見つめた。
“…なんで、ここにいるの?”
白髪交じりの女の人が訪ねた。
僕は何の考えをも持たずにやってきたことに気がついた。
僕は慌ててノートを差し出した。
“…これ、坂本百合子さんの物なので、えっと、返しに来ました。”
苦し紛れの言い訳をした僕に、2人はそう。と吐き出すように言って、ノートを受け取った。
そして手紙を差し出した。
“この子の最後の言葉よ。
ここに「答え」が書かれてる。”
そう言って、あの人と同じ目で手渡した。















病院は嫌いだ。
どうしようもなく死の空気が流れているから。
僕は手紙を受け取ると、その場で開けた。
3枚にもなる手紙は達筆だけど、ちゃんと女の子らしい丸さのある字で書かれていた。
【竹本奏汰様へ
 奏汰がこれを読んでるってことは
 記憶が戻ったか、暗号を全部解いたんだね
 すごいなぁ、さすが奏汰
 奏汰の頑張りを称えて「答え合わせ」します
 まず、薄々気づいてたかもしれないけど
 これは言わば謎解き聖地巡礼ツアーです
 私達の想い出を辿ってました。
 理由は2つ。
 1つ目は、奏汰に思い出してもらうため
 2つ目は、奏汰に覚えていてもらうため
 最後の暗号の場所にした神社は
 私達の最後の想い出でした。
 あの神社は病気平癒のご利益で有名で
 奏汰は私の病気を治ることを願うために
 一緒に行きました。
 その時私の病気の発作がおこって 
 奏汰は私のために水を
 買いに行ってくれました
 そこで奏汰は事故に遭い
 記憶喪失になりました
 私も倒れたのでその次に奏汰に会ったのは
 もう私との記憶がない奏汰でした。
 無理に記憶を戻すことは奏汰のために
 ならないことは知ってたし
 私自身も望まなかった。
 そこで君と付き合ってたことを隠しました
 奏汰は2回目の高1をしてます
 実は私とは1つ違いです
 奏汰との関係をただのご近所さんの先輩に
 したくて沢山の人に嘘をつかせました
 どうせ私の命は長くないと言われてました
 これを書いてる半年後には
 いない可能性があります
 それでいいと思ってたんです
 でも奏汰ごめん。
 やっぱり無理だった。
 寝る時明日も生きてるのかなっておもうの。
 奏汰と一緒の時は明日死にませんように
 って願ってたのに。
 願うことすらしなくなってる自分が嫌でした
 だから、最後の悪足掻きをしました
 それがこの謎解きでした
 意味深なノートに暗号を書いたら
 奏汰がノッてくることはわかってました
 奏汰は見事見破ってここまで来てくれた
 ありがと。
 奏汰は私にとって最後の人です
 そんな奏汰の最初の人でいたかった
 奏汰の記憶に少しでも残したかった
 最後のわがまま許してください
 たった1年。消えた1年。
 でもその1年で私は生きたいと思えました
 ありがとう。
 奏汰、大好き。
 どうか幸せになってね。
        坂本百合子】
長くて重い「答え」はあまりにも苦しかった。
こんなにも美しい恋文を読んでも僕は恋人の笑顔すら思い出せなかった。
そんな自分に嫌悪が募る。
記憶が戻らないくせに、涙が出た。
止まらない涙が頬を伝って恋文の字を潰す。
それでも泣き続ける僕の肩をあの人の両親がそっと抱いた。
あの人に繋がれた機械音と僕の醜い鳴き声だけが部屋に響いた。


















記憶は嫌いだ。
どうでもいいことは覚えてるのに、大切なことほど思い出せない。
こんなにも不確かで頼りがいのないものってことを知ったから。
あの後、あの人のいう嘘を沢山の人に教えてもらった。
僕は一言一句漏らさず記憶した。
それでも僕はあの人のことを何1つ思い出せなかった。
それでいいと皆が言った。
あの人は死んだ。
お葬式には何故か出れなかった。
後日お線香をあげた。
それから毎年お線香をあげている。
もう今年で10年だ。
10年たった今も記憶は戻らない。
薄情者だとあの人は怒るだろうか。
ドラマならきっと記憶を取り戻した主人公が生涯彼女を想いながら懸命に生きる悲恋ストーリーだろう。
小説なら記憶を取り戻せない自分に嫌悪した主人公が自殺を選ぶ捻くれながらも美しい物語だ。
しかし残念ながら僕はそんな出来た人間ではない。
記憶を取り戻したいとも思わず、自殺を図ったこともない。
死にたがりの僕だけど、未だに死ねない僕はこれからも惰性で生きる。
寿命を全うするのだろう。
それなりに仕事をこなしながら、もしかしたら結婚して子供なんて生まれるのだろうか。
想像出来ないなと鼻で笑う。
あの人は幸せになってねって言った。
それは難しいかもしれない。
死にたいと嘆く僕はきっといつまでも幸せになれない。
あの人がこんなにも願った「生きたい」すら僕は思えない。
でも僕は生きるだろう。
あの人は覚えていてと言った。
それくらい僕にだってできる。
消えた1年は取り戻せないかもしれないけど、あの確かに感じた悲しみを僕は忘れない。
全人類が忘れても僕だけはあの人が存在したことを忘れない。
それが死にたがりの僕が出来ること。

馨羽 愛澪・2022-01-31
想い出の欠片
長編小説
言ノ葉、ふわりと
死にたい
綺麗事
初雪が積もる頃
賞味期限の切れたアイ
君の生きた証
愛故に、アイ。
君と僕の世界はさ_
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優しく笑う君が

この時間が、空間が。

泣きたくなるくらい1番大事なものだよ。









いつもそう。

僕の彼女は拗ねると、僕の大事なものを隠す。

その場所は決まって同じ。

寝室のクローゼットの中の狭い隙間。

いつも僕の傘を大事そうに抱えて座っている。

なので今日は先に行って待ってみることにした。

彼女が拗ねた理由は同僚の女の子と話し込んでしまったから。

彼女へのプレゼントのことで話してたら、何を勘違いしたのやら拗ねてしまった。

電話を早々に切って、彼女が玄関へ向かったのを見て寝室に入る。

クローゼットの前で待ってると案の定、僕の傘を抱えて彼女がやってきた。

彼女はびっくりした顔で僕を見つめる。

その後急に口を尖らせてぷいっと外を見た。

柔らかな日差しが部屋に入って僕らを包んでいる。

彼女があまりにも拗ねてるから

“ごめんね。”

と思ってないけど言ってみた。

すると彼女が

“じゃあこっちに来てよ。”

と僕の袖を引っ張った。

そのまま彼女を抱きしめるような形になる。

彼女は満足そうに抱きしめ返したあと

“ねぇ、見てみて。”

といい、指差した。

目線をやると日差しでできた影。

“影が重なった。”

と得意気に彼女は言った。











彼女の誤解を説いてるうちに雨が降ってきて本当に傘が必要になった。

返してもらった傘を持って上着を羽織る。

“何処行くの?”

心配そうに問う彼女が可愛くて胸が少し高まる。

“買い物。”

そう言うと彼女は不思議そうにきょとんとする。

“今日は君の好きなハンバーグだよ。”

花が咲くように笑顔になる彼女は

“私も行く!”

と、うきうきして上着を羽織った。











彼女はこの雨模様に似合わない笑顔で楽しそうに僕の隣を歩いている。

時折傘をぶつけ、僕がよろけるのをけらけらと笑っている。

僕もさっきの彼女と同じように口を尖らし、拗ねてみた。

彼女は自分の傘を閉じ、足取り軽く僕の傘に入ると、耳元で

“ごめんね。”

と何も反省してないように囁くと

僕の返事を待たずに優しくキスした。










買い物が終わって帰るときにはほとんど雨がやんでいたので1つの傘で帰ることにした。

弱い雨が夕日に照らされてキラキラ輝いている。

“ねぇ、僕のこと好き?”

柄もなく女々しいことを言ってしまった。

でも後悔はしてない。

彼女からの好きを久しぶりに聞きたい。

“言わない。”

そういう彼女は頬を真っ赤に染めていた。

ほんと、素直じゃない。

“なんで?いいじゃん。”

“言わなくてもわかるでしょ!”

彼女はムキになって余計口を固く閉じてしまった。

“たまには聞きたい。

…だって今日は僕と君が名字を重ねた日でしょ?”

ずっと柄じゃないこと言ってるのはなんとなく良いムードのせい。

“愛が芽吹いた日だよ。”

“…結婚記念日って言ってよ。恥ずかしい。”

くさすぎる例えに僕もだんだん恥ずかしくなる。

“好きだよ。一言じゃん?”

“こういう日に言ったら安っぽくなる。”

“普段も言わないくせに。”

彼女はどんどん縮こまって恥ずかしそうに言い訳を考えている。

あんなに恥ずかしいことはできるのに、なぜ好きとは言えないんだろう。

そんな彼女が愛おしかった。












家につく少し前に雨が止んだ。

結局、彼女から好きは聞けなかった。

傘を閉じてると彼女が嬉しそうな声を出した。

“ねぇ、虹がきれいだよ!”

と、僕の袖を掴み空高く指差した。

見上げるとドラマで見るような大きな虹が架かっていた。

“いや、お前のほうがきれいだよ。”

なんて言ってみた。

そしたら彼女は今日1番の赤さで照れ始め、チャラいと僕のお腹を軽く殴った。














“いつもありがとう。”

本当は家でハンバーグを食べて、ちょっと高めのワイン飲みながら渡すつもりだったプレゼントをここで出した。

少ないお小遣いをこつこつ貯めて買ったネックレス。

彼女はそれを見た瞬間、ポロポロと涙を流し勢いよく僕を抱きしめた。

倒れそうになるのを踏ん張り、彼女を支える。

小さな泣き声と泣き声の合間に彼女が呟いた。

“大好きだよ。”

湖雫まなみ・2021-10-08
永遠の日
長編小説
歌詞小説
0423*0617
消すかも
虹の先へ君と一緒に
名字を重ねた日
愛が芽吹いた日

これらの作品は
アプリ『NOTE15』で作られました。

他に375作品あります

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背中にあった翼は
君と共に無くした
飛べた頃の記憶は
擦り傷の様には消えてくれない


















運命とか神様とか前世とか目に見えないものを信じて縋らずにはいられない。それが人間。
でも普通に考えて存在しないし、僕は信じたくない。
信じたくないけど、否が応でも信じさせてくる。それが世界。
そんな長い長い僕の話きいてくれるかい。











僕は前世の記憶がある。
世界中に何人が前世の記憶を持つのか知らないが、少なくともどの時代を生きても僕は前世の記憶持ちに出会ったことはない。
しかし輪廻転生は僕が僕を持って証明した。
“生まれ変わっても…”なんていう使い古された言葉も僕にとっては他人事ではない。
そして数えることが嫌になるほど生きる中で運命という言葉も認めざる得なかった。













僕には運命の人がいる。
必ず20歳を迎える前に死んでしまうその人はいつの時代も美しい花のような女性だ。
僕と彼女との初めての出会いはずっとずっと昔。穀物を耕す小さな村で農民として僕は村娘の彼女に出会った。
結婚し子供が生まれ、幸せな時を過ごした。
歴史の教科書によく出る言葉、疫病。
当たり前だが、その時代でも疫病は流行った。
最古の疫病、結核。
当時は悪魔病と呼ばれ、人々を死に至らした。
僕の妻も19歳で悪魔病を罹った。
村で初めての罹患者であった彼女はこれ以上流行らないようにと生き埋めにされた。
森の奥深くに眠らされた。
人生で初めて愛した人を生き埋めにされて怒らない人間はいないだろう。
僕は反乱を起こした。
僕は少し強かったらしい。
すぐに死ななかった。
一緒に争った子供は死んだ。
いっそ殺してくれと願った。
何度かの争いで僕は死んだ。
夜光虫を引き連れて彼女の元に逝った。














次の僕が前の僕を思い出したのは彼女に再会したときだった。
僕は当然彼女も前世の記憶があるのだろうと疑わなかったが彼女は愚か、誰一人として信じなかった。
気味悪がり、親でさえ幼い僕を捨てた。
それでも諦めない僕に彼女は少しずつ心を開いたが、また彼女は病に伏せた。
それでも人目を盗んで彼女に会いに行った。
彼女は前世の話をする僕に言った。
好きな人をずっと覚えてられるのは幸せだねと。
そんなわけない。
思い出は何も語らない。縋り付くあても無い。
零れた涙はずっと君に届かない。
彼女はたった10で死んだ。
覚えていてと皮肉な言葉を残して。
僕はまた夜を生きた。















その後、何度生きても彼女は僕より先に死んだ。
4度目の彼女は天災で。
貴族に生まれた彼女は暗殺で。
妹だった彼女は自殺を。
戦渦だった彼女は餓死で。
いくつか前の彼女は交通事故で。
僕は彼女が死ぬたび守れない自分に嫌気がさす。
僕は彼女を守るために生まれ変わるのに。















現世で僕らは高校生をしている。
こう何度も生きていると上手に生きることを覚える。
この時代は平和を謳われる。
実際、人殺しを正義と叫ぶやつはいないし、医療進歩は目まぐるしい。
生きやすい時代だ。
それでも死はいつでも隣り合わせなことを僕が1番知っている。
その死から彼女を守ることが俺の役目。生きる意味。
忘れないし忘れられない。
僕は彼女に長く生きてほしい。それだけだ。















僕はとても久しぶりに彼女の恋人になった。
顔を真っ赤にして好きという彼女に僕の長年の恋心が一気に熱を帯びた。
彼女に負けないくらい顔が赤くなり、言い逃れできず晴れて僕は彼女と交際を始めた。
付き合うという行為をほとんど初めて行っている僕は何かをするたびに浮かれてしまう。
そんな僕を見て彼女は笑う。
あぁ、そうだ。
彼女はこんなふうに優しく笑う人だ。
彼女の笑顔に僕の心の靄が少し消えた気がした。














“運命って信じる?”
かわいい顔して聞く君に僕は愛おしく頭を撫でながら答えた。
“信じるよ。”
彼女は基本現実主義者だ。
世の中の科学や技術で証明されていないものは信じない。運命もその中の1つだと思っていた。
“珍しいね。”僕は思うがままに言ってしまった。
彼女は少し寂しそうに微笑んで言った。
“悔しいけど、受け入れなきゃいけないこともあるから。”
彼女はそう言っていつもより曇った笑顔を貼り付けた。
最近よくする顔だった。
彼女にその言葉の真意は聞けず、曖昧な距離のまま彼女を家まで送り届けた。














嫌なコール音が僕の携帯から流れた。
相手はもちろん彼女だ。
ただ、それが彼女じゃない可能性があることを僕は前世で学んでいる。
電話の相手はやはり彼女じゃなかった。
真冬の寒い中コートも羽織らず、1番嫌いな病院に向かっていた。
消毒の匂いだけで吐き気がする。
彼女の名前が書かれた病室には彼女と彼女の両親がいた。彼女はなんで…と呟いた。
両親は俺のいる経緯を彼女に説明した。
彼女は両親を責めたあと諦めたように二人を追い出した。僕はベッドの横の丸椅子に座った。
重たい沈黙を破ったのは彼女。
“ごめんね。”
貼り付けた笑顔。
僕は随分長くこの笑顔しか見ていない。
“何に謝ってるの。”
僕は少し強めの口調で言った。
彼女は俯いてしまった。また沈黙がうまれる。
“私ね、病気なの。”
勢いよく顔をあげるとまた貼り付けた笑顔があった。
それから彼女は病気の事について説明してくれた。
彼女は遷延性意識障害、俗に言う植物状態になる病気。
彼女は「人」として生きられる時間は限られていた。
そして僕は悟った。
彼女をまた助けられない。
“何もできないし感じないんだって。そんなの、死んだほうがましだよ。”
ポロポロと涙を零しながら彼女は吐き捨てた。
僕は瞬間にして頭に血が上る。
気がつけば彼女を強く抱きしめた。
“死なせない。もう死なせたくない。”
彼女の細い体が折れてしまうのではないかと思うほど、僕は彼女を強く抱き締めた。
彼女も応えるように手を僕の背中に回した。
そして僕は医者になった。
















彼女はあの告白後、19にして植物状態になった。
医大に進学した僕はどんなに忙しくなっても彼女に会いに行った。
相槌さえ打たない彼女に僕は前世の話を聞かせ続けた。
彼女はその3年後息を引き取った。
彼女を失ってからも僕は死ねなかった。
いつも彼女が死ねば何らかの理由で僕も死んでいたのに。卒業後は医学研究者として植物人間の研究と治療法について研究し続けた。
40を前にして僕の所属するチームが治療法を確立させた。一時のヒーローになった僕は素直に喜べなかった。
彼女と生きたい。それだけだった。
















治療法確立後、僕は研究職から身を引き、医者として総合病院に勤めた。
病院の拒否反応は治らず、今でも消毒の匂いに吐き気がする。
それでも僕は彼女を救えなかった現世の罰として彼女の最後に過ごした場所にいることを選んだ。
50半ばにして幼い子供が病院にやってきた。
まだ10にも満たない女の子。
事故により脳を損傷。
手術は成功したが脳に後遺症が残り、植物状態になってしまった。
そこでかつてのチーム所属者のいるこの病院に運び込まれたのだ。
僕は女の子をみて絶句した。
膝から崩れそうになるのをギリギリの精神で持ちこたえた。
ひと目見ただけでわかる。誰よりも救いたかった人。
彼女の生まれ変わりだった。
この子はなんとしても救わなければならない。

















その後はご察しの通り、治療により彼女は普通の生活を営めるほどに回復したよ。
今彼女は看護師になるべく勉強に励んでいる。
そういえば、昨日で22になったらしい。
僕も年を取るわけだ。
定年後は静かな村でゆっくりと過ごしているよ。
え、前世の記憶があってよかったか?
そんなのないに越したことないよ。
振り回されるなんて馬鹿馬鹿しいだろう。
でもそうだなぁ、大切な人との思い出をずっと覚えてられるのは幸せなことかもしれないね。
でももうおしまいだよ。
僕は来世では新しい僕だと思うんだ。
怖くなんてないよ。
きっとまた彼女に出会えるからね。
馬鹿にされるかもしれないけど、僕は運命ってあると思うんだ。

まな・2022-08-22
言ノ葉、ふわりと
長編小説
歌詞小説
長い夜を生きる理由
もう君はいないのに
海を眺めて
醒めない眠りに終止符を
思い出は、永遠に
後悔した過去と共に
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消えた1年  前編
~死にたがりの僕と生きたがりの彼女~














死にたがりの僕が語れる話じゃないが、彼女の名誉のために語らせてもらう。
これは死んでいった彼女の生きたがりの話。















寒い冬は嫌いだ。
それだけで死にたい理由になるから。
冷たい風が僕の体を容赦なく刺していく、そんな寒い朝に僕はノートを拾った。
ノートのほとんどが今朝振り始めた雪に埋もれるように落ちていた。
普段の僕なら絶対に気づかないふりしてさっさと学校へ向かっただろう。
今日は寒さで僕の頭がどうかしているらしい。
雪の間から覗くノートの端を掴み、持ち上げる。
残った雪を払い落とすとノートの表紙に大きめの字が主張していた。
達筆だけどちゃんと女の子らしい丸さのある字で、ご丁寧に名前まで記されていた。
【エンディングノート
        坂本百合子】
エンディングノート、つまりは遺書。
死にたがりの僕だけど、具体的に死について描いたことはなく、初めてみた死に対して猛烈に怯えた。
好奇心が面倒臭さと恐怖に勝った。
寒さで頭がやられたらしい僕は冷たいノートを鞄に詰めて学校へ急いだ。

















僕は学校が嫌いだ。
それだけで死ねる理由になるから。
教室には暖房が効いていて、暖かい空気が僕を招き入れる。
しかし、教室の空気に反してクラスメイトは僕を受け入れはしない。
僕もそれでいいと諦めている。
昼休みは最も苦痛な時間になる。
僕はさっさと教室を出て、空き教室に行く。
購買で買ったパンを頬張りながら、エンディングノートを開く。
ノートに書かれていた内容はあまりにも簡潔で、あまりにも薄い。
事細かな個人情報と意味のわからない暗号のようなもの。
ただ、最後のページに書かれていたものに僕は怖れを覚えた。
【エンド
 死因:病気
 後悔:生きたいと願ったこと
 誇り:生きたいと願えたこと
 一言:サヨナラ】
この意味のわからない字面達に強い想いを感じた。
強い想いに圧倒された僕はノートを拾ったことを後悔した。














上り坂は嫌いだ。
終わりの見えない道は人生に似ているから。
僕の家は高台の小さな町にあって、学校から帰る時は坂道をひたすら登らないといけない。
ノートはその高台の坂の麓にあった。
つまり高台の上に住んでいる人間だ。
そこに住む人間はほとんどが顔見知りで、毎朝高台を下る高校生は片手で数えるほどしかいないらしい。
その中でも僕と同じ高校に通うのは一人しかいなかった。
2つ上の異色で有名な人。
見た目は名が体を表すとはこのことだと皆が認めるくらい美しく優美な人だ。
また、病気持ちでその病気が少々重いらしい。
過疎化が進む小さな町には異色の存在である。
あの人の家は僕の家と近いわけではない。
と言っても、歩いて15分かからないらしい。
僕は何故かノートを元の場所に戻すことも持ち主に返すこともできなかった。
暗号の謎を解いてみたくなった。
僕はあの幼児化した高校生探偵のアニメが結構好きなのだ。

















国語は嫌いだ。
登場人物の気持ちを汲み取ることも、正しさを振り散らした評論文も、人間の弱さのような気がするから。
逆に数学は得意だ。
1つの答えを導く、謎解きみたいで。
僕は理数脳であるらしい。
改めて暖かくなった自室でノートを開いた。
個人情報のページをさっさと飛ばして、暗号のページまで捲る。
何文か書いてある後、暗号が書かれていた。
【彼を初めて気になったは中学。
 大人になりたくて背伸びしてた私に彼の幼           
 さは憧れと嫉妬を覚えた。
 彼は追いつきたいってよく言ってたっけ。
 「西日照らせば花育つ」】
あの人とは小中高一緒である。
だからと言って関わりはないが、あの人はあの頃から彼氏がいたのだろうか。
まぁ、関係ないが。
西日はそのまま夕日のこととするのなら、花育つとはなんだろうか。
「花育つ」の単語から単純に行くなら水、土…
暗号と合致するものを僕の記憶から探す。
すると1つ、僕の中学では校舎裏に花壇がある。
その花壇は3-3のクラスからよく見えていた。
あの人がよく花を愛でているのを見たことある。
そして、3-3は西にあって夕方は夕日が射し込む…
僕は考えるより先に上着を羽織って、暖かい部屋を飛び出した。
放課後のちょうど西日が差す時間。
部活動に励む中学生を横目に僕はかつて3-3の教室だった場所に行った。
教室は奇跡的に開いている。
空き教室になったらしいこの教室の夕日がカーテンの隙間からドンピシャに差し込む極僅かな空間に僕は手をついた。
目線の先に夕日と同じ光が見えた。
手に取ると鍵だった。
23と書かれた鍵にはほんの少しの見覚えがあった。


















人混みは嫌いだ。
こんなにも沢山いる人間は誰も僕を知らなくて、僕もすれ違う人間誰も知らない。
そんな風に考えると孤独を感じるから。
次の暗号は簡単だった。
ノートには
【初めてのデートの待ち合わせ。
 人混みで全然会えなかったな笑
 あれから彼は人混み嫌いって怒ってたな。
 意外と短気で八つ当たり気質みたい。
 「UBJ」】
たった3つのアルファベット。
これは僕の住む街の最寄り駅の2つ行ったとこの街の都市コードだ。
知ってて良かったと僕の知識に感謝し、ノートと鍵を持って電車に乗った。



















雑音は嫌いだ。
人間の笑い声。ヒールの音。電車の騒音。
雑音は大切な言葉を消してしまいそうだから。
この謎解きゲームを進めるに連れ、気づいたことが2つある。
1つは暗号はとても単純明快だということ。
2つはあの人は元カレであろう人との思い出を辿っているということ。
そう思うと馬鹿らしさと罪悪感が湧く。
僕がこれをする意味がない。
最もあの人は元カレにこれを解いてほしかったのではないだろうか。
そう思うと申し訳ない。
でも今更引き下がりたくない自分もいた。
あの人は今学校に来ていない。
検査入院だと噂で聞いた。
あの人に返すこともできない今、僕が解いてもいいかと正当化しようとして僕はノートを捲った。

馨羽 愛澪・2022-01-31
想い出の欠片
長編小説
言ノ葉、ふわりと
死にたい
綺麗事
初雪が積もる頃
賞味期限の切れたアイ
君の生きた証
愛故に、アイ。
君と僕の世界はさ_
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〔 半壊した不可解は君に仄か 〕




『ででんっ、問題です』



「急になんだよ」



『僕が急なのはいつもの事だろう


そろそろ慣れてはくれないか』



「自覚あるのかよ


つかなんで俺がお前に


適応しなきゃなんねーんだよ!


図々しいな本当」



『図々しいだって?


それは極めて心外だと言わざるを得ない


僕だって君の


鼓膜を突き破らんばかりの大声に


適応して耐えているんだぞ


あたかも自分だけが


苦しんでいるかの様言い方を


しないで頂きたい』



「俺が大声出してるのだって


元はと言えばお前のせいだ!」




『それでは気を取り直して問題です』




「無視すんなよ!」




『もしこの僕が悪い人になっても』



『君は』



『友達でいてくれるでしょうか』
































_____
__
_






































また、懐かしいものを見た



彼が俺の日常から消えて



どれくらいの時間が過ぎたのだろう



何度この夢を見ただろう



後悔と、やるせなさと、喪失感と



そんな感情に押し潰された心は



生きることも死ぬことも放棄したらしく



俺は一日の殆どを



寝て過ごす様になった為



時間の感覚はすっかり麻痺していた






彼は、


鉄虎はどうしているのだろう




鉛のように重い体をなんとか動かして



テレビのリモコンに手を伸ばす



ポチポチと適当にボタンを押して



チャンネルを回すと



深刻そうな顔をした



ニュースキャスターが映し出された





「高校生」



「死者八名」




あった、鉄虎のニュースだ




彼が今どうしているのか



少しでも情報が欲しくて



食い入るように画面を見る









そしてその数秒後



心臓が、凍った


















「未成年」



「殺傷事件」



「犯人は___」





































" 死刑判決 "


















































__


























『おやおや、これはどうした事だろう


此処に来る前は


天才と呼ばれていた


この僕を持ってしても


この事態は予測出来なかったと


ここに宣言させて頂きたいのだが


しかし、事これに関しては


僕を責めないで欲しいのだよ


何故か


人生とは唐突と不可解の連続だからだ


これは今日の格言だまぬけん


君のその容量が少なすぎる脳に


叩き込むことを強くおすすめする


なんなら今後


君の決め台詞にしたって構わない


「人生の九割は不可解と唐突で


構成されてるんだぜ☆」とか


キャラにもマッチしているし


とてもよく似合っていると思う


我ながら天才的発想だ


よし、まぬけん


今ここで僕が考えた決め台詞


言ってみせてくれないか


出来るだけキメ顔で頼む


ではさん、にー、いち、きゅー』



「ああああぁもうウザイしうるせー!!


誰が言うかそんなセリフ!!!


大体お前はいつまで


この事態が予測出来なかった


言い訳垂れてんだよアホか!」




『そんなこと言っていいわけ?』



「小学一年生かお前は!


もしく中年オヤジか!


その決まった!


みたいなドヤ顔やめろ!


別に面白くねーからなそのダジャレ!」



鉄虎が死刑判決との報道を見た日から



いても経ってもいられず



鉄虎の事を調べ続け



自分が持つ全ての力を使い



やっとの思いで面会に来たというのに



顔を付き合わせればこの調子である



感動の再開だと言うのに



ムードもへったくれも



あったもんじゃない



目の前で謎に変顔しているこの男が



いかに"変な奴"であるか



ここに来て再度痛感させられる



きっと此奴の行動の全てが



この刑務所内で前代未聞だろう



いや、前代未聞であって欲しい



目に涙を浮かべながら



自分に会いに来た友人に対し



開口一番



『やぁ、お久しぶりだね


おや、少し痩せたようだが


ライザップでも始めたのかい』



なんて言ってくる死刑囚が



こいつの他にいてたまるか



比較的くだらないことを考えていると



いつの間にか変顔をやめ



美しく微笑んでいる彼と目が合う



『ふふっ、嬉しい誤算だ


君がこんな場所まで


会いに来てくれるなんて』



「そりゃ、あれだよ


お前が悪い人になっても


俺達は友達なんだよ」



俺の言葉を聞くなり


鉄虎はキョトンとした顔をして


覚えてたのか、と


彼にしては弱々しい声で言った



「覚えてるどころか


ここ最近寝るとその時の夢ばっかだよ


悪い人になっても


友達でいてくれるでしょうか、って


当たり前だろーが


お前は俺にとって大切な人なんだから」



真っ直ぐ目を見て伝えると



少し目を見開いて硬直する鉄虎



その姿は顔が整っているだけに



美術室の彫刻の様に見える



そんな俺の思考を遮るように



彼は右手で両目を覆い隠し



参ったなぁ、と小声で漏らした



いつも俺をつっこませることだけに



精を出しているような彼が



参った、だなんて言ったのを



俺は初めて見た



右手の位置を口元に移動させ



やや頬を赤らめ



伏し目がちにんんん、と唸っている



その様子から察するに



彼は照れているのだろう



まさかこんな場所で初めて



それも「大切な人」だなんて



ありきたりな言葉で



鉄虎の照れている姿を拝めるとは



さっきの仕返しとばかりに



何?照れてんの?と



からかってやろうと思ったが



それより先に彼が口を動かした




『全く、君と言う奴は


どうしてそんなに恥ずかしいセリフを


ペロッと真顔で言えるのに


「人生の九割は不可解と唐突で


構成されてるんだぜ☆」は言えないんだ


変わらんぞ、レベル感が


あぁぁ、もう呆れてものも言えない


君の様な頭の悪い人間は


そんな昔の事


とっくに忘れてると思っていたのに


なんなんだ


人の心を惑わさないで頂きたい


本当にもう、もうあれだ


ものも言えない、全く言えないぞ


ばかばかばかばーかっ』




「もの言いまくってるじゃねーか


なぁ、俺の大切な鉄虎君」



『んんんんっ』



赤面した顔を両手で覆い



唸っている彼を見ている今の俺はきっと



最高に性格が悪そうな顔で



ニヤニヤしていることだろう



いつも余裕綽々といった表情の彼が



顔を赤く染めていく姿を見るのは



中々気分が良かった




こんな事を話に来たわけではないのに




本当は、もっと大切な話を



深刻な話をするはずだったのに




不思議と俺の心は満足感に満ちていた



独自に得た情報によると



彼の死刑執行まで、まだ時間はある



そろそろ面会時間も終わるだろう



この僕があんな単純な言葉で



心を乱されるなんて…はずか悔しい。と



謎の言葉を発する鉄虎に



「また明日」と伝え椅子から立つと



少し慌てた様に引き止められた



『待て、最後にクイズ』



「なんでこのタイミングで」



『ででんっ』



「お前本当俺の話聞かねーな」



『僕に明日は来るでしょうか』



「……何でそんなこと聞くんだよ」



『今質問してるのは僕だ


でも僕は心が広いから答えてやろう


知らないからだ』



「何を」



『僕は自分が死ぬ日を知らない』



「……」



『また会える明日が来るのか知らない


君とまた笑えるか分からない


分からないのは嫌いなんだ


だから答えてくれ


僕に明日は来るか?』




「来る」


食い気味に俺は答えた



「俺が明日を連れてきてやる」



「だから待ってろ」



「勝手に死ぬな」



「明日が今日になったら」



「また何回でも明日連れてくるから」



「待ってろ、良いな」




彼は三回目をぱちぱち瞬かせた後


ふっ、と


彼は微笑んだ





『了解した


また明日だ、間抜け面』



「ああ、また明日大切な鉄虎君」



『んなっ?!』



「また照れた」



『照れて等ない!断じてない!


もうさっさと帰ればか!』



はいはい、と



いつかのように彼を軽くあしらう



明日は絶対、俺が連れてくるから。



目を閉じるとまた



あの光景が浮かんでくる



『ででんっ』



『もしこの僕が悪い人になっても』



『君は』



『友達でいてくれるでしょうか』












































































" ああ待ってろよ。大切な友達__ "

綾瀬。垢変・2022-02-27
半壊した不可解は君に仄か
小説
短編のはずが
長編小説
になりました
終わり方がおかし過ぎる
多分まだ続きます
感想聞かせてください
嘆きの13月

藍羽絵碧 (16)


「 小説書き 」

藍羽 絵碧_・2022-04-30
自己紹介
長編小説

〈霞んだ青春〉 1


なんとなく見上げれば

いつも通り蒼い空があって

道端に目をやれば

狭そうに草花が咲いていて

猫は悠々と隠れ道を歩いて

様々な人が充実した生活を送って

それが当たり前になった時

俺は幸せを感じた

どんな些細なことでも

日常になるなら、普通になるなら、

俺は幸せだ。


桜の匂いが強くなってきた頃

着慣れた制服に袖を通し

速やかに家を出る

朝飯? あー...なんとかなるだろ

玄関前でマスクをつけて

前髪をちょいちょいいじって

「行ってきます」

家を出た。



学校までは徒歩三十分

自転車で十五分

自転車でゆっくり通っている



校門を通って

"二年"と書いてある自転車置き場に

自転車を置いて

校舎へ入っていった。


張り出された二年の紙に

一から三組まで書いてあった。


(...今年も二組かよ)


去年とは違う校舎を通って

教室に入る


なんとなくザワついていて

とても居心地が悪い

トイレに避難しよう


ガシッと誰かに肩を掴まれた


「うぇーい 久しぶり。」

「...誰っすか」

「塩対応だねー、君の幼馴染だよ。」

「僕に幼馴染なんていないっす」

「酷いこと言うねぇ...」

「チッ はぁ....」

「舌打ちしたよな!?」

「してないっすぅー」

「はぁ ほんの数年で何があったんだよ」

「人間は変わるんだぜ」

「つーかさ」

「ん?」

「席前後じゃん」

「いえーい(棒)」

「棒読みやめよう、うん。」

「お前佐藤だっけ」

「幼馴染の苗字も覚えられないのか...」

「じゃ 俺の苗字分かんのかよ」

「そりゃ 分かるに決まってんだろ?」

「言ってみろや」

「......倉田?」

「お前わかんねぇじゃねぇかよ」

「じょーだん 冗談だよ、佐倉。」

「名前呼ばれると不快すぎる」

「理不尽すぎんか?」


なんとなく話し始めたけど

コイツは"佐藤"

俺が小三の時に転校して

高一の時帰ってきた幼馴染(?)だ


「佐倉さ なんか雰囲気変わったよな」

「はぁ?」

「こんな前髪長くして、

それに加えてマスクって...」

「んだよ、」

「顔整ってんのに

もったいねぇなぁってさ」

「......」

「何があったかは聞かねぇぜ

優男だからな」

「天変地異が起こってもそれはない」

「氷河より冷てぇ...」


容姿には恵まれた部類だと思う

目鼻立ちははっきりしてて

バランスの良い顔と

食べても太れない体型

その辺は両親に感謝している


「顔面はえげつないのに

中身はぶきっちょだよな」

「誰が顔面凶器だ」

「言ってねぇよ」

「フッ くだらね」

「笑った!絶対笑った」

「耳かっぽじった方がいいぞ」

「辛辣ゥゥ」


はぁ...と新学期そうそう

溜息をついていると


「やったー 佐倉ちゃんと

また同じクラスだー」

「佐倉 久しぶりだな」

「......上野と吉田か?」

上野「よくわかったねー」

吉田「中学ぶりだな」

佐藤「中学の友達?」

佐倉「おう 上野と吉田」

上野「確か高一の時転校してきた

人だよねー」

吉田「あぁ、光の速さで

クラスに溶け込んだ奴か」

佐藤「えっ、そんな噂たってたんか」


...溶け込むのが早すぎる

俺でさえ半年以上かかったのに

コイツはほんの数分で、、


佐藤「.........」

吉田「どうしたんだ?」

佐藤「いやぁ、佐倉が妬みの目で

ずっと見つめてくるもんだからさ」

上野「妬みの目ー?

あっ、そっかそっか ごめんねぇ

佐倉ちゃんにかまえなくてー」

佐倉「いや、そういうことじゃ」

吉田「そうだったのか...

言ってくれれば話を合わすぞ?」

佐倉「いや、だから、」

佐藤「嫉妬深いもんねぇ 佐倉ちゃん」

佐倉「人の話を聞けよ!」


そっと外したマスクと

思った以上に出た大声で

クラスが静まりかえる

顔全体に熱が集まるのが

自分でもわかった


佐藤「まっかっかw」

佐倉「くそが、」

上野「さ...くらちゃん?」

吉田「佐倉...か?」

佐倉「は?何言ってんだ...あっ」


マスク外してたんだ、

そういやマスク外したことねぇな...


上野「いけめん!超絶イケメン!」

吉田「かっこいいじゃないか」

佐倉「いや...その...」

佐藤「まぁまぁ、すとっぷすとっぷ

ほら佐倉マスクつけて」

佐倉「あ、、あぁ」


この包容感

やはりこれだ


上野「えー つけちゃうのー?」

吉田「それは自由だがなぁ...」

佐倉「............」



なんとなく騒がしい

一年が始まると感じた


桜の便りと共に

青春の便りも届いたらしい、


〈ー終ー〉1

穹透・2021-11-04
霞んだ青春
ゆるっとした長編小説
小説
長編小説
いつまで続くのだろうか......
会話文多めにしときました
読みづらかったら改良するんで、
青春

蒼い空に雲がかかって

道の端っこに草花が咲いてて

制服を着た人 私服を着てる人

道を悠々と散歩中の猫も

「日常」なんだと実感してる

高校生たちが限りある青春を謳歌して

なんとなく過ごす話。

穹透・2021-11-03
長編小説
小説予告
ゆるっとした高校生を書いてみたいっす
日常
霞んだ青春たちよ、さようなら。(白目)
霞んだ青春

〈ただの希望と、君と、〉


家庭環境も



学校生活も


なにも辛くないはずなのに、





なぜこんなに




しにたいのだろう、











二月の上旬


まだ一月の寒さが残っている中



とある屋上に来ていた



あまり雪の降らない地域で




今年もあまり降らなかった






フェンスに手を置き





冬の空を見渡す





空気が凍っていて



手が悴んで




フェンスに上手く登れない






こんな所、





誰かに見られたら






生きていけない。









早く、早く、早く、早く





やった、やっと登れ_______








「さっきから何してんだよ、」









「え、」









頭が真っ白になって








フェンスから身を離そうとした瞬間














「目障りだ、死ぬ気なんてねぇんだろ」












手を強く引かれ




コンクリートに身を投げ出す







どうしよう、








見られてしまった














しかも、







制服のままで、










どうしよう、どうしよう、どうしよう







悴んでいた手が







何者かに握られる












「おい、だんまりはよくねぇぞ?」







「えっ...あっ......」










正面を見ると







私の高校の近くの制服が見える











「つーか 手つめて、」









「あつ...ごめっ、」









「謝る必要はねーよ」













とても、暖かい。





男の子らしさがある手






私の手を包み込むように握られていた










「手袋くらいしろよー」






「は、、はい。」













「ていうかさ、その制服 あそこ?」











下を見ていても分かる








"あの"困った顔












「すっげぇ 頭良いとこじゃん」




「天才かよー」
















やっぱりだ、










皆、口を揃えて言う








「天才じゃん」













違う、違う、違うんだよ、






私は、違うんだよ。










塾にも行かず







ただ冷たい部屋の中で











ひたすら、字を書く













その努力を









肯定されることも










否定されることも












されないまま








育っていった
















「おい?」













ツー








何かが頬を渡った












そして












上を見てしまった


















「えっ、あっ、

俺なんかまずい事言ったか?」












必死に首を横に振ろうとする











けどなぜか何も出来なくて











今はただ、こうしていたくて、
















「......あー、くっそ、」













暖かいものに包まれる












暖かい手で背中をさすられる













ただ、無言で














「おー? 泣き止んだか、」













「あっの、すいま、せん」














「大丈夫だから、謝んな、」















「あっ、すいま...」















「もう謝ってるじゃん」













おちゃらけて笑う









その人の笑顔が











誰よりも輝いていて











そして、















愛おしくて_______





















「俺、東山高二年の神咲、よろしく」













太陽のような笑顔で











手を差し出してきた















「あっ 私、西寄高校一年 篠目、です」














「篠目さんね、よろしく、」














「か、、神咲先輩...?」













そう恐る恐る聞いた瞬間














「はっ...はははっ」












ずっと笑っていて










正直癪だったけど、










それさえも愛しい、










これは、一目惚れっていうやつだろう。














「はー、笑った笑った、


違う学校なんだし 先輩はいらないぞ」














怒ってなくてよかった、










胸を撫で下ろして考えた














神咲さん?






硬いって笑われそうだなぁ、












神咲くん?







気軽すぎるか、















神咲?







それは、怒られる。















あー、一体どうすれば...














「なんとでも呼んでいいよ、」












「えーっと、じゃ、じゃぁ、



神咲さん?」














「いいんじゃないかなぁ、


改めて よろしくね 篠目さん」








「よっ、よろしくお願いします。

神咲さん、」












「かたいなぁ」













そして






屋上で話している内に











冬の空が紅く染まってきた
















「篠目さん、またね」












「はい! さよならー」

















今日はとても良い日だった、














すぐに帰って












一人分の夕食を準備して












静かな部屋に一人で食べた。















お風呂に入って














神咲さんのことを考えながら










布団に身を投げ出す














「楽しかったなぁ」














誰もいない部屋に一人で呟く














明日も、明後日も、頑張ろう















神咲さんがいたから、














そう思えた。


















学校終わり












真っ直ぐにとある屋上に行って














神咲さんを待つ
















それが次第に













週に三回 週に五回



















半年過ぎた頃には














毎日 とある屋上に行くようになっていた




















「おーーい 篠目さーん」













「あっ!神咲さん!」













「ごめぇん、待たせたよね、」

















「いぃや、全然そんなこと...」













申し訳なさそうに













いつものベンチに座る















いつも通り話した。















陽が沈み出した頃















神咲さんが真剣に私を見る

















「篠目さん、







出逢って半年だけど








好きになりました。





















付き合ってください_______」
















鼓動が早くなる













顔が紅くなる














これは、逃げられない、














「篠目さん、」














神咲さんも顔が紅くて












冗談じゃないのがすぐに分かった















「喜んで_______」


















神崎さんは私を抱き締めあげて










こう呟いていた















「絶対離さない、好きだよ 篠目」














喜びに満ち溢れていた、














そんな時だった、


















「だからさ、



一緒に逝こうか、篠目さん」




















「......え どこに?行くの?」













「あっちに、逝くの、」











上を指し




"行く"じゃなくて






"逝く"だと悟った





















何も考えられなくなって












抗えなくて
















「ごめんね、篠目さん。






騙すつもりはなかったんだ






君が好きなのも、本当だよ、」






















切なげに言うその姿で













何もかもどうでも良くなった




















「篠目、好きだよ、大好き、」
















「私も、大好き、」















フェンスに上に登って















甘いキスを交わした





















「神咲 庵里、俺の本名な、」














ニカッと笑った顔はやっぱり















美しくて、可愛くて、















好きだな、


















「篠目 悠月、憶えてよ、」















「忘れるはずないじゃないか、」














そう言葉を続けた














「篠目さんが自殺しようとしてたとき







運命だと思った、















狂ってるだろ?














あの綺麗な横顔と














君のその眼を奪うまでは
















死ねなかった。」














涙を流しながら













そう語っていた


















「わ、私も、一目惚れだよっ、







寒くて寒くて、















いつも一人の部屋の中で













ただ、勉強をするだけだったから、

















そんな日々に希望と君を














与えてくれたこの世界に、
















感謝してるよ、


















大好きだよ、庵里、」


















二人共、泣いて、笑って、
















月が真上に来た頃、



















「そろそろ、逝こ、」
















「そうだね、」

















お互いの身体を支えながら
















ビルの上から落ちていく、


















「あいしてるよ、ゆづき、」























「一生そばにいてね、いおり、」























サイレンの音と














庵里からの口付けで


















視界が真っ黒になった。






























速報です。







十九時二十三分頃、











西寄地区にて







高校生の男女が心中自殺_______



































































穹透・2021-08-27
小説
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ノーマル
ただの希望と、君と、
感想お願いします
心中自殺
心中
自殺

〈霞んだ青春〉 3


人生で一度や二度、

イメチェンはするであろう。

その時がたまたま"今日"だっただけだ


髪を切ってから

視界が広くなって

光を余計感じるようになった

特に不便はないが

皆にどう思われるか、

とてつもなく心配で吐きそうだ。


いつも通りの朝、

いつも通りの制服、

いつも通りの髪......??


マスクはつけないで、

少し髪を整えて、


「行ってきます」


学校に向かった。


「よっ、佐倉。」

「おはよ、佐藤。」

「おっ、髪きまってんねぇー」

「そうか?」

「......?」


あからさまに首を傾げて、

俺を見つめてくる。


「どうした?」

「なんか、、」

「おん」

「今日、素直だな。」

「......は?」

「いや...いつもは

普通にあしらってんのに...」

「あー......」

「イメチェン効果ってやつっすかー」

「ちげぇよ ぼけ」

「あっ、いつもの辛辣佐倉」

「はよ行くぞ、」

「へいへーい」


自転車置いて

下駄箱で靴を履き替えて

二階に行こうとする。


これは気の所為なのだろうか。


さっきから

視線がちょっと...じゃなくて

えげつないくらい痛い


これも、あいつが言っていた

"イメチェン効果"っていう

ヤツなのだろうか、、


教室に入っても、

痛い視線はやまない。


「佐藤、あれ誰だよ。」


佐藤と仲良くしている

生徒の一人が話しかける。


「お?あれか?佐倉だぞ?」

「は?え?」

「髪切った佐倉だぞ?」

「あの、佐倉か?」

「そうそう、佐倉ね」


影から飛び交うこの声...

はぁ......今日早退すっかな。


そんなことを考えて

俯いた瞬間、


「本当に佐倉くんだよ!」

「うわー 超絶イケメン、」

「なんで隠してたんだよーー」


人が一気に群がってくる。

シンプルに怖い。


そんなキョドってる俺を見て

馬鹿みたいに笑ってる

アイツを許さない。


そんなこんなで、

やっと放課後になった。

朝が終わってからも

上野や吉田から、


上野「さ、、佐倉ちゃん?」

吉田「ハッキリした顔立ちだな」

上野「えー 超かっこいい!」

吉田「そうだな、」


一日中、気持ちが落ち着かなかった。

こんなに褒められたの、

久しぶりだったから。


今日から部活動が始まる。

一年生の体験入部やらなんやら...

帰宅部には関係ないが、


佐藤や上野や吉田は

部活動に入っているから

忙しそうに走り回っていた


邪魔をする訳にもいかないので

そのまま静かに帰ることにした。


ちょっと前までは

桃色で彩られていた坂道は、

夏らしい、緑に染まっていた。


なんとなく、

自転車を扱いで、

道に落ちていた

桜の花弁たちが宙に舞う。


清々しい気分で

坂道を下り終わると、

辺りを見回した。


犬を散歩しているおじさん。

カバンを片手にスマホを持って

誤っている若いお兄さん。

流行りの物をつけて

歩き回る女子高生。

優雅に堂々と歩いている猫。

眩しい陽の光。

道の端っこに生えているたんぽぽ。


日常は、見つけようと思えば

たくさん見つかる。

俺が気付いてないだけであって

昨日も一昨日も、

こんな風景が続いている。


どんな些細なことでも、

日常を有難く思わないと、

何も罪滅ぼしにならない。


今日こそ、届くといいな。

一枚の紙にたんぽぽを添えて

ポストにいれた。



拝啓 若葉の緑が目にしみる

ころとなりました。

お元気ですか?

俺は、高校生活二年目です。

色々な出会いがありました。

生活にも学校生活にも

何不自由ないので、

心配しないでください。

最後になりますが、

体調を崩さないよう、

体を大事にしてください。
敬具

佐倉 瞬

佐倉 香里様


〈ー終ー〉

穹透・2021-12-15
霞んだ青春
小説
長編小説
日常
手紙のところは下手くそですいやせん。
かなり聞かんがあいたんで、一番最初のタグからとんでくだせぇ。

〈霞んだ青春〉 2


こちら佐倉。

今年の青春の風が吹き荒れています。

出来るだけ気をつけましょう。


台風のように現れて

ずっとそこに上陸したままで...

ふざけてやがる...


教室のざわつきが

一つの音によって静まり返る


ガラガラガラ


「はい、おはようございますと、

えー 二年二組の担任です、はい。

担当教科は国語 名前は神崎

今年一年面倒事はおこさないように

じゃあ クラス委員やら

勝手に決めとけ 決まったら職員室の

俺の机に置いといてくれ

何かあったら隣のクラスに

助けを求めとけ よろしく頼んだぞ」


皆ポカンとして

去っていった。

これこそ本当の台風か...


トントン


「うるせぇ」

「まだ 話してないんすけど...」

「つーかさ 隣の席の子!」

「あ?」


隣の席...?

あぁ 小林さんか


「小林さんだろ?どうした?」

「は?え?佐倉知らねぇの?」

「何がだ?」

「えぇ...小林さんな

学年一可愛いって言われてんだぜ」

「へー」

「興味なすぎだろ!」

「いや あるよ」

「嘘だな」

「本当だよ」


まぁ 確かに

小林さんが美人というのは

風の噂でちょくちょく

聞いていた

俺は前髪が長いから

あんまり顔は見てなかったが...

よく見てみると

目鼻立ちハッキリしていて

仕草も女の子っぽくて

かわいいと思った


「はぁぁ 癒されるわぁぁ」

「おぉ そうだな」

「あっ これから

学級委員決めるみたいだぞ」

「だる...」


そんなこんなで

学級委員が決まった

めんどい役割につかなくてよかった


んで

担任曰く

各自解散だそうで

明日から始まる部活の準備やら

新学期にやらかした連中やら

皆忙しなそうに、

廊下を歩いていた。


何もすることねぇし

帰っかな


「ばぁ」

「は?」

「すいません

シンプルに殺意を向けないで...」

「んだよ、佐藤かよ。」

「へっ 悪かったな!」

「...要件は」

「一緒に帰ろうぜ」

「無理」

「ねぇ 考えた?」

「考える必要がなかった」

「わお 辛辣」

「てか お前部活の準備は?」

「特にないよ」

「へー...暇そうな部活だな」

「佐倉も入ろうぜぇー」

「却下」

「ひでぇー」


他愛のない会話をしながら

歩き始める


一つ気付いたことがある

それは...


「おぉー佐藤じゃん」

「うぇーーいw」

「うぇぇーい」

「ぎゃはははww」


人脈がえぐいことだ

こいつは俗に言う"陽キャ"

の部類に分類されるんだろうな


「えぐいな」

「なにがー?」

「いや...」


外に出て自転車を

男二人で桜並木の坂道を下る


「青春みたいだなぁ」

「...そうだな」

「おっ? 否定しないんだな」

「事実だからな」


桜の所々が

葉桜になりかけてる

なんとなくそんな事を

思いながら扱いでいた


「佐倉ー 前髪切ろうぜ」

「やだ」

「ジャンケン!

ジャンケンで決めようぜ!」

「はぁ...」


なんかここでやんなかったら

負けみたいな感じがするから

やってみるかぁ......


「やったぁぁぁぁ」

「くそ...くそが...」

「早速俺ん家行こう

今日誰もいねぇから」

「やっぱなかったことに...?」

「そりゃダメですぜ佐倉さん」


俺の家の隣が

佐藤の祖母の家で

そんなこんなで腐れ縁


用意周到で

新聞紙と髪切りセットを

持ってきやがった


「よっし

チョキチョキいくぜ」

「失敗したら 殺るぞ」

「うっ...うっす」


暗い視界から

一気に明るい視界に変わった


「お前さ」

「いや、これは、

これから整えっから、」

「おう」


チョキチョキと

案外器用なんだなぁと

こりゃモテるわな


「よっしおーけー」


隣に置いてあった鏡を開いて

俺に見せてきた


「どうよ?どうよどうよ?」


...何とも言えない上手さだった


「...いいな」

「よっしゃぁぁい」

「スッキリした」

「そりゃ よかった」

「ありがとな」

「いいってな」


笑顔で何でもこなす

尽くしたくなるようなその顔

ここ数年でかなり変わったな


「マスク、外さないん?」

「......外す」

「えっ?いいのか?」

「もうどうでもよくなった」

「そ、、そうか」


もうスッキリして

なんかどうでもよくなった


「じゃ 髪切ったし

この辺でお暇するわ」

「えっ?遊ばないのか...?」

「遊ばねぇよ」

「ええええぇーー」

「また明日な」

「おーけー」


...歩いて一分もかかんないけどな


「ただいま」

「おかえりぃ しゅんちゃん」

「ただいま ばぁちゃん」

「あらまっ、

前髪どぉしたのぉ?」

「あ、あぁ、

さとう、、ゆうに...」

「ゆうちゃん!

今度お家に連れておいでぇ」

「う...うん」

「かっこいいねぇ」

「そっ、そうかな?」

「うん、かっこいいよぉ」

「ありがとう」


俺は訳あって

祖母と二人暮し

父も母も全国各地で仕事で

俺が幼い頃から

忙しそうにしてたからな...


そんなこんなで

なんとなく始まった新学期

楽しく元気にやりましょうかね


一通の手紙と

一枚の桜の花弁を添えて

ポストに入れた


〈ー終ー〉 2

穹透・2021-11-29
霞んだ青春
小説
だいぶ時間が経ってるんでタグからとんでくだせぇ
日常系
長編小説
BLになりそうでならない小説


再投稿



ある夏の日の思い出




はるか昔の夏の日


川辺りに座っていた青年を


私は今でも憶えている





あれは、忘れもしない


中学二年の夏休み


祖母の家に遊びに来ていた


私は始めこそ珍しい里山を


見て回ったが







小さな子供ならともかく


既に娯楽を色々と覚え


都会に慣れすぎた私は







ハンバーガーやゲームが


恋しくなっていた。







その青年に出会ったのは


日の沈みかけた夕方


新鮮さを無くした


川辺りの道を







当てもなく歩いている最中で


か細い笛の音がどこからか


聞こえてくるのに私が


引き寄せられたからだ






笛を鳴らしていたのは…






真夏には似合わない


白い肌の青年だった


髪、肌、服、全てが


純白で、唯一瞳だけが






黒々と輝いていた


とても華奢で手首など


少し力を込めれば


折れてしまいそうな程だった





「こんにちは」





彼の声はとても甘かった


私はおずおずとこんにちはと返した


彼はとても綺麗だった








当時テレビで輝いていた


芸能人の誰よりも彼は


美しい姿をしていた






私は何故か彼から目を


離す事が出来なかった


この時私以外の人間が


この道を通らなかったのは





偶然なのか必然だったのか


今でも私には分からない




_話し相手が欲しいんだ


もし君が良いのなら


付き合ってくれないかい?





と彼は言うから


私は彼の隣に座った


彼は硝子の様な物で


できた細い笛を脇に置いて


私に幾つか質問をしてきた






_何処から来たの?


…東京の方


_ここの子供じゃないんだね


…お兄さんは?


…ここの人じゃないの?





彼は困った様に首を傾げた




_ここに住んで長いんだけれど


外を出歩いた事が無くてね


珍しいものばかりだね、ここは






彼は私の故郷の話を


凄く聞きたがった


彼はハンバーガーも


テレビもゲームも


知らない様子で








説明するのに骨が折れた


もし、もっと大人だったなら


あまりに浮世離れした青年の


容姿や言動にすぐ疑問を抱き


側を離れただろうが







当時の私は薄々おかしいと


思いながらもあまり気にせず


彼と会話を続けていた






話している内に蝉の声が


段々と小さくなり


辺りがオレンジ色に


染まり始めていた


私が帰ると言うと彼は


凄く哀しそうな顔をした






…お兄さんはどうするの?


_どうしようかな



…まだ帰りたくないのなら


うちに遊びにおいでよ


テレビとかゲームとかは


無いけど漫画ならあるし


おばあちゃんのご飯、美味しいから







夕日で体を橙色に染めた青年は


酷く驚いた様な顔をしてそして


泣き笑いの様な表情に変わった







_君は優しいね、


お兄さんと呼んでくれて


話し相手にもなってくれて


家にも招いてくれたんだもの






…だって、お兄さんは


お兄さんだし、それに


もう友達じゃない





_ありがとう、でも


僕はお兄さんじゃないんだ




…えっ、じゃあお姉さん?




_お姉さんでも無いよ


僕は唯の…出来損ないだ


こんな僕の事を友達だって


言ってくれて本当にありがとう






彼は少し


消耗している様だった


促されるままに


祖母の家に帰ったが


彼の言葉が気になって


まんじりとも出来なかった






あの綺麗な彼の何処が


出来損ないだというのだろう。


答えは次の日に見つかった。







翌朝同じ場所を訪れた私は


そこに一つ蜉蝣の死骸を見つけた


妙に気になったので、持ち帰り


図鑑を見ながら色々調べてみた所





その蜉蝣がオスでもメスでも


無い事が分かった、どちらの特徴も


すっかり欠けているのだ






中学生の私には


その意味は分からず


元の川辺りの柔らかい


土に埋めてあげた







今ならあれが何だったのか


よく分かる、あの蜉蝣は彼だった


一生の殆どを隠れて過ごし


つかの間の恋に身を焦がし







あっという間に


死んでゆく蜉蝣


やっと翼を得た彼が


自分に恋する資格が


無いと、知った時


一体何を思っただろうか。








そもそも彼は本当に


綺麗だったのだ。


今も昔も、彼より


美しい者なんて


私は知らない







彼の姿はずっと


網膜に焼き付いて


いつまで経っても


消えないのだ






こんな寒い夜に


彼の事を思い返したのは


ちらちらと雪が


降り始めたからだ






白い雪の中に彼が


紛れている様な気がして


ふと静寂の中に


透き通る様な淡い


笛の音を探した

垢変・2022-05-04
ある夏の日の思い出/By在瀬
小説
蜉蝣
目と目が合うと
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良ければ感想ください
失恋
青春
蜉蝣の儚い恋心






【恋の味って甘いんじゃないの?】

“恋味”

ー入学式ー




※百合が苦手なヒトは気をつけてください(((

まだ百合要素なしかも。







恋愛経験が少ない女子3人が



すれ違いながらも



恋心を育む物語__。







。。________。。




南女子高校 新1年生。



ハナセ
花瀬すみれは今、わくわくしている。




新しく始まる学校生活、初めましての人達。


…そして何より、可愛い子がいっぱい!!





すみれは男の子が苦手という理由で


女子校を目指すことにしていた。



しかし女子校は偏差値が高い。高すぎる。




頭がよろしくない私はかなり悩んだが、



それでも女子校へ行きたくて猛勉強した。





頑張って勉強した甲斐があった……



改めて思う、今この頃。




自分よくやったな…と自賛していると、



斜め前に座っているあの子に気がついた。




「めっちゃ可愛い…((ボソッ」




眼鏡をかけているあの子。可愛い。友達になろ。



私はまたワクワクした。






…入学式は長い。長すぎる。




長い話に飽きて友達になれそうな人を探す。




まずは、眼鏡のあの子だよね。




。。________。。



南女子高校 1年



ニジノ アヤネ
虹野 彩音は、憂鬱な気分だった。




私は友達作りがなにより苦手だ。




憂鬱な気持ちのまま下を向いて登校していた。




ふと、前を歩いている、同じ制服の女の子を見つけた。




『綺麗な子……』




彼女は落ちてくるサクラの花びらを



掴もうとしながら歩いていた。




なんて無邪気で可愛らしい姿なの?



掴めてない姿に思わず笑ってしまう。




『あ…』




掴めた。やったね。





…なんで私まで嬉しくなってるのかな…?





さぁ、着いた。校庭には人がいっぱい。帰りたい。




入学式が行われる体育館へ向かう。




席に座っている人はまだ少なかった。




『……あ、』




見つけた、さっきの彼女だ。



斜め後ろの席にいた。



同じ1年生だった、嬉しい……話しかけたいけど……




勇気がない私は席に座った。




。。________。。



南女子高校 1年生



ミカゼ リン
海風 凛は隣の席に座っている女の子を見た。



この子、髪にサクラの花びらついてる……




『あ、あのぉ……』




「……」




無視!?それとも気づいてない!?




…ていうかなんか熱心に見てる?



この子の視線を辿ってみる。




ん?



あの人見てるのかな?




『確かあの人って……虹野さん?((ボソッ』



。。________。。






【恋の味って甘いんじゃないの?】

略して“恋味”

ー番外ー
(説明?)



主人公は3人。

3人とも南女子高校新1年生。
(南女子高校は架空の学校デス)



すみれはまだまだ子供っぽい。

頭はよろしくないが努力家。

過去に男の子関係で闇を抱えてるらしい。

そしてとにかく女子力が無い!



彩音はかなり大人っぽい。

頭が物凄く良い。レベチ。

勉強しなくても大丈夫という天才。

優しくて真面目。陰キャ。



凛は子供っぽさもあり、大人っぽさもある。

頭はまぁまぁ。すみれと彩音の中間って感じ。

運動神経だけは抜群に良い。

+ショートカットで男の子っぽい。



作者から一言(((

自己満投稿ってタグ付けたのに読んでくれてありがとうございます泣


最後まで読んでくれたのなら贈りm(((殴


すみません、ふざけました。


これからも自己満で書き続ける予定です。


初めて小説らしきものが書けて、喜んでます。


百合小説って言っても、3人がとても初々しいので、


初心者さんにも優しい作品になる予定です。


読んでくれてありがとうございましたぁぁぁぁ!


では、また!!

✡彩瀨✡・2022-04-23
恋の味って甘いんじゃないの?
恋味
百合
小説
百合小説
姫女子
長編小説
同性愛
自己満
自己満足投稿
自己満小説
私の日々達よ✡✡✡
✡私の小説✡

先 輩 は 今 日 も 優 し く な い 。
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸

𓏸𓈒 𝑷𝒓𝒐𝒍𝒐𝒈𝒖𝒆__ 🎞♡︎

♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡

「あの、先輩っ。」

『ん?…って後輩じゃん。』

「…そろそろ後輩呼びやめて貰っていいですか??😞」

『え、やだ。』

「こっちも嫌なんですけど?」

『ふーん。』

‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸

ひとつ学年が上の先輩に恋をしました。
でも、わたしだけ冷たいんです。
片思いなのかな…😿💭
ねぇ、先輩。わたしのことどう思ってますか?
‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸

𓏸𓈒 登 場 人 物 ‪🌷𓈒 𓂂𓏸

໒꒱ • 如 月 り な ⌇ き さ ら ぎ り な

高校𝟐年生 ┊︎ 先輩に恋してる


໒꒱ • 平 野 紫 耀 ⌇ ひ ら の し ょ う

高校𝟑年生 ┊︎ サッカー部
好きな人にはツンデレ
‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸‪𓂃 𓈒𓏸

初の長編小説…🙌🏻❕
ゆいたんのみて書きたくなったんです^ᴗ ̫ ᴗ^

恋愛小説です😣💘

毎週金曜日に更新予定です😽💞

𝓡𝓲𝓷𝓪. 🥞‪‪❤︎‬・2022-09-14
先輩は今日も優しくない。
ひらりな♡
✧ひらりな𝙽𝚘𝚟𝚎𝚕⏱️✧
長編小説
ひらりな𝚛𝚘𝚘𝚖.🎀🐾

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