迷った。
さっきから同じ場所をぐるぐるとまわっている。
これだから地下鉄はいやなんだ。どこも同じに見えるじゃないか。
天井を見れば蛍光灯の配置がばらばらだ。
非常口のような扉を見れば、時折ドアが開いている。
すれ違う人は皆同じに見え、終いには双子のハンターが見える始末。
さっきからずっと、看板が示す先は0。
何処だよ8番出口って。
待ち合わせ場所を変えてほしい。
電波はない。だからメッセージも送れないまま。
再送信マークが横に付いたまま、いくつもの空メールを飛ばすだけ。
飽きた。
ぐるぐるぐるぐる、歩くだけ。
ポスターはどれも同じ癖に、蛍光灯の配置がばらばらな時とそうでない時がある。
非常口のような扉も開いていたり閉まっていたり。
なんだろう。同じなようで同じじゃない。
そうだ、逆方向に歩いてみよう。
するとどうだろう。看板が示す先が1になる。
もしかして方向が間違っていた?
ひたすら歩いていくと、また0になる。
はぁ?
道行く人に聞いてみた。多分この人も迷っている。
だけどスマホを見つめては首を傾げるだけで、こちらに見向きもしないんだ。
ぐるぐるぐるぐる、歩くだけ。
今度は向こうから赤い波が押し寄せてきた。
逃げる逃げる。着いた先は1になる。
この道を歩き続けると、着いた先は2になった。
この道だ、この道だ。
もう見慣れたおじさんも、にこにこと嬉しそうに笑っている。
おじさんもようやく出口が見えて嬉しいんだ。
行き着く先は0になる。
ぷつんと靴紐の切れる音がした。
本当に意味が分からない。おじさんだってあんなに喜んでいたじゃないか。
可哀想に。また真顔になっちゃった。
禁煙マーク多いな此処。
もう何時間経っただろうか。ほんとにあともうちょっとなのに。
行ったりきたりを繰り返して、なんとか数字を増やしてもまた0になる。
だけどやっと。やっと此処まできた。
8番出口。
ふと背後を見れば、引き返せと書かれた看板を見つけてしまう。
そんな手に騙されるかよ。この先を行けば出口なんだ。
すれ違いざま、おじさんとハイタッチ。
行き着く先は0になる。