愛する人に送りたい。私のバレンタインぬ、ちよこれいと。
市販の板チョコを粉々にして溶かしてまた形を作るだけでいいなんてなんて簡単なんでしょう。
決められた型に溶かしたチョコを流し入れて冷蔵庫で固まるのを待つ時間が一番ドキドキするよ。
まだかなまだかな。何度も冷蔵庫を開けたり閉めたりしちゃう。
そして完成した私の世界にひとつだけのちよこれいと。
可愛い袋に入れて、渡しに行こう。
バレンタイン当日。決戦の朝。
私は愛する人に渡すと意気込んで、意気込んで、意気込んでいたらいつの間にか夕方になっていた。
あれ、私、チョコ渡したっけ。
記憶がない。鞄の中にはまだそれがあった。
どうして私は渡してないんだろう。どうしてまだ渡してないんだろう。
早くしないと愛する人が帰っちゃう。早く、早く渡さないと。
渡すって、誰に?
わかんない。わかんない。私は誰に渡したかったんだっけ。
そもそも渡したい人なんていた?
いない。そんなの、どこにもいない。いないいないいないいないいない。
愛する人なんていないのに、私は誰の為にこんなものを作ったの?
わかんない。わかんない。そんなの知らないよ。
遠くの方で私を笑う声がする。
あいつまた持ってきてるじゃん。渡す人なんていないくせに。
私またやっちゃったの?
またってまた?
去年も同じことをしたの?
嘘。そんなの覚えてない。私じゃない。
このチョコどうしよう。去年はどうしたの?
捨てたの?
自分で食べたの?
わかんない。わかんない。自分のことなのに思い出せない。
るんるん気分で作って、持ち歩いて、夜になったら粉々にして踏み潰して捨てるなんて知らない。
知らないったら知らない。私はそんな可哀想な子なんかじゃない。
愛する人はいるんだ。いるんだよ。
だけどほら、渡す勇気がなくて渡せなかっただけ。
だから今年はお前らが食べてもいいよ?
私を笑う、お前らが食べればいいじゃん。
私が先に粉々にしてあげるよ。粉々にして踏み潰した私のチョコをお前らが食べるんだ。
私の手の中で粉々になる音を聞きながら、私は今年も笑うのだ。