距離が近い。肩と肩が触れている。どうしてこんなに近くにいるの。さっきから心臓が煩くて困る。
飲めもしないのに参加して、隣をキープするだけでよかったのに。
どうしてこんなにくっついてるの。酔ってるの?
ねえ、ねえってば。
私よりも年下で、係長ほどは偉くないけれど、私からすればずっと偉い立場の貴方。
貴方もたしかお酒は弱いはずだよね。
真っ白な肌はそのままに、酔ってるようにはみえなくて。
私はもうむりだから。肩が触れた瞬間むりだから。そっちはもうみれなくて、お水ばかり飲んでしまう。
私が知らなかっただけで、こうして毎回誰かにくっついているのだろうか。それはそれでとてもいやだけど、こんなこときっともう二度とないわけで。
ずっと貴方に触れたかった。何度も夢の中で触れていた。
立場上のこともある。好き避けしてしまうこともある。私が結婚してるから。言えるわけなかったから。
あの日のあれが、生涯でいちばん貴方に近付いた日だと思っていた。これ以上はないと、思っていた。
それなのに。
「(私の名前)さん、なんか頼む?」
すぐ隣から聞こえる声が擽ったくて、私は不自然に髪を耳にかけてしまう。
私はおかしくないだろうか。いまの動作に違和感は。
視線を向ければそこに貴方がいて、私のことをみつめている。
むりだって。だって近すぎる。
「あ……じゃあ、お水を……」
ばか、お水は無料だよ。
私、変な匂いしないかな。お酒なんて一滴も飲んでないくせに顔が熱くなってしまう。
すいません、と手をあげ店員さんを呼ぶ貴方。私のために水のおかわりを頼んでくれたそれだけで。
やばい、好き。
どうにかなろうなんてこれっぽっちも考えてないの。あわよくばなんてこれっぽっちも。
だけど、どうか、このきもちだけは墓場までもっていくから。
「(貴方の名前)さん、酔ってるの?」
「え、別に酔ってないよ?」
さっきから肩と肩が触れていることに、この人は気付いてないのかな。