光宙・7時間前
劇中劇「毒」
「ガラスの仮面」より
水道を捻り鍋に水をくむ。
そのまま、コンロへ…。
北島マヤは台所の、パントマイムを始める。
野菜も切って鍋に移し火加減を見る。
おもむろに暗い表情で戸棚を開け
一つの瓶を握った。
「毒…!」
審査員の間に「ぞく~」という文字が走る。
「私が、この毒を手に入れた事を知る
者は誰も居ない。
誰の運命を、どうする事も全て思いのまま…。
あの人…!」
マヤは続けた。
「これから先の、あの人の人生、運命
命…それが全て私の、この手の中にある。」
そのまま台所から、後ろに目を向けて呟いた。
「もう思い通りになんてさせやしないわ…!」
やがて手を震わせ
「裏切り…傲慢…貴方は、いつだって
身勝手に生きて来た。
私の心を、ズタズタに切り裂いて血が
吹き出るのを貴方は楽しんでいる!」
と呟くマヤ。
瓶を持って台所と繋がっている居間を
覗き見る。
「笑ってらっしゃい。
これは私の切り札よ。
ポーカーフェイスを装おって貴方の前で
いつも通りの表情を見せてあげる!」
そう言いながら瓶の蓋を開けるマヤ。
「これが体に入り消化されるに
したがって次第に毒が廻って
四時間後には心臓マヒと同じ症状で死ぬ…!」
更にマヤは呟く。
「毒は体に残らない…。」
鍋の蓋を開け杓子で、かき混ぜるマヤ。
調味料を加え味見をした後、目が瓶に向く。
その手が、クッと瓶を握った。
「これを、ほんの一滴し…二滴し…。
貴方は、ほんの一口…二口…。
それで全てが終わる。」
マヤの顔が一瞬、寂しそうに変わる。
「私は苦しみの鎖から解き放たれる…。」
マヤは唇を噛み締めた。
そして料理に入れようとして握った瓶を
調理台の上に置き蓋を閉めて棚に戻した。
棚の扉を閉めたマヤ。
今日は助かったわね、とでも言いたげに
審査員という名前の観客に向かって呟いた。
「私の切り札…!」
そして、そのまま調理を続けるマヤだった。