【漆黒の涙】
「俺、人間が嫌い」
そう口にした俺を
彼女だけは笑ってくれた。
人間のくせに。
俺はお前が嫌いだ。
アイツらと同じ"人間"だから。
でも、コイツだけは他の人間と
少しだけ何かが違うのかもしれない。
俺が生きてきた中で
初めて知る感覚だった。
だから、俺の判断は
きっと間違ってなんかいなかった。
間違っていたのは
過去の醜い俺だったんだよ。
俺は死を司る神。
いわゆる"死神"なんて呼ばれてる。
俺が死神だと知れば
気持ち悪い、だとか
厨二病かよ、なんて
汚い言葉を吐かれて。
俺が人間を理解できないのと
同じように
コイツらも俺のことを
理解出来るはずがない。
そう思った。
死神なんて呼ばれてるけど
実際のところ
受け持った能力は
良いようにも悪いようにも使える。
ただ、どう使うかは
その神次第ってだけで。
"生かす"ことも"殺す"こともできる
そんな中途半端な神。
神にはそれぞれ担当する
人間が決まっていて
それが俺の場合、コイツだった。
ある日、彼女は言った。
「あ、秋と冬の匂いが半分になった」
とか、謎発言なんかして
身につけていたマフラーを
巻き直す彼女。
秋と冬の匂い?
んなもん、あるわけねーだろ。
なんて言うと
怒ることは目に見えてたから
黙って空を見上げてた。
一度だけ、彼女が俺に
怒ったことがあった。
確かそれは
花に水やりしてたおばさんを
馬鹿にしたことだった気がする。
今にも散ってしまいそうな
花だったから
水なんてあげても
今更意味ないだろ
って笑って馬鹿にした。
そしたら彼女
『人のこと馬鹿にするなんて
最低!ありえない!』
なんて顔を赤くして
その日は一回も
俺と口を聞いてくんなかった。
秋が過ぎ、雪も溶けて
暖かくなってきたある日
彼女は言った。
「川の流れる音がするわ。
それに、鳥の鳴き声も。
ここは森の中?」
「そう、新鮮な空気が吸いたかったから
ここへ連れて来た」
やっぱりね、なんて言う
少し興奮気味の彼女の声を
後ろに聞いて
また歩き出す。
彼女はこういう自然が
大好きだった。
だから、少しでも
彼女の喜ぶ顔が見たくて
よく森とか連れ回してた。
「ちょっと待って」
「なに?」
「この辺に花があるのかしら。
いい香りがするの」
また、可笑しなことを言ってる。
花なんて君がいるすぐ"傍"にあるのに。
「探してる花ってこれのこと?」
黄色い花を差し出す。
ほんのり甘い香り。
「そう、これだわ」
これ、本当に花なのか?
こんな花、俺は知らない。
俺のことを察したのか
彼女は口を開いた。
「この甘い香り。
ミモザって名前の花ね」
ふうん、ミモザ。
別に、対して興味は無いけど。
彼女は笑ってみせた。
花が揺れる。
「貴方からは優しい匂いがするの。
一度だけでいいから
この目で貴方を見てみたかった」
聞きたくなかった。
知りたくなかった。
本当は多分
どこかでそんな気はしてた。
君は"目が見えない"ということ。
「見てみたい?」
「叶うことならね」
彼女はまた、笑ってみせた。
風が吹く。
髪がふわりと揺れる。
綺麗だ、と思った。
「目、閉じて」
言われるがまま彼女は目を閉じて。
それを見て微笑む俺。
でも、次に瞬きした時には
何故か泣いていて。
ああ、やっぱり
人間と死神なんか
交わるものじゃなかったよ。
__カシャン。
物音と共に落ちたのは
仮面と黒いマント。
「どうして?」
しゃがんで拾い上げる。
でも、見回しても見回しても
"貴方"だけが見当たらない。
苦しい。
息が苦しい。
「貴方がいなくなるなんて
聞いてないじゃない…!」
泣いてもどうせ
貴方は戻ってこないのでしょう。
だからせめて
耳を傾けて
私の声を聞いてください。
私がずっと胸の内に
秘めていた言葉。
貴方にずっと伝えたかった言葉。
「優しい貴方がずっと好きでした」
END
-おまけ-
最後まで読んで下さり
ありがとうございました。
今回出てきた
「ミモザの花言葉」
ご存知ですか?
ミモザの花言葉は
「秘密の恋」です。