♡・2024-11-26
カナの書斎
短編小説
自己投影
【久しぶり】
私には“認知症”の母がいた。
娘である私の名前もわからなければ
今日の日付も間違える。
父と一緒に介護をしていたが
手に負えなくなり施設へ預けることに。
仕事をしながらたまに面会に行き
介護士さんから日頃の様子を聞いたり
母とたくさん会話をして
少しでも回復することを願った。
“認知症は治らない”と言われている
だが、介護士さんや医者の協力もあって
母は毎日パズルや手遊びなどのリハビリ
薬物治療をしてくれていたのだ。
そして何年か経った頃
施設へ父と面会に行った。
すると部屋には
楽しそうに話す母と介護士さん。
「あ、娘さんですね。こちらへどうぞ。」
介護士さんが私を見て言うと
ベッドの近くに椅子を用意してくれた。
椅子に腰かける私。
介護士さんが母へ問いかける。
「この方、誰かわかりますか?」
母は笑顔で答える。
「私の娘です。」
母の認知症は少しだけ回復し
私の名前を言えるほどになったのだ。
今まで思い出せずにごめんなさいと謝る母。
だが、少し回復したことで
私が“娘”という存在だと思い出せた母は
「久しぶりね。」
そう言って私を抱きしめてくれた。
【第9話・】
「目を覚ましなさい。」
屋敷を揺らす強風と包み込む闇
恐怖で体が動かず声が出ない。
だが現状が危険だということだけはわかる。
一体なんなんだ。あの少女は何者だ。
そんなこと今はどうだっていい。
一刻も早く、この屋敷から逃げ出さないと。
熱い、熱い、体熱い。
「とても寒かったわ。暗闇で1人きり。」
「足が痛いの。右手も無いわ。」
少女が言葉を零すが
噛み合っておらず意味がわからない。
ただ動けない私を見つめる少女が怖い。
「私の名前は……。」
少女の口から聞こえた名前は
とても聞き覚えのある名前だった。
きみは……。
そう言いかけた私の意識は朦朧としていて
やがて目の前が真っ暗になってしまった。
.
【第2話・出会い】
「いらっしゃい、お客さん。」
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誰かが客間に入ってきた。
幼い少女だ。14歳くらいだろうか。
「道に迷ったのでしょう?
今夜は泊まっていきなさい」
長く黒い髪に黒いドレス。
落ち着いた声と淡白な表情。
黒百合のように美しい少女だった。
日が暮れ
すっかり暗くなってしまった森を
一人では危険だからと泊めてくれるそうだ。
迷い人が此処へ辿り着いては
一晩泊めてから帰らせてるらしい。
私も彼女の言葉に甘えることにした。
「お腹、空いてない?」
夕食を用意してくれるらしい。
そんなに空腹そうに見えたのか。
バッグにチョコレートが入っているが
有難くご馳走になることにした。
「簡単なものしか出せないけれど。」
そう言って彼女は客間を出ていった。
食事はメイドではなく彼女が作るのか?
ただのお嬢様ではないのか。
「食事が出来上がるまで貴方はこちらへ。」
メイドが寝室へと案内してくれた。
ふかふかのベッドに綺麗な浴室。
一人には広すぎる部屋だった。
そして、
屋敷の中は自由に歩き回って良いらしい。
ここは客として遠慮したいところだが
私は好奇心に負けキッチンへと向かった。
「……あら、どうしたの?」
.
自己投影型、短編小説を
読んでくださった皆様へ
ありがとうございました。
いかがだったでしょうか?
少しでも楽しんでいただけてたら嬉しいです。
次回から少しの間は、小説ではなく
テーマに沿ったポエム的な投稿をしたいと
思っております。
これからも私の密かな妄想に
お付き合いいただけたら幸いです。
何卒よろしくお願いいたします。