Instacramのストーリーの閲覧はもはや流れ作業。
どれもこれもお出かけ先の景色だったり、ご飯やカフェの写真だったり、友達とのやり取りだったり、言ってしまえばどうでもいい幸せ自慢ばかりだ。
みんなみんな、結局は自己満足でやっていることで、だから同じようなことを私が投稿するのも許される。そういうものだと思う。
🂵・🂵・🂵・🂵・🂵・🂵・🂵・🂵・🂵・🂵・🂵・🂵・🂵・🂵・🂵・🂵・🂵・🂵
✳✳✳✳✳✳『I'm in wonderland』
✳✳✳✳✳✳✳✳story 5
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その中で、見慣れないIDを見た。
アイコンをタップすると、「妃真李」というプロフィール名。この漢字の名前は同じクラスの紅苑さんしかいない。
いつからフォローし合っていたのかは忘れたが、彼女がストーリーを投稿するなんて珍しい。
ストーリーの画面に戻る、1枚目は映画のチケットを持つ二人の手、2枚目はお皿に乗ったパンケーキ。
その2枚どちらにも文字はなかったが、1枚目の片方の手は骨ばっているし、2枚目の背景は黒いジャケット、いかにも清潔感のある男性という感じの服だ。もしかしたらデートを匂わせているのか。
「リア充かよ~」
「だぁれ?」
私の向かい側に座って、チョコレートをつまんでいた鼠賀夢見(そが ゆめみ)が口を開いた。
夢見とは幼い頃からの親友だ。お互いの家に頻繁に行き来する仲で、ここも夢見の家である。
同じ高校に入ってからも、1年、2年とクラスがずっと同じ。縁の強さってあるのだと思う。
「紅苑さん」
夢見は元々まん丸な目をさらに見開いて驚き、私の画面を覗きに体を乗り出す。
「わ、パンケーキいいな~」
「そこかい」
「だって妃真李ちゃんに彼氏がいてもおかしくないでしょ~」
すらりとした長身とさらさらな黒髪、そしてくっきりとした顔立ちと紅い瞳。紅苑さんを花に例えるならきっと赤い薔薇、確かに女子なら誰もが一度は憧れる存在だろう。
「そういう夢見はどうなの、恋愛状況」
「良好だよ」
「バレンタインとか渡すの?」
「すごく先の話だね、渡せたらいいなあ」
そう言いながら、夢見は白いクッションを抱きしめる。好きな人の話をする夢見はいつもふわふわしていて可愛らしく、背後にはいつもお花畑が見える気がした。
夢見みたいな子に好かれているなんて知ったら、相手はさぞ幸せだろうな。
*
次の朝、たまたまいつもより1本だけ早い電車に乗った。
降りた先で、多くの生徒が待ち合わせをしている中、大好きなあの姿を見つけてしまった。
背筋を綺麗に伸ばして、スマホを眺めながら立っているのは確かに白時くんだ。
「おはよう!白時くん」
思わずあえて彼の近くを歩いて、いかにも今見つけたかのように挨拶をしてしまった。
「芽在さん?…おはよう」
少し驚いた様子だったが、白時くんはすぐに笑顔で挨拶を返してくれた。
「いや、急に話しかけてなんだよって感じだね、あの、この前はありがとうって言いたくて」
「ああ、あれはちょっと面白かった」
「え、ひどいぞ」
「ごめん」
白時くんが悪戯そうに笑ったのを見て、私も笑い返す。他愛ないことで君と笑い合える日がこんなにすぐに来るとは思っていなくて、嬉しくてたまらなかった。
「誰か待ってるの?」
君はあぁ、と頷く。それは邪魔したら悪いな。君の目に私が写るだけで少なくとも幸せだと思って、私は潔く去ろう。
それにしても朝から君を見られるなんて幸せすぎるから、明日からもずっとこの時間にしようかな。
それじゃあまた、と軽く手を振って、君の前を通り過ぎる。
それに応えるように君も慣れていなさそうに低く手を上げたのが、愛おしくてたまらなかった。
その一瞬、君の肩にかかっている鞄に付いたうさぎのマスコットと目が合った。
可愛い。それを君がつけているなんてさらに可愛い、なんて可愛いの二段活用を頭の中で繰り広げてしまう。
シルクハットを被ったあのうさぎは、確か今上映されている映画のキャラクターだったはず。テレビの予告で見たことがあった。
あれ?
昨日に紅苑さんが観ていたのもあの映画だったことを思い出す。
あの二人が一緒に行くなんてこと。まさかね、二人の接点なんて想像できない、付き合ってるなんてありえないと振り払う。
だけど思いは不可逆、割れて中身が溢れ出した卵が元に戻らないように、一度浮かんでしまった思いはもう綺麗に消し去ることはできなかった。
あのストーリーを見た時から24時間は経っていない、まだあるかもしれない。
ポケットからスマホを取り出して、歩きながら操作する。スマホを見ながら登校するなんて学生としてあるまじき態度だし、危ないことはわかっている。でも今はそれどころじゃない。
「…あった」
ついさっき見た、私に向けられた彼の白い手と、写真の手が頭の中で重なる。
白時くんと言われればそんな気もしてしまう。だとしたらこの服装も白時くん?
まだ見ぬ彼の私服を想像する、やっぱり解釈が一致してしまう。
「…かっこいい」
彼だと決まったわけではないのに、思わずそう呟いてしまった。
でも、もし、本当にそうだとしたら、二人は付き合っていることになるし、彼が待っていたのも紅苑さんだったのではないか。
嘘だ、そんなはずはないと信じたい。それならいっそのこと今から戻って確かめてみようか。
一度は立ち止まってみたが、振り返る勇気さえ出なかった、この目ではっきりと受け止めてしまうのが怖かった。
諦めて前へと一歩踏み出すたびに、いつも通る住宅街の景色がうわんと歪んで、私を嘲笑っている気がした。
浅はかな希望に縋ってみたかっただけだ。やっと少し近づけたばかりにこんなことになるなんて思ってもみなかった、彼女がいる人を好きになるなんて、ある意味紅苑さんへの挑発になりはしないか。
それでも引き返すには遅い、入口という名の出口を探しても見つからなかった。
私はもう、進み続けるしかないのだろうか。君を、想い続けるしか。
_The Omen Of Turing The World Over .続
鼠賀 夢見(そが ゆめみ)
高校2年生、イエベ春。宿題は計画を立てるもだんだん破綻してきて結局ギリギリに終わらせるタイプ。
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