i・2022-12-28
菊
三好達治
私の上を雲が流れる。
私は楽しい。
私は悲しくない。
しかしまた、
やがて悲しみが
私に帰つてくるだらう。
私には私の悲しみを防ぐすべがない。
私の悩みには理由がない。
それを私は知つてゐる。
花ばかりがこの世で私に美しい。
淡く悲しきもののふるなり。
あじさい色のもののふるなり。
そこにふるのは
雨か、
涙か、
血か。
その体に伝うのは
吾子のぬるい涙か。
抱える腕の汗か。
乳母車は置き去りで
淡く悲しきもののふる
あじさい色のもののふる
時の流れにのみこまれ、
瓦礫の山に横たわる。