湖音 END・2021-01-14
柊彩
不滅の思い出
笑い続けることの辛さは、誰にも理解してもらえなくて
もう一度、声を聞きたかった。
もう二度と聞くことのない、少女の声。
ウタ
幼く、どこか聡明な少女が謳う人生。
出来損ないの私が愛してほしいと願うなんて、馬鹿な話ね。
サンタさん。
私は何も要らないから、
弟の病気を治してください。
全身を巡る、貫くような鋭い痛み。
妙に鼻につく鉄臭い匂い。
少し離れた場所には気を失っている姉。
建物に衝突したのか、頭を打って血を流し苦しそうに蹲る弟。
全身に掠り傷や切り傷を負った妹。
姉より更に離れた場所には、電柱に激突したトラック。
私はそれを見て一瞬で理解した。
巻き込まれたのだ、事故に。
姉弟で歩いていたとき、歩道にトラックが突っ込んできたんだろう。
周りでは救急車やパトカーのサイレンが響いている。
全身に痛みが走る中、何故か意識はハッキリしていた。
私の頭にあるのは一つ。
『死なないで、湖音』
一番大怪我である弟。
零舞以上に全身に傷を負っていて、血塗れだった。
腕は腫れて、色も変わっていた。
パッと見ただけでわかる、数ヵ所の骨折。
腹部からの大量な出血。
私には、何も出来ない。
そうして、次に目を覚ました時。
湖音は生きていた。
全員が生きていた。
私はお医者さんに深く感謝した。
そして、決意した。
《私も医者になる》
弟がいつも、必死にノートに何かを書いていた。
日に日に体重も減って痩せ細っていく。
顔色も悪く、いつも疲れた顔をして笑っていて、
食べても吐いてしまい大好きだったバスケットも出来なくなった。
『残念ですが、弟さんは....』
告げられた事実。
弟が中学生になれるかどうかもわからない。
そんな弟がいつも集中して書いているもの。
良くないとわかっていても、覗いてしまった。
[姉さんへ]
それから始まって、手紙が書いてあった。
遺書のようだった。
書いてあった手紙には、ネット上の繋がりしかない人へだってあった。
死んでしまった幼馴染みへだって。
きっと、私が伝えることになるのだろう。
それを見ることで、
弟はもう生きることを諦めてしまっているのだと思った。
《ごめんね、湖音》
何も出来ない姉でごめんね。
みんなが言う「普通」は、
私には似合わない
いつもいつも思う。
どうして私じゃないんだろうって。
どうして私が生きてて大切な人が死んでしまうのか。
ねぇ、神様。
お願いだからさ、
私は死んだって良いからさ、
弟を助けてよ。
「神様は人を救っちゃくれねぇさ」
弟の言葉を思い出す。
それでも、可能性があるのなら、私は--、
全てを受け入れる世界なんてものが存在していたら、
どれだけの人が傷付かずにいられたでしょう。
どれだけの人が、苦しんで死なずにいられたでしょう。
全ての"物語"がハッピーエンドで終わる訳じゃない。
全ての"人生"だって必ずしも笑顔で終わる訳がない。
わかっていても、求めてしまう幸せ。
『何も起こりませんように』
叶うはずないと知っていながら
今年はみんなで元気に過ごせますように