#人生最期の日

それは人生最期の日のこと｡
ひと目だけでいい､
君の姿を見たい｡

人生最期の日｡
あなたの手を握って
あなたの瞳をみつめて
死にたい──────｡

いつだって死にたかったわたし
ついに念願叶って
そのときがやってきた







必要のないものは
すべて手離し｡







それは海の底へと
沈んでいくような
プロセス｡







視覚を失う｡
暗い暗い
なにも見えない海の底で
──────あなたが好き｡







聴覚を失う｡
耳鳴りにも似た
無限の静けさのなかで｡
──────あなたが好き｡







触覚を失う｡
わたしの素肌は
わたしのものではなくなり
この身体は人形のように｡
──────あなたを愛している｡







ほら､ついに､海の底｡
損なわれた身体と
失われたこころ｡
二度と浮上はできない｡
ついに海底の土と一体化して
生命を失う｡
──────貴女のもとへ｡







この世という過ちは
二度と犯さない｡
貴女のもとへとたどり着いたあたし､
二度と愛なき世界には堕ちないから｡
貴女の慈愛の源泉から
二度と離れぬようにと｡

それは人生最期の日のこと｡
行き場を無くしたわたしの末路は
寂しい真夜中の路地裏で｡


せめてもの末期の暖を取ろうと
かじかんだ手でポケットをまさぐり
たった一本だけ残っていた
マッチを擦ると
わたしのぼやけた視界には
たしかに火の精が現われた｡





懇願したんだ｡
もういちどだけあの人に会わせてくださいって｡


夢にまで見たあなたのすがた｡
それは幻影かもしれないけれど､
たしかに瞳を見つめて｡
白い息とともに､
はにかむように､
ほんのわずかな言葉を交わして｡


いつ以来だろう､
ずっと鉄の仮面のようだったわたしの顔にも
ほんのすこしだけ赤味が差し｡
きつく締めあげていたかのようななにかを
そっと緩めるように微笑みを見せた
わたしは､
ゆっくりと目を閉じ､息絶えた｡





その瞼の裏側に､
最期にみた光景を
しっかりと灼きつけて｡


二度とこの世界を見ようとはしない､
二度と見開くことのない､
その瞳には､なみだ｡
































生まれ変わってもまた出会ってください｡
今度こそまともな人生になりますように｡

それは人生最期の日のこと｡
最愛のあなたの
手を握って瞳を見つめて｡


生まれ変わってもまた
あたしを見つけてね───

ほんとはね､
あの人のこと好きになりすぎてしまって
ほとんど気 が 狂˙い そ うなのよ｡


でもね､
性欲に還元できない恋は､
恋愛感情の高まりに対して､
できることって意外と何も無くって｡


わたしのなかから沸きあがる狂気は
わたしひとりで呑み込むしかない｡


生まれて初めて味わう､幸福の絶頂｡
ありあまるしあわせは
ありふれた不幸とは
あまりにも違っていて｡
思わずこの人生という名の連載を､
いますぐ打ち切りたくなってしまう｡
あの暗くて深い沼の中にふたたび沈んでゆく前に､
どうか！最期を！！

まったく無意味で無価値だった
黒歴史だけでできた真っ黒な人生に､
貴女が火を灯してくれたこと｡



だれとも打ち解けたくなかったあたしにだって､
安心して話せる相手はいるんだって､
貴女が教えてくれたこと｡



あのね､あたし､
できることなら生まれてきたくなかったし､
できるだけ早く死にたい｡
それは今でも変わらない｡



でもね､
貴女に出逢えたから
人生に後悔はないんだ｡



長寿なんてあたしには必要ないし､
そもそもあたしには遺族はいない｡
なにひとつ思い遺すことなく
旅立てるから｡



この世に二度と生まれてきませんように｡
この世のすべてを忘れられますように｡



でも貴女のことだけは
永遠に忘れないから｡
貴女のステキな前途を祈っています｡

この世は夢幻にすぎないのだから
最期まで貴女を愛しています
この世から去るその瞬間まで
貴女と生きてゆきたいと望みつづける

いつだって死にたかったあたし､
いつだってこの世から去りたかったあたし｡




この世を認識するためにある感覚器官は､
そんなあたしの望みどおりに､
いつかかならず
失われる日がくる｡




だって､
それが､
望みなんだろ─────？？








































この瞳が光を失うまえに
貴女の姿をみて｡


このミミが響きを見失うまえに
貴女の声を聴いて｡


この素肌が質感を失うまえに
貴女の温もりに触れて｡


一瞬だけ
微笑んで
それから
あたしは
この世を去った｡

絶望しかないこんな世界で




人生のさいごに何の奇跡か




こんなにも美しくなれたこと




こんなにも可愛い声で歌えること




こんなあたしでも愛されるんだって




あたし､人生最期の日まで
あなたを心底､愛しています
あたし､できることなら
あなたと生きてゆきたい

いつかはかならず
あなたに会える｡

どんなに遅くとも､
死の直前になって
走馬燈が走りだす頃には｡



人生最期の走馬燈､それは
この世とあの世が混ざりはじめて
いるということなのだから､
あなたの姿ははっきりとわかる｡

そのときは絶対冷たくされないし､
言葉を交わす必要もない｡
最期のお迎えはあなたがきてね💕

死なないよ､
愛する貴女をひとり残して
勝手にいなくなったりしない



死ぬなら
由緒正しき人生最期の日
愛する貴女の手を握って瞳を見つめて｡

両親のもとに生まれて
きょうまで生きてきたわたし､
という設定では
わたしは不幸にしかなれない｡




過去が永遠につきまとってくるなんて
どんな地獄だよ！？
履歴書１枚あたしには地獄｡
ひたすら過去の経歴を問う
現代人の在り方は､
本心から地獄を求めているのだ､
としかあたしには思えない｡




だからあたしは､
話を逆にした｡
何よりも死を望むあたしだもん｡
誕生ではなく
死を根拠にして
生きるのだ｡




死を迎えるまでの
日々の
カウントダウン｡
その場所まで
一歩一歩近づいていくための､きょう｡




きのうより
きょうは､
きょうよりも
あしたは､
確実に１日ぶんだけ
命日に近くなるから！




いつかかならずやってくるその日を
わたしは心待ちにしているから｡




でも 自˙殺˙なんかしないで
ちゃんと最期の日まで
生きてゆくから！




だからね､
あたしが亡くなるそのときまで､
おねがいだから
貴女､
いっしょにいてほしい｡

この世はしょせん幻影だもん
人生最期の日まで
ずっと言っててやるさ


『あなたをとても愛しています』
『あなたと生きてゆきたい』

生まれてきたのは誤りだったし､
できるだけはやく死にたい｡
















けれど､
あなたに出会えたことだけはよかったっていまでも思う｡
亡くなる日まであなたへの想いだけを胸に｡