[アメ]
愛に飢えているのかもしれない
そう感じ始めたのは最近だった。
音もなく現れたあの日
雨模様に飽き飽きしてきた夕方頃
雨音が酷かったのはずが
時が止まったかのように静かだった。
振られたんだな
そう理解するには時間がかかった。
昔、振られた女子が
好きな人の前では泣かない
そう言って離れたところで泣いていた。
そんなことが頭を過り、
溢れそうな涙を押さえ込んだ。
友達が一人二人と集まってきた。
慰めの言葉が耳に入ることはなかった。
再開した酷い雨音
無心に泣きじゃくる声
ループされる愛の言葉
一人で帰路に立つ。
一歩、一歩とゆっくり歩き出した。
降りかかる雨粒が重荷となって
足が思うように動かなかった。
不意に見上げた空
雨粒が視界を塞ごうとしてくる
僅かに見えたのは灰色の空
それだけだった
雨の日が好きだった。
天気予報が外れ、
午後から雨が降った日の事だった。
部活帰りに見かけた君に
傘貸してよ
そう話しかけた。
イヤイヤ言いながらも
折り畳み傘を手渡した君。
それから、たまに。ほんと、たまに。
傘を忘れることが増えた。
初デートの日。
色んなところを歩き回ってから
ポツポツと雨が降り始めた。
コンビニで同じビニール傘を買った。
別れる頃に雨は止んだ。
何だかんだで初めてのお揃いは
傘だった。
頬を伝う雨と涙。
きっと傍からればびしょ濡れの人
傘を忘れてしまった人
それだけ。
ほんの少し期待をしていた。
誰かが地面を覆う雨水を飛ばしながら
追いかけてきてくれることを。
抱きしめてくれることを。
冬の風が吹き始めた時期のせいだ。
あの日の帰り道は、寒かった。
誰かなんて言いながらも
誰を求めているのかとっくに知っている。
けれども、期待はもうしていない。
そう誰かが言っていたんだ。
終わりがあるのだから美しい、と。
だから、きっと、いつの日にかは、
そんな頃もあったな、
そう言って笑い飛ばせる日が来るだろう。
その日を気長に待とう。
最近は、雨の日が続く。
古びたビニール傘を手に外へ出る。
案の定、今にも降りそうな空の色。
傘を持って正解だな。
けれども、あまり傘の意味はない。
何回かに一回だけ。
雨が降る日に傘を腕にかけ、
誰もいないような通りを歩くんだ。
あの日よりも寒くはない。
あの日よりも怖くはない。
あの日よりも期待はしていない。
全て、「あの日よりも」という話だが。
愛されたいな
そうつぶやく自分の姿が
水たまりに歪んで映る。
馬鹿馬鹿しいや。
あの日から人を避けるようになった。
言葉は、綺麗で素敵で儚くて、
時に、嘘の塊だから。
その日その日に確証もないような
曖昧な言葉を放つ。
愛されることを望みながら
愛されることを拒んでいる
今日は、鞄に手紙を入れていた。
すっかり忘れていた。
辿り着いた公園は、知らない公園。
初めての場所。
遊具は少ないし
雨の日だから人もいない。
びしょ濡れのブランコに
びしょ濡れの自分が座った。
何だか濡れた服だからか気持ち悪い。
まあ、いいか。
あてもなく歩いているとこんなことが
たまにあったりする。
滲んだ文字。
滲んでも文字が読めてしまう。
滲むなら読めないくらいに
滲んで消えてしまえばよかったのに。
きちんとした便箋は、
可愛い猫が端に座るシンプルなもの。
ビリビリに破こうとしたが
手をかけたところで動かなかった。
こんな届くとの無い自己満足で書いた
くだらない手紙なんか
捨ててしまえばいいものの
何処かでそれを拒否する自分がいる。
雨は今日も止みません。
きっと、ずっと止みません。
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