はじめる

#土方歳三

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全85作品・

函館は
桜が終わって
もう新緑の季節でしょうか

遠い北の大地に
斃れたあのひとへ
どうかこの想いを伝えて…と

風光る五月の空に
届かぬ願いをかけるのです









旧暦5月11日は、土方さんの忌日です。

千華・2022-05-11
新選組
土方歳三
遥かなあなたへ
墓碑銘
🆙

花散らしの風が
どれほど強く吹こうとも、
そしてその嵐に
すべての花弁が散り果てようとも。

次の春、桜はまた咲く。

たとえこの命が消えても、
お前の中で俺は生き続けるのだろう。

今宵。
俺の生きた証を、
お前の心に、体に、刻み付けて――。

俺は逝こう。






「花散らし/土方歳三」より

千華・2022-05-04
新選組
土方歳三
創作文
遥かなあなたへ
🆙

一日遅れだけれど
5月5日は土方さんの誕生日

ということは
拙サイトの開設記念日でした

2005年5月5日

この日にしたのは
5並びで覚えやすいから
そして土方さんの誕生日だったから

今年は令和5年5月5日
やはり5並びの日

あれからもう18年
色々あり過ぎたけど
また新しい年を重ねていきます

千華・2023-05-06
5月5日
土方歳三
千華のトリセツ
🆙

これらの作品は
アプリ『NOTE15』で作られました。

他に85作品あります

アプリでもっとみる


「夢のしずく」
 

晴れ上がった空に ひとひらの雲
それは あなたの夢の欠片―


何の憂いもないほどに
高く 遠く 澄み渡った五月の空

視界いっぱいの蒼の中
あざやかに存在を主張する純白の雲

ただまぶしく すがすがしく


思い出はいつも浄化されて
綺麗なものしか残らないから

過ぎ去った夢は
きっと 宝石のように儚く美しい

あなたの苦悩も 悲嘆も 慙愧も
すべては 五月の空の蒼に溶け込んで…

やさしい風が 吹きぬけてゆくだけ


その時
空からふいに
ぽつり、と 手のひらに落ちてきたもの

雨なんて降っていないのに?

見上げればそこには ただ
目の覚めるような蒼が 広がっているだけ


それは
こぼれ落ちた夢のしずくだったろうか

今も中空にただよう
あなたの思いの残り香のように―



◆◇◆

毎年五月は、もの思う季節です。
土方歳三の命日(5月11日)、沖田総司の命日(5月30日)―。
青く澄み渡った五月晴れの空を見ていると、ただそれだけで胸が痛くなってしまいます。
空が青い、風が光っている、空気が澄み切っている…。そんなことさえも、何ともいえず切なくて、悲しくて。
植物が芽吹き、世界が動き始めるこの季節に、彼らは逝ってしまったんだなあ、って。
訳もなくおセンチになってしまうんですね。
また、新しい五月がやってきます。

千華・2023-04-30
新選組
土方歳三
沖田総司
遥かなあなたへ
再掲


「今日という日を」





「土方さん、今日は何の日だか知ってます?」
壬生屯所の土方歳三の部屋に、にこにこしながら入ってきたのは沖田総司だ。両手に大きな紙包みを持っている。
藪から棒になんだ、と土方は顔を上げた。
「今日? 端午の節句だろ?」
「ふうん……。ご存じなんですね」
文久三年五月五日。
彼らが京に上って、初めて迎える端午の節句だった。
新選組が屯所を構える八木家の庭には、鯉のぼりが翩翻とひるがえっている。
すでに季節は夏である。

「何が言いたい?」
土方がにらむと、沖田は首をすくめた。
「別に」
この若者は、暇ができるとこうして土方をからかいにくるのだ。
一日中、苦虫を噛み潰したような顔でにらみをきかせている土方を、見ているだけで楽しくてたまらないらしい。
土方の横に座った沖田は、持っていた紙包みを開いた。
「八木さんの奥さんに柏餅もらったんだ。土方さんもひとつどうですか」
「いらん」
「すごくおいしいですよ。土方さん、見かけによらず甘いもの好きでしょう?」
沖田がくつくつと喉をならす。獲物にじゃれる猫のようにうれしそうだ。
「いらんといったら、いらん」
土方の顔がますます渋くなる。それを見て、沖田はますますうれしそうな笑顔をみせた。

「じゃあ、こっちはどうです?」
「今度はちまきか」
土方は、やれやれと大きなため息をついた。
「ただのちまきじゃないんですよ。京でも有名な店のちまきだそうです」
「総司」
「はい?」
「何でそんなに俺に菓子を食わせたがるんだ?」
いつからこいつは菓子屋の回し者になりやがったんだ、と苦々しい思いで沖田をにらんでみたが、相変わらず何食わぬ顔で笑っている。
その顔で言った。
「だって、今日は土方さんのお誕生日じゃないですか」
「は? 誰の誕生日だって?」
土方は、一瞬、ぽかんと口を開けた。

――そんなもの、忘れてた。

坪庭に植えられた南天の葉が、さやさやと五月の風にそよぐ。
エゲレスではね、と沖田はうれしそうに言葉を続けた。
「誕生日には『ばあすでいけえき』とかいうお菓子を食べて、みんなでお祝いするんだそうですよ。残念ながら、ばあすでいけえきは用意できなかったんで、せめて柏餅でもどうかなって」
「馬鹿馬鹿しい。そんな与太話、誰に吹き込まれたんだ?」
「いやだなあ、土方さん。人の好意は黙って受けるもんですよ。せっかくお祝いしてあげようと思ったのに」
口をとがらせて、沖田が出ていった後には、紙に包まれた柏餅とちまきが残されていた。

「ふん。総司のやつ、余計なお世話だ」
口ではぶつぶつ言いながら、柏餅をひとつほおばってみる。
沖田の言うとおり、甘いものは嫌いではない。ただ、副長としての体面もあって、京に来てからは求めて食べようとはしなかった。
(……うめえ)
甘すぎず、しつこすぎず。しっかりしているのか、ぼんやりしているのか分からない。
沖田のような味だ、と土方は思った。

◇◆◇

明治二年五月五日。
その年の端午の節句を、土方は箱館で迎えた。
誕生日などというものにとりたてて感慨もなかったが、あれ以来、なぜかその日になると、沖田総司の笑顔と柏餅の味が思い出される。
(妙なものだ)
五稜郭の自室で書類に目を通していたとき。久しぶりに甘いものが恋しくなって、土方はひとり苦笑した。

「土方先生」
「島田くんか。入りたまえ」
ドアを開けて入ってきたのは、京都以来の新選組幹部 島田魁だった。
「どうしたんだ、それは?」
土方が驚いたのも無理はない。島田は大きな盆に山盛りの柏餅を載せて持っていたのだ。
「はあ。実は、鴻池の支配人に言付かりまして」
「鴻池の?」
「直接会ってお渡しになられたら、とお勧めしたのですが、店の方が忙しいらしくすぐにお帰りになりました。一緒に土方先生へのお手紙を預かっています」

鴻池屋は、京都時代から新選組とは昵懇である。箱館支店の支配人を務める友次郎とは、土方が江戸に戻ったときから面識があり、箱館に来てからも何くれとなく便宜を図ってくれていた。
その手紙には。
「江戸で沖田先生をお見舞いしたとき、土方様の誕生日が端午の節句の日であるとうかがいました。その日には、土方様に好物の柏餅を差し上げてくれるように、と沖田先生から申し付かっておりました。
今、箱館には官軍の手が迫り、なかなか調達することが難しかったのですが、ようやくご用意できましたのでお届けさせていただきます。どうぞ皆様でお召し上がりくださいますように」

――総司か。

(あの野郎。自分が死んだ後まで、おせっかいを焼いていきやがった)
土方は、声をたてて笑った。
島田があっけにとられて見つめている。
「島田くん。これをみんなに分けてやってくれ。俺も食う」
「はあ……」
柏の葉ごと食べた。
甘くて、少ししょっぱい。
「うまい」
やはり、沖田のような味だ、と土方は思った。





―了 (初出 2011/5/5)

千華・2022-05-04
新選組
土方歳三
沖田総司
創作文
遥かなあなたへ


「掌上の雪 ‐沖田総司残照‐」

10章 春雷は夜空を斬り裂く(3)





ふいと出ていったきり、土方はその夜帰らなかった。
「副長が外泊とはめずらしい」
「さっき外から使いが来たそうだぜ」
「さては鬼にも、泣き所ができたか」
原田や永倉がおもしろそうに言いはやしているのを、総司はひとり部屋に閉じこもり、こどものようにひざを抱えて聞いていた。
土方にたたかれた左の頬が熱い。
(きっと、あのひとのところだ――)
総司はその夜、ほとんど一睡もせずに朝を迎えた。
胸の中に、後悔が固い澱のようにたまっている。

非番の一日を所在なく過ごし、午後も遅くなってから、ふらりと屯所を出た。
土方はまだ帰らない。
あてもなく歩いているうちに、かれの足はいつしか東に向いていた。
四条大橋を渡り、八坂神社を南に下れば、五条坂。
土塀にはさまれた人気のない小路をたどりながら、自分が無意識に行こうとしている場所に気づいて、総司は愕然とした。
(俺は、馬鹿だ――)
五条坂を北にはいった千穂の住まい。そこに土方はいるだろう。
だが、行ってどうなるというのだ――?
総司は立ちどまった。
肩をすぼめるようにしてちょっと考えてから、いま来た道を引き返し、八坂神社を東へと抜けた。
そこは真葛が原と呼ばれる東山の麓である。

春の日は西山に傾き、厚く重なった雲の間に淡い朱の色をにじませていた。
眼下に広がる京の町は、すでに薄墨の中に沈みはじめている。
この時刻、あたりは人影も絶えて、総司はひとり、木立の中に取り残されたように立っていた。
林の雑木はまだ芽もつけていない。寒々とした枝が、曇った空に突きささっているばかりである。
土方に背を向けられるのが、こんなにつらいことだったのか。
春というには冷たすぎる西風が、総司の身体を吹き抜けていく。
ふいに、腰の菊一文字則宗が鞘走った。
背後の枯れ枝が音をたてて落ちる。
驚いたひよどりが二羽、あわてて灰色の空へ舞い上がった。
総司――。
心中の何を斬ったのか。
斬ってもなお、断ち斬れぬものがわだかまっている。





❄️11章に続く

千華・2020-07-10
掌上の雪
新選組
沖田総司
土方歳三
遥かなあなたへ

毎年、桜の花が終わり
吹きすぎる風が
青葉の匂いを運ぶ頃になると
訳もなく胸が苦しくなる。

5月は物思う季節…

今日5月5日は
土方歳三さまの誕生日
そして5月11日はご命日です。


毎年この季節がめぐってくるたびに
胸が締めつけられる。

散りゆく桜吹雪
萌えいづる若葉のきらめき
空や、風や、水のせせらぎや…
全てがあのひとの生涯へと繋がってゆく。

今日も、私は
北の空に向かって祈りをこめる。

風よ、あのひとのところへ
この想いを伝えてくれ、と―。

千華・2024-05-05
新選組
土方歳三
遥かなあなたへ
もしも想いが届くなら
🆙


「掌上の雪 ‐沖田総司残照‐」

10章 春雷は夜空を斬り裂く(2)





土方は、総司の詰問には答えず、翳のあるまなざしを虚空に向けた。
「総司よ。俺ァなあ、おめえも知ってのとおり、三十になるまで武州の田舎で、家業の薬を担いで行商に歩いてたんだ」
「―――」
「俺も近藤さんも、武士の出じゃねえ。多摩の百姓のせがれだ。浪人とはいえ、まがりなりにも武家に生まれたおめえにはわかるまいが――」
土方には、武士や武士道というものに対して、苛烈なまでのあこがれがあった。
徳川三百年の泰平の中で、実際の武士階級がすでに失ってしまった士道の美学が、皮肉にも、農民出身であるこの男の内に、より純粋でストイックなかたちで結晶していたのである。

「俺は……、本物の侍になりてえ! この国のほかの誰よりも、武士らしい武士になりてえんだよ」
会津藩や徳川幕府には、自分たちを士分に取り立ててもらった恩義がある。
それに応えるには、新選組を最強の集団として育てること、そして自らは、武士として生き、武士として死ぬことだ。
「俺は許さねえ。――新選組を潰そうとする奴は、それが誰だろうと斬るだけだ。組を守るためなら、俺ァ鬼にでも蛇蝎にでもなってやるさ」
総司は沈黙した。
土方の心情を理解することはできる。
なによりも、この男のそういう生き方に魅かれてきたのだ。

だが。
山南敬助のことだけは許せなかった。
山南をあそこまで追い詰めたのは、ほかならぬ土方なのだ。すべては新選組のテコ入れのために仕組まれたことだったとは。
「そうとわかっていれば……、行かなかったんだ」
大津の宿で、総司を目にしたときの山南の驚きと失望、そして諦めの表情が、ありありと思い出された。
「歳三さんの馬鹿っ! 大っ嫌いだ」
ふん、と土方は鼻で笑った。
「言っただろう、総司。俺ァ、昔っから嫌われ者のトシだよ」
総司はこの時、心底、土方歳三を憎いと思った。
こんな残酷な男になぜ心魅かれるのだろう?


「嫌われついでに、これだけは言っておく。とにかくおめえは、一旦江戸へ帰れ」
「いやだ!」
総司は駄々っ子のようにかぶりを振った。
「山南さんは江戸へ帰りたがっていた。伊東さんと示し合わせたり、何かを画策していたりしたわけじゃない。ただ、新選組を離れたかっただけなんです。その人を斬ったわたしが、自分だけ帰るわけにはいきませんよ……!」
いつの間に風がでたのか、障子の桟がカタカタと音をたてている。
木々のざわめきの向こうに、遠く雷(いかづち)の音が響いた。

――山南のことは口実だ。本当は……。

土方歳三と離れたくない、その一事ではないのか。
(これは八つ当たりだ……)
土方は、自分のことを大切に思ってくれている。
だがそれは、身内として、仲間としての親愛の情だ。
それだけで十分なはずだ、普通なら。
(俺は、普通じゃない――!)
愛されたかった。
身も心も土方に奪い尽くされたかった。
そんな暗い衝動に身体中が捉われそうになる。
これまで最後のところで踏みとどまってきた自制心は、ただ土方に嫌われたくない、拒絶されるのが怖い、という思いからにほかならない。

雷鳴がしだいに近づいてくる。
夜空に閃光が走り、総司と土方の顔に深い陰影を刻んだ。
「俺ァ辛いんだ、総司……。おめえのために何もしてやれねえ。おめえが毎日弱っていくのを、ただ見ているしかねえ自分が、情けなくってたまらねえんだ」
「そんな猫なで声出したって……! 山南さんには、ひとかけらの情けもかけなかったくせに。とにかく、わたしは帰りませんからね。ここで逃げ出すくらいなら、死んだ方がましですよ!」
「――馬鹿野郎っ!」
総司の頬が鳴った。
土方は、恐ろしい表情で目をいからせていたが、やがて、黙って出て行った。
後ろ手で障子を閉めた土方の背中に、淋しげな翳がにじんでいるような気がしたのは、総司の思い過ごしだったろうか。





❄️

千華・2020-07-10
掌上の雪
新選組
沖田総司
土方歳三
遥かなあなたへ


「掌上の雪 ‐沖田総司残照‐」

9章 山南敬助始末(2)





「おーい、沖田くん!」
「山南さん。――どうして?」
どうして、追っ手である自分に声などかけるのか。気づかなければ、このまま通り過ぎただろうに。
涙ぐみそうになった顔を見られまいと、あわてて視線をそらした総司は、わざと冷たい声でいった。
「山南さん、わたしと一緒に、屯所に戻っていただきます」
ああ、とつぶやいてから、山南は急に肩を落とした。
「――そうか。きみが来たのか」
山南はあきらかに失望していた。
近藤が直々に出向いて、話し合いに応じてくれることを期待していたらしい。
「きみを選んだのは土方だろう?」
「―――」
「卑劣な男だ。わたしにはきみを斬ることができないと見抜いている。追手が、土方の息のかかったほかの連中なら、こちらも遠慮はしないつもりだった」

「山南さん――」
総司は、すがりつくような眸で山南を見た。
「わたしを斬って、逃げてください!」
「なにを言う?」
「わたしは労咳で……」
「沖田くん!」
初めて聞く話だ。山南は顔色を変えた。
「もうそれほど長くは生きられない。だからここで、山南さんのお役にたてるのなら、本望です」
「なにを、馬鹿な――、馬鹿なことを言うんじゃない!」
追手とばかり思っていた総司の意外な申し出に、山南の方があわててしまった。
とにかくその夜、二人は大津に宿をとることにして、一軒の旅籠に落ち着いた。


「最後の夜だ。思いきり飲んで語ろうじゃないか」
酒は医者に止められている。
だが、山南の心情を察すれば、その提案を断ることはできなかった。
山南は飲み、そしてとめどなくしゃべり続けた。
故郷である仙台のこと。幼いころに死んだ弟の思い出。千葉道場の話。試衛館での日々――。
だが、京に来てからの話は、ついにひとつも出なかった。
「わたしは、京へ来るべきではなかったのかもしれんな……」
夜が更けるにつれて、潮畔の町はしんしんと冷えた。
ほどなく桜の便りも聞かれようという頃に、季節が冬に戻ってしまったかと思われるほどの寒さである。
「とうとう今年は、桜の花を見ることができなかったな」
山南は何本目かの銚子を空け、一気に盃を乾した。

「どうしても、このまま壬生に帰るとおっしゃるんですか」
「きみは、そのために、ここへ来たんだろう?」
山南は微笑した。
部屋の空気までが漂白されていくような、透明な笑顔だった。
「――沖田くん。天から授かった命を、粗末にしてはいけない」
「山南さん! わたしは……、わたしはあなたに生きてほしいんです。わたしの分まで」
総司は哭かんばかりにして訴えた。
だが、その必死の懇願にも、山南は静かにかぶりを振ったのである。

「わたしは、もう疲れたよ……。沖田くん、きみは、生きろ。最期まで、己の信ずるままに生きてくれ」
「山南さん――」
はりつめていた緊張の糸が、ふつりと音をたてて切れた。
(ああ。もう俺には、どうすることもできない……)
涙がひとすじ、白蝋のような頬をつたって床に落ちた。
身体中の血が凍りついていくようだ。
五感は何も感じず、頭の中は再び空白になった。
そうでもしなければ、総司の心は、この深い悲しみと絶望に耐えられなかっただろう。
そして今朝早く、総司は山南とともに、屯所に帰ってきたのである。


夕刻になって、刑は執行された。
「介錯は、沖田くんにお願いしたい」
それが、山南の希望だった。
最期の時。
ふと振り返って自分を見上げた山南の、深い哀しみと慈しみにあふれたまなざしを、総司はけして忘れまい。
(死ぬよりも、生きてゆくほうが、ずっとつらいこともある。それでも、きみは、生きなければいけないよ――)





❄️10章に続く

千華・2020-07-07
掌上の雪
新選組
沖田総司
土方歳三
遥かなあなたへ


「掌上の雪 ‐沖田総司残照‐」

10章 春雷は夜空を斬り裂く(1)





日が落ちると、凍えるように寒くなってきた。
壬生寺の本堂から誦経の声が響き、その声に追われるように、総司は寺を離れた。
屯所に戻ると、すでに、山南が処断された跡はきれいに片付けられていた。
逃れるように自室に向かう。
苦い思いとともに、小さな咳があふれた。
押さえた袖口に血がにじんでいる。
ここしばらくは小康状態だったのだが、数日来の寒さと、山南を追ったときの無理がたたったのかもしれない。

それを、土方に見られた。
つかつかと部屋にはいってきた土方は、あわてて障子を閉めると、刺すような視線で総司を見た。
「総司。おめえ、江戸へ帰れ」
「え?」
一瞬、息がとまった。土方が何を言っているのかわからない。
「冗談……」
「は、言ってねえ。近藤さんとも相談の上だ。江戸へ帰って養生しろ」

――江戸へ帰る? 新選組を抜けて、土方や近藤と別れて?

混乱する頭の中で、その言葉の意味を理解した瞬間、総司は身体中の血が逆流するのを感じた。

「局中法度書――」
うわごとのように、言葉が口をついて出る。
「ひとつ、局を脱するを許さず。――わたしはまだ、切腹するのはいやですよ」
「病人は特別だ」
「土方さん!」
総司の双眸に、激しい怒りが燃えた。
「今さらわたしにだけ、この修羅場から逃げ出せっていうんですか? それじゃ今日まで、わたしがこの手にかけてきた大勢の仲間に、どう言い訳するんです?」
「なあ、総司。養生さえすりゃあ、おめえの身体はきっとよくなるんだ。
――頼む、江戸へ帰ってくれ。お光さんを安心させてやれ」
土方は、赤子を諭すように言い、総司のよく知っているやさしい眸をした。

――そんなの、ずるいよ……。

涙がこぼれた。


「俺は、大津で、山南さんに斬られて死ぬつもりだったんだ」
それなのに、山南は黙って屯所に戻ってきた。切腹を覚悟で。自分のために、総司を死なせることはできないと。
そして、ひとことの申し開きをすることもなく、従容として死についたのだ。
「歳三さんは知ってたんだね?俺が行けば、山南さんが戻ってくることを……」
「知っていたさ。山南には、おめえは斬れねえ」
「汚いよっ!」
魂をひきしぼるような叱責にも、土方はひるまなかった。
「総司、考えてみろ。伊東甲子太郎が来てから、組の規律がゆるんできている。人気取りか何か知らねえが、野郎が妙な恩情を見せたりしやがるからだ」
「………」
「新選組は元来が寄せ集めの集団だ。こいつをまとめていくためには、誰かがきちっと締めなきゃならねえ。少しでもゆるめれば、組織はそこからほころんでゆく。
――今、もしここで、山南の脱走を見逃せば、新選組のタガそのものが吹っ飛んじまうんだ」
「それじゃ、山南さんは、そのみせしめになったっていうんですか?」

事実、この後、隊は粛然とした。
局中法度は絶対であり、総長職にあるものでさえこれをおかすことは許されないということが、はっきりと示されたのである。

 一、士道に背くまじきこと。
 一、局を脱することを許さず。
 一、勝手に金策すべからず。
 一、勝手に訴訟取扱うべからず。
 一、私の闘争を許さず。
右条々相背き候者は、切腹申しつくべく候也。

五箇条からなる局中法度書が、恐怖をもって隊士たちの性根に浸透したのは、この時だったといっていい。




❄️

千華・2020-07-10
掌上の雪
新選組
沖田総司
土方歳三
遥かなあなたへ


◇◆風 花◆◇

 


――あ、見て 見て!
歳三さん
雪だよ、ホラ!


今年初めて見る雪に
お前は弾んだ声をあげて
子犬のようにはしゃぐ

少し尖った白い頤(おとがい)が
灰色の空をふり仰ぐ

その肩に 髪に
やさしくまとわり落ちる
白い結晶たち

雪は 音もなく舞い降りて
俺とお前を
静寂の中に包み込む


お前は 雪を追いかけ
追いかけ
時折ふり返っては
うれしそうに笑う

俺は――
雪なんて嫌いだ

この世に存在した証をとどめもせず
跡形もなく
とけて消えてしまうから

雪のはかなさは お前に似ている

今にも神隠しに遭って
目の前から掻き消えてしまいそうな
細い背中

生きている証を
俺の腕の中だけに残して


お前が消えてしまわないように
黙って逝ってしまわないように

片時も目をそらさず
心を離さず
いつも お前だけを見つめていよう

お前が生きた日々は
今も これからも
俺の胸の中にある
忘れようのない ぬくもりとともに




◆◇◆

私が住んでいる地域では、あまり雪は降りません。
たまに降っても、積もるほどではなく、「風花」の名のとおり、舞い散るように地面に落ちては消えてゆきます。
そのはかなさに、歳三は、総司の命を重ね合わせているんですね。
そして、やりきれない想いを持てあましてしまう……といういつものパターン。

それにしても――。
「風花」とはよくいったもので、乱舞する雪はどこか桜吹雪に似ています。
はかないけれど、ひたむきで、まっすぐで、いさぎよくさえある。
土方歳三と沖田総司のふたりに思いをはせるとき、私はいつもこの風景を思い描いてしまいます。
動乱の時代をひとすじに貫いた男たちの熱い生きざまに、乾杯。

千華・2021-11-13
新選組
土方歳三
沖田総司
遥かなあなたへ
昔の詩
再掲


「掌上の雪 ‐沖田総司残照‐」

12章 雪の色(2)






「千穂……」
声に出して女の名前を呼んだとき、土方の中で音をたててはじけるものがあった。
こらえていた感情が胸にせき上げ、土方はその場に立ち尽くした。
(お前は、もう、いないんだな――)
ひとが死ぬとは、こういうことなのか。
深い喪失感と虚無だけが、胸の中に充満している。
急に視界がぼやけた。土方は、自分でも気づかぬうちに泣いているのだった。
「いっそのこと、千穂がほんとうに長州の間者だったなら、そしたら、あいつのことを憎んで憎んで……。忘れちまうことができたかもしれねえのに……」

――それさえできねえ!

肩が震え、声にならない鳴咽が漏れた。
「土方さん……」
これほど無防備な土方は見たことがない。
その後ろ姿の哀しさに、総司は、崩れるように土方の胸にしがみついた。

「歳三さん。俺、恐いんだ」
口調が、宗次郎と呼ばれたこどもの頃に戻っている。
土方の着物の衿からは、血の匂いがした。
先刻の刺客の返り血だろうか。あるいは、皮膚にしみついた匂いかもしれない。
自分の身体も、きっと同じ匂いがするのだろう。
「死ぬのが恐いんじゃない。毎日毎日、命の削られていくのを見ているしかない自分が情けなくて……。あと少ししか生きられない自分なのに、他人を[殺]しながら生き永らえているのがつらいんだ」
「――総司!」
甘えだといわれてもいい。
今の土方になら、自分の弱さを受け止めてもらえるような気がした。
今日まで生きてきたこと、たとえそのすべてが罪であったとしても、土方なら許してくれるだろう――。

その肩のあまりの薄さに、土方は思わず眸をうるませた。
「総司……総司……、この馬鹿野郎。なんで労咳になんかなっちまいやがったんだ!」
「歳三さん」
「俺みてえな嫌われ者ならいざ知らず、おめえのようないい奴が――。どう考えても理不尽じゃねえか」
土方は天にむかって怒っていた。目頭に涙さえにじませて。
それを見たとき、総司の全身に震えが走った。
身体中の毛がそそけ立ち、胸の芯が熱く燃えた。
(この人のためなら、今ここで死んでもいい)
「いいえ、俺でよかったんですよ。土方さんに病気なんて似合わない」
「総司――」

その時、先刻の仲居が着替えと酒肴を運んで来た。
上がり框(かまち)の向こうで、まだあどけなさの残る顔が、驚いたように二人を見つめている。
「あ……あの、ここに置いときますよって。何か御用どしたら、呼んどくれやす」
一種異様な雰囲気に気圧されたのか、女はやっとそれだけをいい、そそくさと出ていってしまった。
いつのまにか雨の気配は消えている。
火桶の中で炭のはぜる音が、静寂をよけいに深いものにしていた。

「総司。頼むから――。身体を大事にしてくれ。俺ァもうこれ以上、大切なものを失いたくねえんだ」
総司に向けられた土方のまなざしが、いつにも増して温かい。
千穂を、愛するものを失った哀しみによって、土方歳三という男の性根が矯められ、心のあくが浄化されたのだろうか。
その視線に引き寄せられるように、ついに総司はひとつのことばを口にした。
「俺ではだめですか?」

――俺では、あの人のように、あなたの心を安めることは、できませんか?

それは、今日まで何度も何度も胸の中で繰り返しては、そのつど喉元でこらえてきた言葉だった。





❄️

千華・2020-07-14
掌上の雪
新選組
沖田総司
土方歳三
遥かなあなたへ


「掌上の雪 ‐沖田総司残照‐」

12章 雪の色(3)





土方は驚かなかった。
むしろその告白を予期していたかのごとく、そっと総司の肩を両手で包み込んだ。
「総司。おめえは俺のために、命を削って今日までついてきてくれたんだろう?」
どうして気づいてやれなかったのか、この必死の想いに。これほどの愛に。

――もういい。もういいんだ。

土方は総司を抱く手に力を込めた。
自分の中のかたくなな部分がそっとほぐれて、ゆるやかに溶け出していくような気がする。
総司の冷たい唇が、土方の唇をかすめて、すっと頬にそれた、その時。
土方の全身は火になった。
自分の腕の中にある若者のきらめくような命の残り火が、何にも増していとおしい。
「総司――!」
「歳三……さん」
静寂の中で、永遠ともいえる時間を漂いながら、二人は溶けあい、求めあい、そして与えあった。


すべての音が吸い込まれてしまったかのように、世界はひそと静まりかえっている。

――身体がだるい……。

蒲団の上に横たわったまま、総司はしばらくの間、幸福な余韻に身をまかせた。
ふりむけば、息が届くほど近くに土方の顔がある。土方は眠っていた。
起き上がって身繕いを済ませた総司は、乱れた髪を掻き上げながら、そっと小窓を開けてみた。
窓の外は、ぼんやりと明るい。
いつの間に降ったのか、前栽の木も庭石の上も、うっすらと雪化粧に覆われている。

「歳三さん。雪だよ、冷えると思ったら――」
言いながら、総司は手をのばして、夜の闇に手のひらを広げた。
ひとつ、ふたつ……。
もろくて透明な結晶が、手の上できらきらと光る。
春の淡雪は、手のひらに落ちるか落ちないかのうちに溶けて、小さな水滴にかわってしまう。
「きれいで、だけど幻みたいにはかない――。そうだ、涙の色だね」
いいながら、総司は本当に涙ぐんでいる。
「総司――」
まどろみから醒めた土方が、総司の肩越しに窓の外をのぞき込んだ。
そして、もう一度総司を抱き締め、唇で頬の涙をぬぐってやった。
「総司、死ぬな……。俺が、俺が必ず守ってやる。だから――、俺より先に死ぬんじゃねえぞ」

土方を見上げる総司の瞳の中に、今までにない強い光が宿っている。
「歳三さん。俺、前を向いて死にたいんだ。病で痩せ細って、起き上がることもできないでみじめに死んでいくなんて、わたしには耐えられませんよ」
「………」
「これから世の中がどうなっても、わたしは、剣士として生きていきたいんです。闘って、闘って、最期は前のめりに斃れたい――」
「そうだな、総司。俺も、そうありてえと思っている」
土方は、夜の闇に乱舞する風花の群れを網膜に焼き付けた。
「時勢は変わってゆく。もう俺たちの力じゃどうにもならんかもしれん。時流にのってうまく立ち回る奴もいるが、俺にはできねえ。不器用だからな――」

土方の言棄どおり、このあと時代は大きく動いていく。
傾いた徳川幕府の屋台骨は、もはや誰の手によっても支えきれないところまできていた。維新への流れは、歴史の大きな潮流だったといっていい。
土方は、この男特有の勘で、それを感じている。
――それでも、と土方は言った。
「俺は最後まで、時流ってやつに逆らってやるさ。それが、俺と新選組の生き方だ」
ええ、と総司はうなずいて、ほれぼれと土方を見た。
自分が土方歳三という男に魅かれてやまないのは、この強引なまでの一途さなのだ。
「わたしも最後まで、土方さんについていきますよ」


総司が土方を求めたのは、たった一度、それきりだった。
それからは、たとえ二人きりになる機会があったとしても、
「伝染ったらどうします?」
わざと遠くに離れているのだ。
だが、心は常に土方とともにある。言葉には出さずとも、瞳に宿った光が、想いの強さを語っていた。
それからの総司は、殺戮と粛清に明け暮れる日々を黙って耐えた。隊務を遂行するために、あえて非情に徹した。
幕末の京の町を、総司の生が狼のように疾走する。
それは、確実に迫りくる死の影との闘いでもあった。
(どんなことがあっても、俺は歳三さんについていきますよ――)
土方を想うことで、強くなれる。
あの夜の雪の色を思い出すたび、自分の中に新しい命が生まれるような気がするのだ。

時、慶応元年春。
沖田総司、二十二歳。
副長助勤にして一番隊隊長。剣士としての強さは新選組随一といわれている。





❄️終章に続く

千華・2020-07-14
掌上の雪
新選組
沖田総司
土方歳三
遥かなあなたへ


「掌上の雪 ‐沖田総司残照‐」

12章 雪の色(1)





土方歳三は、とっぷりと暮れてきた道を、提灯も持たずにさっさと歩いていく。
土を噛むように歩くのは、この男の癖だ。
その早さに追いつこうと、総司はいつか小走りになっていた。
浄土宗の総本山である知恩院を控え、このあたりには塔頭や僧坊が多い。道の両側は、延々と続く土塀と生け垣である。

「歳三さん、待って!」
青蓮院の手前まできたところで、総司はとうとう土方の袖にすがりついた。
息をきらしながら、
「――千穂さんは、長州の、間者なんかじゃないんだ。本当だよ!」
必死に訴えたが、木の下闇の中で、土方はあいかわらず無表情のままだ。
「お願いだから、俺のいうことを聞いて」
わずかに視線が動いた。
底無し沼のような暗さをたたえた双眸が、そこにあった。
「そんなことは解っている」
「え――?」
「千穂がどういう立場にいたか、さっき桂小五郎に聞かしてもらったさ」

土方歳三が愛した女は、長州脱藩浪士の妻だった。夫だった男は、新選組に斬られて死んでいる。
どう考えても、成就する恋ではない。
常に破綻の危機におびえながら(それはすなわち死を意味する)、それでも千穂は、すべてをなげうって土方を愛そうとした。
ついには、我と我が身で土方をかばい、銃弾に斃れた。
「――だからこそ、気持ちのやり場がねえんだ……!」
土方の双眸は、真っ暗な虚空をにらんでいる。

ぽつり、とその額に雨が落ちた。
見る間に黒い点が石畳を染めて広がってゆく。
「いけねえ。とうとう降ってきやがった」
見上げた空は、雲の境もわからぬほどの暗闇だ。
その闇の中から、銀の糸をひくように、後から後から冷たいしずくが降り注いで、ふたりの肩を濡らした。
みぞれ混じりの冷たい雨である。
「総司、どこかで休もう。この雨は身体によくねえ」
土方は紋服を脱ぐと、総司の肩に着せかけた。
そして、自分より上背のある身体を抱きかかえるようにして、手近な出逢茶屋に飛び込んだ。

「女将、すまんが――、連れが急に具合が悪くなってな。少し休ませてもらいたい」
「まあまあ、急な雨で……。お困りどっしゃろ。どうぞ、ごゆっくりしていっておくれやす」
四十路は過ぎたかと思われる女将が、艶っぽい目つきで微笑した。
ふっくらとしたうりざね顔に鉄漿(かね)の色が鮮やかだ。
近ごろは男同士の客も多い。陰間茶屋と称するそれ専用の店もあるほどだ。
女将は、ずぶ濡れになって飛び込んできたふたりの男を別に奇妙にも思わず、また、よけいな詮索もしなかった。


通されたのは、離れの一室だった。
静まりかえった部屋に、庭先を濡らす雨の音だけがかすかに聞こえている。
庭石を踏んで、下働きの仲居が火桶と手拭を運んできた。
「まあまあ、えろう濡れといやすなあ。なんぞ御召し物をもってきますよって、はよお着替えやす。風邪でもひかはったら、えらいことどっせ」
「たのむ――」
女が出ていくと、部屋はまたひっそりとした。
しめやかな雨の気配が屋根を覆い、総司も土方もひとこともしゃべらず、時間だけが静かに過ぎていく。
声に出せば、今あるこの世界が壊れてしまう――。
そんな気がして、じっと息をこらしているのだ。

総司は先刻からずっと、泡立った心を抱えたまま、木偶(でく)のように部屋の隅に突っ立っている。
「総司、いい加減にしねえか。ほんとに風邪をひくぞ」
見かねた土方が濡れた紋服をはぎとり、それを衣桁に掛けようとして、ふいに手をこわばらせた。
それは、土方のために千穂が縫ってくれたものだった。

――よかった。よくお似合いになられますわ。

あるいは心のどこかに、哀しい予感があったのだろうか。
仕上がった着物を男の肩に羽織らせながら、しみとおるような笑顔を浮かべていた……。
女の家を訪うたびに、こうして脱いだ紋服を衣桁に掛け、出立の折りにはそっと肩に着せかけてくれた。
女の手のぬくもりと、髪油の甘やかな香りが、今もあざやかに残っている。
だが、すべては幻影。
二度と再び、戻ってはこないのだ。その声も、そのしぐさも。





❄️

千華・2020-07-14
掌上の雪
新選組
沖田総司
土方歳三
遥かなあなたへ


🔷私が新選組にはまるまで🔷


◽️新選組との出会い

新選組が好きだ。
高校生の時からだから、もう40年以上もファンを続けている。
きっかけは、当時テレビで放送されていた「新選組」というドラマである。
残念ながら、栗塚旭氏が主演していた「新選組血風録」「燃えよ剣」ではない。
主人公は近藤勇で、鶴田浩二氏が演じていた。
土方歳三は栗塚氏だったのだが、前述の2作に比べるとどうしてもこちらは一段落ちてしまうらしい。(といっても、その当時はそんなことはまったく感じなかった……というか、比較するものがなかったし)

で、ごく一般的(当時の女子高生として……笑)に、沖田総司にハマってしまったのだ。
そのドラマで沖田を演じていたのは、有川博という俳優さんだった。
これもまた、前述の2作で沖田総司を演じ、まさにはまり役といわれた島田順司氏に比べると、いかにも影が薄い。
しか~し! しかしである。
私が新選組というドロ沼に足を突っ込むことになったきっかけは、確かにこの「新選組」、そして有川博氏の沖田総司に魅せられたせいだった。

今も多くの人がその魅力を絶賛してやまないテレビドラマ「新選組血風録」と「燃えよ剣」に比べて、こちらの「新選組」は、今ではほとんど話題にのぼらないのがちょっぴり悲しい。
有川さんの総司は、ほんとにステキだったんだけどなあ…。
島田順司さんとはまた違う、ほとんど暗さを感じさせない「いいひと」っていう雰囲気の総司だった。
そんな彼が、たまに見せる寂しげな表情が、何ともいえず悲しくて。胸キュンとは、まさにこういう気持ちをいうのだろう。


◽️司馬遼太郎に魅せられて

やがて、お決まりの転落の道を一気に転がり落ちていく女子高生(笑)。
私の高校3年間は、新選組にあけて新選組にくれたといっていい。
最初に読んだ新選組関係の本は、子母澤寛氏の「新選組始末記」だった。
当時、新選組を知るためにはまずこれを、と言われていた本だ。
面白かったけれど、どちらかというと読み物というより、資料的価値の高いものだったように思う。

次に手に取ったのが、司馬遼太郎氏の名作「新選組血風録」だった。
「沖田総司の恋」に涙し、わざわざ作品の舞台になった清水寺の音羽の滝に出かけて、前の茶店で土方さんよろしく草もちを食べたり、同好の友人と壬生詣でをしたりもしたっけ……。(遠い目)
とにかく最初は、沖田総司どっぷりだったのだが、やがて「新選組」と名前のつくものは手当たり次第むさぼる中毒症状に。

そしてついに、運命の1冊との出会いが訪れる。
司馬遼太郎氏の傑作「燃えよ剣」。
出会うべき時期に、出会うべき作品にめぐり会えたことの幸せ!
この本に出会わなければ、おそらく今の私はなかっただろう。そう思えるくらいの衝撃だった。
司馬遼太郎氏の膨大な作品群の中でも、面白さと、読んだ人間を虜にするという点で、私はやはり「燃えよ剣」が頂点だと思う。
この本で新選組と土方歳三にはまり、泥沼化してしまった人を、少なくとも4人知っている(そのうち一人はうちの息子だ……笑)。

とにもかくにも、この小説に描かれた土方歳三という男。
これほど鮮烈で、「かっこいい」男を、私はほかに知らない。
もちろん欠点だらけだし、人間的には性格破綻しているような危ないところもあるし、どちらかといえば「悪人」だ。
だが、どこまでも己の信念にこだわり、それに殉じようとするかれの峻烈な生き様は、すでに善悪の範疇を超えている。
それまで、幕末史の中のほんの脇役(しかも敵役)に過ぎなかった土方を、存在感あふれる魅力的な男として世に知らしめたのは、まさしく司馬遼太郎氏の功績だろう。
それ以降の小説やドラマの土方は、多かれ少なかれこの作品の影響を受けているといっても過言ではない。

半世紀以上も前の作品なのに、今もまったく色褪せない。それどころか、今の沈滞しきった日本、疲れた現代人に、喝と勇気を与えてくれる。
「燃えよ剣」は、その文章の端々に至るまで、作者である司馬さんの主人公土方歳三に寄せる深い愛情がにじむ名作である。
こうして、私は新選組というどツボにはまり、今に至っている。





🔹

千華・2020-07-13
歴史語り
新選組
沖田総司
土方歳三
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