#水晶の氷解

"さよなら"さえも言わないまま＿＿＿。

あの日から4年も経ったのに＿＿＿
＿＿＿＿＿やっぱり彼は変わらず優しくて。

余計に私の胸を熱くする。
手を繋いだまま、ゆっくりと歩きながら

時々、私の足元を気にするように
振り返って見る彼が可愛く見えたけど
あの時には、しなかった煙草の匂いがして。

変わった事もあるんだなって少し寂しくなった

タクシーの中でもずっと繋がれた手は＿＿
＿＿＿"もう、離さない"、と伝える様に自然と

"恋人繋ぎ"になっていた。

彼が腕を伸ばす度に見える手首には＿＿。



私が彼に、二十歳の誕生日プレゼントした時計

そこに在るのが当たり前みたいに付けられてて


それだけで、胸が締め付けられる。

彼は、ずっと、窓の外を見てて。


私は、そんな彼をずっと見てた。


こんなにも近くに居るはずなのに


今は、凄く、遠く感じる＿＿。

"これからは毎日安眠だ"



そう言って、抱きしめてくれる。


彼の腕は＿＿＿微かに震えていた。



4年の月日は、私にとっても、彼にとっても

永く、苦しい時間であった。


私の頬に触れる、彼の手は暖かい。

結局、彼女の目を見て言えなかった。


ダメだな＿＿俺。


彼女の目を見たら＿＿

“ずっと、俺と一緒に居て欲しい”



そう言ってしまいそうで。

"初めて...もらうから"

ゆっくり、自分の顔を覆っていた手を退かすと
指の隙間から、貴方の優しい顔が見えた

"いい？"

やっぱり、恥ずかしくて
また、手で顔を隠そうとする、と。

"だめ"と、言って私の腕を自分の首に掛けた。
これもこれもで、体勢が恥ずかしいけれど


それ以上に、優しく熱い視線を外せない

"俺を見て"。

もう俺の顔など、見たくはないか？


指一本触れて欲しくはないのか？



もう二度と俺に、「愛している」、と

＿＿＿言われたくないか？



窓に映る彼女に心の中で問いかけた。

今は、今だけは、眼を醒さないで

"僕が愛してあげるから"

穏やかに眠る君に、そっとキスをした。

ﾕﾒ
泡に包まって眠っている彼女に

近づいて、聴こえるよう、優しく、囁くように

「＿＿＿＿」

起きねぇかな＿＿＿

触れられない、抱きしめてあげる事も

もう、何も＿＿＿＿＿＿。

もう一度、あの優しい顔で俺の名前を呼んでよ

外が暗くなって、窓には彼女がぼんやりと映る

直接だと、彼女を見れないから。

じっと、窓に映る彼女を見た。

彼女も、多分＿＿俺を見てた。

今日の彼女はとても綺麗で
それだけの事で、胸が苦しくて。


未だに決心のつかない俺を君なら
笑って許してくれるかな。

あの時みたいに、俺の大好きな笑顔を見せて。

"惚れた女に傷つけられるなら、本望だよ"



あの夜、彼女が吐いたその嘘ごと、愛す。



ただ、俺が、忘れられないからだ。

紅潮した頬を手で包むと

彼女の唇に、自分のを重ねると

自然と絡まり合う舌が、俺を"昂ぶらせる"。