「蝶を轢いた」
短編小説
ある日の春だった。
まだキチンと整備されてなくて
ガタガタした道を自転車で通る。
ここはド田舎で
どんなに道を進んでも、山、草、花。
変わりない道のりをただ進む。
ギアーは1番重い数字をさして
足も、体も重い帰り道
嫌気がさすほど空はカラカラで
風の音が耳を刺す。
揺れる体とカゴの音
ガタン、ガタン
ため息をついたすぐあとのこと
ガタン、ガタ…
何か轢いた。
右手のブレーキをかけて
ちょいと後ろを振り向くと
ぐたぁと潰れた胴体?に
青い羽が風に揺れて
ぴくぴく動いて…はいない。
ああ、轢いてしまった。
自転車を運転している以上
虫や花を轢いてしまうのはよくあること
できるだけ轢きたくはないけど。
「ごめんなさい」
一言告げて右足をペダルに添えた。
これも運命ってやつだ
許してくれ
春も、あと一歩進んだら
夏へ行ってしまうような時期になった
花粉も飛ぶ数が減ってきた。
ある日、夢を見た。
片羽がない蝶が舞う夢。
きっと自分が轢いた蝶だろう。
「なぁ、すまない」
言葉がわかるかはわからないが
最後の悪あがき?ってやつかな
「別に怒ってはないわ、運命だもの」
おや。自分と同じことを思ってようだ。
理解出来る蝶々で嬉しいや。
「何か用があるのか?」
「ひとつだけね
ひとつだけあるのよ」
片羽だけで一生懸命飛んでいる。
これも自分のせいか?と思うと
胸がチクチクする
恋って、こんな感じなのかな…なんて。
「私、この町にくるのは初めてなの
そして貴方に出会ったわ
貴方についていけば、違う町に
行けるかしらってついていったの
そしたら、私は…貴方にひかれたわ。」
「はあ……
その、ごめん、って。」
「いいえ、私が求めているのは
貴方の謝罪じゃないの」
「ほお…?」
「私、貴方にひかれたの」
ハッと目を開いた
夢だったらしい。
今はまだ夢を思い出せそうだけど
少ししたら、忘れていきそう。
確か、確か、蝶が……
プルルルルッ……プルルルル…
「…電話……?」
ガチャ
「……もしもし?
なぁなぁ、今日あいてる???」
「…なに…うるさい…
今起きたから少し静かにして…」
「ああ、すまんすまんっ
今日、昔の同級生と集まんねん
そんでな、お前も小学校の時の同級生と
会いたくない??」
「…べつに」
「了解!!今日の一時からな!!」
「は?ふざけん…」
ガチャ…
ツー…ツー…
「なよ……」
どうやら、
強制的に行かされることになった。
色々と準備をして
1時前にくそみたいな友達に連絡して
今着くから待てって言い聞かせた。
「…よ。」
「おー!!ちゃんと来てくれたんやな!」
「まあ。」
「お前なら来てくれるって信じてた~!
ささっ、席用意してあるしはよはよ!」
「はいはい。」
その後は、2時間くらい。
昔の同級生、約30人くらいが集まって
くだらない話して終わ…
ってない。
まだ続いている。
正直面倒くさい。
「なぁ、お前がさ!
小2?くらいんときに
上級生の悪い奴らが青い蝶をいじめてたの
お前助けてやってたじゃん?
覚えてる?」
「…まぁ、少しね」
「私、貴方にひかれたの」
「…!!」
ガタッ
「!?ど、どうしたんだよ?
急用でも…思い出したか?」
「い、いや、いいや…別に…」
あやふやで、今でも忘れそうな夢のハナシ。
きっとあと3分もすれば忘れていた。
友達の言葉からハッと思い出した。
気がかりで仕方ない、
気がかりで仕方なさすぎたんだ。
「すまん、少し抜ける」
「え!?やっぱ急用!?」
「そ、そんなとこだ」
「おーよ!気つけてなー」
この前、自転車で蝶を轢いた場所にきた。
自転車だから簡単にこれたけど
走ると本当に疲れるんだなって
改めて自転車の凄さを実感した。
「…ツ、なぁ!!!」
昨日のとこじゃないから
ハッキリとその蝶がいたかがわからない
ただ、直感でここに来ただけ。
「あの時、助けた、
青い蝶ッ…!!!」
あの時見た風に吹かれた羽
片羽を探してさまよった。
「なぁ、ごめん、…」
青い涙が零れた
会いに来てくれたのかな
自分のこと、わかってたのかな
ごめんって言ったら許してくれるかな
胸がチクチクする
…恋って、こういうことかな
「…な、んて…」
ぽろぽろ溢れてくる
嫌気がさすほど
青い、青い空に
青い、青いナミダに
青い、青い君を探して
膝から崩れ落ちた矢先
嗚咽の交じった自分のコエに
君はきっと、吃驚してるだろう。
「私、貴方に惹かれたの。」