#野良になった理由は

外から見れば「幸せ」
中から見れば「不幸せ」

心のまま
素直に踏み出す事が出来ないのは
臆病になってしまったから

幸せはいつか壊れてしまうモノ
多くの事は望んでいないのに
手に入らないモノでしかない

変わらないモノをください
変わらずにいられるから
必要としてください
他には何も要らないから
信じさせてください
それ以上は何も望まないから

たったそれだけ
それだけが私の欲しい
「幸せ」です

唯一、弱みを見せられた

強がりの癖は抜けないまま
甘えてばかりで我儘ばかり
冷たくあたり突き放しても
飽きもせず抱きしめてくれる
そんな優しい君に

何をしてあげられただろう
何をしてあげられるんだろう

今もまだ
野良のまま
成長なんて出来やしない
ひとりじゃ…
歩けそうにないよ

泣きながら
あの人に抱かれたのは
悲しかったからじゃなくて
苦しかったからじゃなくて

好きでいてくれる
そんな人でも埋まらない
拾われて可愛がられる為に
ふらふらと出かける

それが許せなかったから

あの人もきっとそうだった
嘘が下手なあの人も

好きでもないあの人を好きになったのは
付き合ってから随分と経ってから

ふらふら出掛けては拾われて
心もない行為も当たり前で
隠さずに話せば怒られ泣かれ
酷い言葉で罵られた
よく怒る人

怖くなかったのは
言葉だけだったから
もっと酷い事をされた事も
怖い思いをした事もあったから
それでもどうでもよかった

埋まらない何かを埋めなければ
どこかで誰にも知られず
永遠に眠ってしまいそうで

拾って可愛がり手放してくれない
そんな貴女と会えたのは数分だけで
お互い恋人がいても公認の仲で

唯一、隠したかった
野良猫なんだよって言えなかった

嫉妬されるのが好きで
独占欲が強くて
デレデレ笑いながら
頭を撫でてくれた優しい貴女は

愛を知らない私じゃ足りなかった
もうあの頃には傷だらけの汚い猫
着飾ったどころで誤魔化せない

遠いよく怒るあの人より
近くにいる人を選んだのは
ただの気まぐれだったのでしょう

毎週のように会える人といれば
落ち着ける場所を見つけられる
そう思っていたのかもしれません

好きだって言い合いながら戯れ合い
雨に濡れながら笑い合い走って
喧嘩をすれば紅く滲む腕を見て泣く

落ち着いていられる時だけ
可愛がってくれるそんな人でした
弱い部分を見せれば少し離れていく
そんな人でした

引き離されたあの時に
握りしめられた手は暖かくて
迎えに来てくれたあの時に
一緒に泣いた涙は温かくて

人は過去を振り返りながら
成長するのだと言ったのは誰？

覚えている始まりは
短い文字の並び
終わった後の
あの人の後ろ姿

痛いと泣けば
腕を押さえ
すぐ終わると
そんな言葉だけで

終わりは呆気なく
偽りばかりの人でした

呼吸が出来なくて苦しいのも
紅く流れていく腕を眺めるのも
全てをあの人のせいに

着たくもない服を着て
好きでもない人と会い
肌を重ね合わせ

一度限りだけの関係
深入りせずに安心出来る
そんな関係

麻痺した心を身体で埋めて
何度も何度も何度も…
汚してしまえばいい

だって…要らない子って
貴女が言ったから
野良になるしかなかった

苦しさの理由を汚してしまう理由を
傷痕ばかりの左腕を心もない行為も
何もわからないまま知らないまま

恋人というカタチを望まれ
カタチを作っても変われないまま

どこまでも墜ちて
どこまでも汚れて　
どこまでも汚い猫でいい　

ほら、また拾われて
数時間だけ可愛いがられる
そんな野良猫で

好きだったのかと聞かれたら
好きだったのかもしれない
流されたのかと聞かれたら
流されたのかもしれない

そんな短い恋の代償は
心と身体に大きな傷を与えました

誰でも良かった
あの人を消す為に
心の安定の為に
上書きして消してしまいたかった

苦しみには名前がつけられ
飲みなさいと出された丸粒は
何の為にあったのでしょう

いっそ
心を取り替えてください
汚れきってしまった身体
交換してください

後悔した頃には遅くて
「消えたい」が口癖になって
距離は開いていくばかり

「助けて」とは言えない　
言っちゃいけない
強がりを覚える事だけ
唯一自分を守る方法で

ひとつ歳を重ねるたび
｢おめでとう｣の言葉を送り
すきま風が燻る心に蓋をした

別れる事も逃げ出す事も
幾度なく考え打ち消したのは
行き場が見つからなかったから

あの子のように自由でいられたら
良い子でいなくてもいいって
もう少し器用に生きられたら

家を飛び出したあの日も
やっと自由になれた気がして

もう大丈夫だって
今までの私を全て捨てた
誰も知らない土地で
たったひとりの支えは
あいつだった

捨てたはずの過去は
友達や上司に話され

全てを否定され
都合の良い時だけ
処理させられる

居場所は
トイレの中だけ

幸せな時より
顔色を伺いながら
過ごした地獄だけ
鮮明に残るのはどうして