〔 幸が爆ぜとも笑顔は爆ぜぬ 〕
「今から幸を奪ってくるよ」
大して優秀でもない僕に
役に立つチャンスが巡ってきた
理由はシンプル
欠員が出たから、らしい
『………ヨ、………応答セヨ
三号機、応答せよ』
「はい」
無機質に揺れる無線に向けて
出来るだけ大きな声で返事をする
今僕が乗っている飛行機には
大量の爆薬が詰め込まれている
僕もろとも敵艦に突っ込んでいき
国を勝利に導くのが
僕の最後の使命であった
『……そろそろだが
何か言い残す事はあるか』
言い残す事、か
迫り来る死を改めて実感しながら
軽く目を伏せて考える
肉声は残した
手紙も書いた
「君を幸せにする」と誓って結ばれ
「今から幸を奪ってくるよ」と別れた
最愛の婚約者
フミを残してイかねばならないのが
唯一の心残りであるが
司令官に言うべき事でもないだろう
「生きるって、凄い事ですね」
気付けば声に出ていた
「死んだら何にも無いですから
幸せも、不幸も。
幸を奪ってくるよって、言ったんです
婚約者に
間違ってなかったですね
人生を奪いに行くのは
幸を奪うのと同じだから」
無線は微動だにしない
それでも僕は気にせず話し続ける
「早く終わればいいのに
命が無くなるのが当たり前
幸が奪われて当然
そんな時代が。戦争が。」
" 早く終わる事を祈ってます "
「以上です」
『……そうか、』
苦しそうな司令官の声が響く
「到着しました」
『……それでは』
今にも泣きそうな声で
司令官が言う
「そんな声で言わないでくださいよ」
「最後なんですから、僕」
「人の幸を聞きたいです」
「おこがましいですが、司令」
"笑ってくださいよ"
『…………ッ
三号機、ご苦労で…あった』
結局泣いてるじゃないか
つられて僕まで泣きそうになったが
なんとか堪える
「こちらこそ、有難う御座いました
司令の幸せを
国の幸せを
世界の幸せを、祈ってます。ずっと」
大きく息を吐き
精一杯の笑顔を作って
僕は敵陣に突っ込み
煙と共に、沢山の幸を散らした
" どうかこれ以上
誰かの幸が散りませんように "