楽器なんてやったことなかった
歌も得意じゃなかった
それでも私は辞退することなく
あの日のステージに立った
先輩ばかりに囲まれて
自分だけがずっと遅れてる気がして
足を引っ張ってる気がして
何度も何度も窓の外に目をそらした
「絶対入るはずない」と思ってた吹部で
気がつけば誰よりも
音に向き合う日々を選んでいた
オーディションというものを通して
確かに自分の力で選んだ未来だった
朝も夜も休日も吹奏楽に時間を割いて
違う部活の子はみんな離れていった
テスト前の部活動停止期間なのに
コンテスト前だからって練習に行って
勉強も全然ついていけなくなった
テストは今までで1番酷かった
疲れと悔しさに涙が止まらなかった
それでも
黙って背中を押してくれる先生がいた
隣にいてくれる仲間がいた
全員先輩で私だけが1学年下でも
そんなの関係なく、ちゃんと仲間だった
当日の朝、8人で組んだ小さな円陣
「金賞とるぞ」というその8つの声は
力強く校舎中に響き渡った
そして本番
ステージの照明がついて
音が鳴った瞬間
私のすべてがそこにあった
「銀賞」
そう言われたはずなのに
会場の外に出たら全員が笑ってた
報われなくて、悔しくても
誰1人、泣かなかった
辛くなかったわけじゃない
そこにいた8人全員が必死に努力して
テスト期間も潰してかけた曲だった
でも、だからこそ
少しの後悔もない清々しい笑顔で
「楽しかった」と心から言えた
金賞は夏のコンクールで
部員全員で取ればいい
私達史上の過去最高得点が
確かにそこに記されていたんだから
もうそれだけで十分だった
あの5分間に響いた8人の音を
私はこれからも
自分の音で追いかけていく
あの日のようにやり切った笑顔で
もう一度、心から
「楽しかった」と言えるように
8人で過ごしたあの短い秋を
私は絶対忘れない
「風之舞」
この曲名は、あの音色は
私の一生の宝物