「 君がいたから。」
死にたい、死ねない。を
毎日繰り返してた。
家に帰れば、降りかかる罵声と拳
学校に行っても、状況は変わらない。
助けてくれる人なんていなかった。
あの日は雨が降っていた。
学校に行く途中、なんだか急に
行って意味はあるのか。
そう思って、気づけば
今にも壊れそうなビルの非常用階段を
ガタッガタッと
音をたてながら登っていた。
非常用階段を登りきり
カタカタと、壊れたドアノブを捻ると
何も無い空間が、ただただ広がっている
揺れる髪を耳にかけて
カーディガンを脱いで
ビルの端に立つ。
怖いな。
死んじゃったら、どうなるんだろ
あぁ、誰か
「 助けて 」
『 変なの 』
後ろから聞こえる声に
振り返れば、同い年くらいの男の子が
面白そうだ という顔で、こちらを見ていた
『 死にたくて、そこに立ってんだろ 』
「 … うん。」
『 じゃあなんで、助けて欲しいのさ 』
「 … 」
何も言えなくなった私を見て
彼はクスッと笑った。
『 とりあえず、こっち、おいでよ 』
彼の笑顔を見ると、なんだか
自分とは違うような気がして
なんだか嫌だったけれど
言われるがままに私は彼の隣に座った。
『 君は、なんで死ぬのさ 』
「 自分の存在に、意味を感じないから。」
『 ふーんそっか。』
「 あなたは幸せそうね 」
『 そうでもないよ。』
「 そう。」
話を続けれていると
気づけば雨は止み、夜になっていた。
『 空をごらん。』
空を見上げてみると
たくさんの星が、きらきらと輝いていた
久しぶりに見た空だから?
やっと全部話せたから?
なぜだか、ただの星が
儚く綺麗に見えて、涙が出た。
『 ねぇまだ、死にたい?』
聞かれた時に気がついた
私は、死にたかったんじゃない。
誰かに、大丈夫?とそれだけ
言って欲しかったんだ。
『 僕はね、今日死ぬつもりだった。』
意外な彼の話を聞いて驚いた。
『 4年前、死んじゃったんだ。ここで 』
ここは4年前、病院だったそうだ。
有名な病院で、持病を抱えた彼は
ここで入院していたのだという。
治らない病、大量の薬。
無くならない手術跡、刻一刻と迫る余命
生きることが嫌になった彼は1度
ここで死ぬ覚悟をしたのだそうだ。
それでも、その時出会った少女により
死ぬことを辞めた
はずだった。
見上げた空に気を取られた時
後ろから来た男性に
背中を押されたのだという。
それから彼は今も
死神となってここに立っている。
『 僕は、君の人生を変えられない
けど、僕は君に生きていて欲しい。
出会ってないだけで、居るはずだから 』
『 君を認めてくれる人が 』
頬をつたる涙を手で拭いながらも
久しぶりに笑顔になれた。
「 死なないよ、私。」
「 生きるよ 」
『 よかった 』
満面の笑みで彼は、そう言った。
大学生になった今も、
時々このビルの前を通る。
彼の言ったことを忘れないように。
今は、昔みたいに
下ばかりを向くことはなくなった。
友達もできて、毎日笑えるようになった。
「 ありがとう 」
こんなに笑えるのは
きっとあの時、あの場所に
君がいたから。