君は神様の寵愛を受ける小説家だ。
君にそう言えば、君は大袈裟だと笑うだろうか。
「いやぁ、久しぶりの外たのしかったー!」
帰ってきて早々、お気に入りのソファに身を沈める君。
「帰ってきたら手洗いうがい」
「うわっ、お母さん」
「・・・お昼ご飯、なににする?」
「オムライス!」
ダイエットだなんだと騒いでいたのは誰だったっけ。
君のために野菜尽くしのメニューを考えていたが、どうやらその必要はないらしい。
「・・・すぐに作るから、手洗いうがいして来て」
「はぁーい!」
パタパタと廊下の先へ消えて行く君を見届ける。頬が緩んでるのなんて自分が1番分かってる。
玉ねぎとコーンとマッシュルームを入れるのが、僕流のケチャップライスだ。
本当は細かく切ったウインナーとか入れたいけれど、ダイエットすると喚いていた君に配慮して今回は使わないことにする。
ふんわりと焼き上げたオムレツを、ケチャップライスの上にのせる。
オムレツの中にはチーズを入れてみた。味にアクセントが出ていい感じになるだろう。
スープはキノコをたくさん使った和風スープ。
「ねぇねぇ!オムライスに文字書いていい?」
オムライスをテーブルに運んで早々、君は席についてご機嫌だ。
ケチャップを手に、そわそわとしながらこちらに視線を寄越す。
「別にいいけど」
「君のも書いてあげるよ!なんて書いてほしい?」
「・・・別に、なんでも」
「もう!そこでこの私のサインが欲しいって言うのが正解だよ!」
オムライスに君のサインなんて書かれたら、勿体なくて食べられないどころの騒ぎじゃない。
僕はこのオムライスを未来永劫、この形のまま保存する方法を探し求める羽目になってしまう。
「『 ダーリン♡』って書いてあげるね」
君がケチャップを構える。僕はその言葉を聞いて、息をとめた。多分だけど心臓も一瞬止まった。
ざわざわとした気持ちは、君の大笑いによって吹き飛ばされた。
「ちょ、待ってこれ!失敗した、どーしよ!わははっ!」
ヒーヒー苦しそうに笑う君。手元のオムライスにケチャップで書いてある言葉は『ダー』
残りの『リン』は書けなかったらしい。最初っから『ダーリン』と書くと考えていたのかも怪しいくらい、オムライスの大部分を『ダー』が占めている。
「お腹いたいっ!ちょっと元気が有り余りすぎて、」
自分でツボに入ったらしい君は、笑いながらテーブルに沈んだ。
そんな君を横目で見ながら、僕はまだなにも書かれていない君のオムライスにケチャップを構えた。
絵は割と得意だ。手先が器用で、大抵の事はなんでも出来る。ついたあだ名は器用貧乏。余計なお世話だ。
「さ、冷めないうちに食べよう」
笑いすぎて涙目になっている君が顔を上げる。
目の前にあるオムライスに、大きな目をぱちぱちと瞬かせた。
「・・・たぬきだ!」
デフォルメしたタヌキの絵。
テーブルに乗り出す君。お子様ライスを目にした5歳児のようだ。
「すごい!たぬきだ!うわ!すごい!」
「大袈裟だよ」
「うわぁ、かわいい。食べるの勿体ない」
色んな角度からたぬきを見る君。そんなに熱心に見られたら、たぬきも調子に乗ってウインクくらいしてしまうのではないだろうか。
「そんな大層なものじゃないから。早く食べな?」
「えーー勿体ないよー」
「・・・またいつでも書いてあげるから」
ぴくり、と君が反応する。
「・・・絶対?」
「うん。なんならおやつの時間にパンケーキでも焼いて書いてあげる」
「わっ!やったー!」
ご機嫌な君がスプーンを持つ。「いただきます」と手を合わせてから、端っこからスプーンを入れた。
「おいしい!」
「よかった」
君の笑顔を見てから、僕も『ダー』と書かれたオムライスに向き合う。
さて、これを未来永劫この形のまま保存するにはどうすればいいだろうか。
『料理を美味しそうに食べる小説家の君と、料理で君を繋ぎ止めようとする僕の話』