やっとだ、やっとこのときが来た。
8月5日。
部屋のカレンダーにも印をつけて、待ちわびていた、近所の花火大会の日。
ただ花火を楽しみにしてたわけじゃない。
八嶋と、あの八嶋と二人きりで、だ!
親父から借りた浴衣を着て、神社の近くのコンビニの前で待っていた。
八嶋はどんな浴衣でくるのか……そわそわしている自分が我ながら少し気持ち悪い気がする。
そんなことを考えていると、下駄の音が聞こえてきた。
「あ、種。あんたも浴衣着るの。」
怪訝そうな顔をしている八島は、いつも以上に可愛い。金魚をあしらった、淡い水色地の浴衣に髪には白い花をつけている。
「お、おう。」
思わず声が詰まった。
「早く行こ、全部奢ってくれんでしょ。」
「当たり前だろ。そうだな、行こ。」
八島の後ろ姿は綺麗だった。
ああ、もう!なんでこんなやつとお祭り行かなきゃいけないのよ…。
私の重たい気持ちと裏腹に、種は気持ち悪いくらいニコニコ、いや、ニヤニヤしている。
こいつが家に直接電話したから、お母さんと弟が騒いで、行かなきゃいけない雰囲気になっちゃったんだし…。
「なあ、八島、焼きそば食うか?」
いいことといえば、今日買うもの全部種の奢りだってことくらいだしな……。
「うん。」
「すいませーん。焼きそば2個下さい!」
こういうとこは頼りになんだけどなあ……。
「あいよ!あれ、二人はカップル?」
「ちがっ!!」
「そうなんっすよー!めっちゃ可愛くないですか?俺の彼女!」
こいつーーーー!!!
「お似合いカップルだから、ちょっと大盛りにしとくね!」
「マジすか!あざっす!!」
だから来るのやだったのに……。
「ほい、焼きそば。」
「あんた、調子乗ってんじゃないわよ…!」
「ん?」
ああー、このアホ面…蹴ってやりたい……。
ドドーーン!!
イライラしていると後ろから、大きな音が聞こえる。
あ、花火始まった。
それに気づいた種は焦る。
「ヤベ、始まった。八島、行くぞ。」
そう言うと、私の手をとって走り出した。
「え、ちょっとどこにっ…!」
「いいから来い!」
持ってる焼きそばをこぼしそうになりながらついたのは神社の頂上だった。
「ほら、見てみろよ。」
「うわあ……。」
見上げると、空に花がたくさん咲いている。
「八島にこれ見てもらいたかったんだよ。綺麗だろ?」
種の横顔は疲れてるからか、少し、ほんの少しだけかっこよく見えた。
「うん。まあね。」
「やっぱ冷てーな。」
ははっと笑う顔になんだか、胸が変な感じ。
「うるさい。」
軽く腕を小突いた。
ちょっと疲れて、動悸がしたんだよね。
そんなわけない…よね。
種と八嶋のお祭り。
八嶋の気持ちに変化があったりなかったり。
久しぶりの学生企画。
久しぶり過ぎて、下手っぴです笑