はじめる

#短編小説

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全2451作品・

影が伸びる刻の貴方が
「ありのままでいてね」と
夏の残り香、微睡んだ水田
複眼で覗いた私はどう映るだろう
青い空を睨んでも青い儘で
見向きもされない雑草が嗤って
ありったけの言葉を全部吐いても
誰の耳にも届かないなら
疑いの目も光は宿らず
その瞳を閉ざして"笑"う
嘘偽りの無い感情なんて無い
隠した姿さえ美しいなら
きっと私はひとり板の上
揺れる足元が酷く滲んで
口角がどれだけ震えようが
誰にも気付かれない、幸が止む
貴方は知らない私が此処に
それでいい、貴方が幸せになるならば
不思議そうに私を見つめる貴方が
私だけのものになるならきっと
このまま笑っていたいのに

「勿論」
生ぬるい風が頬を撫でる
何を言い訳にすれば触れる事ができるの
満足そうに微笑む貴方の影を
踏む事の出来ない意気地無し
山吹色に染まる景色にふたり
傍から見たらどう映るのかな
畑の焼いた匂いと、少年達の声
車通りの少ない坂道をこえて
木漏れ日から暖かな熱を帯びて
2人の足音だけが響く
こんなに貴方と近いのに
走っても追いつきそうになくて
道端の彼岸花が懐かしい
この花に毒さえ無ければね
貴方と映えそうなのに
五分前の記憶が薄くなってきた
もう直ぐひまわり畑だ、って燥いだ貴方
あなただけを見つめる
なんて素敵な事なんだろうか
私にはきっと出来ない
早まる足音に着いていく
置いていかれないように
段々と半熟されていく景色
昨日の夕飯は何だったっけ
まだ空はあの日のまま
時間が止まればいいのにね
そう笑ったのは何時だったかな
想い出の中の貴方の笑顔が
妙に焼き付いて離れない
貴方もそうだったらいいのに
ふたりに明日なんてない
蝉の泣き声が耳を刺す
手を繋ぐ
走馬灯を見に

雅火・2024-01-02
新年の挨拶
2023年の想い出
ポエム
好きな人
恋愛
片思い
片想い
エッセイ
随筆
短編小説
独り言
Onepage


随分昔のことだからキミは

覚えてないかもしれないけど

「肌寒く感じたら一緒に過ごそう」って

僕とキミを繋ぐ魔法のコトバ


今でも信じてる そして

今でも鮮明に覚えてる


こんな事信じてるのは僕だけ

キミは忘れてるだろうと

思って過ごしてきた、、



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



あれから数十年が経った。

今日は年に一度の寒気が募る日らしい。

ちょっと いや半分期待してた自分がいた。

逢える気がしたから

約束した場所へ向かってみた

公園で空の写真を撮りながら

滑り台に座ってたキミを見つけた。

僕の存在に気付くと真っ先に、

「流石キミだね、こっちにおいで~」って

言ってくれた、

懐かしい声 好きな声 落ち着く声

三拍子揃う この声が好きだった

ずっと一途に誰よりもキミを想ってた

信じてきて良かったと心の底から思えた

これからも末永く キミだけを守ります

藜・2023-12-13
短編小説
小説風
初めて
挑戦してみた
僕と君との物語
約束
クリスマスはきっと
魔法の言葉
記憶
信じる
公園
写真
懐かしい
一途
想う
末永く
大切な人

『全部冬のせいにして』


肌寒い季節が来た。私は買ったばかりのブレザーに袖を通し行ってきますと言って外に出た。

この前までまだ夏なのではってほど暑かったのになんて思いながら歩く。坂を登ったところにあるのが私の通っている高校だ。

先生に挨拶をし教室に向かう。私の席は校庭側の窓際の一番後ろという神席だ。

無事にお昼までの授業を終え私は屋上へ向かう。

昨日の残り物を詰め込んだだけのお弁当を広げもくもくと食べる。

友達はいない。あまり作る気もないからだ。

食べ終わってから私はいつも歌を歌っている。一応将来は歌手になりたいなと思っているので毎日ここで歌うのを日課にしている。

だから気づかなかったのだ、屋上の扉が空いたことを―――。




今なら死ねる。何故かって?学校一のモテ男に歌を聞かれたからだ。

「そんなに逃げることねえだろ」

モテ男陽キャ一軍だからそんなことが言えるんだ。こっちの気も知らずに、、。

「あの、、!出ていって、欲しいです、、。」

強く言うと決めたのに結局はもごもごと口にする。相手はモテ男陽キャ一軍だよ?キラキラしすぎでさすがにひよってしまう。

「まぁまぁ。同じクラスでしょ橋口さん」

同じ、、クラス、?そういやそうだった。いやそんなことより何故私の名前を知っている、?そんな瞳で彼を見た。

「橋口恵ちゃんでしょ?俺のこと知ってる?」

「あ、はい、存じております、。入江颯馬さん。」

まさかモテ男陽(以下略)が私の名前を知っていたとは思わず少しびっくりした。

その後すぐ彼は邪魔したなと言い屋上から出た。風になびいた時少しだけ彼のいい匂いがした―――。




家に帰り今日の出来事をふりかえってみた。あのモテ男陽、、いや入江くんと話したのだ。

なんて恐れ多いことをしたのだろうと思いながらお線香をたく。

私の両親は一年前に事故で他界した。それからは叔母に拾われたのだが両親と住んでいたこの家を手放したくなく私の我儘でこの家に住んでいる。

でもたまに叔母が家事などの手伝いで来てくれるのですごく助かっている。

私の好きなあいみょんの裸の心を聴きながら明日のお弁当の準備をし残りの家事をして寝ることにした。

毎日聞いているこの曲がなんだかいつもとは違う気持ちで聞けた―――。




翌日。学校へ行こうと思い玄関を開けると何故か入江くんがいた。あまりもびっくりして思わずヒッ!と言ってしまった。

お化けかよ俺はと笑いながら突っ込んでくれたのが幸いだ。

「なんでここに、、。」

「昨日悪いことしたなって思ってさ。お前毎日屋上で飯食ってんの?」

「まぁ、、うん、。」

そっかと言うと俺も今日から屋上で飯食うからと入江くんは言った。

それは困ると言ったのだが聞く耳を立てづじゃあ後でなといい学校へ向かう。

朝から入江くんと話してしまった驚きと屋上の件で呆然としてしまったが学校に遅れると思い急いで入江くんの後をおった―――。



お昼になり屋上に行くと本当に入江くんはいた。
びっくりした顔をしていると朝わざわざ伝えたろと言われてしまった。

それから入江くんとご飯を食べた。こんな事あっていいのだろうか。女の子たちにバレたら殺されるななんて思う。

でも食べながら話をしたので入江くんのことを沢山しれた。四人家族で妹がいること。今は母親が病気だからバイトをしていること。妹ちゃんはまだ5歳でちいさいこと、、。

私も自分の話をした。両親の話をするのは入江くんが初めてだった。入江くんは静かに聞いてくれた。

「悲しくねえの?親いないの」

そう問われた時私は両親が亡くなった時も今も泣いてないことに気づいた。

何故だろう。入江くんの問で気付かされたからなのか両親が居ないという現実味が湧いてきたからなのかわからないが涙か溢れてきた。

「あ、、。ごめ、ごめ、なさい、」

謝ろうとすると入江くんは頭を撫で思う存分泣けと言ってくれた。

私は彼の腕の中で初めて子供のように泣きじゃくった―――。



どれほどの時間が経っただろう。私ははっとし入江くんから離れた。

しまったやってしまったと思い慌てていると入江くんは笑い出す。

「泣いたり慌てたり忙しいやつだな恵は」

突然の呼び捨てに驚いた目を向けると彼はいいだろもう友達なんだしと言い笑った。

「ありがとう。颯馬くん、、。」

少し恥ずかしがりながら言った君の名前。入江くんは少し驚いた顔をしたあとすぐ立ち上がった。

「歌ってよいつもみたいに」

私も立ち上がりいつも通り歌を歌う。寒いのを理由にして少しだけ彼に近づき腕が当たる距離に立つ。

あぁ。きっと今私恋をしている。

少しだけ頬が赤いのも距離が近いのも全部冬のせいにしよう。

入江くんに届けと思いながら私はいつも聞いていたあの曲を歌った―――。

國龍・2023-12-17
短編
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キャンドルに火を灯す
あれこれと紡ぎ出す言葉は
空回りして他愛のない会話となり宙を舞う
ゆらゆらと揺れる火を睨んで次の言葉を考える
キャンドルを見つめ伏し目になる君
綺麗な瞳に引っ張り出された言葉は呼吸とへ化す

ろむ・2023-12-21
写真に合わせて考えてみた
クリスマス
片思い
短編小説



第一章-番外①「転機」





 四年前の今日のことであった。介護に疲れたとある二十六歳の女性が、車椅子の母親と一緒に自ら大型バスが来る道へ突っ込むという悲しい事件が起こる。母親は元々弱っていたのもあって亡くなったが、娘の方は二週間の昏睡の末、眠りから覚めた。その娘の行方は誰も知らない。


 誰も。


 私以外、誰も。


 あの後住んでいた街にはいられなくなり、私は遠くの県へ引っ越した。そして一人暮らしを始めた。父親はとうの昔に亡くなっている。親戚は会ったことがなく、いないも同然。学生時代から陰な性格だったので友人もいない。無論、恋人も。だから生活を一新しやすかったのかもしれない。


 後遺症でまだ体が動かしにくく、生活には支障がある。何とか支援を受けながら働いている。その不自由さに、母親の後を追おうかと思うが、一度それを試みて多方面に迷惑をかけるということや自分自身もこうして苦労することを思い知ったので今は行動には移さないでいる。


 私は母をころしたのに、まだ現世にいる。


 送る人がいないので、年賀状も書くことはない。今日は大晦日だ。明日は正月で、色んな家庭に年賀状が届く日。私はそういう季節のイベントなどに興味が無い。というかやろうにも虚しくなるだけ。


 たった一人で寒い部屋で布団にくるまって寝る。今はそれだけでいい。それだけが心地いい。


 週に四日の、とある会社での事務仕事。正直体を起こすだけでも精神的肉体的にしんどいような毎日で、電車に乗り通勤している。同僚は、漫画のようなイケメンでもなくただのフツメン。年が近い社長は小太りで、個人的に苦手な顔の人。


 いつものように、パソコンに向かう。今日のノルマを達成できるか不安だ。眼鏡を外して、目のくぼみあたりをマッサージする。



「蓮見(はすみ)さん」



 社長に呼ばれる。何かミスをしただろうか。キーボードをたたく手を止めて社長の後ろを歩く。



「実はね、__」


「引き抜き!?」



 引き抜きなんて、私がされるとは思ってもみなかった。とても嬉しい。だが引き抜き先が〝摩訶不思議株式会社〟という名の怪しい会社だった。面白そうなので、とりあえず行ってみようと思った。しぬまでの暇つぶしに。










(終わり)


















































-登場人物-


●蓮見

読み:はすみ

主人公の女性。下の名前は不明。

眼鏡をかけている。

二十六歳で母親と心中をはかる。自分だけ生き残る。後遺症で苦労しながらも四年後、働いていた会社から摩訶不思議株式会社に引き抜かれる。



































-あとがき-


昨日は久々の浮上で、今日は久々の小説執筆です。こちら一日で書き上げたものです。短めですね。最近よく書いている『こんな夜には星屋がひらく。』略してこん星の番外編です。


初の番外。祝、蓮見さん初登場。蓮見さんが今後どう本編に関わっていくのか。本編より先に番外編でキャラを初出しするっていうね。てかすごいキャラ設定にしちゃったね!


正直、なんとなく執筆してたものが、こん星に繋げられそうだなと思いついて急遽番外ってことにしたんです。最初は全く関係ない大晦日短編小説にしようと書いてました。


実は蓮見さんは今回の番外で作ったキャラではなくて。蓮見さん自体は、現在執筆中(多分一月中に投稿予定)のこん星本編の四話の方に先に登場させてるんです。その四話から名前だけ引っ張ってきて、大晦日短編小説として書いてた心中未遂の話を蓮見さんの設定ってことにしたっていうね。


だから、四話(執筆中/未投稿)→大晦日短編小説を執筆→蓮見さんの名前だけ四話から引っ張ってきて大晦日短編小説内に出す→結果こん星の小説になる、という順。


しっかり今回も女性の後ろ姿の背景写真です(こん星の投稿全部そういう写真)。この人が蓮見さんなんでしょうかね。自分的にはもっとズーンとした人を想像してます。


てか大晦日にすごい話書くよな私。元のそれ単体の小説だとしても、蓮見さんの設定の話だとしても。大晦日にだよ。


でもまあ私らしい大晦日と言えるかもね。来年はなるべく今年よりいい年にしたいね。ここまで見て下さりありがとうございました。もしよろしければこの小説の感想をいただけると嬉しいです。それでは。

筧沙織>短編投稿・2023-12-31
『こんな夜には星屋がひらく。』
番外編
小説
小説/from:沙織
蓮見さん初登場!
憂鬱
大晦日
短編小説
創作
独り言
辛い
人生
過去
別れ
想いを刻みながら
タグ使用/from:沙織


♡♡




セルはカノンに

きみはこれからこの文字の

意味するとおりに生きていくんだ。

ひとを憎むのではなく愛するんだ。

さげすむのではなく愛でるんだ。

傷つけるのではなく愛をそそぐんだ。

そうすれば生きていく場所も

生きている意味も

見つけることができるから

そんなきみにみんなも手を

差しのべてくれる。

みんなが仲間になってくれる。

みんながちからを貸してくれる。

助けてくれる。

だから俺と一緒に教祖(神)と戦おう!

その言葉を聞いたカノンは

セルのあたたかい心が自分(カノン)の中の

氷のトゲをひとつずつ溶かし始めているのに

驚きを隠せなかった。

あぁ…これがひとの心か…

これが愛?なのか…

カノンは胸が熱くなる思いを

生まれてはじめて噛みしめていた。





♡♡

꒰ঌ𝓶𝓲𝓴𝓾໒꒱(ひとこと更新(2023/12/21 19:34:26))・2023-10-02
短編小説

『全部冬のせいにして』入江くん視点



入学当初から可愛いと有名な子がいた。橋口恵。黒髪の綺麗で長い髪の毛に切れ長の綺麗な目。肌は白くて華奢な体型をしている。

男子は可愛い可愛いと騒いでいた。俺も初めて君を見た時息が止まるほどあまりの可愛さに驚いた。

思えばその時にはもう君に――――――。



肌寒い季節になった。女の子たちに毎度の如く追われ疲れ果てた俺は休憩するために屋上に来た。

扉を開けようとするとなにやら歌声が聞こえてきた。

(あいみょんの裸の心だ、、)なんてことを思いながら扉を開ける。

するとそこには橋口恵がいた。長く綺麗な髪の毛を風になびかせながら歌っている。しかも歌声もとても綺麗で上手かった。

俺はしばらく聞き入った。あまりの上手さに感動していると橋口がこちらを見た。と思ったら驚いた顔をし持ってきていた弁当箱を手にし逃げようとした。

「待って!」

俺は咄嗟に引き止めた。それから橋口と話した。声まで可愛いのかなんて思っている俺に少し戸惑いながら橋口は困っている感じがしたので俺は早々とその場から離れることにした―――。




家に帰るとまだ五歳の妹が保育園での出来事を話してくれた。

「あのね!今日ね!いぶきくんがねなおのすいとう飲んだの!でもなお嫌な感じしなかった!なおもしかしたらいぶきくんのこと好きなのかも!」

今の子はそんなことするのかなんて思いながらも妹の初めての恋を応援してあげることにした。

その夜布団に入り今日の出来事を振り返った。俺はあの橋口と話したのかと思うと同時に自分の頬が赤くなったのを感じた。

まじかぁ。そっか。俺橋口のこと好きなんだ。

その日は橋口が歌っていた曲を聴きながら眠りについた―――。




翌朝。俺は橋口の家にいた。玄関を開けた橋口と目が合いよっと挨拶をした。

橋口は戸惑いと驚きの目をしていた。そんな表情までもが愛おしかった。

今日から屋上でご飯を食べることを伝えると橋口は困ったような戸惑っているような表情をし俺は返事を聞く前に学校へ向かった。

お昼。屋上にいると橋口は来てくれた。そして一緒にお弁当を食べる。

俺は自分のことを知って欲しくて橋口に家族の話などをした。

すると橋口も徐に自身の話をしてくれた。

その話はあまりにも悲しくでもとても強い話だった。

橋口のすごさを感じた俺はふいに少しだけ橋口が口をつむっているのが見えた。

もしかして泣くのを我慢しているのでは?と思った俺は泣いていいんだよってことを伝えた。

すると橋口はまるで子どもみたいに俺の腕の中で泣いた。それに少しどきどきしながら俺は橋口の頭を撫でてあげた―――。




どれほどの時間が経ったかはわからない。橋口が慌てた様子で腕から離れたのが少し面白くて笑ってしまった。

「泣いたり慌てたり忙しいやつだな恵は」

言ったあとに呼び捨てをしたことに気づきあっと思い橋口を見る。

すると橋口は照れたような恥ずかしいような顔をしていた。あまりの可愛さに俺も息を飲み友達だからいいだろと言った。

「ありがとう。颯馬くん、、。」

突然の名前呼びにびっくりしてしまった。照れたのを隠すため俺は急いで立ち上がる。

そうだ昨日の歌を聞こうと思い歌ってよと言った。

すると恵も立ち上がり俺の隣に来た。座っていた時よりも距離が近くドキドキしてしまう。

でもこの距離の近さも全て冬のせいだ。寒いから近いのだ。そう自分に言い聞かせる。

そして俺と君が一番好きな曲を歌ってくれた。

今俺恋をしているそう感じながら恵の歌を聞いた―――。

國龍・2023-12-17
短編小説
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『変なひと』










「あの、わたし、緊張しやすいんです。そういうのに効く薬はありますか……?」




 自信なさげに目を伏せる少女が、扉のベルを鳴らして現れた。


 話しかけたと思われる僕に対しても目線を合わせてくれず、瞳孔がやけに揺れている。



 絹のように白く、あまり日に焼けていない腕を、寒さに耐えるかのように組んでいた。残念ながら冬の空気が遠のいてきており、近頃は暑さすらも感じるが。





 そんなことを考えながら、少女を見つめていると彼女の胸まで届く、長い髪が揺れていることに気付いた。
 ここは室内だ。新たな客が来て、扉が開いたわけでもないのに何故揺れているんだろうか。







 なにか、おかしい。





 緊張しやすくて内気な性格だと言っても、こんな風に見えるのだろうか。





 僕はどこか違和感を感じつつも


「少しお待ちください」


と言って、薬が並ぶ棚をすり抜け、その奥へと進んだ。



 調合には悩んだけど、いい薬があったことを思い出した。少し手間がかかるけど。













 持ってきた薬を小さな紙袋に入れて、すっと少女に手渡した。彼女はなにか言いたげにしていたが、紙袋を受け取ると、また目を伏せて去っていった。










 すっと静かになり、お暇となった扉のベルを眺めていると、自分の肩に誰かが腕を回してきた。わざわざ顔を見なくても、それが誰なのかはすぐ分かった。



「晴人。なんだよ、彼女の惚気はもう聞かねえぞ」



「なあ、さっきの女の子。ちゃんと代金払ったよな?それに、うちの薬の中でそんな調合ができるモノなんてあったっけ?」


 僕はふざけながら言ったけれど、晴人の声色は重たかった。




 僕の言葉には何も返さず、晴人は少女のいた空間だけを見つめている。その表情にも不安が感じられた。





「代金を払うどころか、彼女本人は払うつもりも払うお金も無かったと思うよ。あと、あの紙袋の中に薬なんて入ってない」





 少女がおどおどした様子で薬の有無を聞いてきたのは、緊張しやすいから。


 それは確かだと思う。


 けど、それだけであんな挙動になるのだろうか。




 見た目は普通の女の子だったし、人目を気にしてキョロキョロしているわけでもなかったが、少女の瞳がなんだか暗いように見えた。




「え、でも、薬を入れたんだよな?」



「うちで扱ってる薬は入れてないけど、彼女にとっての薬は入れたつもりだよ」



「は?お前、何言ってんの?それに、あの子が払うお金すら持ってないって……」




 僕の言っていることは決して間違いではないはずだけど、晴人はよく分からない、という顔をしている。






「ちょっと来い」


「あぁ」



 僕は周りのお客や従業員に聞かれないよう、晴人を連れて、人気のない薬棚の奥に移動した。そして、ひとつ咳払いをしてから説明した。





「薬屋の裏にナガミヒナゲシが自生してたから、適当に摘んで、それを入れただけ。だから、あの袋の中身はただの花」



「え、花?薬じゃなくて?」


 僕は腕を組んで壁をもたれつつ、晴人の脳内に染みわたらせるようにゆっくりと話した。





「そう、植物の花。うちで調合した薬なんか入れてない。彼女が後ろめたそうにしてたから、緊張しやすくて人見知りにしては違和感があった。だから、わざと花を入れて、彼女に渡した」




「お前、最初からあの子がお金持ってないこと、気付いてたのか?」






「そういうことになるね。そのせいか、僕が代金を貰おうともせず、普通に薬を差し出してくるから彼女がやけに驚いてたけど」





 二人の重く、静かな空気に水を差すように、カウンターのほうから人の声とベルの音が聞こえた。


 そろそろ戻らないと。まだお客さんが多く来る時間帯だな、なんてぼんやり考えていると晴人がボソッと言葉を漏らした。





「でも、最初から払うお金を持ってないのに、うちの薬屋に来たってことは……」



「あの少女は罪を犯そうとしてたんだよ。結果は未遂に終わったけど」



 晴人の中に溜まる、いやな予感を俺はしっかりと穿つように言った。




「いやいや、未遂でもアウトじゃんか。ちょっと誰か呼んで……」




 従業員を呼び出そうと、明るい方へ行こうとする晴人の手を掴んで、その歩みを止めさせた。





「もういいから。緊張しやすいのは本当だと思うし。結局、何も盗まれずに済んだんだから、こっちに何も損は無いんだし」



 本当に調合した薬を入れたわけではないし、ただ街中でもよく見かける花を彼女に渡しただけ。



 それに、彼女が根っからの悪い子ではないような気もした。袋に入れたナガミヒナゲシがあの少女を更生の道に導いてくれるのではないかと、僕は淡い、しがない期待を抱いていた。



 それに縋りつくように、晴人に訴えるように彼の手首を握る手元を少しだけ強めた。





 晴人はじっと固まって、またボソッと呟いた。


「……変なやつ」








 その言葉に、僕も握る手をゆるめた。



「腐れ縁の人には言われたくない」



 そう言い返してやった。










 それから、少女のすがたは僕も晴人も見なくなった。

灰宮 凪・2023-06-06
ようやく書き終えたのでとりあえず満足です。
後半から文章の書き方が雑になってます。すみません。
この話を優しい物語ととるか、狂ってる二人の物語ととるかは読み手次第です。
なんか堀川次郎と松倉詩門の二人みたくなってますが、全く関係ありません。
推敲はやらない質なので、毎回目が粗い小説で申し訳ないです。
誤字脱字あれば教えていただけると助かります。
灰と游ぶ。
創作
小説
短編小説
ないものねだり





♡♡



カノンの心に流れ込む気持ち。

セルのあたたかくて優しくて

大きな愛がカノンを包み込む。

大丈夫だよ!と

大好きだよ!が

空に羽ばたく自由の翼となり

カノンを突き動かす!

心の原動力になった。

*☼*―――――*☼*―――――

もうすぐ

事情聴取が始まる。

*☼*―――――*☼*―――――




♡♡

꒰ঌ𝓶𝓲𝓴𝓾໒꒱(ひとこと更新(2023/12/21 19:34:26))・2023-10-12
短編小説

なんで君は優しくしてくれるの?

どうして僕に構うの?

やめてよ。そんな思わせ振り。

そんなことされて、意識しないわけ無いのに。

また、誰かを好きになっちゃうじゃん。

ユウ・2023-11-22
ユウの独り言
独り言
片思い
短編小説
オリジナル小説
フィクション
叶わぬ恋
届かない想い
届かない恋




-短編小説-

『猫と学ラン』






















「体験入部でやってきました!! 一年の山田サトシ!! 好きな動物は猫!! 嫌いな人は、嘘をつく人!! 特技は、人の嘘を見破ることです!! 足の速さなら誰にも負けないと自負してます!! ぜひお役に立ちたいです!!」




その笑顔が眩しい少年・山田は、学ランのボタンを上までぴっちりと閉めていた。背筋をこれでもかと伸ばして、真面目だと伺える。




「うんー、元気でよろしい。でもね、ここは美術部なんだよね」


「はいっ」




目に少しかかるほどの前髪を揺らし、笑顔のまま、部長らしき丸刈りの生徒に顔を向ける。




「美術部は、走ることがないんだよねー」


「はいっ!!」




山田は元気に叫ぶと、楽しそうに飛び跳ねる。




「元気でよろしい。あと、嘘つく人が嫌いで嘘を見破れるっていうところは一旦無視するね」


「すごい丸刈りですね! 野球部ですか?」




山田は前屈みになって、興味深そうにその丸い頭を見つめる。




「美術部だよー」


「あっ、失礼しました!! 小野寺さん!!」


「部長の植上シゲトです。まだ名乗ってなかったねごめんねー」




植上は冷静にぺこりと山田に会釈した。




「はい!! 僕は山田」


「サトシくんだよね」


「はい!! 急に下の名前で呼ばれるのは嫌いです!!」




山田はまた真っ直ぐ背筋を伸ばし、指先を体の真横に揃えて気をつけの格好をする。




「それはごめんねー」


「シゲトさんは」


「呼ぶのは嫌いじゃないんだね。うん、まあ続けて?」


「校舎裏で猫を●したことあります!?」




その明るい表情からは想像もできないようなことを言われた植上は、思わず黙ってしまう。周りの美術部員も少しザワザワし始めた。


植上は、やはりこいつはおかしいと思った。この高校の制服はブレザーのはずなのに、学ランを着ている。この部室にやってきた時から内心少し怖かった。




「……えっとー、ないね」


「なるほど、そういう人なんですね! また一つシゲトさんのこと知れて嬉しいです。じゃあ解剖して内臓をスケッチしたことは!?」


「ちょっと待って! 君は、それをやったことあるの?」


「はい!!」


「……そうかー、かける言葉が見つからないな」


「で、ありますか? やったこと。天才部長さんのことだからありそうですね!」


「うーんとね」




植上は、ここで同類のふりをしなければと考えた。でなければ何か恐ろしいことをされるような気がして。




「あるー……よ」


「山田サトシ!! 僕の嫌いな人は、嘘をつく人です! 特技は、人の嘘を見破ることです!!」


「あ……」


「シゲトさんのことは尊敬してるし、下の名前で呼ばれても嘘ついてもシゲトさんのことは嫌いにならないですよ。むしろ人間味のある駄目なところが見れて嬉しいし、好きです!! あれ、逃げようとしてますか?」


「いや、あの」


「足の速さなら誰にも負けないと自負してます!!」




植上は廊下まで全力疾走する。山田はそれに一秒ですぐ追いつきそうな勢いで、笑顔のまま走っていった。










(終わり)

























































































-あとがき-


ラブレターズのコント「机上旅行部」に影響されてる奴ですどうも。コントに影響されてるから、こんなに地の文少ないのかもしれない。でも本家にはなかったはずの会話だと思います。初恋のネタも混ざってる。


学ランが好きです。


この小説は今日、溜めてた限定写真の中にこの可愛い背景写真があったので、何となく『猫と学ラン』と書いてみたら、美術部部長植上と変な新入生山田の会話のセリフが自然と浮かんできて、1時間くらいで完成したものです。


最初らへんの会話の雰囲気は完全にコントに影響されてる(内容自体は全てオリジナルです)。だけどオチが物騒だね。最初のセリフが最後に戻ってくるっていう。まあ下手な伏線だけども。


(終わり)ってのがダブルミーニングになってるのかな。今気づいたわ作者なのに。


投稿する時に、後半のセリフが禁止ワードに引っかかってこの投稿が見えんようになるのが1番怖い。


慧兎さんと萃蘭さんより、タグを2つお借りしました。


そういえば私は黒猫を飼っているのですが、最近寒いからかよく寝るようになりました。冬眠的なそれでしょうか。可愛いです。だけどこんな話を書いてしまいました。なんかごめんなさい、うちの猫。


もし良ければの話ですが、この小説の感想をいただけたら嬉しいです。ここまで読んでくださりありがとうございました。

筧沙織>短編投稿・2024-01-25
小説
短編小説『学ラン』シリーズ
短編小説
こちらココロ難破船
後味の悪さも愛おしい
小説/from:沙織
タグ紹介/from:沙織
独り言
しんどい
苦しい
辛い
先輩
後輩
怖い
学ラン
一人になると



<四肢涙々・前兆>




 孤独と寂しさは無限だ。選択次第でそうなっていく。やがて末端が動かなくなるまで孤独のままという人間は何人もいる。おそらく僕もそのうちの一人になるのだろう。



 不思議な二人暮しを開始して1週間が経とうとしている。リストバンドの女性の名は江藤といった。下の名前は教えてくれなかった。



 俺がいつも使っている男性用のものではあるが入浴して身だしなみを整えると、ボロボロでパサパサした見た目が改善された。



 食事を摂るようになったからか、段々血色が良くなっていく。袖から見えるリストバンドと枯れ枝のような腕が目立つが、前よりも健康的なのは確かだ。



 小さく囁くような声も、僕との生活に慣れたおかげか芯を持った本来の彼女の声になったらしい。低く掠れた声で、意外と逞しかった。



 江藤さんは僕を「無趣味でつまらない人間」だと言う。そして僕の本名を知ろうとせず「松浦さん」と言う。〝つまらない〟から三文字とって〝まつら〟、そこから松浦らしい。



__「私は下の名前を言ってないんだから平等にするためです」



だそうだ。本当に変な人だと思う。別に僕は本名言ってもいいしそんな小さなこと気にしないのに。



 前に見かけた時の弱い細いという印象とは真逆の人間で驚いている。



「なーんだ! 趣味あるじゃないですか」



 矯正されていない歯を見せて嬉しそうに笑う江藤に、喉から胃まで悪寒が走った。吐き気がした。江藤の目に黒と紫がかったうねりが見えた。ずっと見えていなかったこの女の奥底が顔を出したような気がする。



 俺の腕を掴む力が強くて骨がキリキリ鳴っているような気がする。皮膚が雑巾のようにシワが寄って痛い。女に、男が、なんでこんなに恐怖を感じているのだろう。



1998.6/23







 ジリジリと暑い太陽と雨。あれは夕立だった。



「今日(こんにち)も夕立か……」


「今日(きょう)も? 今は夕立だけど昨日は雨だったよ」


「そうか」



 祖父は変な人だった。いつもどこかボケていて基本空を眺めている。祖母にそのことを訊くと、通常運転だと言う。元々そういう人だったそうだ。



 祖父と散歩していると、そこらに生えている紫色の雑草を見て「これはラベンダーだな」と言う。ラベンダーならいい匂いがするはずである。無論これはただの雑草なので、鼻につっかかるような草の匂いがするだけだ。



 祖父は祖母よりも裁縫が得意だった。趣味でよく作っているそうだ。完成した作品を最愛の妻にプレゼントして、その喜ぶ顔を見るのが楽しみのひとつだ、と。



 僕は妹とその姿を見ては、こちらまで嬉しい気持ちになっていた。



 なんでこんなことを思い出したのだろうか。まあいい。今日の日記はこれで終いにしよう。

筧沙織>短編投稿・2023-06-23
小説
架空日記
6
壱年ぶり
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短編小説
物語
創作
独り言

『夜のガスパール』

ep.1
<幻想曲>

四月。春の陽射しがあまりにも優しくない昼下がりだった。
この頬の火照りは緊張のためか天気のためか、若しくは目の前に座る彼の所為なのか。新品で身を纏った私は、散りゆくばかりの桜のもとで、彼を見た。

入学式。億劫だった。
私は他人に好かれる方ではないという確固たる自負があるし、これから始まる高校生活が、煌めいたものになりはしないという確証があった。
それもそう。私がこの高校を選んだ理由は、部活動であるからだ。中学校で吹奏楽を始めた私は、”結果が伴う努力”というものに魅了された。近場であり、強豪校とされるこの学校に決まるのは早かった。偏差値そこそこ。校風そこそこ。周りの大人は、中学時代を勉強に捧げた私に「目指すべき場所ではない」と幾度の再考を求めたが、私としては、好きなことをしていたかったのだ。それは兎も角、これから始まる部活動一色の高校生活は、輝かしい女子高生とは程遠く、泥臭く苦痛なものになること間違いなしであった。

そんな矢先である。
女子が大半を占める環境では、”先輩にかっこいい人がいる”などという色めいた噂は即日回るもので、それは既に私の耳にも入っていた。
並んだ桜の木は、時遅く、散ってしまっていた。卒業式には間に合わず、入学式には遅すぎる。桜の花は実は人間にそぐわないなぁなどと愚考する私の目の前に、春が舞い込んだのはその刹那だったかもしれない。
花びらのもと、石畳に座り込む彼は、私を見ていた。
すぐに、彼がそうなのだとわかった。
目が合い、反射的に逸らす。
人間の習性といえば、そうである。見続けることができなかったのは、そういう理由であると思った。
しかし間違いなく、私たちの始まりはその瞬間であった。

彼を次に見たのは、意外にもその日のうちであった。
部活動に顔を出すと、彼がいたのである。全くの予想外だった。
ひとつ年上の先輩である彼は、ワックスで固めた髪に、緩んだカッターシャツとブレザー。骨格の綺麗な顔立ちをしていた。道行く人の視線を集める人だった。素行の悪そうな見た目も含め、魅力的な人だと思った。
そんな彼が所属していたのは、意外にも吹奏楽部で。強豪と謳われるその場所には、とても似つかわしくない人だった。不似合いな楽器や幻想曲が、アンバランスで可笑しかった。

見かける度、必ず数人の友人たちの真ん中にいた彼。何があっても決して怒らない性格だが、それはどこか、何に対しても真剣になれない悲しいひとなのだと感じさせた。
彼のどこか儚いところか、或いはその整った目鼻立ちか。私は直ぐに彼に惹かれた。

私たちは、交わってはいけないと思った。
実は当時、彼には年単位で付き合っている彼女がいた。彼よりまた年上の、他にない雰囲気の人だった。
その前提がある上で、彼が私に目を向けていること、そして意識的に避けていること。私にもわかっていたのである。
お互いがお互いの正解だと、漠然とわかっていた。

___________________

ご覧いただき、ありがとうございます。

『夜のガスパール』ep.1 <幻想曲>です。
ふたりの出会い、一度目の春の編になります。

<プロローグ>の方未読の方は、是非そちらも読んで頂けると幸いです。

※この物語は、全てノンフィクションです

李・2023-04-02
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美術室 。

私は 見てしまった 。
いつもジャージを貸してくれるあの子 が



私のジャージを切っている 。



私は気づかないフリをした 。



理科準備室





いつもジャージを貸してくれるあの子は

私のジャージに何かを付けていた 。


また私は気づかないフリをする






気づいてしまったら 、
ジャージを貸してもらう理由がなくなるから 。

幻・2023-10-04
短編小説
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共依存


小説

〈すきなもの〉






江藤に腕を掴まれた。「趣味あるじゃないですか」と嬉しそうな顔をしていた。江藤は前に僕を「無趣味でつまらない人間」と言ったけれど。



見つかった。江藤に見つかった。一週間前にできた僕の同居人。うっかり見られた。そもそも身元も知らない女との二人暮らし。僕のコレクション、もっと隠しておくべきだった。くそ、信用するんじゃなかった。



俺には、昔から収集癖があった。好きな人や大切な人のゴミや髪の毛を集める。普通に考えて、いけないことだと分かりながらも、やめられない。



覚えてる限りで一番古い収集の記憶は小学校三年生。初恋だった。俺には好きな男の子がいた。少しやんちゃで体を動かすのが好きな、前の席の男の子。小川勇輝(おがわゆうき)くん。



でも幼いながらも自分はおかしい周りと違うと気がついていた。同級生の男子は「あの女子が可愛い」「あの子が好き」と女子の話ばかりをする。



みんな最初から女の子に恋をしている。そういう風にできている。男は女に、女は男に恋するのが普通だ。そんな世界の中で男の俺は、初恋で男を好きになってしまった。



想いを伝えても受け入れられることなんてないだろうから、せめて友達として近くにいようと思った。でも欲張りな俺はそれだけじゃ満足できず、もっと勇輝くんを近くに感じていたいと思った。



「なあ、俺の消しゴムないんだけど知らない? すごいちっさいやつ!」

「えっと……知らない」

「困ったなー、悪いけど貸してくれる?」

「……うん! 俺予備持ってるからあげるね」

「ありがとう! うおお、角がある新しいやつだ」

「ふふ」



「なあ、俺が休み時間に折ったツル、どっかいたんだけど知らない? トイレ行ってる間に机からなくなっててさ」

「し、知らないかな」

「そうかあ。別にいいけどな! 暇だから折っただけだし」

「……そっか!」



「飲んだ牛乳パックのストローなくした。落としたかな。ないなあ……」

「大丈夫? でもストローは別になくしてもいいんじゃないかな」

「そうなんだけど、最近なんかなくしものが多いんだ。今みたいになくしてもあんまり困らないものばっかりだけど」

「へえ。大変だね」

「お前もなくしものには気をつけろよー?」

「うん!」



俺の勉強机の引き出しの奥に隠している。誕生日祝いでもらった車のラジコンのケース。それにセロハンテープを貼って、そこにネームペンで「小川ゆうきくん」と書く。



勇輝くんの小さい使い切り直前の消しゴム、勇輝くんの下手な折り鶴。給食で出た勇輝くんの牛乳のパックのストロー。紙とプラスチックでできた宝箱にいっぱいの宝物。俺の全てが詰まっている。中を覗く度に嬉しかった。



ある日の休み時間。その前の授業から眠そうにしていた勇輝くんは、休み時間に入った途端寝てしまった。外に出ていい休みだったので、殆どの生徒が外に出て遊んでいた。



教室には俺と勇輝くん含め五人の生徒だけがいた。勇輝くん以外の俺を含んだ四人は大人しい生徒ばかり。担任の先生はいない。おそらく職員室にいたんだろう。



前の席で小さい寝息をたてている勇輝くん。この時だけは言葉とか意思とかがなくなって、赤ちゃんみたいに眠っている。勇輝くんはやっぱり可愛い。



軋みやすい床の上、慎重にシューズで忍び足で近づく。つんと伸びた勇輝くんの襟足。触るとちくちくする。親指と人差し指で掴んで、引っ張った。ぶちぶちと感覚が伝わる。



幸い他の生徒は本を読んだり絵を描いたりしていたので気づいていないみたいだった。勇輝くんの硬い短髪をハンカチに挟んで大事にポケットに入れる。



「いてっ」と勇輝くんが頭を押さえながら起きる。俺は焦った。ただ目を見開いて勇輝くんの様子を伺うことしかできない。勇輝くんは俺を見上げて驚いた顔をする。



「どうした怖い顔して。なんか髪の毛引っこ抜かれた気がしたんだけど、保(たもつ)お前かー? 痛えよ」

「あ、えと、ごめん傷つけるつもりはなくて」

「ほんとにお前なの」

「あ」

「なんで?」

「言えない」



沈黙が続く。勇輝くんは俺を真っ直ぐ見つめる。危険な奴を見る目だ。絶対に嫌われた、と思った。



俺の好きな人は優しかった。何事もなかったかのように日に焼けた顔で無邪気に優しく微笑んでいた。まだ友達でいられるというこの上ない安堵で腰が抜けそうだった。



許されたと簡単に思ってしまう俺は馬鹿だった。次の日から勇輝くんが僕を無視するようになった。やっぱり怒らせたんだ。初めて恋したのが君だったのに。ああ、ぼくって女々しいね。







「江藤……さん。僕の私物漁るのやめてください」



うっかり心の中と同じように呼び捨てをしそうになった。本人の前では、同じ家で暮らしている代わりに心の距離をとって敬語で話すようにしているのに。正直、家の中で〝僕〟を演じるのは疲れる。



「随分、埃被ってましたね。あのおもちゃの空箱。なんか入ってたみたいですけど」

「その手で触ってないですよね」



江藤が言い終わる前に、食い気味にきいた。今のは我ながら気持ちが悪い。でも俺の宝物に触れられたのかもと思うと居た堪れないので早く答えを聞きたい。



「そんな、女の私を汚いみたいに」

「……俺からしたらそうですけど」

「触ったのは大きい瓶の中のジップロックだけですよ」

「そうですか」



江藤は子供のお守りをするかのように、安心してくださいと言わんばかりに笑った。



「一九九八年、六月四日。雨に濡れた髪」

「……あんたって性格悪いよな」



ゆっくりと地を這うような言い方だった。ジップロックに書いてある文字を江藤は言っている。女性相手に手が出そうだ。今ばかりは〝僕〟が崩れて、自分の声があからさまに震えるのが分かる。



「結構最近ですよね日付。気になる人でもいるんですか」

「江藤さんには関係ないですよね」



江藤は黙って俺を真っ直ぐ見つめる。江藤はこう見ると美人だけど、ああ全くドキドキしない視線だな。





1998.6/24

筧沙織>短編投稿・2023-11-14
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7
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