灰野 ラスタ・2025-04-28
詩
【ブランコの鳴音】
夕暮れ間近にみる子供たちの姿は
幻の笛に追われた羊のようで
切ない足音を奏で
山へと帰る太陽だった
たゆまない世界の波が押しかけ
溺れることも出来ない哀しみは
いつか海底の涙に変わり
星が彼らを照らすだろう
【復讐】
ある人物を殺すのに、ペンを走らせイメージのなかで行う最も軽い罪。行った後は本能が作動して性欲が増す奇妙な快楽。
【閉じられた恋】
抱き合うことが全てだった時代に、虚ろな目をした君は窓の外を眺めていた。僕は君の影を失いそうで、肌を引き寄せ雫を浸した。君の声が部屋に響き、僕は安心してカーテンを閉める。
【にらむ雨】
笑いを失った時刻につける仮面は
ピエロの形をしていた
頬に伝う刺青の涙が
怒りの象徴だとは誰も知らない
愛するが故の雷鳴は
虚しく肌を切り裂き
届かぬ想いが恐怖を燃やし
去り行く人の多いことかな
【しびれる】
東洋における伝統の作法で座るときに起こる現象。良い音楽を聞いたときに用いる音声記号。
【寂しかった女】
まっすぐな貴方の視線を奪いたくて、瞳の奥をのぞいた私の夢。魔法にかかった貴方は私をみて、優しく微笑んでくれた。少しだけ罪を背負った私は、貴方と歩みを共にする。
【草原の鳴く孤独】
にじんだ涙が空に浮かぶ
光がさして肌を照らす
時が止まり心が踊る
忘れた喜びの匂いがする
立ち止まった交差点に
クラクションが襲いかかる
次々と立ち去る人々は
顔のない仮面をつけたピエロだった
【思い通り】
神を知らぬ者の成功への道。気を良くすることもあるが、後で落ち目にあう一種の娯楽。
【青空のベッド】
雪の肌にふれる時、静かな空気が僕を包んだ。微かな吐息が耳に届き、君の心を手に入れた瞬間。僕の不安は雲に覆われ、君の空が青く匂った午前の出来事。
【断光の港】
魂の雪に紅さす泣き声は
闇の世界にいざなう風の音に
怯え背を丸める獣のようで
視線を外し消えゆく景色
愛の叫びが届かぬ海岸で
白い息を空に送り
途方に暮れる船の姿が
子供のように青い空を眺めてる
【天気】
人類によっては改善の余地がみられない、英知の鏡。神への妄想をかき立てる、古代からの畏敬の対象。
【求めた体の味】
壊れた心が織り成す君の涙が、僕の胸に刺さるとき愛の呼び名を哀しみとした。君がしがみついてくる夜の鳴き声は、途方に暮れた僕の孤独を照らす。明け方の三時に交わした口づけは、濃く甘い雨のメロディに似ていた。
【足音の死】
夕闇に照らされた背中に月が手をふれ
疲弊した顔が笑顔を失い
町が迎える合唱は醜く
足が遠のく帰路の色彩
空が吼える重さに怯えながら
翼を失った鳥が休む木陰で
目を光らせる獣の臭いは
生を溶解する血の暴力
【恐怖】
愚か者が法律を破らない動機。無ければ、愛という宝石が生まれる雑草。
【ズルい男】
寂しさ故に求めた体を君は綺麗に差し出すから、僕の罪は洗い流され独りよがりの喜びに満ちた。二人で料理を囲むときに感じた幸福は、君の哀しみと許しの味がした。僕と君は深い溝に囲まれて、冷たい関係を育む仮面をつけて過ごす鳥。