小説の練習程度に書き殴りました。
→小説だと思って書けよ((殴
めちゃくちゃ雑魚いけどね( '-' )
※長文注意
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『君の居場所と、俺の逝く場所。』
~三つのタグを添えて~
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時の庭園 編
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「月彗(しすい)、ごめんね」
読みかけの小説を隣のチェストに置きながら、夜の静寂を破るように呟いた。
ベッドの温もりから抜け出し、階段を上がっていく。
鉄製の重たい扉を押し開けて、外の空気を味わった。
闇に包まれた病院の屋上はなんだか不気味だった。
気晴らしに、ベンチに腰かけてみる。
パジャマに縫われた「時苑(しおん)」という自分の名を握りしめて、頭上に広がる星空を見上げた。
そこには、月彗が教えてくれた多くの図形があった。
あれが星座なのね。最後に見れてよかった。
素早く、用事を済ませて屋上の鉄柵を飛び越す。
冷たい鉄柵にもたれかかり、最後の願いをスマホに打ち込んでいく。
__お母さんへ
今までありがとう。お世話になりました。
もう限界なので、逝くことにしました。
そこでお願いがあるのですが、
先日紹介した月彗くんを覚えていますか?
そうです。私の大切な彼氏くんです。
どうか月彗くんには、持病で死んだと伝えて欲しいのです。
自殺したことは絶対に伝えないでください。
全て、大好きな彼の幸せのためです。分かってください。
私からの最後のワガママです、お母さん。
生まれつき、心臓が弱い私を愛してくれてありがとう。
さよなら。
覚束無い指先でゆっくりと打ち込んで、そっと送信ボタンを押した。
これできっと大丈夫。
お母さんも分かってくれる。
電源を落としたスマホを屋上の床に置いた。
酸素の味を噛み締めつつ、月彗くんとの記憶を必死に掻き集めた。
何回、笑ったかな。
何回、彼の前で泣いたかな。
何回、彼に重荷を背負わせてしまったかな。
今度は、元気で可愛い彼女を見つけてください。
強く願いを込めて、スリッパを脱いだ。
その直後、強風が吹いて私の脆い体が空中へと投げ出された。
風が私の手を引くように、あの世へと誘う。
もう、間に合わない。
最後に一言だ言わせて。
「月彗、大好きだよ。ありがとう」
月彗への溢れる想いと願い。
それと、ありったけの愛と、ちっぽけな哀を込めて告げた。
よく分からない速度の中で、ただ走馬燈のように一生分の幸せを思った。
時の庭園 編 -完-
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上弦の彗星 編
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「え。あ、夢だったか」
その日は、変な夢で目が覚めた。
優しくもあり、悲しくもある夢だったと思う。
だけど、どうも夢の記憶がぼんやりとしている。
そんな夢のことはあまり気にせず、布団を剥いで体を起こした。
カーテンの隙間から空の様子を窺うと、まだ夜明け前だった。
外に広がる、灰色と藍色の色相を眺める。
時を細かく刻むように、衣の色を変える空がなぜか寂しく見えた。
視界の隅まで無限に続くその色彩を見ていると、なんだか心が落ち着いていく。
綺麗な空だな。
「月彗、ちょっと来て」
ふと、階段伝いに母親の声が聞こえた。
いきなりの呼び声に、心よりも先に体がビクッと反応した。
平日でもないのに、朝っぱらから何だろう?
階段を下りてリビングに向かうと、スマホを抱えたまま立ち竦む母親がいた。
なんだか、様子がおかしい。
「どしたんだよ、母さん。まだ夜も明けてないのに」
俺がそう聞くと、母は深刻そうな顔をして言う。
「月彗、落ち着いて聞いてね?」
それから母さんは間を置いて告げた。
「今、時苑ちゃんの親御さんから電話があったの。時苑ちゃんの病気が悪化して、息を引き取ったって」
その瞬間、俺という存在を創っていた何かが崩れ落ちた。
亡くなったと敢えて言わないのは、母親の精一杯の優しさだったんだと思う。
でも、その優しささえも余計に心を喰らい尽くすようだった。
大好きで大切な人が逝くのは、もう傷なんてものじゃなかった。
心に死神が棲みついて、心の内側から腐っていくみたいに痛かった。
「今からでもいいから、病院に行かない?時苑ちゃんの担当医だった先生が許可、出してくれたから」
そう言う母さんの声すら、遠く感じた。
覚束無い足取りで部屋に戻ると、急に罪悪感に駆られた。
「先週、見舞いに行ったときは元気だったのに!!くそっ!!」
何も出来なくて無力な自分が嫌だった。
そんな俺に向けて、時苑は「居てくれるだけで嬉しい」と言ってくれた。
だけど、その結果がこんなんで。
これじゃあ、見殺しにしたのと変わんないだろうが。
そのあと、自己嫌悪に陥った俺は部屋にこもって、食事もろくに食べなかった。
亡くなった時苑のことは、告別式に行くだけで精一杯だった。
自分の恋人が、大きな箱から小さな箱に変わるのを見て、本当に死んだんだって実感した。
その小さな箱を少しだけ持たせてもらった。
でも、時苑だと感じる理由が消えたみたいで、もう其れが時苑だとは思えなくなっていた。
そして、それから一年が経った頃。
時苑の命日に、時苑の足跡を辿るように自殺を図った。
上弦の彗星 編 -完-
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『君の居場所と、俺の逝く場所。』
エピローグ
「月香(つきか)さん、二人とも逝ってしまいましたね。自分の娘が先に逝くなんて」
「月彗はきっと時苑ちゃんが恋しかったんです。寂しがり屋ですから」
佳苑(かおん)さんの肩をそっと引き寄せて、優しく抱き締めた。
母親二人で、息子と娘の墓を見つめる。
「私の息子もバカね。時苑ちゃんは貴方の幸せを願っていたのに、追いかけてしまうなんて」
私がポツリと呟く。
すると、佳苑さんが付け加えた。
「この嘘は本当に優しいと思います。だけど、良い方向へ持っていく為には、本当の事実を言うべきだったのかもしれません」
佳苑さんが悲しく笑う。その微笑みが切なく思えた。
そんな私達が供えたのは、月桂樹の枝先とシオンの花。
優しい風が吹いて、二つの命を揺らした。
-完-
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