千華・2022-04-10
千華の絵本
鮮やかピンクの伝言板
あなたなら何を書く?
大切なひとへのメッセージ
それはきっと春色の
優しい優しい愛の歌
ようやく
紫陽花の似合う季節に
なってきたね
そう言って笑うキミは
紫陽花色のワンピース
梅雨空に咲く
あでやかな花のよう
笑顔のしずく
振り撒きながら
「幸せになりなさい」
それは
母がくれた
ただひとつの願い
そして
あなたに贈る
ただひとつの言葉
雪のちらつく交差点
信号待ちの人の中に
貴方によく似た姿を見つけ
思わず目で追っていた
そんなはずないって
分かっているのに
胸の震えを押さえられない
遠くなる後ろ姿
もしも奇跡が起こるなら
何を引き換えにしてもいい
愚かな願いをかける私を
笑うように
白い月が見ていた
春は幾たびめぐりきて
都度に花は咲けれども
我と共に
春を愛でしひとは
いずこに在りや
細切れの夜
細切れの夢
手の届かない貴方は
銀色の瞳で笑う
連れて行ってよ
暗闇の空へ
もう
置いていかれるのは
嫌だから
細切れの記憶
細切れの涙
真夜中の物語
虹の橋のたもとには
懐かしいひとが住んでいるという
探しにいくよ
いつかきっと見つけるから
それまで待っていてね
あなたの笑顔に会える日を
空の向こうに数えながら
私は今日も風を見る
たとえこの世界が
どれほど残酷でも
私は歌い続けるでしょう
ささやかなこの声が
いつの日かあなたの耳に
届きますように
舞い落ちる雪は
夜の闇に
儚く消える
振り仰ぐ空に
白い跡だけを残して
私の心に
冷たい哀しみを
降り積もらせて
真夜中の月は
静かにほほえむ
地上で起きていることなど
何の関わりもないと
ただ優しく
私を見下ろしている
無窮の宇宙(そら)にひとり
永遠の孤独とともに
あなたはやはり美しい
白く輝く汚れなき月
息をするのも
辛かった
真っ暗な海に
放り出されたようで
何も見えない
聞こえない
もがきながら
手を伸ばした先に
たったひとつの
小さな灯り
そしてボクの耳元で
キミの声が聞こえたんだ
「 ――― 」
ボクを導く最後の標が
キミだったんだよ
今夜は少し
冷えるね
そんな時は
傍においで
ふたり
体を寄せ合えば
気持ちも
温かくなる
ひけらかすわけじゃないけど―
と、キミは言った。
私、一度死んだことがあるの。
え?
だからね、今ここにいる私は幽霊なの。
ああ、そう。
だからキミはそんなに儚くて
今にも消えてしまいそうなんだね。
満開の桜の下で
キミはボクに笑いかける。
透き通った妖艶な笑顔で
ボクを異世界に連れ去ろうとする。
実はね―
ボクの体は、今も
この樹の下に埋まっているんだよ。
あなたがこぼした涙の粒は
きっとこんなに綺麗で
こんなに儚いのでしょう
私の知らないあなたの涙
今もそこにありますか
誰かを思って凝っていますか
色褪せた手紙
そこに綴られた言葉が
今も私を縛り付ける
甘い恋のささやきなど
とうの昔に
消え果てたというのに
変わらぬものなど
何ひとつ無いと
知っているはずなのに
亡骸だけになった
言葉の残滓は
いつまでも消えない呪縛