元々私は病弱でした。
幼い頃から立てない程体が脆くて
歩くことさえ出来ません。
皆が流し目で見る風景も
固定化された暗室しか見ることが
出来ない私には全てが羨ましかった。
学校の楽しさも
お家の温かみも
何も知らないまま
ただ、ひたすらに
冷たく、重く、のしかかる
病室に私の夢は
打ち消されていった。
しばらくして
この牢獄から抜け出せる、と
そう医師にチャンスを与えられた
選択肢は二つだった。
手術か投与か
安全性に欠ける選択を取る程
私の思考は腐ってはいなかった。
早速、投与が始まった
期間は二十日
新作のお薬らしい
作用副作用を知りたかった
らしいので
加えて日記を書くように頼まれた
何だか妙に甘い匂いがしたが
疑問には至らず
投与は明日からとなった。
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1日目
今日は初めて良い夢を見れた。
案の定、その薬は激甘だったが、
使用感に異常はない。
2日目
薬の投与量が一粒から四粒になった
劇薬ではないが少し不安
甘さが倍々方式になって
吐きそうになったが
無理をして飲み込んだ。
三日目
数も味も変わらない。
四日目
脚の指が少しだけ動くようになった
そう思うと暗いはずの室内が
少し明るく感じた。
五日目
何だか頭がフラフラする
眠れない夜が続いた
でもお薬があるから大丈夫
今じゃこの甘味すら愛おしい。
六日目
量が増えて味が薄くなった
四個目から何故か数えられない
前より頭が悪くなった。
七日目
今日の投与は無しって
白衣の人がいってた
しばらくして
体中が不安と疼きを感じ始めた
薬が欲しい。
八日目
目覚めるとベッドが
引っ掻き傷やら
唾液や血液でいっぱいだった
同様に私の体にも同じ傷がついていた
……何これ?
薬が欲しい
薬が来た喜んだ。
九日目
薬の味が薄くなってきた
そのことに腹が立って
コッチを見ていた大人に
何でだ!と怒鳴った
……味は変わってないらしい
フザケルナ。
十日目
お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬お薬
ーーーーーいっぱいでウレシカッタ。
ジュウイチニチメ
オクスリはとてもアマかったです。
ジュウニニチメ
オクスリをノムとなんだかノドが
カラカラします。
ジュウサンニチメ
また、オクスリをノみます。
ジュウヨンニチメ
オクスリはコッチをミてタノシソウき
ワラッテました
ジュウヨンニチメ
コッチへ
コッチへ
コッチへ
コッチへ……オイデよ
ダンダン、オオキクナッテマス。
ジュウゴニチメ
オクスリさんハ
ワタシをノミコミマス。
ジュウロクニチメ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。
ジュウナナニチメ
「 」。
ジュウハチニチメ
「 」。
ジュウクニチメ
「 」。
ハツカメ
イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ
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二十一日目
田仲玲子さんは
今日本来なら退院でしたが、
投与から明らかに様子が豹変して
担当職員への暴行未遂
薬物保管室への侵入
器物破損
過剰摂取
その後絶え間ない自傷行為による
失血によって
当日、死去されました。