《さようなら》
空は真っ黒なのにも関わらず
辺りは人口の明かりでいっぱいだ。
魔女やらゾンビやらドラキュラで
街中仮装している人だらけだ。
凝りに凝ってるいる人から
遊び感覚でやっている人。
僕はその中間ってところだろうか。
今年は狼男の格好をしてみた。
こんなことに参加して
人混みに進んでいいくタイプではない。
なんの日だろうがお構い無しに
家でひっそり過ごす方だ。
人混みをかき分けて前へ進む。
けれど、右も左も分かりゃしない。
会わなければいけない人が
この先で待っているのに。
集合場所の辺りには人が少ない。
街からもだいぶ離れてる。
月明かりに照らされて
君はそこに立っていた。
「やあ、久しぶり」
『あ、やっと来たぁ。』
君は僕を見るなり頬を緩ませ
暖かい笑顔を向ける。
今年の君の仮装は黒猫。
猫っぽい君にはぴったりだ。
「可愛いね」
『えへへ』
「歩こっか」
『うん!そーしよ!!』
君は僕の隣にスキップをして並ぶ。
君が隣にいることへの安心感が
心地よ過ぎて自然に笑顔になる。
久しぶりに会うと
話したいことが山ほどあっても
上手く出てこないもんだ。
話の先陣を切るのは
君に任せっきりだ。
こんなにも可愛かったけ、
思わずそう呟いてしまいそうになる。
君がいる。
隣にいる。
『ねえ、そろそろだと思うんだ。』
その言葉を発する君の表情を見て
僕は全てを察した。
けれども、知らないフリをした。
悪い予感がよく当たる僕だ。
きっとこの予感もバッチり当たってる。
「何が?」
『さよならって言って』
君が笑顔で僕にそう言ってきた。
「ごめんね。」
僕は謝ることしかできない。
『あなたは毎年毎年ずるいよ。』
『ごめんねってその一言で終わらせる。』
『今年こそは終わろ』
さよなら
その一言がどれだけ僕を
どん底に突き落とすか
君は知ってる。
さよらなら
その一言が君からの精一杯の
僕の幸せを願ったことなのかも
僕は知っている。
『私が君の道を塞いでる。』
「そんなことっ、…」
『ううん。私は過去の人なの。』
「信じたくないんだ」
『うん。わかる。私も。』
「……」
『幸せになって』
君の笑顔はずるい。
何でも許してしまいそうになる。
「君が好き」
『私も。あなたが好き。』
「愛してる」
『愛してる。』
自分で言ってって言ったくせに
君は今にも泣きそうじゃないか。
「さようなら。」
『さようなら。』
僕の大好きな彼女は
5年前に事故にあって消えた。
想いは増すばかりで
僕は諦めが悪かった。
『Happyハロウィン!!』
そう言って魔女の仮装をした君が
笑顔でやってきた日を覚えてる。
一年に一度
悪霊もやってくるが
君の霊もやってくる。
ずっと続くと思ってた。
でも、続くことを君は望まなかった。
「 」
僕は言いかけた言葉を
頭の中で消した。
戻ってはいけない。
進まなければいけない。
「さようなら」
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