『僕が生まれた日、僕が今出来る事』
「誕生日おめでとう」
聞き飽きたこのフレーズ
なんの感情も無いこの言葉
今日は僕の1番嫌いな日だ
毎年欠かさずやってくる
５年に1度くらいでもう十分だ
でも、そういう訳にはいかないみたいで
まだ毎年やってくるこの日
「誕生日おめでとう！！」
『ありがとう』
朝からすっと笑顔をつくる
友人が嫌いな訳では無い
ただ、別に好きでもない
まあ、はっきり言って
僕の世界のその他の人間に分類される
彼らに好きも嫌いもないという感情だ
ただ、人を除いて
「誕生日おめでとう」
さっきと全く同じフレーズ
今日だけで何度目だろう
ただ、こいつからのは他の奴らとは
違う
確実に違う
何が違うか分からないけど
ただ、背筋が凍るようだ
俺はこの目の前の彼女が大嫌いだ
『ありがとう』
嫌いでも好きでもどっちでもなくても
僕はすっと笑顔をつくる
これは得意分野だ
「今日もその笑顔だね」
ただ、それだけ言って
皆の中心へ走っていく
その後ろ姿を見て
嫌いだと再確認した
僕の昼の恒例行事は
屋上で寝転がって空を見上げること
今日もいつものように
屋上に向かう
ドアを開けた時先客がいる事に
気づいた
僕が相手を確認した時、認識した時
そして逃げようとした時
もうそれは全て遅かった
「なんで逃げようとするのよ」
笑ってるのは僕の大嫌いな彼女だった
『逃げようとなんてしてないよ』
なるべく早く戻ろうそう心に誓って
僕は彼女の元へ近づいた
「その笑顔疲れないの」
『どうだろ』
「私君の笑ったとこ見た事ないかも」
『いつも見てるだろ、今も僕笑って』
「その下手くそな笑顔じゃないやつ」
だから僕は彼女が嫌いだ
いつも僕の全てを見透かしているようで
何もかもバレているようで怖いんだ
『君こそみんなの中心で笑ってて
疲れないの？』
「私のはほら、君のとは違って
本当の笑顔だから」
『あっそ』
「冷たいな」
顔を見合わせて笑った
楽しいと思った
「普通に笑えるじゃん」
そう言って僕の頭をくしゃくしゃに
する彼女は何故か涙を流していた
『なあ、僕今日誕生日なんだけど？』
「え？何？プレゼント？」
『そう』
「また気が向いた時に渡す」
『絶対プレゼント
用意してねえだろそれ』
彼女の涙は、あえて触れないでおいた
いや、怖いから触れなかった
彼女が泣くのを見たのは初めてで
胸が苦しかった
次の日彼女は休んだ
その次の日もその次の日も
そんなある日、僕は夢を見た
「何泣いてんの」
『泣いてねえよ』
「私居なくて寂しいんでしょ」
『わかってんならはよ来いよ』
「どーだかなあ」
『は？どういう意味だよ』
「あ、ごめん時間だ
ばいばい」
笑顔で手を振る君の後ろ姿
下のアスファルトには涙の跡が滲んでいた
彼女が病気で入院していると聞いたのは
その夢を見た2日後だった
ガラガラッ
「え、なんで」
『なんか、足が勝手に？』
2人で笑った
わざとらしく大きく
馬鹿みたいに声を上げて
「笑うようになったね」
『どっかの誰かさんのせいでね』
「多分そのどっかの誰かさんは
美人で心優しくて素敵な子なんだろうね」
『君の予想の真逆の女の子だけど
僕がずっと憧れてた女の子だよ』
そう言うと彼女は笑って
僕の頭をくしゃくしゃにした
その三日後
彼女はこの世を去った
こんなふざけた手紙をおいて
【拝啓 私に憧れてた君へ
これ読んでるってことは
私はもうこの世にいないのかな
ってフレーズを書きたくて手紙を
書きました。
今君はどんな顔してるかな
もう無理して笑ってるとかは
ないと思うけど
まあ、もう少しきみの
本当に笑った顔見たかったな
でも、もう少しわがまま言えば
君の泣いた顔も見たかった
別にそういう趣味はないけど
君の色んな姿を見たかった
君は私を憧れって言ったけど
もう君は私をとっくに越えてるよ
これから君は大丈夫
なんて、そんな無責任な言葉言うの
嫌いだから言わないけどさ
私、きみの事＿＿＿＿＿】
最後の一言
の、最後の言葉
何度も書き直した跡
涙の跡
消しゴムでぐちゃぐちゃになった跡
その後ろに見える小さな文字が
僕の何かを切った
プツンッ
涙が溢れて止まらなかった
その手紙の横には白いバラが咲いていた
白いバラのはちの小さなメモ書きには
【少し遅めの誕生日プレゼント】
ただそれだけだった
白いバラの花言葉
【わたしはあなたにふさわしい】
僕が君にふさわしくなる頃
君はもうこの世にはいないなんて
こんなバッドエンドはあるだろうか
なんて僕はもう言わないから
ねえ、僕が今できること
それは僕の笑顔を涙を1つ君に見せること
