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#ジョウビタキ

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全2作品・



短編小説




『ジョウビタキ』


#3



津島 と 神崎






カッ カッ カッ


ソメンヨシノの並木通り

裸の枝をよく見ると

開花の準備を進める蕾たちが

ふっくらと色づいている

春の足踏みに合わせて

エンジ色のウィンドブレーカーを

纒った男が 颯爽と駆けていった








朝の有酸素運動に利用する

湖のほとりに着くと

今日も 無意識にある人の影を探す



___いた。



やや高めの針葉樹に囲まれた薄暗い一角

絵を描く少女の姿があった

自然の隠し絵の一部になったように

ひっそり しなやかに佇む


ザワッ…


力強い 立春の風が

水面を叩き大きな波紋を描く

その美しい曲線は

風上側の岸に立つ彼女の方から

すっと僕の方へ

音もなく広がっていった


y=Asin*2π/t(t-x/v)

…実際は目に見えない

抵抗の数々が邪魔をする

高校の授業で習う数式通り

波を捉える事は出来ない

そう… 今の… 俺では…







カッ カッ カッ…!


北帰行を控えたジョウビタキの

地鳴きが先程の 並木道から響く

その声に押されるようにして

僕はゆっくりと加速をつけ

いつもの周回コースを走り始めた



走り続けるうちに 樹海の深瀬まで来ると

例の少女の後ろ姿が見え始めた

少し ピッチを広げ 顎を引く

今日こそ 会釈の一つぐらい

出来るだろうか…

そう考えている内に

心は否定的な意見を唱え始める

ゾワッとした感覚に意識は反れて

気がつけば 次第に彼女の姿は

遠のいていっていた…


嗚呼 この茶番を何度繰り返せば

気が済むんだと

先程まで否定語を吐いていた心は

態度を一変し 僕を嘲笑う





その時だった

なんとも耐え難い痛みが

左脚を襲った




「 ぁぁあ!」

情けないうめき声と共に

僕の身体は地面に崩れた…

一度 肉離れを起こした部位には

癖がつく きっとその類だろう…




「 だ、大丈夫ですか!?」

どこからか若い女性の声がきこえた

軽やかな足音がこちらに近づく



…………最悪だ…



それでも 余りの痛みに

返す言葉もでない

膝を抱えたまま のたうつ…


「 左脚が吊ったんですね…?

仰向けになって下さい

脚伸ばせれますか…?」

彼女は手際良く

簡易的な処置を施してくれた


脚の痛みが和らぐと共に

自責と羞恥の念が込み上げる…


僕はただ謝罪の言葉を連呼し

痛みと自己嫌悪に耐えた__



ようやく 落ち着きを取り戻すと

自分の置かれる状況が見え始めた

頭上には 樹海の空が揺らぎ

少し左へ視線を移すと

先程の少女の横顔があった




「………本当に…すみません…」

僕はゆっくり身を起こした

「 気にしないで下さいよ… 」

彼女は笑って返す




ザァッ…

そよ風がいじる髪を耳にかけながら

彼女はゆっくり前を向く

スズランの香りが鼻をくすぐった



「 季節の変わり目です

シーズン前でもありますし…

あまり 気温差の出る

時間帯の走り込みは

避けた方が良いかと…私は思いますが… 」

彼女は遠くの方をぼんやりと眺める


「………この時間帯でないと

いないじゃないですか__」

思わず言葉が漏れ慌てて口籠る

「 …? いない…?」



「 あー!いえ あの ジョウビタキが…」

僕は咄嗟に朝の地鳴きの声を

思い出し話題にあげる


「え? あぁ、確かに日が高くなると

見かけなくなりますね…」

彼女は半分納得したようで

半分不思議そうな顔をする




カッカッカッ…!

噂をすれば彼の声が影をさす

お互いに顔を見合わせ 笑った





暫く 他愛もない会話をしていると

いつの間に 影法師の背丈が短くなる

時間にさしかかっていた




「 すみません、私はこれで

もう、歩けますよね…? 」

彼女はすっと立ち上がる


「 あ、はい! ええっと…

あ、あの 僕 津島っていいます」


「 …? あ そう言えば

自己紹介まだでしたね

なんだか知った気でいました」

彼女は悪戯に笑った

「 ええ、僕も同じ気持ちでしたよ」

「 ふふ、ですよね… 私の方は

神崎と言います 以後お見知りおきを」

そう言って軽くお辞儀をすると

彼女は やや小走り気味に

風下の方へ駆けていった




ザァッ…

朝より やや強まった風が

樹海に細波をたて

いぶかしげな音を辺りに轟かせる


さて、僕も帰るか__









ひと気のなくなる夕方の湖畔

6時を告げる時報が響く

『 浜辺の歌 』___


哀愁を纏うメロディに合わせ

暗い樹海の中に

少女の軽やかな足音が鳴る

ベンチの付近で足を止め

少し 辺りを見回す

「………あった!」

置いてけぼりのスケッチブックを

嬉しそうに抱えあげた



ザァッ…

風が再び樹海を揺らす

少し恐怖心を憶えた少女は

耳に髪をかけ 走り出す


その時だ

何か足元をすくわれた


「 キャッ!」

小さな悲鳴と共に地面に身を崩す


対したケガはないが

両手を地面につけたまま

身体が硬直し動けない



背後から 若い男の声がした

「こんばわ 神崎さん」

一見 明るい口調が 少女の恐怖を煽る

何も言えずただ地面を見詰めた




「 なんだか、今日

津島ってヤツと 楽しそうに

話してましたよね?」

男は淡々とした口調を崩さない











「___ところで君は…

人が絶えず消えてゆく世界で

そんなのお構いなしに

幸せそうにするヤツのこと

どう 思う___ 」





















夕食を済ますと僕は自分の部屋に戻り

おもむろに携帯を取り出した

「 あ! 」

久々に幼なじみからメールが

届いているのに気がついた

最近やや疎遠気味だったので

やや 嬉しい___






『____彼女さん 元気にしてる?』







なんだ?これ?

メールの送信先間違えたろ…アイツ

ぬか喜びだったな期待して 損した


僕は深く溜息をつきつつ

明日の 荷物を準備をした


ガタ ガタ ガタッ

風が窓ガラスを揺らす

明日は風が強い日になりそうだ







龍目 #小説・2日前
ジョウビタキ
小説
鳥目物語
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