【雨降る世界にカキツバタ。】
~もし僕が"女"だったなら~ 編
_先生、やめないでくださいっ!
部屋中に僕の金切り声が響き渡る。
_諦めた方がいいね。
君は運が良かったよ。
最期を見れるなんて滅多に無い。
そう言って医者は彼の元から離れる。
ああ、
どうしてこうなったんだっけ。
窓にはうざい程曇った空から
雨が降っていた。
_雨なんか大ッ嫌いだ。
遡る事午前9時_
僕等はデートをしていた、
大雨の中で。
雨だからといって苦など
全く感じなかった。
只々、君に会えることが
嬉しくて仕方がなかった。
僕に合わせて歩幅を合わせ
紳士的行為をし
きゅんとさせたかと思えば
自分のことに注意をせず
ドジしたり。
胸の高鳴りは
いつになっても終りを知らず
自分はこの人と結ばれるんだ。
必然的、運命的だったんだ。
そう感じた。
―例え同性だったとしても。―
世間からの目は冷たかった。
けど僕等は何も気にしなかった。
いや、気にしないふりをした。
君の口から出る話はどれも
面白い話ばかりだった。
けど君は
_どこからその話を知ったの?
と僕が聞くと一瞬寂しい顔をして
そこから笑顔を作って言った。
_秘密。
バレバレだった。
いつか聞こうと思ってた。
酷いなあ。
最後だなんて
終わった後にしか
わからないじゃないか。
デートも終わりに差し掛かる頃
彼は僕にいきなり
_2人っきりになりたい
そう言った。
滅多にそんな事は言わない君だから
嬉しくて照れて顔が真っ赤になり
君を見上げると
君も紅くなっていて
つい、頬が緩んだ。
―が、それが不幸の始まりだった。―
僕の唇に君の唇を乗せ
2つの影が重なった後、
彼は咳き込んだ。
そして手には赤い血が広がった。
信じられなかった。
_ど、どうしたの!?
_大丈夫。大丈夫だから。
君は下手くそな
いつも通りの笑みを浮かべる。
_救急車を―。
彼は笑って首を振った。
君のその柔らかな微笑みに
僕はスマホを打つ手を止めた。
_あのな、俺らの関係は
世間からも身近な人からも
認められてねえじゃん。
_うん、。
_いつか変わればいいな。
そうだ。
彼の家族は、彼と僕が
付き合ってることを知って
勘当してしまった。
今思えば
ばかばかしいかもしれない。
でも君を愛していたから。
これしかなかったんだ。
そのまま君は、
キスした静かな通りで
_居眠りをしたい。
と言った。
君はいつになく弱々しく
僕の肩に頭を任せた。
雨だけが僕達に強く降り注いでいた。
何故か、その日の雨は
妙な程に強く、一滴ずつ、
僕等を刺しているようだった。
_実はな、俺の家系病気がちなんだ、
_っ
口を開いた君からの言葉は
これだった。
ショックだった。
彼が病気だった事にではなく
自分が気づけなかったことに対し
苦しくて息が詰まった。
_ごめんな、。
実はそう長くは生きれないみたいだ。
君は目に涙を溜め、
震える声でそう笑った。
_違う。
_え?
僕が求めていたのは
そんな言葉では無かった。
_『ごめん』だなんて言うな馬鹿!
_え?
君は、怒った僕に驚いて
僕の顔を覗き込んだ。
_ごめん、俺何か間違えた?
だから、『ごめん』なんて言うなよ。
その言葉は僕にしか言えないんだ。
僕は顔を見られたくなくて
拗ねてるふりをしようと
[だんまり]になった。
そこから抑えきれず
涙が雨と一緒に落ちていき、
次第に何故か笑いが込み上げてきた。
_あー、なんて馬鹿なんだろう。
君はキョトンとした顔をしたが
僕につられて声を上げて笑い出した。
笑いながら僕等はずっと
愛に、哀に、曖に、
浸っていた。
病気のこと気付けなくてごめん。
全て知ってるふりしててごめん。
秘密を話せないような
頼りない僕でごめん。
僕が男でごめん。
_実はな、俺の余命は
2ヶ月前で終わってたんだ。
_うん、。
僕はほぼ無心で聞いていた。
_此処まで生きれたのは、
俺の最高のパートナーのお陰だ。
君はそう笑った。
なんだか、その笑みは
最期を表しているようで
怖かった。
君は目を閉じた。
_もっと話そうよ。
君が寝てしまったら、
僕の大好きな君のつぶらな瞳が
もう見れないような気がして。
僕の大好きな君の漆黒の目で
もう見つめられないような気がして。
_ごめん、眠いんだ。
雨のせいか君の身体から
熱が伝わらなくなっていった。
_それにさ、
彼はいつもの下手くそな
世界一の笑顔でこう言った。
_最期くらいさ、
世界一愛してる人の傍で
夢叶えたいじゃん。
君は死ぬときは
誰かに悲しまれるような存在でいたいと
口癖のように言っていた。
全てを悟った。
君は瞼をゆっくり閉じた。
_ダメっ、寝ないで!お願いだからっ!
通行人が僕達に気付いて
救急車を呼ぶ。
サイレンが嫌なほど耳の中に響いた。
僕の泣き声と
強い雨音と
執拗なサイレン。
どれが1番酷かっただろうか。
そうして、
2021年 5月 20日 18時 37分
君の小さな命の火が燃え尽きた。
生きる意味を失った僕は
一緒に死にたかったと後悔した。
死のうと何度も思ったが
こういう時に限って、家族という拘束が
僕を苦しめた。
葬式は開かなかった。
僕が主催者ならば
誰も来ないであろうし、
君はそんな事は
望んでないような気がしたから。
遺書が書かれていたと知り
僕はそれを読まずに閉まった。
死というものがあるのを
現実逃避していた。
だが、何日か経ち、
君がもしかしたら何か
隠しているかもしれなくて
遺書を開封した。
―結局君は何も隠してなかった。―
信じていなかったのは僕の方だったと
今更ながら気づいた。
悔しかった。
どうしてだろうか。
君がいつも正しい。
僕がいつも誤る。
君が沢山話を知っていたのは
入院を繰り返していた際に
本を沢山読んでいたかららしい。
特に君は
“離れていかないから”
という理由で植物が好きだった。
それから、
“神様が生きている証拠だから”
という理由で天気も好きだった。
僕は君がこの世に消えた日から
雨が大嫌いになった。
雨が降ったら君が
僕の見えない場所で
泣いているような気がしたから。
_?
僕はふと、君に初めて貰った
ネックレスを手に取った。
ハート型っていうのが
君らしくって
_ふはっ
と吹き出した。
それから悲哀に飲み込まれた。
ふと気がついた。
ペンダントに何か文字が刻まれている。
読めないぐらいの薄さで。
何か伝えたいのはわかった。
君が好きなのは、本と植物と天気。
このヒントだけだった。
その時、僕は閃いた。
そうだ、絶対そうだ。
本棚に目線を廻らせて
君がくれた本やら図鑑やらを
片っ端から手に取る。
君は私に本をくれたとき
オススメページを付箋で示していた。
君がくれた本、全14冊。
貰った順に、付箋のページの1文字を
繋ぎ合わせる。
『君』『に』
『あ』『り』『つ』『た』『け』『の』
『か』『き』『つ』『ば』『た』『を』
_カキツバタの花言葉は幸福。
瞬時に君が傍でそう微笑んだ気がした。
_うわあああああああああ
視界がぼやけ、
本が涙でびちょびちょに濡れる。
この事だったのか。
僕は今になってわかった。
毎回僕は気付くのが遅い。
でも君はずっと前から用意してたんだ。
今迄流れなかった涙が、言葉が、
滝のように流れる。
_うわあああああああああ
あああ、ああっ。
なんで逝ったんだよおお。
置いていくなよ、う、ぅ
君無しじゃ幸福なんて、
なれないじゃないかあ。
それなのに、幸福になれって
意地悪にも程がある。
けど、君はそれでも
ソッチ
僕に君の元へ行ってほしくないんだね_
あれから、何年経ったかはわからない。
長い間、独りではなく1人で
此処迄生きてきたんだから
君にまた褒めてほしいな。
雨が降る日になると
あの日キスした道へ
カキツバタの花束を
抱えて行くようにした。
少しでも気が晴れるように。
君に幸福が訪れるように。
雨の日は嫌な思い出しか無くて
大嫌いだが
君に会える気がするなら
大好きなのかもしれない。
僕は雨が大嫌いで大好きだ_
梅雨の時期は
あの通りへ行くことが多い。
此処は、あの日から
来た人には幸せが訪れるとし、
こう呼ばれてるんだって。
カキツバタ通り_
_僕等の関係は決して
間違ってはいませんでした。
僕は必ずこう言う。
_今日は君に 僕は、僕だけが
報告があるよ。 残った街で何を
僕ね、 すべきか考えた。
小説書いたんだ。 僕の使命はきっと
僕等の。 "愛の種類を
似合わない?笑 広めること"。
うん、 世界の裏側で
誰かに こんな事もあった
伝わってると そう訴えたくて
いいな。 書いた。
題名はね、 そして僕は
君がよく 例の言葉を
知ってる言葉 今日も君に
『雨降る世界にカキツバタ。』
【雨降る世界にカキツバタ。】
~もし僕が"女"だったなら~ 編
完。