※この物語はフィクションです
※長編小説
※読まないで好き押すのNG
感情を知らないロボットと
記憶喪失の少女、2人の物語
#robo 0037
Episode 1,
『動くな』
背中に硬い何かが当たる感触
ゆっくりと両手を上げて立ち上がる
あるどしゃ降りの雨の日
目が覚めると私はここにいた
自分が誰なのか、
ここがどこなのかさえもわからない
ただ、目の前に
胸や腹、頭を撃たれて
真っ赤になった
男の人、女の人、小さな子供が
倒れているだけだ
そして、自分が着ている服にも
返り血のようなものが飛び散っていた
「これは、私がやったの…?」
『いや、多分俺の仲間だ』
「なんで、」
『人間なら知っているはずだ』
「わからない
私何も覚えてないの」
『今俺らが生きてる時代は
ロボット人間が支配してるんだ
つまり、人間は
見つかり次第殺される』
「じゃあ、
あなたも逃げてきたの?」
『残念、俺はロボット人間だ』
「そんな…
見た目はそっくりなのに、」
『首元に製造された順番に
番号が印刷されている
あんたらと俺らで
見分けがつくのはそこだけさ』
「…私を殺すつもり?」
『仕方がないことなんだ
悪く思わないでくれ』
「今までに何殺ってきたの…?」
『聞いてどうする?』
「罪悪感は湧かないの?」
『ロボットには感情がないからな』
「そんな…」
『人を殺すことが使命の
俺らロボットに
感情があって何になる
いちいち罪悪感に駆られながら
この拳銃の引き金を引けと?
はっ、馬鹿らしい』
「私には、平気で
人の命を奪えるあなたの方が
馬鹿らしくて仕方ありませんよ」
『言ったな?』
銃口を頭に突きつけられる
「言いましたよ
殺すなんなりしてください
悔いはありませんから」
そっと静かに目を閉じる
『ほう、面白い』
「えっ?」
『そこまで俺に反抗した人間は
お前が初めてだ
大抵のやつらは泣き叫んで、
命乞いして、すがりついて…
うんざりしてたんだが』
顎を掴まれて目を合わせられる
最初に会った時から
整った顔立ちをしている
ロボットだと思っていた
さらに今は雨に打たれて湿った髪が
目の辺りまで垂れている
そこから覗く瞳が
やけに色っぽかった
『お前、
殺すのもったいねぇな
そんなに言うなら
俺に感情ってものを教えてくれよ
ただし、妙な真似したら
これだぞ?』
頭を撃ちぬくふりをされる
「…わかった
でも、その代わり
私の記憶が
飛んでる理由を知りたい」
『できる限り協力しよう』
「あなた、お名前は?」
『robo 0037』
「長いから省略させてもらうわ
よろしくね、robo」
Episode 2,
『そうと決まったからには
お前が人間って事が
バレちゃまずいわけだ』
「どうするの?」
『うーん、そうだなぁ…
ちょっと来い』
roboが向かったのは
胸を打たれて殺されている
女の人の元だった
『ここに寝転がれ』
言うとおり
その近くに横になった
roboは腰から取り出した
ナイフをしばらく回して考えた後
『よし』
とつぶやいて
女の人の手首に切り傷を入れた
「ちょっと、!」
『静かに』
その切り傷から溢れ出した血液を
roboは人差し指ですくって
私の首に触れた
「っ…」
それを何度か繰り返される
『とりあえず、これで
しばらくは大丈夫だろう』
「何をしたの?」
『製造番号を書いた
人間だとバレにくいように
ロボットと同じような
首元にある数字だ』
「あ、」
『無いよりかはマシだろう
このまま街まで行くぞ』
「どうして、」
『その首の数字だって
時間が経てば落ちる
その前に
街にある印刷工場で
ちゃんとやってもらった方が
怪しまれずに済む』
「印刷工場?」
『製造されたてのロボットと
数字が
消えかけているロボットが
無料で印刷してもらえる所だ
これがないとロボットでも
殺される』
「大変なのね」
『俺が適当に嘘を言うから
お前はただ黙ってついてこい』
「はい」
『いいぞ、
素直な奴は嫌いじゃない』
Episode 3,
roboが言う 街 は
とてつもなく広かった
そして何よりも驚いたのは
ロボットがみんな
違う顔をしていたところだった
「すごい…」
『人間そっくりだろ?
ちゃんと結婚して
子供だって産んでるんだ』
「roboに家族はいないの?」
『番号が4000までのロボットは
この国が最初に
一斉製造したものだから』
「親も家族もいないってこと?」
『親は地球、かな』
「さらっと
かっこいいこと言うんだね」
思わず口の端が持ち上がる
『その表情はなんだ?』
「あっ、これ?
これは笑顔って言って
嬉しい 時に使うの」
『ウレシイ?』
「相手がしてくれたことに対して
満足行ったりする時に
こうやって口の端を持ち上げるの」
『ウレシイ、か…』
「そう」
〔お嬢ちゃん、よく知ってるね〕
目線を上げると、
ガタイのいい男の人と目が合った
その服には血がついている
「あ…」
〔ん?こんなの見慣れてるだろう
ロボットなら当たり前だ
人間を殺してきたんだからな〕
『なんの用だ 0105 』
〔こいつはお前の連れか?
随分と表情豊かだが…〕
『見間違えだろ』
〔いや、絶対に見た
そのお嬢ちゃんが笑うところを〕
『悪いが急いでるんだ』
roboに腕を引かれる
男の横を通り過ぎる直前に
言われた言葉は
決して聞き逃せない内容だった
〔首元に数字書いて
ロボットのふりしてても
人間だってことは、
お見通しなんだよ〕
後ろで拳銃を構える音
『下がってろ』
急いで建物の影に隠れる
〔人間をかばったら
お前も殺されるんだぞ〕
『心配ご無用
あいつは人間じゃないからな』
〔口の利き方に気をつけろ〕
『それはお互い様だ』
相手よりもroboの方が早かった
素早く取り出された拳銃が
火を噴き、男の右目を貫いた
『行くぞっ』
言われるがままに駆け出す
数人の追っ手が確認出来た
「robo…」
『なんだ?』
「ごめんね」
『は?』
「あの時、私を殺していれば
こんな事に
巻き込まれず済んだのにね」
『いまさら何言ってんだ』
「…」
『…さっきの男だよ』
「え?」
『俺らが出会った場所で
あの人達を殺したの』
「そう、なの」
『ごめん、見てたんだ
だけど思い出したら
辛いだろうと
思って言えなかった』
「ううん、いいよ…」
眉を下げて首を振る
『その顔はどういう意味だ?』
「悲しみって言って
ネガティブな
感情になった時に使うの」
『…殺されてたのは、
多分お前の家族だ
周囲の様子を伺うために
1時間ほど前から張り込んでたんだ
記憶喪失は多分
目の前で人を、
しかも自分の家族を
殺されたことによる
ショックだろう』
「そっか…」
『でもこれだけは本当だ
もう二度と
お前の悲しむ顔は見たくない』
「robo?」
『だから』
roboは足を止めて後ろを振り返った
『逃げろ』
「なんで?一緒に行こうよっ」
『俺はここであいつらを止める』
「そんなのずるい」
私はroboの懐から
拳銃を取り出して自分の頭にあてた
『馬鹿っ お前、』
「妙な真似したら殺すんでしょう?」
『あれは…』
「嘘だなんて言わせないよ
家族も居場所も奪われた私に
もう失うものなんて何もない」
私とroboの周りを
何人ものロボットが囲む
《そうだ、そこの女
自分の頭を撃ち抜け
そしたら 0037 は助けてやる》
『騙されるな、
あいつ
どっちも助ける気ねーよ』
「私が死ねば…」
拳銃の引き金に
震える人差し指を伸ばす
『やめろ!!』
【動くな 0037 】
「robo、最後に一つ
感情を教えてあげる
愛しいって言ってね、
離れてる人とかに
強く心を引かれる事を
意味する感情なんだ」
『…』
「私はずっとroboを
愛しく思ってます
またね…」
だいぶ小降りになった雨の中で、
けたたましい銃声が
街中に響いた
ぐったりと
その場に崩れ落ちる人影
roboはとっさに支えて呟いた
『お前、 またね って言ったよな
ちゃんと聞いたぞ
次会う時まで
俺もイトシク思ってるよ』
end___