「ねぇ、僕さ」
君がそう切り出す。
「んー?」
君のスーツのほつれたところを直す私。
「これからも、りんねにそうやって
な、直して欲しい、です…」
君は顔を茹で蛸みたくして私に
不思議なことを言ってくる。
「う、ん?そんな改まらなくたって直すよ笑」
私は笑いながら答える。
「えっあっ、あ、ありがとっ、
じゃ、なくてっ」
「落ち着きなね笑」
いつも以上におどおどしてる。
どうしたんだろう。
「何か言いたい事があるんでしょう?
もっとはっきり言って」
急に口調が変わる私に、君は「ひっ」と
またおどおどする。
「ふうーっ」
君は大きく深呼吸をし出す。
伏せていた目を私にまっすぐ向けてくる。
「ドキッ」と胸が鳴いた。
「な、何?」
今度は私がおどおどしてしまう。
目を泳がせる私に君は告げた。
「僕と、結婚してください」
私を見つめる君の目に迷いはなくて、
「わ、私でいいの?」
信じたい気持ちを抑えて、君に問う。
君は優しい笑みを浮かべ、
「僕はりんねがいいんだよ」
「だ、だって私六つも上じゃない!
私、おばさんだよ?」
そう、私は君が青春を過ごす時、
シミが気になるおばさんなんだ。
「僕は、りんねの手も口も肌も、
怖いくらい、りんねの全てが愛しい」
自然と涙が溢れ出す。
「だってぇ、だってぇ」と子供みたく
駄々をこねる私を君はそっと抱きしめる。
「りんね、好きだよ。
僕のお嫁さんになって」
不器用なくせに、
たまに男前のところを見せてくる。
そんな君が大好きで、
私も君の全てが愛しい。
「うっ、う、ん。れ、んのお嫁さんになるぅ」
泣きじゃくりながら
私は、必死に返事をする。
「愛してるよ、りんね」
君はそう言って、顔を近づける。
私は、れんの目が好きだ。
薄い灰の色で、
睫毛が綺麗に揃ったれんの目。
れんの目は、れんの心の全てを映してる。
嬉しい、悲しい、寂しい、
恥ずかしい、困ってる、
全部目に映るの。
「れん、愛してる」
私は何を失っても、この人と居たい。
君の目に私を映してほしい。
『君に私を映してよ』