はじめる

#鳥目物語

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全12作品・



連続短編小説




『 ツグミ 』



#1

西沢 と 園田





自分の家族以外の人間に興味はない


正直…… 関わっても

対した利益にならない

赤の他人の

命なんて_













病室の窓から

今日も ぼんやり景色を眺める


「 今日は晴れて

気持ちがいい日だったね」


僕が明るく声をかけると



シュコー…シュコー…



無機質な機械音が返ってくる



「最近 母さんの好きな

カレーの作り方 覚えたんだ

ルー とか使わない方のだよ?

ちゃんと スパイスからつくるやつ

元気になったら

ごちそうしてあげるね 」






遠くからカラスの賑やかな声とともに

夕方6時を告げる 時報が響く


『 浜辺の歌 』

あした 浜辺を彷徨えば_♪








もう こんな時間か…帰らないと…

定期考査が近い 早く帰って勉強しなくては


「 じゃあ、また あした 」


そっと 耳元でささやくと

僕はせわしなくその場を後にした









…ウィーン


病棟 出入り口の自動ドアが開くと

研ぎ澄まされた風が僕の頬をかすめた

「 うわっ! 寒!」

見上げると 乾いた空の中を

粉雪が楽しげにチラチラと舞っていた


「 はぁ… あした からまた

冷え込みそうだな…」


凍てつくアスファルトを蹴って

僕はバス停へと急いだ













次の日 学校に着いた僕は

自分の席に荷物を下ろすと

教室の景色が なにやら

いつもと違うことに気がついた

前の席に 珍しく園田が座っていた

詳しくは知らないが

彼女は持病持ちらしく

最近は学校を休みガチだった


( これは 大雪にでもなるかな?)


窓の外を眺めると

ツグミが一瞬だけ

姿を現し そのままどこかへ

飛んでいくのが見えた


その時だ



…ガタッ!


教室に 鈍い音が響いた

音の方を見ると

園田が 床にひざまずいていた


「園田さん! 大丈夫!?」

クラスの女子が慌てて駆け寄る

「だ、大丈夫! ちょっと

ドジっただけ あはは…」

園田は おどけた口調で応えた

だが、顔は青ざめていて

誰がどう見ても 授業に参加できるほどの

元気はないのが分かる






「 体調悪いなら

始めから来なきゃいいのに」


___ベシッ!


頭の後ろを 誰かが叩いた

振り返ると 幼馴染みの津島が

怪訝な顔で僕を睨む

「バカ 聞こえる 」

声を潜めて言う

こいつは昔から 無駄に

人情に熱いところがあって


正直 面倒くさい



「 いや、聞こえた方がいいでしょうよ

無理して来るの効率悪いし」


敢えて 声をおおきくする


「お、お前さ! もう少し

思いやりというのを…」


焦ったように津島の口調が早まる


「なんだよ 偽善なお前よりマシだろ」

僕は顔を曇らせながら

皮肉めいた言葉の弾丸を津島に向けた


「 ……… 」


津島は 少し悲しそうな顔をすると

「 休んだほうがいいの

お前のほうな… 」

溜息混じりに 言葉を吐いた



( チッ なんだよ 俺のこと嫌いなら

始めから俺に絡むなよ)

動作がいつもより手荒になる



母さんが過労の末

クモ膜下出血で倒れ

意識が戻らなくなってから

早いもので一ヶ月が経つ

一般的にいう 脳死

最近 親戚から遠回しに

臓器移植のドナーについて提案を受けた

制度が変わったようで

家族の同意があれば提供できるとか






キーンコーンカーンコーン



いろいろと 思考を堂々巡りさせ

授業を聞き流していると

気づけば 夕方になっていた

時の流れが早まったように感じる





また、不穏な思考が

脳裏に影をおとす


__冗談 じゃない…

母さんの臓器は母さんのものだ

それに… 協力したところで

どうせ 金持ちの患者のところに

もっていかれるのが関の山…


それじゃぁ… まるで

母さんの命が

金で買われたみたいじゃないか…



イレギュラーな事態が

悪戯に迷い込んできて

正直 今は気が気でない


他人を思いやる感覚など

何処かに行ってしまった__




「 西沢君…!」


帰路につこうとする僕を

誰かが呼び止めた


__園田だった


「…は? 俺…? つっ、あー…

朝のことなら 気にすんなよ

俺の言うことなんて

君には関係ないから」


これ以上 不必要なトラブルは

抱えたくない

適当な言葉で 本音をぼかす



園田は きょとんとした顔をする


「 あ、いや… その話じゃなくて…

その… なんとなくなんだけど

西沢君から 変な必死さを

感じるというか… 少し心配というか…」




彼女から出た言葉は意外なものだった

これには さすがの僕も面喰らう



急にどうして__



「 ……… 」



僕は どう反応したら良いか分からず

沈黙すると 彼女は慌てたように


「 ああ! なんかごめん!

いいの! 気にしないで!」


と一言を加え どこかへ駆けていった





遠くでヒヨドリの

けたたましい声がする









_五月蠅い













それからというもの園田は

時折 教室に来るようになった

体調は徐々に良くなっているのだろうか

他人事ながら 少し嬉しくは思う





……妙な優しさを

向けてくることは除いて__





「おはよう!西沢君

なんだか 目の隈が酷いね

ちゃんと寝れてる?」

「 う、うっせぇな!

お前のほうが 顔色悪いだろ!」



「 あ! 西沢君 今日も

不機嫌そうだけど 大丈夫…?」


「や… お前 その言い方

逆に失礼だから」



いや、………これは…優しさなのか




バカバカしい彼女とのやり取りに

呆れつつも 何か温かいものを感じた

心の奥の何かがほぐれていく



そんな ある日のことだった

学校帰りに 母のいる病院に立ち寄ると

偶然 園田に会った


「 あ… 園田じゃないか 珍しいね 」

僕は気さくに話しかける

「 ううん 私 昔からここに通ってるから

珍しいことなんてないよ」

彼女は笑いながら応えた

「 え? そうなんだ 気づかなかった 」


「 まぁ 西沢君は新参者だからね

古参の私は 西沢君が来ていることに

気がついていたけど 」


彼女は得意げに言う

なんだよ…古参って

少しして 彼女は

やや真剣な面立ちに切り替えると


「 あ…あの言いたくないなら

言わなくてもいいんだけど…その…」


少し 心配そうに話を切り出した


「あぁ、身内がね入院してんだよ

対したことない 多分 もうすぐ退院さ」

明るい口調で気持ちを

うやむやにする


「そうなんだ 良かったね

ちょっと気がかりだったから

あ… でも 西沢君来なくなるの

ちょっと寂しいな 」

彼女は悪戯に笑った

「何言ってんだよ どうせ学校で会うだろ?」

僕も笑って返す







そっか… だから___







彼女との他愛のないやり取りが

続いて 一ヶ月ほど経った頃

彼女は教室に全く顔を出さなくなった


体調がかんばしくないのだろうか…

例の病院でも 会わなくなった

受け付けに質問をしたが

個人情報は教えれないと断られた





まぁ いずれ また__





小春日和のある日

朗らかな日差しに目を細め

教室から 窓の外を眺めていると

ツグミがおどけた顔でこちらを

見ていることに気がついた

ピッ と一声言うと

そそくさとどこかへ飛び去った

冬鳥も 北へ帰る頃だろうか…


呑気なことを考えている

そんな 時だった



ガラガラと 鈍い音を響かせ戸が開いた

暗い面立ちをした担任が入ってくる



「 皆さんに 大事な話があります 」

重々しい口調で話し出す



「 同じクラスの 園田さんについてですが

持病が悪化し…

先週 大学病院の方で__ …」










嗚呼 さっきのツグミは







どこへ 行ったのだろう










学校帰り 僕はふらついた足取りで

母さんの入院している

病院に向かっていた


彼岸過ぎて七雪

午後からまた 冷え込む予報だった

僕はあまり 寒いとは感じなかった









『 ___西沢君 』








ふと 懐かしい声が聞こえた

前を向くと


___園田が立っていた



「 お前… こんな所で何やってんだよ」

ドスの利いた声を出す

胸の奥から何か

熱いものが込み上げてきたのを感じる





『 良かった 会いたかったの 』



彼女は安心したように微笑む



その優しい眼差しが

僕の心を逆撫でた





「違うだろ! 早く戻ってこいよ!

ノロマ!

なんで いつも 要領わるいんだよ!」


目から熱い雫が

ポロポロと落ちてくる




『 ごめんね 嫌な想いさせたね…』



彼女は申し訳無さそうに

肩をすくめた






「 別になんとも思わねぇよ!

俺は俺の家族のことしか興味ねぇし!」



嗚咽の中からなんとか声を絞り出す



視界が…ぼやけて



何も見えない






『 さいごに 伝えたいことがあって_』









「 駄目だ!!!」


必死になって金切り声をあげる






『今まで 本当に ありが_』




「 黙れ! それだけは 言うな!!!」


彼女の声に被せるように

僕は大声を荒げた






遠くから 時報の音が響く

『浜辺の歌』




僕の早まる鼓動をなだめるように

哀愁を纒ったメロディが

ゆったりと流れていく




はぁ… はぁ…



暑苦しい呼吸を

凍てつく大気が冷やす





時報が鳴り終わると

時が止まったような静寂が訪れた




僕は 恐る恐る 顔をあげた





___!




園田の姿は もうそこになかった


空を見上げると

灰色の厚い雲が

空全体を覆い




粉雪が 楽しげに舞っている





少しして 携帯の

バイブ音に気づいた

涙を拭い

おもむろに電話に出る


「もしもし、西沢颯真さんですか?

鳥羽病院の神崎です。

たった 今… お母様の心臓が_ 」



なぜだか 僕の心は

妙に落ち着いていた



せわしないな まったく




龍目 #小説・2022-02-26
ツグミ
小説
どんな未来が待とうとも
好きな人
初恋
龍目文庫
感想くれると嬉しいです
鳥目物語


連続短編小説




『 ウグイス 』



#2

ザッキー と ソノ





まだ少し肌寒い 快晴の空の下

私は湖畔のベンチに腰を下ろし

スケッチブックを開く

豊かな自然の揺りかごに抱かれ

まどろみの中 自由に絵を書く

私にとって 至福の時間


嗚呼 なんて私は 幸せ者なのだろう…





とある 幽霊の少女に

付きまとわれていることを除き__





『 __ザッキー! 大変大変! 』



ヒヨドリ以上にけたたましい声が

鼓膜に直に響く


「 キャッ! 」


驚いた拍子に手に力が入り

鉛筆の芯の先が折れた

黒鉛の粉が 不格好に落ちる


私の額に 青筋が立つ

「 ソノ! 絵を描いている時は

話しかけないでって言ったよね!?」



幽霊少女は、すこし申し訳なさそうにして

白い両手のひらをこちらに向けた

『 一羽だけハクチョウが残ってるの…

もう 春なのに… このまま夏を向かえたら

暑すぎて 死んじゃうかも…』

大きな瞳を潤ませ 肩をすくめる


「死んでる…あんたに騒がれる

ハクチョウもちょっと…惨めね… 」


私は 黒鉛の粉を払いながら愚痴を零す

せっかくの絵が、余計に汚れた…

フフフ… 顔を曇らせ瀬々笑う…



『 …どうしよう… 』


それは こっちの台詞なのだが…


「 きっと、シベリアの方に

帰りたくなかったのよ 」

溜息混じりに言葉を返し

黒鉛で黒ずんだ自分の手を眺める



『 どうして…?』

幽霊少女はきょとんと首を傾げる



「 いろいろとね……」


手持ちのハンカチを取り出し手を拭く

汚れは…取り切れない…


『 どういう意味…?』


「 いいの、知らなくて…

生きている側の問題だから…」


不気味なほど平穏な空を眺め溜息をつく

自分のことだけでも手一杯なのにね…





ホー ホギョッッ!


どこからか聞こえる下手っぴな

ウグイスの声が私を嘲笑った

余計に調子が狂う…







友達なんて いらなかった私

何が嬉しくて ど天然 幽霊少女

とつるんでいるのだろう___





『__ ザッキー!ねぇ、聞いてるの?』



幽霊少女の声に ハッと我に返る

そうだよ 本来この子と関わる義理はない

生前の彼女と接点は無かったのだから!



聞こえないフリ見えないフリ…



『…? あれ?ザッキー?

本当に聞こえないの?

ねぇ? ザッキー?

おーい…? ねぇってば

ザッキー? さっきまで

反応してくれてたよね?』


…耳が…こそばゆい_


「 …__だ、だから馴れ馴れしい

って言ってるでしょ!」


無理だった…

だいこん役者以前の問題だ…

我ながら 呆れる


『 ごめん…でも 反応して

くれないものだから…』


「 論点 そこじゃないんだけど…」

黒ずんだ絵を眺めながら

ぶっきらぼうに言う

まぁ…これはこれで

悪くはないかもしれない

この絵は、これとして残しておこう…


『……でもね… 頼れるの…

ザッキーだけなの…

他のひとには私のことが

見えないみたい…』



ふぅ… 昔から 限定 と言うワードに

弱い私… 動きます…


「 で… 私に付きまとう理由は何?

何をどうして欲しいの…?」


その言葉に幽霊少女は一瞬だけ

顔を輝かすと 一呼吸置き

真剣な眼差しで私の顔を見る

空気が 張り詰めるのを感じる


『 その… 私の好きな人を…

助けてほしい 』


これは…簡単な人助け

レベルの話ではない

私の脳は反射的に

断る言い訳を考え始める


「 でもさ… それ…かなり厳しくない?

私… 真っ赤な他人だよ?

下手に深入りすれば 私… 不審者扱い…」


『 きっと… 打開策はあるよ 』



「 話が戻るけど その…人には

ソノのこと見えない訳…?」


『 ……… 最期にお別れを言いに行った

時までは見えていたみたいなんだけど…

私が成仏に失敗してからは全く…』


ふーん… そういうものなの……?


『 多分 心を閉ざしちゃうと

駄目なのかなって…』


「そっか…」

なんだか…嫌な予感がする…


『 だからその閉ざされた心を

こじ開けて欲しいの… 』










ケキョケキョケキョケキョ…


若いウグイスの

気の抜けた声がする







___煩わしい






そこからもう少し 彼女の事情を聞いた

持病持ちで体が弱かったこと

自分の通う病院に クラスメートが

通っているのに気づいたこと

心配で声をかけるうちに

次第に打ち解けあい 特別な

感情を抱くようになったこと__





私の知る世界とは

__かなりかけ離れていた





髪を撫でる そよ風が

太陽の香りを運んでくる

私は 軽く 鼻をすすった







『 …ハッ!そうだ!

手作りお菓子を贈るのはどう?

もしかしたら それで打ち解けるかも!』


「…へ?」

思わず すっとんきょうな声を出す


『 その人と共通の趣味があって

それが料理だったから… 』


「 まてまて… 今の話の流れだと

それを本人に渡すのって…」


ソノは私の方を向き 静かに頷いた


「 あは…さすがに 無理かなぁー 」

私はおどけて返す


『大丈夫 私が作り方教えるから 』


「 論点 そこじゃない

落ち着いて考えて欲しいんだけど

ましてや、心閉ざしてる人にさ

他校の見知らぬ人間が近づいて

手作りお菓子を持っていって

仲良くしてねって… これ…どうなのよ…」


過激派オプティミストのソノも

さすがに 口籠る


『………せ、せいしゅ…』


「 不審者だから 普通に__ 」











__バシャッ!


湖畔の水面にアイガモが

勢いよく水着した









ここで じっとしていても

何も進行しない… 不安でも何かしら

行動をおこさないと何も始まらない

そんな気がした




「まぁ、渡し方はともかく

共通の趣味からアプローチするのは

悪くないかもしれないね…

丁度 明日も休日だし__」



『 じゃあ 早速 材料の買い出しだね!』


無邪気な態度に文句を零しかけたが

屈託のない ソノの笑顔には

逆らえなかった






…でも待って…


肝心の材料費って 誰が__





材料を揃えると 私の家で

奇妙な儀式が始まった

これ… 客観的にみると私一人で

お菓子作りを始めているようなものだよね…

家に誰もいなくて良かった

『まずは… __』

しゃかりきるソノが微笑ましい





作業を進めるうちに ある疑問が

脳裏をかすめた

もし、ソノが中途半端に

姿をくらます事なく

亡くなる前にちゃんとした形で

お別れを言えていたら

関係がこじれることなど

なかったのではないか…?


「 ねぇ… ちょっと聞いていい?」


『何…? あ、駄目だよ

そんなに混ぜちゃ…』


「料理の話じゃなくて

ソノの話なんだけどね…

どうして病状が悪化して

大きい病院に移った時

教えてあげなかったの__? 」





暫く 沈黙が続いた




ひょっとして…地雷を踏んだかもしれない


焦燥感に耐えれず 私が 謝ろうとした


その時



『そう思うよね…』


私より先に ソノが沈黙を破った

胃の辺りに軽く痛みが走る



『 在り来たりで笑うかもしれないけど…

好きな人には 美しい姿だけ見せて…

そのまま去りたかった…』




「 ………ソノ… 」

目頭が熱帯びるのを感じる


『 私… さいごの方

本当にひどい姿だったから…

言葉通り 骨と皮だけ… 』



私は前に詰め寄ると

彼女の瞳を真っ直ぐに見詰めた…


「ソノ… あのね… 頑張る女の子は

皆 平等に 美しいんだよ… 」


……何 言ってんだろ…私… 柄でもない…



少しして… ソノは小さく呟いた


『 __ザッキー………

………なんか焦げてない?』



「 へ? 」


変な臭いとともに黒煙が上がる

わっわっ あっつ!!

騒々しい音が 台所に響く


暫くして


リビングのテーブルの上に

無惨な姿の黒ずみが置かれた


『 ザッキー… 大丈夫

誰にでも失敗はあるよ』


ソノは優しく背中を擦る

…幽霊なので 動作のみ


『あ、あと さっきの言葉…

とても心に刺さった… ありがとう

死ぬ前にザッキーに

会えていたら…なんて…』



私は 黙り込んだまま

悲しげに 黒ずみを見詰める










「 材料費 勿体無い…」


『 ……… 』







…ニヤリ





「 ップ クハハハ!」


『 え? なんで急に笑うの!?』


「ヒヒッ だって ソノの顔… プッ!」


『 え?え? 何何…?!

説明してよ!』



「 フフフ… いーの こっちの話 」


『 …余計に気になるよ 』



「 なんだか いろいろと吹っ切れたなぁ…」


『 …ザッキー さっきから…おかしいよ…』


「 お菓子だけに? フフフ」


私は テーブルの上の黒ずみを

手に取り 軽く力を込めた

黒ずみはパラパラと崩れ

なにやら 香ばしい匂いが鼻をくすぐる





龍目 #小説・2022-02-27
ウグイス
小説
どんな未来が待とうとも
好きな人
感想くれると嬉しいです
龍目文庫
鳥目物語


連続短編小説

『 鳥目物語 』 裏設定

どうも 龍目です( '-' )ノ

最近 更新中の 鳥目シリーズですが

一話完結 かつ シリーズ全体の話は

繋がるように書いていこうと思っています

それに際して 自分の中での

裏設定の数々を忘れないよう

ちょっと 書き残しておきます笑(-ω-´ )


Q 登場人物の名前の由来

西沢 → ニシザワ → シニザワ
→ 死際に現れる者 →死神
西は日の沈む方角 死を連想

園田 → 園も田も人の手がないと
存在できない か弱い存在

津島 → 繋ぐ者 なんだか強そうな響き()

神崎 → カミザキ → 神を裂く者


Q 一話の園田と二話のソノ
二話のザッキーと三話の神崎

は…同一人物です()


Q 幽霊になった園田が見えるのは…?

前提として心を開いた西沢のみ


Q なぜ神崎にも幽霊の園田が見えるのか?

神崎は西沢のドッペルゲンガー
不幸を経験しなかった世界線の西沢
実は性格自体は同じ
精神だけを投影したドッペルゲンガー
がいてもいいのかな…と フフフ( '-' )
中身は西沢なので物語の中でもあっさり
園田や津島と打ち解ける




☆風が吹けば 登場人物の心情や
物語の展開が変化する


まぁ…こんなとこで 笑

思いつきなので今後 変わるかも…汗

龍目 #小説・2022-03-03
小説
鳥目物語
龍目文庫

これらの作品は
アプリ『NOTE15』で作られました。

他に12作品あります

アプリでもっとみる




連続短編小説



『トラツグミ』


#4




カミザキ と ニシザワ





漆黒の樹海

静かな怒りの焔を灯す死神は

震える声で問う






「 ところで君は

人が絶えず消えゆく世界で

そんな事お構いなしに

幸せそうにするヤツを

どう 思う___ 」









___それは ごくごく

ありふれた 光景だと…私は思う








例え 私の命が夜明けまでに

途絶えてしまったとしても

時の歯車は絶えず進み

必ずや 遺された者には朝が来る




後悔はきっとあるだろう

スケッチブックの空白欄

まだまだ沢山 描きたかった…


新緑の森 雄大な雲

夏鳥に 旅鳥に 迷鳥に…

家の飼い猫 ベランダの雀

好きな人の寝顔__




でも 全て描き切るのに

神様が与えてくれた時間は

あまりに短い

そもそも そういうもの…




だからこそ 希望を託す

遺されたスケッチブックの

空白欄に___





遺された者にこそ

朝は 幸せは

やって来なくてはならない






___て…

今の潰れた喉じゃ

誰にも届かないね









「 ゴフォッ… 」

聞くに耐えない 嗚咽が

自らの喉から発せられ

錆びた鉄の匂いが口に広がる

背骨 脚 腕 溝落 …

それぞれが悲痛な訴えを吐く

何もできない無力な心

遂には 思考さえもが沈黙した


あれからどれくらい

時間が経っだろう




「 もう 死んだのか…?

人の命って 呆気ないよな 」




薄れる意識の中でも

死神の気配だけは感じれた

彼は 容赦なく私の喉ぐらを掴む


「 この苦しみも オワリにしてやるよ…」


私の見開いた瞳孔は暗闇の中で

死神の瞳を捉える

……哀しげに揺らぐ光が

微かに 見えた気がした






…………泣いてる…?






胸の辺りに…何か…

熱いものがじんわりと広がった

と同時に不思議な力が私を突き動かす


気がつけば 私はなんとか動く右手で

黒い地面の土を掴み

死神の面に 投げ込んでいた




「 ガハッ! 」

咄嗟の事に激しく咳き込む


その隙をつき 私は

最後の力を振り絞って

荒波立つ 樹海の中を

駆けていった



____カミザキィイ…!



後ろの方で死神の

怒りの叫びが鳴り響く






闇雲に逃げ惑う先に

何か 広い空間に辿り着く



私は 何も考えず

縋る思いでそこへ飛び込んだ







_____新月を映す鏡面の湖

訝しげな曲線がすっと伸びていく



独りの夜は

同仕様もなく ながい



それでも

時の歯車は絶えず回っている





フィ________



風はやみ 漆黒の樹海の中に

透き通るような

トラツグミの声が矢を放つ

それに導かれるようにして

東雲の空が 薄っすらと

広がっていった






龍目 #小説・2022-03-04
トラツグミ
鳥目物語
感想くれると嬉しいです
小説
どんな未来が待とうとも
短編小説
龍目文庫



連続短編小説




『ジョウビタキ』


#3



津島 と 神崎








ソメンヨシノの並木通り

裸の枝をよく見ると

開花の準備を進める蕾たちが

ふっくらと色づいている

春の足踏みに合わせて

エンジ色のウィンドブレーカーを

纒った男が 颯爽と駆けていった








朝の有酸素運動に利用する

湖のほとりに着くと

今日も 無意識にある人の影を探す



___いた。



やや高めの針葉樹に囲まれた薄暗い一角

絵を描く少女の姿があった

自然の隠し絵の一部になったように

ひっそり しなやかに佇む


ザワッ…


力強い 立春の風が

水面を叩き大きな波紋を描く

その美しい曲線は

風上側の岸に立つ彼女の方から

すっと僕の方へ

音もなく広がっていった


y=Asin*2π/t(t-x/v)

…実際は目に見えない

抵抗の数々が邪魔をする

高校の授業で習う数式通り

波を捉える事は出来ない

そう… 今の… 俺では…







カッ カッ カッ…!


北帰行を控えたジョウビタキの

地鳴きが先程の 並木道から響く

その声に押されるようにして

僕はゆっくりと加速をつけ

いつもの周回コースを走り始めた



走り続けるうちに 樹海の深瀬まで来ると

例の少女の後ろ姿が見え始めた

少し ピッチを広げ 顎を引く

今日こそ 会釈の一つぐらい

出来るだろうか…

そう考えている内に

心は否定的な意見を唱え始める

ゾワッとした感覚に意識は反れて

気がつけば 次第に彼女の姿は

遠のいていっていた…


嗚呼 この茶番を何度繰り返せば

気が済むんだと

先程まで否定語を吐いていた心は

態度を一変し 僕を嘲笑う





その時だった

なんとも耐え難い痛みが

左脚を襲った




「 ぁぁあ!」

情けないうめき声と共に

僕の身体は地面に崩れた…

一度 肉離れを起こした部位には

癖がつく きっとその類だろう…




「 だ、大丈夫ですか!?」

どこからか若い女性の声がきこえた

軽やかな足音がこちらに近づく



…………最悪だ…



それでも 余りの痛みに

返す言葉もでない

膝を抱えたまま のたうつ…


「 左脚が吊ったんですね…?

仰向けになって下さい

脚伸ばせれますか…?」

彼女は手際良く

簡易的な処置を施してくれた


脚の痛みが和らぐと共に

自責と羞恥の念が込み上げる…


僕はただ謝罪の言葉を連呼し

痛みと自己嫌悪に耐えた__



ようやく 落ち着きを取り戻すと

自分の置かれる状況が見え始めた

頭上には 樹海の空が揺らぎ

少し右へ視線を移すと

先程の少女の横顔があった




「………本当に…すみません…」

僕はゆっくり身を起こした

「 気にしないで下さいよ… 」

彼女は笑って返す




ザァッ…

そよ風がいじる髪を耳にかけながら

彼女はゆっくり前を向く

スズランの香りが鼻をくすぐった



「 季節の変わり目です

シーズン前でもありますし…

あまり 気温差の出る

時間帯の走り込みは

避けた方が良いかと…私は思いますが… 」

彼女は遠くの方をぼんやりと眺める


「………この時間帯でないと

いないじゃないですか__」

思わず言葉が漏れ慌てて口籠る

「 …? いない…?」



「 あー!いえ あの ジョウビタキが…」

僕は咄嗟に朝の地鳴きの声を

思い出し話題にあげる


「え? あぁ、確かに日が高くなると

見かけなくなりますね…」

彼女は半分納得したようで

半分不思議そうな顔をする




ヒッヒッヒッ…!

噂をすれば彼の声が影をさす

お互いに顔を見合わせ 笑った





暫く 他愛もない会話をしていると

いつの間に 影法師の背丈が短くなる

時間にさしかかっていた




「 すみません、私はこれで

もう、歩けますよね…? 」

彼女はすっと立ち上がる


「 あ、はい! ええっと…

あ、あの 僕 津島っていいます」


「 …? あ そう言えば

自己紹介まだでしたね

なんだか知った気でいました」

彼女は悪戯に笑った

「 ええ、僕も同じ気持ちでしたよ」

「 ふふ、ですよね… 私の方は

神崎と言います 以後お見知りおきを」

そう言って軽くお辞儀をすると

彼女は やや小走り気味に

風下の方へ駆けていった




ザァッ…

朝より やや強まった風が

樹海に細波をたて

いぶかしげな音を辺りに轟かせる


さて、僕も帰るか__









ひと気のなくなる夕方の湖畔

6時を告げる時報が響く

『 浜辺の歌 』___


哀愁を纏うメロディに合わせ

暗い樹海の中に

少女の軽やかな足音が鳴る

ベンチの付近で足を止め

少し 辺りを見回す

「………あった!」

置いてけぼりのスケッチブックを

嬉しそうに抱えあげた



ザァッ…

風が再び樹海を揺らす

少し恐怖心を憶えた少女は

耳に髪をかけ 走り出す


その時だ

何か足元をすくわれた


「 キャッ!」

小さな悲鳴と共に地面に身を崩す


対したケガはないが

両手を地面につけたまま

身体が硬直し動けない



背後から 若い男の声がした

「こんばわ 神崎さん」

一見 明るい口調が 少女の恐怖を煽る

何も言えずただ地面を見詰めた




「 なんだか、今日

津島ってヤツと 楽しそうに

話してましたよね?」

男は淡々とした口調を崩さない











「___ところで君は…

人が絶えず消えてゆく世界で

そんなのお構いなしに

幸せそうにするヤツのこと

どう 思う___ 」





















夕食を済ますと僕は自分の部屋に戻り

おもむろに携帯を取り出した

「 あ! 」

久々に幼なじみからメールが

届いているのに気がついた

最近やや疎遠気味だったので

やや 嬉しい___






『____彼女さん 元気にしてる?』







なんだ?これ?

メールの送信先間違えたろ…アイツ

ぬか喜びだったな期待して 損した


僕は深く溜息をつきつつ

明日の 荷物を準備をした


ガタ ガタ ガタッ

風が窓ガラスを揺らす

明日は風が強い日になりそうだ







龍目 #小説・2022-03-03
ジョウビタキ
小説
鳥目物語
どんな未来が待とうとも
好きな人
感想くれると嬉しいです



連続短編小説




『ヌレガラス 2 』




#7




津島 と 神崎





深夜の病院

非常灯の訝しげな光だけが

チラチラと楽しげに揺らぐ


薄暗い廊下に 乾いた2つの足音が

不協和音を奏でる





ICUのフロア 廊下に設置された長椅子に

僕以外の一般の人が数名座っていた

名も知らない赤の他人…

それでも 今だけは

試練を共有する戦友のように思えた

呆然とする者 啜り泣く者 …

各々が 先の見えない不安と恐怖に

けしかけられ つつ

必死に目の前の…微かに見える

希望に噛りついている





スラリと背の高い担当の女医が

神崎の病室まで案内してくれた

鼻につく薬品臭と鈴蘭の香りを

追うようにして



僕は 不穏な空気の漂う

ひっそり閑と静まる

長く 冷たい空間を通り抜けた











「………え…」

病室で静かに眠る神崎の

顔を見て凍りつく


「……湖に落ちただけで、こんな痣__」

「有りえませんね 」

神崎の担当医が速やかに答える

「 ま、ま…さか… 」


「 人為的な事件だと思われます

何者かに 暴行を受け

そのまま湖に落とされたと

考えるのが妥当…かと…」


現実味帯びた言葉が

更に心胆を寒からしめた…

「………… 」


「ここに来るまでに

気づかなかったのですか…?」


担当医は眉をひそめ 僕に問う

ものうげな視線は

まるで 僕の心理状態の方を

探っているように見える

弱冠の違和感を憶えた…





「 すみません… 」

威圧感に押され 呂律が回らない…

なぜか 謝罪の言葉が漏れる






「 敢えて…

思い出さないのではなく?」


「………え…」






「 ごめんなさい、

意地悪な質問でしたね 」

呆れたような冷ややかな口調で

そう吐き捨てると


「 十五分後に戻ります

万一のため 監視カメラが

設置されていますので

妙な真似はよして下さいね」



そう言って部屋を後にした

病室の戸が 音もなく

閉まるのを目で追う



何か… 心の底にある

鉛のようなわだかまりが

戸が閉まると同時に

ずっしりと重くなるのを感じた












………コホッ


ベットの方から咳払いような

音が聞こえる


_____!


僕は慌てて ベッドで眠る

彼女の方へ駆け寄る





「 ……___神崎さん!」

無我夢中で彼女の名を呼ぶ



それに応えるように

彼女の 固く閉じられ瞼が

ゆっくりと開いた

眩しそうに 瞳孔を縮める


「お、俺です! 津島です!」


思わず彼女の頬に触れようとする

その手は 彼女の左手

によって妨げられた

ピリッとした痛みが手の甲を伝う



「 すみません… 津島君

部屋から出ていってもらえますか__」



うら哀しげな冷ややかな口調だった








行き場のない感情に促されるがまま

僕は静かに病室を出た




再び 廊下の長椅子に戻り

非常灯の光に意識を向ける

何も 考えたくなかった…






あれから どれくらい

時間がたっただろう…

まだ 外は闇に包まれている


ふと 誰かの視線を感じた

黒いコートを着た

スラリと背の高い女性

微かに鈴蘭の香りがする

神崎の担当医が僕を見下ろしていた


「 ___家まで 送迎いたします」

淡々とした口調を崩さずに言う


「 いいんですか…?

………ありがとうございます…えと…」


彼女の名を把握して無い事に

今になって気がつく


「 鳥羽病院の 神崎といいます

娘を助けてくれたこと…

本当にありがとうございました 」

そう言って 深々と一礼する





「___!」


彼女…神崎の母親は 少し頬を緩め会釈すると

駐車場の方へ案内してくれた










___ブロロォ

車はゆっくりと走り出す


信号機の赤い点滅が

侘びしく瞬く

見慣れたはずの街

今は その面影すらなく

辛辣な眼差しで

僕を迎えるようだった



重々しい 空気の漂う車内

「 ……チッ」

神崎の母親は 対向車のハイライトに

目を細め 舌打ちした

「……… 」

背中に悪寒が走る



「あ、あの… 神崎…

由紀さん 今 …

病室に独りですよね?

大丈夫なんですか…?」


恐る恐る言葉を口にする


「大丈夫よ… あの子

昔から 少し人格が歪んでいてね」



「 ………ゆがみ…?」


予想外な言葉が返ってきた


「ええ オキシトシン受容体の

形成段階に欠陥があったみたい

だからね… 感じにくいのよ

疎外感とか 孤独感… 」


いつも 独りで…

湖畔のベンチに座る

あの子の姿がふと脳裏をかすめた


「 でも 人は独りでは生きていけないわ…

…嫌われがちの……孤独感や疎外感は…

人を苦しめる為のものではないの…

危機的状況に警笛を鳴らすためにある

でも… あの子には…

その生きる上で重要なシステムが

欠落しているの…」



どこか 泣いてるかのようにも見えた




「 だから危険な時に

早く気づいて上げてなきゃいけないの

早く 教えてあげないといけないの

ここは危ないって でも…」







重たい沈黙が押し寄せる

鉛のような心のわだかまりが

次第に熱帯びる…










……暫くして、運転席から

禍々しい声が響いた






「 あの子はね… 私の全てなの

私が命を懸けて産んだ子

あの子だけが 私の希望だった…

なのに こんな形で

人生を台無しにされるなんて__」









「 ま、まだ…

人生が台無しになったと…

決まった訳では__ 」








_____キィィィイ!!

車が緊急停止する

ハザードランプの点滅が

逆光となって彼女の表情を遮る


「 私は仕事柄 様々な人為的事件の

被害者と接してきた…

不思議なことにね…

今のところ… 誰一人

ちゃんとした 日常を取り戻せた

患者を見たことがないの…

何故だか… 分かる……?」






「……… 」






「___記憶痕跡 」







「……きおく…?」





「 感情 及び その人の人格、

行動傾向は… 記憶を元に形作られる

そして、記憶の元となる神経回路はね…

決して消えることはないの

一見 表面上 思い出せないようになっても

物理的物体として 脳内に存在する

ふとした事をトリガーに蘇る

心の傷は 完全に克服できない

なぜか…? 恐怖記憶は消えないから…」







「 ……………でも… 」


「 分からないでしょうね…

今の貴方には 」








彼女は僕の頭に手を乗せる


「 さて… 本題に入りましょうか…」





殺気だった面立ちから

恐ろしげな声を響かす







____ゴッ!

そのまま僕の頭をボンネットに

勢いよく押さえつけた

全身が総毛立ち 身体は硬直する


「 ………… 」


状況を理解できず

何も言葉がでない




「まだ…しらを切るつもり…?

どうやって あの子を見つけたの?」



「 だって余りに不自然だもの…

深夜…それも 風の吹き荒れる中…

たまたま…人気のない 森の中を彷徨って

瀕死のあの子を見つけるなんて___ 」








「…… ゆ、…ゆ め……」






「__夢…?フザケてるの?」







「…ほ、ほんと…なんです…

夢で… 彼女が…

風と共に…消えたんです…

書きかけの…スケッチ…ブックと…

血と…スズランの…

香り…を…残…して…」



次第に目頭が熱見帯びてゆく

熱い雫が頬を伝う








それは僕にとって


濡れ衣を着せられる事に

対する恐怖心を

遥かに越える




____自責の涙 だった











「…ご、ごめん…なさい

もっと早く… 助けにいっていれば…

僕は… あの子だけじゃない…

貴女…まで… ヴッ ……ゲホッ… 」

自分では込み上げる感情を

どうにも制御できなかった








「…! どうして貴方が泣くのよ!?」





苦しそうにしゃくりあげながら

話す僕を見て さすがの彼女も

心の隙間に背徳を感じたようだった…










「 ……もう… 煩わしいわね…」






そう 吐き捨てると

僕の頭を掴む手を ゆっくり下ろした

先程までの殺気を 静寂に溶かす

頬杖をつき うら哀しげな眼差しで

静かに… 僕を眺めた







……ヴー ヴー ヴー…

携帯のバイブ音が沈黙を破る

彼女は携帯を取り出し電話にでる





「はい、神崎です はい…

え? 分かりました 今すぐ向かいます…

大体 二十分ほど… ええ、では…」

口調は淡々としていたが

顔は徐々に青ざめてゆく








電話を切ると 諦めたような顔をし

瀬々笑った…








「 …あの子……由紀が…

病院を…抜け出したみたい…」










龍目 #小説・2022-03-09
ヌレガラス
鳥目物語
小説
後から改訂版出すかも
龍目文庫
どんな未来が待とうとも






連続短編小説


『 トラツグミ 2 』




#5



神崎





さいごはね

好きなことだけ考えていいの


だって さいごだから

おやすみ って 目を閉じて



解き放たれた魂を

自由に 自分だけの夢の世界に

連れていってあげる


優しい新緑の森


逞しく雄大な雲


久々の夏鳥

凛とした旅鳥

高飛車な迷鳥


日向ぼっこする飼い猫と

かわいい雀のお喋り



あとは 好きな人の

無防備な寝顔でも覗いて






あれ? 私に


好きな人なんて…


まだいなかっ___









フィ___フィ___

どこかでトラツグミが鳴いてる




その途端

視界が揺らぎ始めた

夢が 音もなく 崩れていく



明るくて暖かい空間が…

みるみるうちに影ってゆき

身体に悪寒が走る…














「____…崎さん!!」















____誰?








薄く目を開ける 白い天井

少し目線を移すと

見覚えのある顔が心配そうに

こちらを見ている



「 気が付きましたか!?

俺です! 津島です!」



ふと、朝の湖畔の情景が

脳裏をかすめた

嗚呼 あの時のジョウビタキか…




「…よ、良かった…

ちょうど… 話が…………ん?」


何言ってんだろ 私…


津島は心配そうに

そっと私の頬を撫でようした

その手を 私の左手が妨げる




「……すみません…津島君…

ひと…まず… 部屋から

出てもらえますか…?

今しがた …独り思案に…

……沈みたいので…」


自分でも驚くくらいに

冷ややかな口調だった



「……あ、 はい…分かりました… 」


彼は一瞬 哀しげな顔をしたが

何かを察したように

優しく微笑み 立ち上がる

去り際の彼の背中に

「 多分…貴方が…

助けてくれたんですよね…

ありがとう… 本当に…ありがとう」

掠れた声で呟く


彼は静かに会釈しそっと病室を後にした



病室の戸が閉まるのを目で追うと

枕元ですすり泣く

幽霊少女に声をかける


「 ソノ… 状況説明してくれる?」


幽霊少女は嗚咽の中で

なんとか声を絞り出し

ことの詳細を教えてくれた__











あの漆黒の樹海で私を襲った死神は

ソノ の想い人でもあった西沢という人物

私を襲った理由は不明だが…

津島が唯一の親友だったこともあり

その絡みが要因の可能性も然り






いつかの ソノとの約束

『西沢君を助けてほしい__ 』

あの時の言葉が心臓に刺さる







そういうこと… か…

出来れば こうなる前に

何かしてあげれたら…




ソノはひたすらに泣き続け

私に謝罪する………



ゆっくりと身を起こし

私は 彼女の頭を撫でる

幽霊なので動作のみ…


でも… 確かに 暖かった…

そして 静かに語りかける



「 ねぇ… これは…

生きてる側の問題だから

もう、泣かないでよ…

貴女は十分に苦しんだ

もう いいんだよ

さいごはね さいごくらい

自分のために… いきて…

後のことは 居残り組が頑張るから…」




ソノは潤んだつぶらな瞳で

真っ直ぐに私を見詰め

ゆっくりと

無邪気な笑顔をつくってくれた




『 ……ありがとう…ザッキー…』



そう言って すっと姿を消した



「 ……ありがとう… じゃあね…」








フィ_____

再び どこからか トラツグミが唄う

病室の窓に目をやると

鏡面のガラスに 私の顔が写っていた

痣だらけの顔に

コケた頬 目の下の隈





暫くすると 医師と看護師が入ってきた

淡々とした口調で現在の病状と

今後の治療について 教えてくれた







看護師から渡された服

病院に運ばれるまで着ていたものだ

泥か 血なのか 醜い汚れがあって

前側が大きく裂かれている

…もぅ 着れないな

割と気に入っていたのに…


溜息をつこうとした



「 __っ…」


胸の辺りの痛みが

深い呼吸を妨げた



入院着の紐を緩め胸元を少し確認する

胸骨の中心付近

軽い火傷を負っていた…ただれている


「 へぇ… 」


面白い気づきを得た


__生きようと

藻掻くほど汚れるのか




「 もぅ、なんだか鬱陶しいや…」

手首に巻かれた包帯を剥がし

カテーテルを引き抜く

左手首から黒い血が滴った



「 ねぇ… 亡くなった人の手は

何故 白くなるか… 知ってる…?」



私は左手を眺めながら

瀬々笑う







龍目 #小説・2022-03-05
トラツグミ
鳥目物語
小説
龍目文庫
どんな未来が待とうとも




連続短編小説




『ヌレガラス』



#6


津島 と 神崎







薄く瞼を開く

賑やかな鳥たちの囀り

頭上には 樹海の空が広がって

木漏れ日がチラチラと

楽しげに揺れる


朝の有酸素運動に利用する

いつもの湖畔

どうやら 僕はベンチに

座っているらしい


………あれ?… 寝ていた…?



ふと 誰かの視線を感じ左横を見る

頬杖をついた少女が

優しい眼差しを向けていた




「 ……神崎さん…?」




彼女の名を呼ぶが返事はない

ただじっと僕を見詰める



___ザァァア!


突風がこちらに押し寄せる

思わず目を瞑る

風が収まるのを見計らい

恐る恐る目を開くと

彼女の姿は消えていた








描きかけのスケッチブックと


血の混じった


スズランの香りを残して___














____ゴォォォ

不穏な音が轟くと共に

足元に 奇妙な曲線が伸びてくる




今の俺は まだ___















……………ガタッ













「 神崎!!」



激しい動悸に叩き起こされる

辺りを見渡す…自分の寝室だった


「……夢…?」

動悸は中々 収まらない

それどころか 吐き気を伴う焦燥感が

ジワジワと身体に広がっていった


………ガタ ガタ ガタッ!

外の風が窓ガラスを激しく叩く



誰かの必死な叫びを

その人の代わりに運ぶかのようだった










…………ギィッ…













「 神崎…! 神崎…!」


気がつくと僕は

情動に駆られるがまま

漆黒の樹海を駆けずり回っていた



「 神崎… ! カ…ッ…ぁああ!」


恐怖心が何度も襲い

その度 足元を掬われ

地に両手をつく

過去に怪我を負った部位が

悲痛な訴えを叫んだ

それでも立ち上がり 再び走り出す

その繰り返し…



自分でも訳が分からなかった


ただ 本能は

束の間の休息さえ許さない

ひたすら 走り続ける







あれから…どれくらい

時間が経つだろう…

いつの間に… 先程まで

あんなに唸っていた風が沈黙し

時が止まったかのような

静寂が訪れていた










フィ_____

閑古鳥の代わりに

鵺の声が寂しげに響く










…………………バシャッ

何か 水の音が聞こえた

音の方へ向かうと…

湖に設置されたテトラポットに

誰かがつかまっている


「………神崎!!」

彼女の名を呼ぶが 返事はない

早急に岸へ引き上げる

暗くて 怪我の具合がよく分からないが…


………次第に彼女の身体が冷たくなる

のはひしひしと伝わった




「 神崎…!」




………闇の中で ふと…

彼女の見開いた瞳孔と

目があった

哀しげな光が僅かに揺らぐ……






「……ヴァァアアア!!」



____?!




彼女は悲鳴に近い叫び声をあげる

鋭い殺気を宿した彼女の両手が

僕の首を締め上げた





「ッグ! …お、

おれ…で…す……つ、津…島…」


息も絶え絶えになんとか声を出す


「……!」


彼女はハッとした顔をすると

手の力を緩め

そのまま意識をなくした








暫くして救急車のサイレン音が

深夜の湖畔に鳴り響く







ひっそり閑とした 冷たい空間

僕はとある病院の薄暗い廊下沿いの

長椅子に腰掛け 呆然としている

非常灯が訝しげな緑色に光るのを眺めて




………ふと 誰かの視線を感じた

「 お疲れ様です 津島さんですね?」

白衣を着た スラリと背の高い女性が

僕を見下ろしている

その人から漂う

独特な薬品臭が鼻につく

微かに鈴蘭の香りを混ぜて


「………えぇ、そうですけど…」


「 神崎由紀さんの治療にあたった者です。」

その人は 取り乱す僕を

対比するかのように

落ち着いた態度で振る舞う


「……ハッ! あ、あの…」


「 大丈夫ですよ。

命に別条はありませんでした。」


「……はぁ… 」


深い溜息と共に 一気に身体が脱力する

そのまま意識が持っていかれそうな位に…


「 失礼ですが… 患者とはどのような関係で…?」

先程の医師が僕に質問する


「あ…いえ… たまたま…彼女を見つけて…

救護した…と…言いますか…」


「 そうなんですね。それだけですか?」


「えぇ… そう… ですね…」


「 分かりました。

この度は迅速なご対応を

ありがとうございます。

大変 お疲れの事とお察し致します。

後の事は こちらが尽力致しますので

ご安心下さい 」


淡々と口調でそう言うと一礼をする


「……あ、あの…」

僕は何か言いたげに声を出す

上手く 言いたい事は…言えない…


「……………良ければ…

病室に案内しましょうか…?」


何か 察してくれたのか

優しくそう言ってくれた


「…あ、はい!」


僕はその医師の後ろ姿を

追って 彼女のいる病室へ向かった



乾いた 2つの足音が奏でる

不協和音が 暗い廊下に響いた








龍目 #小説・2022-03-07
ヌレガラス
鳥目物語
小説
どんな未来が待とうとも




連続短編小説




『 ヌレガラス 3 』



#8




カミザキ と 津島







恐怖記憶は消えない

禍々しい気配を宿した思考は

絶えず湧き続け

心の湖に不可解な曲線を描く






恐怖記憶は克服できない

人生の崩壊は

哀しい記憶痕跡が出来上がった時点で

運命のシナリオに加筆されてしまう
















私はこの一般論に反旗を翻したい

なぜなら____

恐怖記憶は消えなくても

恐怖と私の関係性は

自分自身の行動によって

後天的に変えていけるから









さあ 物語の次の章に進もうか









…………ギィ
















………サァ…

春の風が優しく髪を揺らす

「………コホッ 」

黄砂と花粉が混じった淀んだ空気が

喉に不快感を植え付けた




私は今 どこかの大型施設の屋上で

ぼんやりと空を見上げいるらしい


新月の夜 霞んだ黒い天井 星は見えない

地上に視線を移すと

無数の灯りたちが楽しげ瞬いていた




こちらにも お喋りの声が聞こえそうだ…

「 フフフッ 」

思わず 笑みが零れた


眩い地上の揺らぎ

手招きをしているようにも見える

こっちだ おいで と___











ッガタン…!

冷たい金属製の扉が開く

独特のキンとした音が耳に刺さった

私の名を呼ぶ声が後に続く


「 ……神崎さん?! 」


鉄の扉の向こう 薄緑色の非常灯が

僅かに灯る 訝しげな空間が垣間見えた

そこから 同い年ぐらいの青年が

血相を変え こちらにやってくる


「 ああ、津島君…

良かった…… ちょうど話が__ 」



青年は烈火の如く 走る

その脚は引き下がることを

知らないように__





「 へ? 」






ヘッドライトを向けられた

子鹿のように 身体がフリーズした

このままでは正面衝突は免れない…



次の瞬間








_____フギャッ!!








床に尻もちをつく 鈍い音と

腑抜けた声が 屋上に響いた



「 ……っ 痛っ!はぁ!?」


アドレナリンのお陰で

さほど痛みは感じなかったが

転んだ際の常套句で怒りを表現する





「 早まるなぁあ! 神崎!」

津島は鬼の形相で荒々しく吠えた



「 どっちがよ !!?」

彼の肩を押しながら 私も怒鳴る



「 ………え? 」


面食らった顔をすると

辺りをゆっくりと見渡す




遠くの鉄塔 赤い点滅が

辛辣な眼差しを向けている




「…だって今 君…

飛び込もうと…」



「 ____あなたがね」


溜息混じり吐き捨てる

冷ややかな夜風が

彼の前髪をなじった



「……… なんか すみま__」


「 いいから 早くどきなさいよ…」


間髪入れずに言葉を返す


彼は何か言いたげな

ものうげな顔をしながら

ゆっくりと引き下がった



暫く 沈黙を置く

風が泣き止んだ頃合いに

「 なんだか 雰囲気変わりましたね…」

彼は 小さく呟いた



「………コホッ… 」

春の淀んだ空気に再び咳き込む

少しはだけた入院着を整えながら

ゆっくりと身を起こした

胸元の火傷がチクリと痛み

意識を現在へと呼び戻す






「 でも…神崎さんも神崎さんですよ…

なんで勝手に…

病室を抜け出したんですか… 」


服の埃を払いながら

彼は不満げな顔をし

私の左手の方へ視線を落とした




無理やり点滴針を外した部位には

血が滴った跡が残っている




「 ___久々に……

人の激情に触れた…

少し血迷ったのかもしれない… 」


ゴォ…と唸る風の声に

耳をすませながら

私は 優しく 青い痣を擦る

死神に襲われた時の

恐怖と哀しみの記憶が

走馬灯のように脳裏を駆け抜けていった



「……… 神崎さん… 」


彼はゆっくり私を抱き寄せると

今度こそ守りますからと

小さく耳打ちをした

彼から僅かに感じた土の香りが

あの日の 澄んだ樹海の空を

思い出させてくれる


____暖かい







「 ………うん… ありがとう… 」


名残惜しさを感じつつ

彼の腕をそっと 振りほどく



互いに目配せをして

気恥ずかしさを紛らわすと

私は彼の目を真っ直ぐに見詰めた


「 迷惑かけてばかりで…

本当に…申し訳ないんだけど…

津島君に手伝って…

ほしいことがあって…」


「あぁ、いいよ なんでも言って 」

彼は穏やかに返す




「___死神を…あの人を…助けたい 」


「 ………? えっと… ごめん…

なんの…話…?

君の言う…死神って___」



私は痣だらけの青々とした

自分の左腕を彼の前に掲げた




「 ___まさか… 自分を

殺そうとしてきた 奴のこと…? 」


先ほどの彼と打って変わり

焔を焚きつける禍々しい声が

影をさす





___私は 静かに頷く





「 ……なんで?!

訳分かんないっすよ!!?」


荒々しい声が私の心臓を震わした



少し赤らんだ彼の目に

意識を向けながら


「 ___同じ目を

していた… 」


私は覚束ない声で呟く



「 うまく言えないけど…

何かに…怯えたような目…

あの時 死神に襲われた夜…

お互いの恐怖心が共鳴して

心が通じ合った気がした…」


サァ…

冷ややかな夜風が

私の首筋をかすめた

ピリッとした痛みが走る



「 余計に…訳分かんないっすよ…」

彼はうつむいたまま

哀しげに呟いた






______キィッ__



風の泣き声が木霊して

近くの避雷針を軋ます




暫くして 屋上に続く非常階段から

複数のけたたましい音が

こちらへ駆け上ってきた




まだ 風は泣き止まない





龍目 #小説・21時間前
ヌレガラス
鳥目物語
小説
どんな未来が待とうとも



連続短編小説

『 鳥目物語 』裏設定


(# '-')ノ トラツグミ編


Q トラツグミ編で2回登場した
鏡面 という言葉について

トラツグミ編の主人公 神崎の
物語内での位置づけの投影

4話 の 新月
→ 夜に存在しない者 新たな展開

5話 痣だらけの顔
→ 生きようとする者 葛藤 希望


Q 右手 左手 の使い分け

神崎は西沢のドッペルゲンガー的存在
不幸を経験しなかった世界線の西沢


右手 生存本能 先天的な望み
神崎の意思

左手 死神の宿る手
後天的に発生した望み
西沢の意思

4話では右手が

5話では左手が活躍してました

5話で神崎さん
少し 闇落ちしてます ()


Q 波紋 と 風 の意味

4話の鏡面の湖に伸びる曲線とは
波紋のことを表しています

神崎が逃げた先の湖に飛び込んだ
ということも表していますが

3話のジョウビタキ編で
神崎から津島の方へ波紋が
広がる描写に繋げたつもりです

津島がもしかして助けに来てくれるかも…?みたいな暗示にできたら…と…

風は登場人物の心情の揺らぎを
象徴していますが

4話の終わりで風がやんだと書いています
恐怖に襲われつつも神崎の意思に
変化はなかったという意味が伝わればと…

旅立つ者 遺る者 それぞれの道を行け
交わることなく…
みたいな考えが神崎の中で変わらなかった…的な…?


Q トラツグミの声について

神崎を先導する…なんかーこー光みたいな…
語彙力…が… 笑

個人的に トラツグミの声
すっごい好きなんですよね…


🐅🕊( '-' ) あはは…




まぁ この辺で 笑
あとから 他の裏話も 追加するかも…汗

龍目 #小説・2022-03-06
小説
思いつき
鳥目物語
トラツグミ

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