∕
∕
珍しく筆が進んだ小説
∕
『Innocent Youth』
∕
置いておきます
∕
更新は気まぐれです
start
夏の醍醐味であろう満月を捉える写真
朧気に雲がかった被写体を眺めていた
「夕方まで雨が降ってたんですけど、夜の7時にはちょうど晴れたんですよ!!」
少し早口で嬉しそうに口角を上げ話す彼
手元のカメラに映された写真は
久しぶりに私の心を揺さぶった
「…雲が光って見える」
久しぶりの感覚に耐えきれない口は
ついに感動の意を伝えるべく動き出す
「決定的な瞬間でした、これ撮った瞬間、先輩思い出してすぐ見せようって!」
ニコッと浮かべられた満面の笑みから
彼の人柄の良さを感じる
「…そうだったの、」
彼のノリに合わせるのは疲れてしまうので
軽く流すように相槌を入れる
私は元々人との会話が苦手だ
ましてやノリに合わせるなんて
心身ともに崩れてしまう
それから彼が撮った写真を結局
ほとんど見せられ、その度に説明を聞き
満足したのか気がつけば
チャイムがなる前に教室に戻って行った
「…台風一家……」
彼が過ぎ去った屋上は再び静けさに返る
沈黙の中、午後の授業が始まる鐘が鳴った
それから数日経った日
紅葉が屋上にチラつく季節がやってきた
地上では警備員さんたちが
枯葉の清掃をしている
「もう、こんな季節ね、」
柵に手を付きながら遠くの海を見詰め
少し強く吹かれた風に身震いをする
移ろいゆく季節を目の当たりにして
少しだけ心が疲弊していた
一時間目が始まるチャイムが鳴り
学校全体が改めて静かになる
すると校門の方から駆け足で
向かってくる姿をみつけ
誰だろうと視線を集中させた
懐かしいその面影に少しだけ胸が弾む
「陽和、、?」
彼女を見るのはあの暑い夏の日以来だった
久々に会えそうな予感がして心拍が上がる
別れた友人とまた会えることは
嬉しいに越したことはないだろう
なのに、何故だろうか
私の心はまさに不安が高鳴っている