#練らないこと

あの人は私のことを「練る練る詐欺」と言って非難した。

私だって別に、悪気があって練らなかった訳じゃない。

ただ、練るタイミングを見計らっていたのだ。

僕がどんなに勧めても、
君は頑なに練ろうとしなかった。
あのときは不思議に思ったが、
今にして思えば、
練らないというのも、
一つの才能なのだ。

結果を知りたくなければ

練らなければいい。

簡単なことだ。

しかし

気高きあなたは

練らないことを

許さない。

好きなのに

言わないのは

色を変えたいのに

練らないことに

よく

似ている。

しかし

何でもかんでも

練ればいいというものでも

ない。

練らなかった記憶さえも

思い出になれば

きれいになって

しまうのだ。

練らないこと。

それが

至難の業なのだ。

実のところ

練ることよりも

練らないことの方が

難しいのだ。

ねるねるねるねを

固めたからといって

練らなくていい理由には

ならないのだ。

あの人は、「練らぬが花」などと適当なことを言って、練らないことを正当化しようとするのだ。

色が変わらなかったことよりも、
むしろ、
練らなかったことのほうが重大なのだ。

「今日は練らない」と

決めたら少しだけ

心が軽くなった気がした。

最近の研究では

「練らない時間」こそが

ねるねるねるねを練る上で

重要だということが

分かってきたのだ。

『ねるねるねるねは…』



その先は

練らなかった者だけが

書くことを

赦されるのだ。

あの人の

形

色

存在…

ねるねるねるねを練ると

再現されてしまう。

だから私は

練らないのだ。

練れば練るほど色が変わるからこそ



練らないことによって色が変わるという逆説が



成り立ち得るのだ。

練らなかったあの人のことを

私はとっくに

許してしまっていた。

練る手段を持たなかった

あの人は

誰からも練られない

という

ことによって

すでに

裁かれて

いたのだ。