「ねえ。生きてて楽しい?」
『なんでそう思ったの?』
「だって楽しくなさそうだから」
この会話が君と俺の出会いだった
俺は昨日のことが
頭から離れずにいた
〈奏斗おはよー〉
『おぉ。おはよ』
いつものように挨拶をする
でも頭の中にいるのは
〝昨日の子〟ただ1人
最初は名前も知らなかった
何にも興味を持つことがないから
基本的。誰の名前も知ろうとしない
そんな俺が知りたいと思う〝あの子〟
その子はクラスで
目立つわけでもなければ
特別何かができるわけでもない
それどころか
学年から嫌われてる子だ
周りに友達もいて
勉強もそこそこできる俺が
なんでそんなやつの事が
気になってしまうのか
不思議で仕方なかったんだ
あれから数ヶ月が経ち
忘れ物をして教室に行った時
〝あの子〟がいたんだ
窓の外をぼーっと眺めて
何かを考えているような瞳だった
そんな彼女に気づかれないように
忘れ物を取り。帰ろうとした時
「ずっと偽ってると辛いのは君だよ」
俺は反射的に
『お前に何がわかる』
そう言った時。
彼女は驚いたかのように
俺の顔を見た。
ふと窓に映る自分の顔を見ると
消したい過去や後悔に
怯えてる表情だった
その時。ようやく分かった
何故。彼女が頭から離れないのか
でも答えは簡単だったんだ
《隠してた事を見抜かれたから》
たったそれだけだった
それと同時に。彼女が
学年から嫌われてしまう理由も
分かってしまった
あれから数日経っても
あの時のことが忘れられない
彼女。いや。彩桜の言葉や
窓の外を眺めていた時の
悲しい表情も。全て忘れられなかった
そうか。俺は彩桜が好きなんだ
俺は偶然を装い
彩桜と2人になる時を探した
放課後のあの時間。
また教室に行けば会えるはず
『…っ!』
教室に入った瞬間
俺の目に入ったのは
彩桜が窓から飛び降りる所。
俺は急いで彼女の手を引いた
『お前。何してるんだよ』
「飛び降りようとしてた」
『なんでそんな事するんだよ』
「偽りだらけの世界なんて。要らない」
その言葉に対して
返す言葉が見つからなかった
でも必死に考えて。
『そんな事ないから大丈夫』
綺麗事しか言えなかった。
でも彼女は それ に気づいていた
綺麗事。だと言うことに
思ってもないことを
口にしてしまったことを
彩桜は気づいていた
「そんな上辺だけの
言葉なんて聞き飽きた」
『なら。俺と生きようよ』
自分でも何を言ってるのか
わからなかった。だけど
ここで彩桜を失いたくなくて
俺が彩桜を救ってみたくて
『俺と彩桜で生きてみない?』
彩桜は驚いていた
すると急に泣き出してしまった
「私でいいなら二人で生きよ」
聞こえずらかったけど
彩桜は確かにそう言った
俺と彩桜は付き合うことになった
でもそれは
クラスの人達には伏せたまま
彩桜の意思でそうすることにした
俺は隠したくなかったけど
彩桜がどうしてもと言うから
仕方がない。
だからといって
彩桜と話さないのは耐えられない
だから定期的に
放課後の教室で会うことにしていた
でも。その幸せは
長くは続いてくれなかった
たまたま教室に来てしまった
クラスメイトが
俺らの関係に気づいてしまった
俺は何されるのか覚悟してた
でも1週間が経とうとしても
友達はいつも通り変わらないまま
でも。彩桜は違った
クラスメイトと仲良くなってた
それも。女子と毎時間話して
とても楽しそうだった
ようやく皆にも
彩桜の良さが分かったのかと
俺自身も凄く嬉しかった
そんなある日。
俺と彩桜が定期的に2人になる日
彩桜はカッターを持っていた
『ねえ。彩桜どうしたの』
「もう私耐えられないから」
『2人で生きるっていったじゃん』
「ごめん。もう別れよ」
俺が初めて告白した子
初めて本気で愛した女の子に
初めての失恋を教わった
だけと彩桜を失いたくなくて
『なぁ。考え直してくれないか』
「わかった。じゃあさ」
『うん』
「私と いこう よ」
俺には理解できなかった
いや。正しくは
理解出来てきたけど
信じたくなかった
だからダメだと思いつつ
聞いてしまった
『どこに?』
「海」
そう答えてくれたから安心できた
まだ。これからも
彩桜と楽しい日々を過ごせる
幸せな日々を送れるんだって
だから俺は賛同した
『いいよ。今から?』
「どうしても今からいきたい」
彩桜の望みを叶えるために
俺と彩桜は海へ向かった
何故そんなに海に行きたいのか
全く教えてくれなかった
ふと見上げた空は
この時間が続いて欲しい
そんな俺の気持ちを読んだ夕焼けで。
でも。どこか寂しげだった
海に近づくにつれ
音が大きくなっていく波の音は
心を落ち着かせてくれた
「ねえ奏斗ここで決めて」
『うん』
「今から2人で いく か
奏斗1人で生きるか」
『いくってどこに』
分かってても聞いてしまった
信じたくなくて聞いた
今度こそ【あの場所】の名前を
答えてくれる気がした
「あの世」
やっぱりかと思った
俺の目の前では
俺の事を真っ直ぐに見てる君の目
とても冗談には思えなかった
俺の生きる意味は
彩桜だった
彩桜が居なければ生きる意味も
これから頑張る意味もない
俺の仮面を見破ったのは
この世でたった1人。
《彩桜だけだったから》
だからこそ
彩桜には俺と一緒に
生きて欲しかった
辛くて逝きたい気持ちが
間違ってるとは言わないけど
俺は〝今〟を
彩桜と生きたかった。
だから
『ごめん彩桜それは出来ない』
「そっか」
彼女は悲しそうな顔をした
その表情は
俺に失望したかのように見えた
『俺は彩桜とこれからを生きたい』
そう言っても彩桜の表情は
少しも変わらなかった
『何かあったなら俺が聞くよ』
すると彩桜は
重く閉ざされた口を開き
今まであったことを
少しずつ教えてくれた
クラスメイトと
仲良くなってたのは
自分からではなく
言い寄られていたこと
みんなで教室を出た時は
人気のない所で暴行を受けてたこと
次第にエスカレートしていき
女子だけにとどまらず
男子からも虐められていたこと
彩桜は俺に全てを話してくれた
『彩桜。明日の学校で
俺が何とかしてみせるから
別れるのも。あの世へ いく のも
もう1日だけ待って欲しい』
彼女は嫌そうだったけど
なんとか押し切って
明日まで待ってくれることになった
迎えた翌日
彩桜と俺の運命を変える日
授業後のHRを使って
〝ある事〟を
隠さずに言おうと決めた
担任の話を早めに
切り上げてくれるように頼んだ
[奏斗。お前から話があるんだろ]
自分の話を終えた担任が
俺に話を振ってくれた
『奏斗どーした』
『早く終わらせろよー』
『公開告白でもすんのかよー』
様々声が上がった
無意識に見た彩桜は
この先の未来に
1つも希望も抱いていない
生きることを諦めた瞳だった
『俺からの話っていうのは』
そう言った時笑い声や話し声が
少しずつなくなっていき
俺の声が通りやすくなった
『彩桜。前に来て』
みんなの視線が一気に
彩桜に集まった
彼女は素直に前に来てくれたが
驚きを隠せずにいた
《なんだよーお前ら2人して》
《まさか付き合ってるとかないよな》
《あるわけないじゃーん》
《嫌われ者と人気者だもんなー》
彩桜への非難が一気に増えた
『俺と彩桜が付き合ってる事の
何が悪いんだよ』
これまでにないくらい
静かで重たい空気になった
『俺と彩桜が付き合ってるからなに
彩桜は。ちゃんと俺を見てくれた
表面だけを見てる人とは違う
彩桜は俺の彼女だ
虐める奴がいたら許さない』
顔を伏せる人もいれば
申し訳ないという
表情を浮かべる人など
様々だった
『これで俺の話は終わり
何か言いたいことあるなら
不満があるなら今ここで言え』
1人の女子が立ち上がった
《彩桜ちゃん。いじめてごめん》
その子が主犯だったのか
関係していた女子達が
バラバラと立ち始めて
彩桜の元まで来た
《彩桜ちゃん。ごめん
許してなんて言わないから
仲良くできるのなら
仲良くしていきたい。です》
そう言って
彩桜の前に来た女子達7人が
一斉に頭を下げた
彼女は戸惑っていたけど
笑顔で答えてくれた
「うん。大丈夫。
私で良かったら仲良くしよ」
話し終えたと思った担任は
[一旦。お前ら席につけ
最後に一言。言わせてもらう]
俺含め全員が席に着いたと確認し
担任が口を開いた
[人はイメージだけじゃなく
内面まで知ろうとしないと
本当の相手は分からないもんだ
これで話は終わり。解散]
担任が教室を出ていった後
彩桜を虐めてたと思われる
男女が彩桜の元へ来た
幸い俺の席は彩桜の斜め後ろで
様子を伺うことが出来た
《彩桜ちゃん。ごめん
私が間違ってた》
《彩桜さん。俺達間違ってた
ごめんな》
こんなことが起こるとは
思ってなかった彼女。
「大丈夫。こんな私だけど
これから仲良くしてくれると
凄く。嬉しい。です」
虐めた人たちも
彩桜も最後には
みんな笑顔だった
その日の帰り際に
2人で公園へ向かい
ベンチに座った
『彩桜。やっぱ。ダメか?』
彩桜は複雑そうだった
「教室に行く度。怖かった
けど。これからは
大丈夫な気がする。ありがと」
俺はホッとした
「私は。奏斗と
これからを生きていきたい
我儘な私だけど
このまま付き合っててくれますか」
俺は嬉しかった。
思わず彼女を抱きしめてしまった
あれから数年後
俺と彩桜は籍を入れることができた
喧嘩とかすれ違いとか
たくさんあったけど
互いに
【この人しかいない】
そう思ったみたい
クラスメイトが
彩桜に謝ってからのことを話すと
最初は馴染めなかった彩桜。けど
少しずつ挨拶したり
話しかけてみたりと頑張っていた
クラスメイトも
少しずつ。彩桜に話しかけてて
卒業する頃には
男女問わず彩桜に友達ができて
楽しそうだった
それからは
彩桜がモテるようになって
俺の嫉妬が
耐えない時もしばしば。
だけど
彩桜が好きなのは
俺だけなんだと思うだけで
すごく幸せだった
子宝にも恵まれた今では
【あの頃】に起こったことは
ある意味いい経験になったと思う
『彩桜。俺と結婚してくれてありがと』
「私の方こそありがと」
『彩桜。愛してる』
俺は彩桜に
甘い甘いキスを落とした