めじろ・8時間前
短編小説
とか書いてみたかった
【かなしい夜は】
かなしみはほこりのように
あちこちに降り積もる
昔誰かからもらった土産の小皿に
ホーローやかんの塗装が剥がれたころに
枕元のランプシェードに
そんなかなしみに気づいていしまった夜は
あてもない散歩に出かけてみる
いつも見慣れた風景が知らない顔をしている
街灯に丸い虹がかかっている
太陽と勘違いした虫たちが影絵になる
カバーに包まれたバイクは動物のオブジェのようだ
シーソーに座ってもう片方にのせた空白を持ち上げる
その先に
机に向かうシルエットの窓
小さなラジオの音
小学校の側を通りかかる
朝顔 水飲み場 昇降口
机の中の宿題プリント
校庭に転がるボール
落とし物箱のちびた鉛筆
また明日
子どもたちがやってくるまでの無音のおしゃべり
路面清掃車は火花を散らして走り去り
見るまに遠ざかっていく静寂
夜の川が好きだ
眠らない光が水面にゆれている
部屋に戻ればかなしみは変わらずそこにある
でも
この光の中でもう少しだけ
生きてみようと今は思うのだ