【青い春に君と2人_】(下)
「ねえ、れいちゃん。今日空いてる?」
放課後、一ノ瀬くんに話しかけられ
読み途中だった小説に栞を挟む
「んーと、うん、空いてるよ」
今日の予定を頭に浮かべ
用事がないことを確認する
「よかった。じゃあ俺とデートしよ」
「へ?」
いやいや、
今日初めて会ったばかりだというのに
デートは抵抗がある
1人で混乱していると
頭上からクスクスと笑う声が聞こえた
「ごめんごめん、冗談だよ
れいちゃんと行きたい場所があるんだ」
どうやらからかわれただけのようだ
むっとしたが私と行きたい場所という
ワードが気になり
そんな気持ちはどこかへ行ってしまった
「私と行きたい場所って?」
「ないしょ」
くだらない会話をしながら校舎を出て
一ノ瀬くんに着いて行った
「ここだよ」
着いたのはごく普通の公園
_のはずなのに
「ここ、知ってる気がする」
なぜかそんな気がした
ブランコ、滑り台、鉄棒…
見慣れた風景のように映るのはどうして?
「…れいちゃん、ブランコ乗ろ」
もう既に乗っている一ノ瀬くんの
隣のブランコに座った
「ちょっと俺の昔話をしようかな」
昔話…?
一体この公園と彼の昔に
何の関係があるのだろうか
「…俺、幼稚園児くらいの歳まで
この町に住んでたんだ
その時にこの公園で
よく一緒に遊んだ女の子がいた
その女の子が…れいちゃんだよ」
は、彼はなにを言っているのだろう
私と一ノ瀬くんは今日初めて会ったんじゃ…
ズキズキと痛む頭を抑えながら彼の話を促す
「ある日、いつものように
君とこの公園で遊んでた
その日はボールで遊んでたんだ
俺の投げたボールが
道路の方に飛んでいっちゃって
道路側に居たれいちゃんが取りに行った」
ズキズキと頭痛が激しくなる
まるで彼の話を聞くことを拒否するかのように
「ボールを追いかけていたから
きっと車道に出ていたことに
気づかなかったんだろうね
君は…走っていたトラックに轢かれた」
ふっと頭の痛みが消え、体が倒れる感覚
最後に見えたのは雲一つない青空と
焦ったような一ノ瀬くんの顔だった
…あれ、ここは?
あ、そうだった
りょーくんと遊んでるとこだった
りょーくんが投げたボールが
公園の外に飛んでいく
もうっ、飛ばしすぎだよ
追いかけて追いかけてやっとボールを捕まえた
りょーくんのとこに
戻ろうと思って顔を上げたら
今まで感じたことの無いくらいの衝撃と痛み
あれ、体動かないや
『…れ、いちゃん』
りょーくん?
なんで泣いてるの?
声を出そうとしても空気を吐くだけ
『れいちゃん、れいちゃんっ』
もう、泣かないでよ
なんでかな、りょーくんの顔が霞んで見える
『りょ、くん、だいじょぶ、だから』
力を振り絞って出した声とともに
意識を手放した
…ん、あれここは
重い瞼を開けると真っ白な世界
ここ病院か
さっき倒れちゃったんだっけ
「れいちゃん?」
あぁ、思い出したよ、全部
君は一ノ瀬くんじゃない
「りょーくん」
「…れいちゃん、思い出したの?」
「思い出したよ、君はりょーくんでしょ?
おっきくなったなぁ」
体もがっちりしてるし背も伸びた
あの頃の君からは想像できないな
「…ごめんね」
少し震えた声で呟いたりょーくんの目は
濡れている
「…何に謝ってるの?」
純粋に分からなかった
君は何を謝っているのか
「俺のせいで、
顔に一生残る傷も出来ちゃったし
それに記憶も…」
傷…
顔の傷に手を当てる
今まで気持ち悪く感じていた傷跡も
今は何も思わなかった
「許すよ」
出来るだけ優しく呟いた
私は君を恨んでない、大丈夫だよ
という思いを込めて
「っ、なんで。ずっと後悔してた
あの日俺がボールを遠くに投げなかったら
あの日れいちゃんじゃなくて
俺がボールを取りに行ってたらって」
苦しげに叫んだ言葉はきっと
りょーくんの本音
「ばかだなぁ
りょーくんが記憶を失くして
顔に傷がついちゃったら
私の方が何百倍も辛いよ」
もしあの日、轢かれたのがりょーくんだったら
想像するだけで苦しくなる
「だから、いいんだよ
もう後悔はしなくていいんだよ
私が全部許すから」
だから
「もう、私の事で苦しまないで」
そう言った私の目の前で君は
一粒の雫を流した
その雫はただただ綺麗だった