長編小説
翔鴉さまとのコラボ
巡り廻る季節の中で君を想う
『秋って綺麗だけど儚いよな...』
いつの日か優しく語りかけてくれた人は
何処へ行ってしまったのだろうか。
「おい?聞いてんのかよ。」
その一言で一気に現実に引き戻される
あぁ、今日も始まる
"お人形ごっこ"
もちろん私は動かす側ではない。
動かされる側。
「おいブス、俺の靴舐めてみろよ」
言われた通りにしか動くことを許されない
私は人形だから。
感情が薄れていったのは
諦めが蓄積して溢れそうなのは
いつからだろうか
私の居場所は何処にもない。
学校では人形になり
家ではサンドバッグ。
「彼奴の顔キモイんだよ」そう言いながら
私を殴る兄。
成績優秀な兄は両親から気に入られ、
劣等生の私は見放された。
いつの日か私は
兄の鬱憤晴らしの道具になっていて
両親もそれで兄の成績が保たれるなら、
私を自由に使うことを許可した。
お陰で私の痣が減ることはない。
「あの先生俺ばっか当てるのうざい」
そう言いながら私を蹴ることを辞めない兄
私を人として見てくれる人はもういない。
人生ってこんなもんなのかなって思う。
夜の12時過ぎにやっと開放された。
2時間も私を殴ったり蹴ったりする力を
どうして他に使おうとしないのか
とても不思議に思う。
ベットに寝っ転がり
スマホでひとつのアプリを開く。
懐かしいようなオルゴールの音を聞きながら
私は手慣れた動作でロックを解除していく。
学校にも家にも居場所がない私は
もうここしかないんだ。
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幸せが終わる時は
いつも涙の味がする
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自分の気持ちを素直に書き
今の自分の気分に似た写真を選び
投稿する。
ここでは私の本音を書ける唯一の場所
好きが溜まれば
同じ気持ちの人がいるのかなって
少しだけ期待してしまう。
そして次に自殺サイトを漁る。
自殺サイトを漁ると、何処に繋がっているのか
大変不確かな電話番号を必ず見かける。
どうせ電話したって助けてくれない癖に
ふと、ひとつの投稿に目が止まる
"一緒に死んでくれる人募集"
他の投稿は年齢や性別を
自ら名乗っているのに
この投稿だけちがった。
私は少しだけ好奇心を持ち
「はじめましてこんにちは」と一言だけ
メッセージを送信した。
私はもう戻れないところまで
進んでしまったのかもしれない
そんな事を考えながら
青白く変色しつつある腕と太ももに
湿布を貼って部屋の電気を消した。
目覚めは最悪だった、
「いつまで寝てんだよ」
そう言いながら鳩尾を殴る兄
寝ていた時にいきなり殴られたから
咳き込んで、軽く睨むと
「あ?何その態度」
そう言いながら兄はポケットから
カッターナイフをとりだす
鋭い衝撃と激しい痛みに言葉が出てこず、
腕を見るとカッターが自立していた。
止まらない血液、
腕よりも心が痛いと言う
私は可笑しいだろうか
「朝ごはんよー」
下の階から母の叫び声が聞こえる
すると兄は私を睨みつけ
「腕のこと誰かに話したら
命はないと思えよ?」
と、言葉で私を制限し部屋を出ていった。
私は引き出しからガーゼと包帯を取り出し
思い切ってカッターを抜いた。
抜いた方も抜かれた方も液体が滴っている
私は圧迫して止血をしよう
と包帯で強く巻いた。
どう隠すべきだか...
そう思いながら早まる鼓動を押さえた
大丈夫っバレなきゃいい事
兄なら本当に命を奪いかねない
今日は学校を休もう。
腕を誰かに見られるくらいなら
親に2発ほど殴られ罵倒される方が
幾分マシだと脳内が告げていた。
私は机の上に「今日学校休みます」と
書いた紙を置き、押し入れから
運動靴を取り出し窓に足をかける
いつもやっていること、
腕を少し怪我をしていても多分大丈夫
そう暗示をかけて私は2階から飛び降りた。
今は秋と言っても冬と隣り合わせだ
半袖で歩く私を街の人はみな振り返った。
私が美人だからとかではない、
真っ白に包まれている腕から
所々見える血赤色が
人々の好奇心を煽っていた。
私は近くの公園に向かい
携帯で自殺サイトを見る。
ただ早く消えたかった。
恐怖と辛さと苦しさから
ただただ解放されたかった。
昨日コメントした投稿を見てみると
プロフィールの写真が変わっていた
色白で青い瞳に真っ白な髪
外国人だろうか。
でもどこかあの人に似ている気がする
でも奇跡なんて神の気まぐれ
ということを知っていた。
私は彼に
「顔が整っていて羨ましいです」
と返信し自分の体を見回す。
自分の体を見回すと色んなところに
切り傷や痣や赤く腫れている傷が見えた。
なんでそんなに傷がないのに
自殺したいのだろうか?
そんな疑問を抱きながら沢山話した。
彼と話していると心が落ち着く。
彼とは1か月後に会うことになった。
「1ヶ月後...か」
私の寿命はあと1ヶ月のようです
私はその1ヶ月の間、彼に会うためだけに
辛い気持ちを押し殺して耐えた
...貴方は私を殺してくれますか?
そんな一縷の期待を胸に時は
冬へと変わっていった。
1ヶ月が経ち私たちは会うことになった。
意外にも相手は隣町に住んでいる為
割と簡単に会うことが出来た。
私は少しだけお洒落な格好で
待ち合わせ場所に向かった
死ぬ為に会うのに何を期待しているのだろう
待ち合わせ場所に着くと写真の通り
白髪の青い瞳の人が
携帯を触りながら立っていた
...探しやすいな
私は声をかける前に体を見回した。
目立つ傷や痣はコンシーラーで
隠したから大丈夫なはず
不幸なことに前兄に刺されたカッターの傷は
コンシーラーで隠しきれなかった。
しかし今の季節は冬
長袖を着ているから
ばれることはまず無いだろう
「こんにちはっ」と私は
表情のマニュアル通りに
顔を作って声をかけた
相手は作り笑いに気づいただろうか?
どうでもいいや。
1日限りの付き合いなのだから
相手も
「初めまして、矢吹です」
と律儀に挨拶をした
傷一つない綺麗な顔
どうして死にたがるの?
貴方は綺麗なのに羨ましいよ
「ショッピングに行かない?」
突然相手は提案する
これから死ぬというのに
何を買いに行くのだろうか
でも断る理由もなかったから
大きなショッピングモールに向かった
ショッピングモールなんて小学校以来だな
少しだけわくわくしている自分がいた
電車に揺られながら約10分
私たちは少し大きめのショッピング施設に来た
沢山の服屋さんが並んでいる光景は
私にとってすごく新鮮で
終始ずっとはしゃいでいたと思う
そんな中私は可愛い雑貨屋さんを見つけた
「ねぇあの雑貨屋さんに入りたい!!」
私は矢吹さんに頼むと矢吹さんは
「えぇ?」と困ったように笑った。
私は家にいる時いつも顔色を
伺っていたからだいたい人の心は分かる
矢吹さんは行きたくないんだ。
私は矢吹さんの服の袖を掴んで
他の場所に連れていこうとした時
一瞬矢吹さんは私の左腕を
見た気がしたんだ。
私は咄嗟に手を離して、
「すみません、やっぱり大丈夫です!!」
そう言っていつもの作り笑いをした。
これで矢吹さんは不快にはならないはず、
カッターの刺傷は
たったの2cmの傷口だが内出血が酷く
傷口の周りは青黒く変色していた
腕の傷見られてないといいなっ...
そう思いながら矢吹さんを見ると
矢吹さんは少し考えた後
「少し覗いてみる?」と聞いてくれた
なん...で?嫌なんじゃないの?
そんな疑問を胸に
私たちは雑貨屋さんに入った。
雑貨屋さんの内装はメルヘンチックで
男性が入るのを拒む気持ちが
少しだけ分かった気がした
私は中をぐるぐる回ってるといきなり、
腕を掴まれた。
掴んだ主を見ると矢吹さんで、
「独りで店を回らせないでくれ」
と顔を赤くして呟いた。
店を見てみると、確かに女性ばかりだ...
そして暫く一緒に歩いていると、
1つのぬいぐるみに目が止まった
パッチワークのくまのぬいぐるみ。
継ぎ接ぎだらけのぬいぐるみはまるで
わたしみたいだな。
「それ欲しいの?」唐突の矢吹さんの声
「ふぇ?」
唐突だったから
変な声出ちゃった恥ずかしい!!
私は顔を隠して
独り反省会を開いていた。
落ち着いて顔を上げてみると
袋を片手に矢吹さんが戻ってきた
私のために...?
まさかね...
お店を出ると矢吹さんは
黙ってさっきの袋を渡してくる
私は少しからかうように
「女性に荷物を持たせるのは良くないよ?」
って言うと
矢吹さんは袋から取り出し私に渡す。
「さっきのぬいぐるみだぁ!!」
期待してもいいのだろうか、
貰えると思っていいのだろうか
「あげるよ、今日は記念日だから」
・・・
そう小さく呟いた
あぁ私忘れてたよ。
私たちは"死ぬ為に出会った"ということ
そして夕方軽く軽食を取って
イルミネーションを見るために
街中に来ていた。
2人で歩く町は1人で歩くのと少し違って
冬なのに暖かくて心地が良かった。
イルミネーションは小さな光が
集まって綺麗な景色を作っている
「みんなと違う私は
イルミネーションにはなれないね」
思わず呟いたことに後悔した。
「みんなと同じじゃないから
目立つことが出来るんじゃない?」
突然の一言に言葉を失ってしまった。
顔を見ると矢吹さんは微笑んでいて
こんな人が身近にいれば
世界は変わったのだろうか
そんな感覚に陥る。
そういえば矢吹さん
歳いくつなんだろう...?
「あのっ歳いくつですか?」
思い切って聞いてみると
「16歳の高2だよ」と言われた。
...え?
「えぇ!? 同じ!?」
思わず大声で叫んじゃった。
すると矢吹さんも驚いて
「同じなの!? 中学生だと思ってた」
と笑いながら言った。
中学生だなんて失礼な!!
そのまま色々話をしていく内に
矢吹さんのことが少し分かった
お父さんが警察のお偉いさんということ
家出してカラオケでバイトをしていたこと
昔虐められていたこと
なぜ死にたがるのだろう
未だに理解ができない
そのまま私たちはビルの屋上に来た
あと一歩で落ちる所に座り
2人で談笑していた
屋上だからだろうか?
今日は風がとても強い。
吹き飛ばされてしまいそう
そんな事を考えながら
私はふと呟いてみる。
「人生は季節のようだね。」と
すると矢吹くんは「うん」
と短い返事を返した
私は呟く
「秋って綺麗だけど儚いよね」
幼い時人生を共にしようと
決めた1人の男の子
彼は隣町の学校に通っている同い年の子で
ある日公園で泣いているところを見つけた
それから次第に仲良くなっていき、
最後に話した内容が季節の事だった。
人生の最後に彼の事が頭に浮かんだ。
矢吹くんはずっと黙ったままで
どうしたのだろうと顔を見上げてみると
目が見開いていたんだ。
「どうしたの...? 矢吹くん....?」
そう言うと矢吹くんはいきなり呟いた
「みーちゃんなの...?」
えっ...?
その呼び方...
やーくんなの?
矢吹くんはいきなり私を抱き締めて
小さく言う「ずっと逢いたかった」と
私もずっと逢いたかった
私は矢吹くんに「私もだよ」と言い
微笑んだ。
矢吹くんがこれから隣にいてくれるのなら
こんな世界も悪くないかなって
「ねぇ矢吹くん、自殺やめない?
私矢吹くんと一緒に生きたいよ」
突然の提案、彼はどう出るだろうか?
「俺も全く同じこと考えてた。
一緒に生きてくれないか?」
そう控えめに言う彼の手をそっと握り
私は立ち上がった。
私は忘れていたんだ。
屋上の強風の存在を。
立ち上がった時一瞬だけ
強い風が吹いて体が浮いた。
矢吹くんはまだ座っていたから
大丈夫だったみたい。
目を閉じると急に胃が浮く感覚が止まり
変わりに左腕に激しい痛みが襲う
私は上を見ると、
矢吹くんが必死に腕を掴んでいた
矢吹くんまで落ちちゃうよ。
「なに...してるの?」
生きる希望を与えてから
死なせようとする神様は本当に意地悪だ
「生きてくれよ...」そう言いながら
涙を流す矢吹くん
男の子は泣いちゃだめだよ。
自分の身が危険なのに怖いほど落ち着いていた
「ありがとね、生きる希望をくれて」
そう言って私は右手で矢吹くんの手を離した
再び始まる浮遊感。
私ジェットコースター苦手なのにな。
生きていたかった。
涙が止まらないや。
上で矢吹くんが何か言ってる
何を言っているんだろう。
刹那、激しい衝撃と
今まで感じたことがない痛みが身体中を襲う
私死にたくないよ...
薄れる意識の中で
矢吹くんがこっちを見ている気がした
気がつくと公園にいた。
なんで公園にいるんだっけ...?
目の前で泣いている少年がいた。
「どうしたの?」と声をかけてみると
無視された。
私は泣き止むのを隣で
座って待っていると唐突に
「虐められてる」と少年は言った。
私は微笑みながら
「私も虐められてるから独りじゃないよ」
と言うと
もっと泣き出した。
何故か彼の隣は暖かくて心地が良かった
その日から2人は毎日会っていた。
2人はお互いを
自分の居場所にして毎日頑張っていた
しかしある日を境に
少年は公園に来なくなった。
でも私は毎日公園に行っていた。
少年に会うことだけが
私の生きる理由だったから
少年と会わなくなって3ヶ月、
諦めてかけていた頃
少年が現れた。
その日は突然変わったことを言い出した
「秋って綺麗だけど儚いよな」
私は季節の事を伝えたいのかなと思い
「そうだね」と言い微笑んだ。
今なら分かる、どうして最後に会う日に
季節の話をしたのか
人の出会いとは季節のようで
春に出会い
夏に仲が深まり
秋に最高の関係になった後
冬に別れを告げる
秋は綺麗だけど関係が消えていく様が儚い。
この関係も今が秋ならば
もうすぐ消えてしまうのだろうか
『いつまで寝てんだよ』
どこからかそんな声が聞こえた
そうだった。
あの関係はとっくに冬が来ていたね。
でもまた私たちは再会できたんだ。
パッチワークのぬいぐるみ嬉しかったよ
今は現実の貴方に逢いたい
心の底からそう思うんだ。
戻らなきゃ...そう思うと
途端に体が重くなった
目が覚めると
たくさんの管が私を繋いでいた
病院...だろうか?
白い天井や
病院特有の匂いが五感をくすぐる。
「「望月!!」」
お父さんとお母さんが抱き着いてきた。
ただひたすらに謝りながら。
遠くで兄は泣いていた。
私は出せない声を振り絞って
お父さんとお母さんに聞く
「白髪の人知らない...?」そう言うと
お父さんは場の悪そうな顔をした
お母さんは何も言わず1枚の封筒を渡した
真っ白な封筒は矢吹くんを思い出す
そんなことを考えながら私は封筒を開いた
でも書いてあることはたったの2行
迎えに行くから
待ってて欲しい
泣けてきちゃった
逢えると思っていたのに
急に消えた私の愛おしい人
お父さんが信じられないことを言った
「矢吹くんは毎日来てくれたんだよ。
俺たちでさえ2日に1回だったのに」
うそ...
どうすれば貴方に逢えますか?
貴方がただ恋しくて愛おしい。
私はその日はただ泣いていた。
あれから2週間
リハビリも頑張り私は退院した。
兄も考え方を改め
凄く優しくしてくれるようになった
俗に言うシスコンというやつだろうか?
高校も両親が虐められてることを
担任に伝えたことでぴたりと止んだ。
変わったのは貴方が消えたことだけ
あれから1年私は高校を卒業した。
卒業は貴方に祝って欲しかったな。
そして大学に入学した。
偏差値は低いけど友達に沢山囲まれて
とても楽しい日々を送っている
でも私の隣は空いたまま
そして退院してから2年後のクリスマス
私の心は冷たく冷えきっていた
いつになったら逢えるの?
底なしの不安が私を蝕む
「早く迎えに来てよっ....」
矢吹くんと初めて会った公園で
1人嗚咽を漏らしていると声がした
「どうしたの?」って
幻聴まで聞こえてくる私はもう末期だよ
そう思いながら独りでずっと泣いていた。
そろそろ冷えてきたから
帰ろうと立ち上がった時
横に気配を感じたんだ
気配の感じる方を見ると
真横に矢吹くんが座っていた
なんで...?
「幻聴の次は幻覚まで
見るようになったみたい」
自分に向けて呟くと彼は
「久しぶりに会う人に
向かってそれは酷くないか?」
と言いながら笑った。
うそ...ほんとに君なの...?
あぁやっと逢えた。
私は真横で座っている
矢吹くんをぎゅっと抱き締めて
「大好きだよ」と呟くと
矢吹くんも「俺も」と言ってくれた。
例え私たちの関係に冬が訪れたとしても
私は君に愛を捧げ続けよう。
Fin