はじめる

#幸介による小さな物語

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全266作品・



無様でもいい。



ちゃんと生きたい。




そう思っていたのに



生きることはどうしてこうも


難しいのだろう。




夕暮れの空が涙を誘う。



「友紀、さん……うまくいかないよ……」




そんな独白を吐いた時だ。



男性の驚嘆の声がしたのは。



【Looking for Myself~分岐にゃん編~第十三話 ちゃんと生きるということ】



朝の音。


鳥のさえずり。


母がまな板を叩く音。


父の髭を剃り落とす、


シェイバーの音。


外では「おはよう」


小学生の声が響き合う。




だるい……。


何度


体を起こそうとしても


力が入らない。



頭痛に頭を抱え


腹痛におなかを


抱えて丸まった。





友紀さんと別れてから


一ヶ月が過ぎようとしていた。



両親は警察署まで


私を引き取りに来たけれど


泣きも、怒りも、


事情を聴こうとすらせず


また私は


籠の中に閉じ込められた。



自家用車の中で見つめた、


白んだ空と消えかけの街の灯に


私は、絶望した。





月日は十月


秋の足音が聴こえる季節。


日々、肌寒くなっていく風が


寂しさを助長していた。



「起き……なきゃ」


思い通りにならない体に


じんわりと滲む涙を呑み込んで


私は、やっとのことで立ち上がる。



毎朝、ベッドから起き上がると


必ずといっていいほど起こる


ひどい目眩に


私は壁伝いにリビングへと向かった。




「おはよう」


母はキッチンで


鍋に目を落としながら


言葉を投げた。



ねえ、お母さん


誰に向かって言ったの?



そんな思いを飲み込んで



息をつくように


「おはよう、お母さん」


そう言った。



父は食卓の椅子に腰を掛けて


新聞に目を落とす。



「今日は学校行けそうか」


おはようもなく言い放つ、


呆れ返ったような言葉が


心臓を一突きにすると


お腹がキリキリと痛んだ。



「……うん、平気。行くよ」


「まあ、当たり前のことだな。警察の、なんて言ったっけ?担当の」


父の言葉に


母は出来たての味噌汁を


出しながら答える。



「楠木さんのこと?」



「ああ、そうそう。あの刑事が言ってたろ、起立性なんたら障害だとか、学校での問題がどうとか」


「ええ」


「そんなもの、やる気次第だ。なあ、まや」


楠木さんの前では


へつらって頭を下げていたくせに。


今や、その人を馬鹿にするような父に


心底嫌気がさしたけれど



私は、笑った。





「そうだね、お父さん」



これでいい。


これで、いいんだ。





私は……


友紀さんと別れてから


ひとつ、決めたことがある。





今は、耐える事。


頑張って、学校へいく。


それがどんなに苦しくても


高校を卒業して……


今度こそ、合法的に


家を出るんだ。



胸を張って


会いに行きたいんだ。


友紀さんに。



辛いからといって


“今”から逃げていたら



この場所からきっと


抜け出せない。




だから私は



「おはよう」


「いただきます」


「いってきます」


この3点セットを


家に捨て置いて


地獄に向かう。




今だけの、辛抱だ。








***


「うっそ、また来た」


「なんか臭うと思った」



教室に入った瞬間


言葉の矢が幾筋の放物線を描いて


私の心に、突き刺さる。



いつものこと


何度も言い聞かせて


一歩、一歩を歩み


私の席へと着席した。


その瞬間


ヒヤッとした感覚が


下半身を襲って


思わず私は立ち上がる。



クラスメイトによって


椅子に仕掛けられた水は


スカートの裾から


はたはたと、滴った。



呆然としていると


いじめを先導するグループが


私に近付いて鼻を摘む。



「やだぁ……まや、おもらししてる」


「くさいくさい」



なんて幼稚な嫌がらせなんだろう。


こんなの誰も


漏らしたなんて思わない。



わかってはいても


浴びせかけられる嘲笑が


私の心を削っていく。




辺りを見渡せば


憐れみの目が胸に刺さった。




いじめの主犯格は


元々私の友達だった。



連日の放課後のカラオケ


お小遣いがなくなって



「今日は行けないや、ごめん!」


そう言った。



その言葉が引き金を引いた。



翌日からだ。



突然カラオケメンバーが


私いじりをはじめた。



やがて少しの失敗を


みんなが笑うようになり


何の失敗もしていなくても


私自身が


笑われるようになった。



そして精神的な


嫌がらせがはじまったのだ。




「すぐ、片付けるよ」


私は震えも涙も堪えて


懸命に平常を保ち


掃除ロッカーに走る。



だけど足の震えは顕著で


もたついた足は絡み合い


私はクラスメイトの前で


盛大に転んでしまった。



一瞬の静寂がひとたび


嘲笑の渦に呑まれる。





「ねぇ、まや」


主犯格のひとりが


教室に膝をつく私の隣に


しゃがみこむと


私を見て気味の悪いほどの笑みを


その口元に携えた。


「な、に」


「しばらく学校来なかったと思ったら、なんか生意気じゃん?」


「……そう?」


「前はさぁ」


肩を組んで私の耳元に届ける


辛辣な……言葉。


「吐いたり、漏らしたり、手かかるけど可愛いベイビーだったのに」


にやついた顔。



吐いたのは


持参したパンが


カビの入ったパンと


すりかえられていたから。



漏らしてしまったのは


トイレに行こうとした私を


羽交い締めてトイレへ


行かせてくれなかったから。



忘れたい過去の失敗を


耳元で呟かれる度に


心は折れる程しなり


目の前はぐらつく。



嫌な汗が滴る。


その時だった。



「おはよう、そこ何してるの?」


馬瀬菜々緒先生が


教室に入ってくると



「なんでもなーい」


「ねー菜々ちゃあん、今日のミニテストなしにしてえー」


主犯格は


自分たちのしていた行為を


そんな話にすり替えて


何食わぬ顔で着席した。



助かった……。


腰が抜けてすぐには立てない。



ロッカーに伝い立ち上がるも


足は、がくついたままだ。



「新山さん?大丈夫?」


先生が私を


怪訝そうに見つめる。



おかしいと思うだろうに


このクラスに蔓延る“いじめ”には


気付いてくれない。




私はその50分間の授業時間を


水に濡れた椅子に腰を下ろして


耐え忍んだ。




***


この日の嫌がらせは放課後


通学路でも執拗に続いた。



「いっ…」



足を掛けられ突き飛ばされて


私は側溝のドブの中に


足を突っ込む。



バシャンっ


足が音を鳴らしたかと思うと


跳ねた泥水が


制服の至る所に飛び付いた。



「やだあ、きったな!」


「くさあい」


「でもさ、まや元々くさいから、ドブの方がまだマシかもよ」


「言えてる、どうせならそのドブ水飲めば?体の中から少しは綺麗になるかもよ」


「明日は学校、来んなよ」


「私たちの平和のためにー?」




甲高い笑い声が遠ざかる。


私は彼女たちの背中が


見えなくなるのを待って


ドブから足をあげた。




「あー…あ、ローファーぐちゃぐちゃ」


ぽつりと呟くと


じんわりと目頭が熱くなった。






理由のないいじりが


意味の無いいじめに変わる。



獲物とされる私たちは


何の為に生まれたのだろう。




いじめがはじまってから


ずっと不思議だった。



頭から水に沈められるような


息苦しさを覚える度に


生きる価値なんて


ないんじゃないかと思えた。



それはさながら


生き地獄だ。


生きながらにして


心が死んでいく。



体すら一緒に


手放してしまいたかった。





だけど。



私は知ったんだ。



私より遥かに


辛い記憶と戦いながら


自分を責めながら


それでも


死にきれない人がいる事を。



だから


無様でもいい。



ちゃんと生きたい。




そう思っていたのに



生きることはどうしてこうも


難しいのだろう。




夕暮れの空が涙を誘う。



「友紀、さん……うまくいかないよ……」




そんな独白を吐いた時だった。



「う、わあっ!」



驚嘆と共に後方でバサバサッと


何かが落ちる音がして


慌てて私は振り返る。



するとそこには


電動車椅子の車輪を


ドブの溝に引っ掛けた男性がいた。



足にでも乗せていたのだろうか。


書類の束が道路に落ち


大惨事となっている。



「だ、大丈夫……ですか!?」


私は涙を拭いながら


男性に近づき尋ねた。



「なにか手伝えることは……ありますか」



男性は突然声をかけた私に


しばらく驚いていたけれど


我に返ったように


柔らかく微笑んだ。



でも、男性の片顔は


麻痺しているようで


片側の表情は読み取れない。



事故か……何かなのかな。


僅かに気の毒に思った瞬間


一瞬でも自分が彼に


同情したようで心苦しくなった。



けれど、彼は私のそんな目を

気にも止めていないようだ。


「ご親切にどうもありがとう。俺、体がうまく動かないもので……車椅子戻せたら……」


「や、やってみます」



電動車椅子……はじめてみた。


とても重い。


それでも完全に溝に


落ちていなかったことと


男性が電動車椅子の


コントローラーで


車輪を動かしてくれたこと



これが功を奏して


なんとか車輪を


アスファルトの上へ


乗せ直すことが出来た。




散らばった書類にも


手が届かない彼に変わって


私はそれを丁寧に集め始める。



「ごめんね、いつもはヘルパーさんがいてくれるんだけど、今日は報告書を届けにいく途中でね」


「報告書……ですか?」


「ああ、そこの繁華街の近くで探偵をしてるんだ」


「た、探偵さんなんて、はじめて会いました」


驚いて男性を見上げると


彼は声をあげ白い歯を見せながら笑う。


「まあ、脱公務員って奴でね」


「元公務員さん、ですか」


拾ったものをまとめ


彼に渡そうと


書類に目を落として


私は思わず目を見張る。





そこには







マル秘報告書







調査員:黒須世名







そう書かれていた。

ひとひら☘☽・2020-06-22
幸介
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あなたに伝わりますように



「この串団子、激うま」


「うん、おいし」


甘党の日向頼と


私、坂上里緒。



二人は友達以上恋人未満


という、微妙に


アオハルな関係では


決してなく



ただのスイーツ同好会仲間


で、ある。



それでも


毎週日曜日


活動と称して


頼を誘う私には


多少の“下心”はあるのだ。



しかし、この男


日向 頼は


そんな気持ち


てんで、お構い無しだ。




「あ、次、あのソフト行こーぜ」


「アイサー、了解だぜぃ」


男みたいな口調で


返す私も悪いのかもしれない。



恋人になれたら


それはもう天にも昇るような


気持ちだろうけど……


想いを伝える勇気も


さらさらない私


さらに、


もともと、女として


全く意識されていない私は



男友達のように


安心出来る女友達を目指すしか


頼と一緒にいる道は


残されていないように思えた。




それでも


頼の側に居たかった。




とろっ、と溶けるソフトクリーム。


甘くて、ほんのり


牛乳の優しい香り。



ダイエットを頑張った、


自分へのご褒美には


丁度いい、甘さ控えめの


ソフトクリーム。



「わー、おいし」


「これうまいもの百貨店のマップに入れとこ」


「そうだね、みんな喜ぶー」



頼が口にした“うまいもの百貨店”とは


私たちスイーツ同好会のメンバーが



いくつかのグループに分かれ


食べ歩きしたおいしいものを


書き込んでいくマップだった。




ソフトクリームを食べ終えて


次のターゲットを探す。



「なあ、里緒」


「んー?」


「今更なんだけどさ」


「うん」


「こんなに食べてんのにお前細いよな」


「え!?マジ!?嬉しい!」


「そこ、女なら、そんなことないよ、とか言えよ」



頼は眉を下げて


やれやれと笑う



「だって、嬉しいじゃん、女なら細いって言われたら」


「そんなもん?」


「そうだよぅ」


それを言ったのが


好きな人なら余計だ。





人知れず、努力はしてる。


週末の頼とのスイーツデートの為に


普段は大好きな米をセーブして


水分を多目にとり、


毎日、ストレッチに勤しむ。



もちろん間食もゼロに近い。



名折れのスイーツ同好会員だ。



「ジョギングとかしてる?」


「あー、走るの苦手だからストレッチしてる」


「俺、ジョギングしてんだ」


「へえー、頼も筋肉質だもんね、努力してんだね」


「いきなり褒めんなよ、恥ずいじゃん」




僅かばかり


顔を赤く染め上げて


そっぽを向いた頼と


お洒落な小路を並んで歩く。




これで、手なんか繋げたら


疑いようもなく


恋人同士、なんだけどなぁ。



性格の相性はいいと思う。


頼とは話が尽きないし


彼も私も会話という言葉のやりとりを


心の底から楽しんでいる。



なのに、どうして


両想いという天国への階段は


こうも険しいのか。



このままで、いい。


仲良くさえ出来ていれば。



そんなの、ただの言い聞かせに過ぎない。



母親が子供に言い聞かせるように


私は自分の心を騙している。



本当は、両想いになりたい。



きゅんと、胸が苦しくなった。




「あ、里緒、あれあれ」



「ん?」


「こんなとこに、キャンディ屋がある!」


「わ、ほんとだ」


「入るっきゃ」


「ないっしょ!」



私たちは顔を見合わせ笑うと


天然素材を謳うキャンディ店の店先で


味の違う小さな


ぺろぺろキャンディを選んだ。



私は、ベリーベリー。


ブルーベリーとストロベリーの


紫と赤が優しいキャンディ。



キャンディの前で


鼻を動かせば


甘酸っぱい香りが私を


幸せへと誘った。



頼は、メロンミルク。


夕張メロンのオレンジと


オフホワイトのミルクキャンディ。



「せーの」でキャンディを口の中へ。



くるくる、柄の棒を回すと


口の中で歯にぶつかり


カラカラと可愛らしい音が鳴る。




私は飴を舐めていられない。


噛んでしまう派である。



卑しいと思われたくなくて


ゆっくり口の中で溶かしていたのは


はじめだけ。



気がつけば、


可愛くて美味しいキャンディは


最早胃袋の中だった。




しまった……。


これじゃあ


ガリガリバリバリ


あっという間に


食べちゃう


飴食いのライオンみたい。



ひとり、羞恥に頬を染めると


未だ口の中からカランカランと


音をさせながら


頼がとんでもないことを


言い出した。






「なあ、里緒」


「何?」


「そっち食わせて?」


「は!?」


「俺もこっちやるからさ」



キャンディのシェアなんて


聞いたこともない。



と、言うかだ。


さっき私


バリバリすごい音させて


食べてたのに気づかなかった?



なんたる、不覚……。


間接チュー、ならず、だ。



「……ごめん、頼。私、噛んじゃった」


「えー、マジか残念」


「ごめん」


「どうだった?美味かった?」


「うん、とーっても美味」



そう苦笑すると


頼は口の中にあったキャンディを


すっと取り出して





「へえ」



低い声でそう言ったかと思うと


あっという間に私の目の前に顔を寄せ





私の唇を食むようなキスをした。





この、状況、何?



突然のことに


思考回路が停止した分


感覚は研ぎ澄まされる。



頼の熱い粘膜に


包み込まれる唇が


溶けてしまいそう。



メロンとミルク


いちごとブルーベリー


混じり合ったハーモニー。





唇が離れると


互いの熱い息がぶつかる。



「ほんとだ、うまいね」


「あの、頼……」


「うん」


「これって、ただの味見?」



潤む目を頼に向け尋ねると


頼はこう言って笑った。



「そこのキャンディ店、俺、実は常連」


「ん?」


「ベリーベリーも食ったことあるよ」


「え!?じゃあ、なんで!?」


回転をやめた脳が


いくつもの疑問符を吐き出させる。


目眩すらしそうな私の腰を


頼は抱き寄せ



「里緒と、キスしたくて一計を案じた」


そう言って、はにかむ。



「つつつつつまり」


「付き合わない?俺たち。きっと楽しいよ」




私を覗き込む頼はきっと


私の返事を待っているんだろう。



唇が震える。


心が弾む。


口元がにやける。


ときめきがやまない。



返事はもう


聞かずもがなでしょう?



「……私も、そう思ってた」


やっとのことでそう答えると


頼は小路の細長い空に


拳を突き立て


「よっしゃ!」


喜びの声をあげた。




私も、ようやく


リア充の仲間入り、だ。

ひとひら☘☽・2020-06-21
幸介
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あなたに伝わりますように
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模索中
心臓、跳ねた
小説
物語



「……マヤッ」



友紀さんが、叫ぶ。


悲痛な声に


私の眉は顰められた。




元気で、いてね



私は、背を押されるがまま



パトカーに乗り込んだ。





【Looking for Myself~分岐にゃん編~第十二話 離別】



友紀さんと……一緒にいたい。


彼の身体に縋ろうとしたその時だ。



「そいつぁ出来ない相談だな」



その声に振り返ると


昼間会った楠木さんが


煙草をふかして立っていた。



「楠木……さん、どうして」


友紀さんの声に答えず


私の元へ歩み寄った楠木さんは


私を見下ろしてこう言った。




「新山まやちゃんだろ」


「え……?なんで、私の、名前……」


「ご両親が心配しているよ」


「え?」



父と母の顔が……脳裏を掠める。



「捜索願届が出されている」


「捜索……願い?……嘘、だよ」



心配するわけがない。


出ていけと言われた。


ずっと学校にいけない私のこと


邪魔だと思っていたはずだった。




今更、何?




こめかみに


玉の汗が浮かんだ。



友紀さんは


私の肩を強く抱き直し


楠木さんに物言った。



「学校へ行けなくなったマヤの話も聞こうとしなかった親です……それどころかきつく当たったと聞きました」



両親のところに居た時の


息苦しさが心を掠める。



何気なく吐露した両親への愚痴を


彼は覚えていてくれた。



友紀さんの脇に


押し付けられた、


耳が聴く、彼の鼓動。



涛々と急く鼓動は


まるで私を追いかけるかのようで


少し、切ない。



楠木さんは


ポケット灰皿で


煙草をもみ消すと


こう、告げた。




「その子は未成年だ。何をするにも親の決定が必要になる。それがどれ程、理不尽でも、だ。お前も刑事だったんだ、わかるだろ」


「……それは、そうですが」


「杉浦。下手したらお前、誘拐罪で逮捕だ。俺もそんな事はしたくない」



誘拐……罪?



友紀、さんが?


彼がいなかったら


私はそれこそ


生命を、落としていたのに。




俄に信じ難い言葉に


彼の横顔を見やる。



友紀さんの眉間には


皺が寄った。



険しい顔だ。



「ちが、違います……っ、私、家出したんです、それで友紀さんの家に置いてもらっていただけで、誘拐なんて、そんなこと……!」



私が思わず、声を張ると


楠木さんは腰を折り


私と目の高さを合わせて息をつく。




「それでも、未成年を成人が家に囲うことがあれば、世間や法の判断は“誘拐”そうなってしまう」


「そんな……」



あまりのことに


声も出ない。


目の前が暗くなる。



雑踏も聴こえない。


周囲の楽しげな笑い声も


遠く聴こえた。



「楠木さん」


苦悶の表情で、彼が呼びかける。




「それでも俺は……、こいつを針のむしろの様な両親の元へ、学校へ帰したくは……ないです」


「冷静になれ、杉浦。お前らしくもない」



厳しい楠木さんの声。


風が、まるで口笛でも吹くように


音を立てて耳元を通り過ぎて行く。



友紀さんは


拳を握りしめ、眼差し強く


楠木さんを見つめると


こんな一言を吐露した。




「楠木さん……俺はもう、後悔したくない」


「……じゃあ、どうするんだ」



諦めに顰められた眉。


への字に曲がった口元。


楠木さんのため息と共に


吐き出された言葉に


友紀さんは私に向き直る。





「マヤ……帰ろう、俺たちの家に」



俺“たち”の家……。


その言葉は彼が見せた、


離れたくない、の


意思表示にさえ聴こえる。



心臓が苦しくなる程


彼が、恋しい。



このまま縋りたい。


一緒に帰りたい。



でも。


楠木さんを見やると



「君は“家”に帰るんだ」



やたら優しくそう言って


手を差し伸べられた。




「マヤ……?」



私は、楠木さんの手のひらに



自らの手を重ねる。



横目に見た友紀さんの


唖然とした顔が胸をじくじくと刺す。




「友紀さん……私、帰るね」



「なん、で」



友紀さんを犯罪者に


するわけにはいかない。



本音を沈黙というオブラートに包んで


私は精一杯の笑顔を友紀さんに向ける。



彼の顔は


まるで、泣き出しそうだった。



うまく笑えていないかな。


そうだよね。


本当はずっと一緒にいたいもん。




「さあ、まずは署にいこうか」



重ねた手を


楠木さんは強く握り締める。



手錠をかけられるより


きっと重たい鎖を施された。


「はい……」



理解のない


あの家に、


帰る……


そう思うと


じんわりと涙が浮かんだ。





「……マヤッ」



友紀さんが、叫ぶ。


悲痛な声に


私の眉は顰められた。




元気で、いてね



私は、背を押されるがまま



重たい一歩を何度も繰り返し


道端にとめられていた


パトカーの後部座席に


楠木さんと共に乗り込んだ。




走り始めたパトカーの車窓に


とりどりのネオンが


尾を引いて駆け抜けていく。



後ろを振り返れば


友紀さんが立ちすくむ姿が


網膜に焼き付いた。



堪えきれず、溢れ出した涙は


呼吸さえも、私から


奪い去っていくようだ。



息が出来ないほど


唇を噛み締めて泣いた。


両手で顔を覆い


泣きじゃくった。



楠木さんは言う。



「辛い決断をさせてしまってすまない」


温かな言葉が胸を尽く。



「よく杉浦を、守ってくれた」



頭をぽん、と一度


叩くように撫でられる。



その手のひらの重みが


彼と重なって私は余計


声をあげて泣き頻った。

ひとひら☘☽・2020-06-19
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「辛いことを乗り越えるためにどうすればいいか、知ってる?」




両親と


こんな苦しい関係になったのは


どうしてだろう。



最近の私は


何かがおかしい。



底知れぬ苛立ちから親に反抗した。


親は言いつけを守らない私を


縛りつけようと躍起になった。



歯車が噛み合わなくて



こじれて


こすれて


ジ・エンド。



昨夜私の頬は


腫れ上がるほど


父に殴られた。



どう知恵を絞って考えても


修復の糸口なんて見つからない。



謝りたくない。


帰りたくない。



頭が痛くて保健室を訪れた私に


事の次第を聴いた校医、


夜鷹 貴臣は


囁くように訊ねた。





「なん、ですか」



「手っ取り早いのは、そう……恋、とか?」


「恋……って」


「どう?私と、誰にも言えない恋してみませんか」




「……からかわないで下さい」



「そんなこと言って、期待、してない?」


「な……っ」



私の唇を


親指の腹で拭いながら


意地悪く笑う先生に


私の身体は


炎燻る薪のように


熱く燃えた。



「顔が赤いね、熱でもある?」



くすくす、と


静かに音を立てて


赤く色づいた私の顔を


先生は覗き込む。





どうにもならない火照りを


僅かでも逃そうと


冷たいコンクリの柱に


ぴったりと背をつけた。



苦肉の策だった。


こつん、と後頭部が


硬いコンクリートに当ったかと思えば


それは私を守るように差し出された、


先生の手のひらに包まれる。


その指先は誘うように


私の項をなぞった。



ぞくっと、悦びを感じて


羞恥に殊更、頭が熱くなると


涙すら浮かぶ。




この涙を


先生に見られるのは癪だった。




思い余って視線を落とすと


先生のNIKEの靴と保健室のタイルが


視界の中で滲んで混ざり合う。



涙を隠そうと俯いたのは


どうやら失敗だったみたい。



重力に耐えきれず


零れた涙に結局先生は


気付いてしまった。




「ごめん、少し冗談が過ぎたよ」



「いえ……これは、違います」



嫌で、涙が滲んだわけじゃない。



むしろ、逆。


こんなこと言えるはずもなくて


私は涙目のまま


先生を睨むように見上げた。



さっきの意地悪な笑みとは


似ても似つかない優しい笑顔


困ったように下がった眉毛


先生は、こう言う。




「癒しは要りませんか?」


「癒し……ですか?」


「ごめんね、嫌なら退けていいから」




先生はおもむろに、


それでも優しく


私の身体を抱き締めた。



ぎゅ、っと抱かれると


安らぎが広がる。



大きな先生の身体…


私は守られている


そんな錯覚に陥った。





生徒にこんなことするなんて。


不良校医もいいところ。



抱き締められて


深い安堵を得ながら私は


皮肉たっぷりに呟いた。



「この癒しは、その、誰にでも……売りつけるんですか」


「いーえ、お気に入りの子にだけですよ」


「お気に入り……」


「先着一名様の、ね」



もしかして。


なんて、期待させる先生は


やっぱり、不良校医だ。





高かった陽射しが


夕陽になってゆく頃


先生に抱き締められながら私は


ギスギスしていた心に


ほんの拳一個分の


ゆとりが出来ていることに


気がついた。




たかが、拳一個分。



されど、拳一個分。




この一個分を使って


やれること。




「先生……」


「ん?」


「私、家に帰ります」


「うん」


「それで謝ってみます、出来れば……ですけど。」




修復なんて出来ないかもしれない。



帰ったら、


ため息をつかれるかもしれない。



勉強しろだの、帰りが遅いだの


スマホを弄るなだの、


ご飯たべなさいだの


小言を言われるかもしれない。



また、


反抗してしまうかもしれない。



嫌い、なんて


しょっちゅう思う。



でも、心の根っこでは私は


お父さんとお母さんに感謝しているし


無論、二人のことが大好きだ。



だから


口では言い表せない「好き」を


伝えに、帰るんだ。




「よく出来ました、行ってらっしゃい」



先生はそう囁きながら


私をゆっくりと引き離すと


今度は蕩けるように優しく


頭を撫でる。



その穏やかな表情が


私に微笑みを零させた。




「いってきます、先生」



行ってらっしゃい、


そう言われるとは思わなかったけれど


もしも


両親に帰宅を歓迎されなくても


保健室に「ただいま」、


帰ってくればいい。



そう言われているようで


ふいに湧き出す安堵に


頬は緩んだ。




先生の見守る中


私は帰路に立つ。





さあ、帰ろう。



「好き」と「ありがとう」を



伝える為に。




・・・



全然……だめだ。


繋がりが単調でつまらない。



こんなじゃ


にゃんと杉浦の話に


手をつけられない(๑o̴̶̷᷄﹏o̴̶̷̥᷅๑)



今までにないほどの


スランプに陥っております。



やっぱり間あけると


だめですね(´;ω;`)



幸介

ひとひら☘☽・2020-08-15
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「……マヤ」



俺はマヤの後ろ姿に呼びかけた。




長いこと健康的な


暮らしをしていない体…


息が切れ、肺が痛む。


汗にまみれた顎を拭う。



「おい、こっち……向けよ」



後ろ姿のまま


頼りなく震えるマヤの肩。




どうしてこんなにこの女を


失くしたくない、なんて


思うんだ……



自分自身の感情に


翻弄されながらも


俺の体は独りでに……



彼女に近付いた。




【Looking for Myself~分岐にゃん編~第十一話 友紀目線 捕まえた】




時刻は22時を回る頃だ。



何処か寂しげに光輝くネオン。


四方見渡しても


虹彩が目の奥を焼き付けて


視界が霞んだ。





仕事帰りのオヤジが


悪びれもなく千鳥足で酔っ払う。


線を強調した洋服を身にまとう、


艶かしい女が男を


食い物にしていた。



かつての花町のような



そんな色に染まる、繁華街。




「マヤ……どこだ」




どこかの酔っ払いに


手を引かれて行きそうになったマヤの


手を握り直した時


俺は、救われた気がした。



本当は


柏沖に連れ去られる六花の側で


ああして止めたかった。




痩せた身体


呼吸する、肩


幾ばくなく、天へ召されようという、


六花の生命をああして


繋ぎ止めておきたかった。




“しばらく…ここにいてもいい?”



マヤを拾った翌日


彼女にそう言われた時


これで救われる、と


心が安らいだ。




マヤを何かの代わりに


しているのかもしれない。



救えなかった笑顔


満ちることの無い穴のあいた心を

マヤ
絆創膏で塞ぎたい、


ただそれだけなのかもしれない。



マヤにとったら


ここで終わりにした方が


幸せになれるだろう。




だけど、とまらない。


マヤを探す足が、眼が、体が


鼓動が__。


否応なく打ち付ける脈が


マヤを……喚ばわる。




「ねえ、遊んでいかない?」


キャバクラで働く女だろう。



「サービスするからさぁ」


ネイルの施された長い爪を


俺の肩に引っ掛けて


ねっとりとした撫で声を


耳元に囁いた。



「離せ」



手を振りほどいても


女は食い下がる。


「安くするように店に頼んだげる、ね」


悪質な客引きだ。


警察手帳でも持っていれば


一発でしょっぴいてやるのに。


「客引きは条例違反だ、知らないのか」


冷ややかな目で睨みをきかせると


女は僅かにたじろぎながらも


負けじと吐き捨てた。



「新人ちゃんも入りそうなのに、ざあんねん」



刑事時代に磨かれた、


なけなしの嗅覚が反応する。




「おい……新人って?」


「え、何?お兄さん可愛い顔して、新人食い?」



下らない戯言を吐く女を


睨みあげると女は今度こそ


後込んで言葉を濁した。




「今日……うろうろしてたのよ、可愛い顔した女の子。行くところなさそうだったから、お店に……今頃店長の“面接”受けて」


「……店は、どこだ」


「…え、あ、そこの」



女の指差す先には


ネオンがいかがわしく光る雑居ビル。



カフェ


と小さく看板が出ているそこは


キャバクラではなく


性的サービスを行う、


違法ふう俗店だった。



そんな店の“面接”は


しっかりと客を楽しませることが


できる女なのかどうかを


見極めるため身体を


使わせるものもよくあると聞く。




怯えるマヤの表情が


脳裏を掠めて全身に寒気が走った。



「……くそっ、馬鹿女!」



俺は血相をかえて走り出す。


だくだくと汗が垂れるも


拭うことも忘れて


女の指差した店へと入店した。



ピンクの薄暗い明かり。


喘ぎ声が漏れないよう


配慮されての大音量のBGM…


個室が立ち並んでいる。




「お客様…ご指名になさいますか、それともフリーで?」


視線を定めず


あちこちを見渡す俺に


店のボーイが声をかける。


俺はボーイに掴みかかる勢いで


凄みを利かせた。



「店長はどこだ」


「と、突然なん、すか…っ」


「俺は刑事だ。上に内部情報は黙っててやる。事務所に案内しろ」



嘘をついた。


疾うに警察手帳は


返還しているというのに。



けれど、幸いな事に


はったりで十分だったようだ。



「け、警察っ」


目を白黒させたボーイが


ぎこちなく案内した先は


プレートのない、いかにも


いかがわしい部屋の前だった。




「やっ…やだぁ…!いやっ、いや!」



中から、女の声が聴こえたかと思うと


俺の身体は即座に反応し


部屋の中へ押し入っていた。


木戸は


まさに壊れんとする音を立てて


殴打音を鳴らし


その音に驚いた店長とやらが



「な、なんだ!?」



ソファの向こう側から顔を出す。




そこで俺が見たものは


ソファに押し倒されるマヤの姿。



俺が買ってやった服…


黒のカーディガンは肩まで脱がされ


ブラウスは第3ボタンまで飛び


裾はたくし上げられていた。




「友……紀さ、ん……?」



涙をいっぱいに溜めた、


マヤの俺を凝視する眼差し


その、震える声を聴いた瞬間


理性が飛んだ。




「このっ、マヤから離れろ!」



俺は店長の首を掴むと


めり込ませる程


力任せに壁に押し付けた。



「ぐ……っ、なん、だこいつ」


「て、店長……あの、その人刑事みたいで」


「な、何っ、なんだってウチにっ」


男は苦痛に顔を歪めながら


掠れた声を響かせる。



「いいか、店を失いたくなければ、この子に手を出すな」


「そ、その子がうちで働きたいって言ったんだ、テストして何が悪い!」


「テスト?ここは本番行為なしだったよなあ?この状況、どう見ても強かん未遂の現行犯だぞ、上に報告してやってもいいんだがな。なあ、店長さん」




刑事だった頃の口調を戻して


俺は店長の男を睨んだまま


笑顔を繕った。



「み、店は、見逃してくれるのか」


この期に及んで戯言だ。



俺は勢いよく壁に手を付き


鼻が付くほど店長の男に近づいて


睨みあげた。



「どうしようか……俺はお前みたいな奴が大嫌いでな。…………見逃して欲しければ、こんなことは二度としないと約束しろ」


余程、恐ろしかったのか


店長の男は僅かに振戦しながら


頷きを繰り返す。



俺より遥かに


ガタイもいいというのに


情けないことだ。



納得させたところで手を離す。


むせ返るほど咳き込む男……


危うく、人をあやめるところだった。



息をついて振り返ると


マヤは露わになった上半身を


包むように隠し


そそくさとその部屋を出ていく。



「……おい、マヤ……!」


ブラウスのボタンだって


飛んでるってのに……


やっぱりマヤは馬鹿女だ。



このまま置いてけぼりを


食らってなるものか。



俺は、マヤに


食らいつくように後を追う。




「おい、マヤ!」


店を出て


繁華街を行き来する人並みを縫い


走り出すマヤを必死に追いかけた。



「おい!待て、おい!」


煩わしい喧騒に


流されないよう声を張る。




何度目の呼び掛けだろう。


マヤも疲れ切ったか


足を止め、後ろ姿のまま


俺に震える声をかけた。




「追いかけて……こないで……」





「……マヤ」



俺は呼びかけた。


マヤの肩が震う……。



長いこと健康的な


暮らしをしていない体…


息が切れ、肺が痛む。


汗にまみれた顎を拭う。



「おい、こっち……向けよ」



後ろ姿のまま


頼りなく震えるマヤの肩。



所詮、女子高生だ。



それなのに……



どうしてこんなに


失くしたくない、なんて


思うんだ……



自分自身の感情に


翻弄されながらも


俺の体は独りでに



彼女に近付き、



彼女の肩を抱いた。



途端に


すきま風だらけの心に


安堵の花が咲く。





「やっと……、捕まえた」


俺の呟きを耳元に届けると


声もなく落ちるマヤの涙が


この腕にしとりと零れ落ちる。




「大丈夫か……?こんな格好で……お前馬鹿かよ」



「だ、だって……だって」



「言い訳ならいらねえよ」



この子を


なくしたくない……



強く乞う。



けれど、


どう伝えていいのかわからず


考えあぐねた俺は



「抱き枕がないと……眠れねえんだよ」


首筋に顔を埋めながら


「腹減ったよ……マヤ」



不器用に言葉を重ねた。




マヤは大きく息をつくと


崩れるように泣きながら


ようやく俺を振り向いた。



ぐしゃぐしゃに濡れた頬


その唇で


ひとつ、言葉を紡ぎ出す。




「……私…、友紀さんの側、にいて………いい、の?」



「契約……だろうが。……帰ってこ」



帰って、来いよ


そう言いかけたその時だった。




「そいつぁ、出来ない相談だな」



背後から、そんな声が聴こえた。



俺とマヤが思わず振り向くと、


そこには煙草の煙を立ち昇らせた、


楠木さんの姿が、あったのだ。

ひとひら☘☽・2020-06-15
幸介
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記憶
重なる
片想い
それだけでいい
これはきっと雨のせい
ネオン
自殺未遂
帰ってこい
すれ違い
捕まえた
安堵
必要
精神安定剤
苦しみ
辛い
死にたい


❨遺された音❩





色とりどりの花


四季折々


かわるがわる心模様



それでも私はあなたに



何十年も恋をしている。




「士郎さん……?」


金婚式を目の前にして


彼、士郎は病に倒れた。


クモ膜下出血だった。


弾けた血管は毛細血管というには


あまりに太く、


そのダメージは計り知れない。



士郎は倒れて病院に運ばれてから


一度も目を開かなかった。




彼はもうすぐ七十だ。



まだ、七十なのに


医者は、もう


見込みはない、という。





配線に囲まれ


横たわる士郎の手を


おずおずと握ると


ふわっとした彼の優しさに


触れた気がした。



「ねぇ、士郎さん……覚えてる?」


私は洗髪が出来ず


汗を蓄えた士郎の前髪をさっと撫で


目を細めた。



「学生時代、あなたシャイだったのね、手もなかなか握ってくれなくて、私やきもきしちゃってね、それで溜まりかねて私から手を握ったの」



躊躇いながら握った士郎の手は


今と同じように優しくて温かだったのに


あの頃の微笑みはもう士郎にはない。




そのことがとてつもない寂しさを誘う。




出逢は17歳の時。


3年お付き合いをして


二十歳で入籍した。



お金もなくて


結婚式なんて夢のまた夢


はなから諦めていたのに


最後の三女が成人式を迎えた歳



「遅くなったけどねぇ、結婚式をしようか」


そう言って、たるみきった私の手の甲に


芝居がかったKissをして



「貴女の花嫁姿がどうしても見たい」


彼は笑ってくれた。



こどもたちに


小突かれからかわれながら


歩いたバージンロード



両手を広げた士郎は


決して若くはなく


数本の白髪が


ワックスで固められていたけれど


若い時よりずっと


ずっとずっと……愛しかった。





その後も、増していく愛しさは


留まることを知らずに


今この時だって私は


こんな状況にもかかわらず


顎を落として肩で息をする彼を


愛おしいと思っている。





「こんなに幸せなのに……もう、逝っちゃうの?」



涙の雫が零れ落ち


繋いだ私たちの手のひらの隙間に


吸い込まれていく。



「もうすぐ、金婚式よ、私たち……」



この涙が接着剤みたいに


私たちの魂を繋ぎ止めてくれないかしら。



そんな、夢のようなことを考えては


「馬鹿ね、私……」


無理に笑った。




あと、二時間ほど。


そうとだけ言われてから


もはや3時間。



心拍数が低下している。



呼吸の数も


いつ止まるやとも


胸を痛めるほどに


乏しくなった。




もはや、持たない。




最期の言葉を探して黙り込む。


本当は黙ることすら


憚られる程


時間は逼迫しているというのに。



すぅ、


顎で呼吸をする士郎が


吐き出す息は魂を


ひとつ、またひとつと


吐き出しているようだった。





「士郎さん……行かないで」




やっとのことで


絞り出した言葉に


奇跡は、起きた。




「…………あ……っ」



士郎が、ひとつ


音を発して


涙を零した。




「士……郎、さん……っ」




必死に涙をこらえて



手のひらをさすり



「ここにいるよ、士郎さん」



「私はここよ」



「ほら、何も怖くないよ」



意外と怖がりだった士郎に


そう、声をかけ続けた。















それから間もなくして



彼は、逝った。



逝ってしまった。



「あ」



掠れ切ったその音を遺して。







なんて言おうとしたんだろう


なんて言おうとしたんだろう




ぐるぐると回る答えのない疑問。




一通りの段取りを


葬儀屋と話し合い


一度、病院を後にする。





一歩、一歩踏み締めるアスファルト



いつも一緒に歩いてくれた士郎は


もう本当にいないのだろうか。



実感は湧かぬのに


滔々と溢れる涙だけが


士郎は天へ召されたことを


物語っていた。





ふと、俯くことに飽き飽きして


頭上を仰げば


黄金に染まる夕空がそこにはあった。






一際、強い風の中


かすかに聴こえた気がした。




士郎の声が。




空耳なのだろう。



でも士郎の声だった。



在りし日の弾むような


笑み声が私の耳元に届けたのは



あの「あ」の音の続きの“言葉”




「ありがとう」




滔々と溢れくる愛しさを胸にして


私は一言


夏の夕空の黄金の中へ



「私こそ……ありがとう」



そう、言の葉を馳せた。

ひとひら☘☽・2020-07-05
幸介
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「友紀さんに会いに行くことは……」


「ないね」



遠い目だった。


それでも、何かを悟ったような


何かを決意したような


そんな眼差しが宙へと放られる。




どうして……世名さん



友紀さんはずっと


あなたを待ってるよ。



他の誰でもない……


あなたを……待ってるのに。




【Looking for Myself~分岐にゃん編~第14話 切なる想い】




「黒……須、世名……?」



報告書の表紙に


視線を落としたまま


口から零れ落ちた喫驚を


世名さんはきょとんと


瞳を据えて拾い上げた。



「……はい?何処かで会ったかな?」


優しそうな微笑みに


返す言葉を失い、私は黙り込む。



「俺の……依頼者の、方?だとしたら、誠に申し訳ありません。高次機能に障害があって、物忘れがひどいんです」

眉間に皺を蓄えて、


世名さんは深々と頭を下げた。


私は慌てて両手を振る。


「いえ、」と前置き


声を張り上げた。


「ち、違うんです……貴方のお名前をつい最近、聞いたので」


「黒須世名なんてそう無い名前だろうに。もしかして俺の知り合いから聞いたのかな?」


顔面の麻痺も気にならない程の


眩しい笑顔に、私は心を決め


あの人の名を口にした。



「……杉浦、友紀さん」


僅かに、世名さんの顔色が


動揺の色に変わる。


私は見逃さなかった。


白を切られる前に、と


言の葉を紡ぎ出した。



「……ご存知ですよね」


「ああ、……昔の仕事仲間でね」



昔の……仕事仲間


冷徹な言葉の裏側に


何が隠されていようとも


友紀さんの苦しみを知る私は


心臓を鷲掴みにされたような


息苦しさを覚えた。



胸に残る切なさに


ふつふつと湧く汗を


頬に伝わせながら


私は感情のまま


宙へひとひらの言葉を


吐き捨てる。



「ひどい……友紀さんは今も……あなたを親友だと思ってるのに、仕事仲間なんて言い方……」




言葉にすればするほど



苦しくて私の目からは今にも


溢れんばかりの涙が溜まった。



何とか押し留めたいと、


空を向いた私が


ズッと、鼻を鳴らすと


世名さんは眉を下げて笑う。



「君、思ったより事情知ってるみたいだね……少し、話そうか。えっと……名前聞いてもいいかな」


撫でるように柔らかな口調。


人格の滲み出た顔つき。



容易く人を信じない、


一匹狼のような友紀さんが


信じた人。



そして友紀さんが愛した、


六花さんの……お兄さん。




「新山まやです」



なんとか


友紀さんに会わせたい。



その一心で、私は


微笑む世名さんに


大きく頭を下げたのだった。






***


夕映えに輝く街並み。


色付いた木の葉は


冷たい風にさらさらと揺れた。


さっと筆を流したような


すすき雲が空の橙に滲んでく。



公園の一角。


端っこのベンチ。


車椅子の世名さんは


どうぞ、と


私をエスコートした。



「もう時期暗くなるけど、親御さんは大丈夫?」


気遣いがなんとも紳士的だ。


「大丈夫です」


「そっか、よかった」


彼は無沙汰になった手のひらで


持ち合わせた書類を撫でながら


空を仰いで笑う。



その笑顔が


ふいに曇ったかと思うと


ぽつっと、


降り始めの雨のように


世名さんは語った。




「さっきはあんなこと言ったけどね、杉浦は……俺の大事な友人だよ」


優しく落ちた言葉は


心に広がって


安堵を揺り起こした。



「よかった……」


思わず呟いた一言に


込み上げた涙を飲んで


私は世名さんを見つめ


こう、尋ねた。



「友紀さんに会いに行くことは」


世名さんはただ静かに、


俯いた先の石ころを


眺めたかと思うと


項垂れるようにかぶりを


振って小さく呟く。



「……ないね」


「……どうして、ですか」


「思い出が眩し過ぎてね」


「眩し……過ぎる?」


彼は苦々しく笑うと


私の問いかけに


丁寧に言葉を重ね始めた。




「この怪我は杉浦のせいなんかじゃない。俺のせいなんだよ。六花のこともそうだ。でも、きっと杉浦は自分を責めているんだろう」


「そこまでわかっているなら会って……友紀さんのせいじゃないって言ってあげてほしい、です」


今も、目に浮かぶ。


吐き出す後悔に歪んだ、


友紀さんの苦しみ。


あの涙。


あの乱心ぶり。


いつ、生を手放しても


おかしくない……


生気の抜けた顔。



私が世名さんに


強い眼差しを送ると


彼は浮かない表情で


思い致した。



「杉浦はこんな体になってしまった俺に、義務感を抱くだろうからね。そうなればそれはもう本当に友人と呼べる関係ではなくなってしまう。あの頃の俺たちにはもう、戻れない」

「でも……っ」


「杉浦は……!俺たち兄妹のことは忘れるべきなんだ」


僅かばかり声を張り上げ


世名さんは


矢のように飛んだ私の


打ち消しの言葉を拒絶した。



そこに友紀さんへの


愛情とも似た、強い想いを感じて


私は思わず息を飲む。



互いに互いを想いながら


もう何年も苦しみと


向き合い続ける友紀さんと


彼がとても歯がゆい。



見開いた目を俯かせれば


色を滲ませた涙が


地面めがけてはたはたと


降り注ぎ、


制服のスカートへと


染み込んでいった。


その涙にハッとしたのだろう。


世名さんは優しく私の頭を撫で


「寂しいけど、俺は……これが一番の選択だと思ってるんだ」


そう、悲しげに息をつく。


もどかしさに


心がどうにかなりそうだった。



偶然に出逢えた、黒須世名。


私の切なる想いは


優しい彼には届かない。



暮れていく空は暗雲となっていき


私はただ、ただ


この街の何処かで


俯き続けているだろう、


友紀さんの身を案じていた。



【Looking for Myself~分岐にゃん編~第14話 切なる想い 完】

ひとひら☘☽・2020-09-03
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【刹那に羅刹の鬼来たる~プロローグ】





「逃げろ……っ」


夜闇が暗雲を運ぶ中


隠された月が薄らと顔を覗かせた。


月明かりで


照らされた私たちは


互いを欲するように


視線をぶつけ合う。





「…いや……嫌っ」



涙に濡れた私の眼とは裏腹に


彼の目はしっかりと私を捉え


胸を熱く、焦がした。


ふるふると


幾度もかぶりを振る私の肩を


彼の長い爪の生えた指が優しく掴む。





「紲那、聞き分けろ…逃げるんだ」


「ら……せつ」



涙が溢れる。


ぽとぽとと降りしきる。



男たちの怒号が近付く。



まるで私達を


引き裂くように。




堪らずに私は


羅刹の身体にしがみついた。


冷たい体、硬い肌


黒絹のような髪の毛と


猫の様な黄金色の瞳。



長い爪


口元から覗く八重歯は


少しだけ、鋭い。



「紲那……達者でな」



羅刹は、悟りきった顔をして


今までにないほど


優しく、微笑んだ。




…何を悟っているの?


出かかった答え。


確かめることも怖かった。





彼は鬼。


その名は羅刹……


女を食らうと言われた鬼だった。




離れがたくて仕方がない。


私はその額の角に


吸い付くような口付けをした。




「ほら、もう行け、振り向くなよ」



「……まっ、てるから」


「何を」



「私、はじめて出会った一本杉で、ずっとずっとずっと待ってるから」



「……しょうがない奴だ」


細めた羅刹の目には


涙が滲んで


彼はそれを隠すように


小さな御堂の天井を仰ぐ。




さあ、行けと急かされ


私は無数の火の玉のような


松明の灯に照らされる方角とは


真逆の森へと飛び出した。




羅刹が望んだ通り……



一度も振り向かず


ただ一心に


涙に滲む空を追いかけた。





***

お疲れ様でしたー


一応、プロローグです(´・ω・`)


続けられれば続けますが


にゃんたちのお話も


まだ終わっていないので


……どうしよう(ㅇ_ㅇ)笑



鬼と人間の恋


需要ありますか?笑



幸介

ひとひら☘☽・2020-08-19
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【瞬間を切り取ってみた】




青い絵の具が



ひとしずく水に零れ落ちて



ふわっと広がった様な空だった。





はっきりとした優しい空色は



暑い夏の太陽によって



より輝いている。




隣にはぴったりと寄り添う彼が居て


私の顔をしげしげと眺めていた。



私は目の前で、


今にも空と溶け合いそうな、


海原を眺めながら彼に呟く。



「何、見てるの?」


「いやぁ、その表情好きだなぁと思って」


「からかわないで?」


「からかってなんかいないよ、ねぇ、触ってもいい?」


「……知らない、勝手にすれば?」


「ツンデレ」


面白そうに笑んで


目を細める彼に


途端に愛しさが湧き出した。



そうなれば私の心なんて


赤子の手を捻るように


容易いのだろう。


心臓が跳ねると


みるみる私の頬は


紅潮していった。



手のひらを絡め


時折、私の指先を


弄ぶように唇を添わせる。



燦々と照りつける太陽の陽射しが


やけに恥ずかしい。


身も心も沸騰するような


この瞬間の前では


どんな言葉も無に帰してしまう。




ただ、一言で表すならば



愛しい、それに尽きる。



心が悦んでいた。



互いの体が別れ別れである事が


こんなにももどかしいと感じるのは


彼がはじめてだ。



ひとつになりたくて


手のひらを絡めるし


口付けて舌も吸う。


きっとそれ以上したところで


この心は満たされないのだろう。



けれど


男と女というものは


だからこそ、試行錯誤で


慈しみ合おうとするのだ。



迷いながら愛し合い


枯渇した潤いを求めて


生命を分け合うように


身も心も重ね合う。



私は彼と


そんな人間同士であって


本当によかったと


心いっぱいに感じていた。




「ねえ」


「何?」


「キスして」


「どうしたの」


彼が目を見開いて


困ったように笑う。


よほど、普段の私は


素直じゃないらしい。



「貴方とひとつになりたい」


「……お、どろいたな。君がそんなこと言うなんて」



相変わらず


太陽はギラギラと


照りつける。



暑さに火照ってどうにかなりそう。



「そう?結構いつも思ってることだよ」


普段言わない言葉を伝えたのは


この暑さのせい。



自分自身にそんな言い訳をして


僅かばかり素直になれば



ほら




「参ったな……調子が狂う」



なんて、言いながら


彼が幸せそうに、笑った。







・・・


スランプにつき


語彙力の低下。


払拭すべく


ショート×ショート


瞬間を切り取ってみた


をはじめました。



思いつく限りの言葉や


情景を切りとれるようになるまで


お見苦しいでしょうが


しばらくお付き合い下さい


(´・ω・`)



幸介

ひとひら☘☽・2020-08-15
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「やだって、やだ、脩哉ッ」


「無理無理、興奮やべーわ」


脩哉は俺の腕の左右を束ね

舌なめずりで俺を見つめあげる。


曲がりなりにも


16年間男としてやってきたのに


脩哉の力は凄まじい。


あっという間に俺は自由を


奪われて


腹の底から突き上げる興奮に


全身の血液は沸騰した。



性という名の鳥籠シリーズ
MIRROR´MIRROR~スキナヒト
第4話 はじまりのおわり





「は…?好き?」


「うん」


目を逸らさずに頷く。


せっかく伝えた本音を

誤魔化すようなことは

したくなかった。



「マジの好き?」


「冗談でこんなキモい事言うかよ」


「えーと…それは、俺とヤレる好きって事?」



脩哉と……ヤる


彼の口から出た夢の様な話が


俺の頭を一気に加熱した。


今までの人生で一番


恥ずかしかったかもしれない。



俺の心ん中は女だったんだから


オブラート紙も何もない、


ストレートな性の言葉は


ありえないくらいに


心臓を高鳴らせた。



「おま、顔真っ赤だぞ」


わずかながら脩哉も


火照った頬を見せて


俺の首筋に触れ


この唇を眺めた。



やばい、やばいやばい


何だこの状況…


恥ずか死ぬ


感情が爆発しそうだった。


俺は必死に


茹でダコのような顔を


両腕で隠す。


恥ずかしさを逃そうと


苦肉の策を打ったのに


脩哉はそんな俺の腕を束ね


事もあろうに


ベッドへと押し倒したのだ。



「な、なんで…!」


「いや、男に告られたのはじめてだから」


心の中は女だ、


そんなややこしい事


言えるわけがない。


覗いた心を


心の奥底へと押し込んで


俺は脩哉を睨む。



「で、なんなわけ、この状況!」


「おもしれぇなって」


「は?」


「お前、俺とヤリたい?」


「し、知るか馬鹿野郎!」


「教えて、真央」


「教えて、って…」


「お前の好きはそういう好きなの?」


じっと、見つめられた。


見たこともないような眼差しだった。


絆される。


脩哉の目が俺を吸い込んで


脩哉に包まれたみたいだ。



脩哉


脩哉


脩哉、脩哉、脩哉



お前のことがこんなに好きだ



声にならない想いを胸に


俺は応えた。



震える唇でたった一言



「脩哉となら、出来るよ」



「へぇ、試してみる?」



待っていたかのように


即答されて顎をあげられた。


見下ろされる卑屈な笑みとは裏腹な


その眼光は俺を焼き尽くす。


際どい視線に汚され


汚された先から


快感に満ちていくようだ。




「やっぱ、待って、やだ」


「はぁ?待ったはねえけど?」


心臓が弾け飛びそうだった。


嫌がる俺の足の間に滑り込む


脩哉の膝。



「や、やだって。やだ、脩哉」


「無理無理、興奮やべーわ。なんか真央かわいい」


「かわ……っ」


言葉を無理に荒く繕ってきたら


可愛い物言いなんか出来なくなった。


女になりたいけど


男のままでいたいから


このまんまがいい。


でも


好きな男に「かわいい」


そう言われることの幸せを


俺はその時、初めて知った。



何をされても


構わねえや


そう思ったんだ。







“はじめて”の脩哉は


思ったより暴れん坊で


思ったよりずっと


優しかった。



大丈夫か?


何度も緩やかに動いて


身体中にキスをくれた。



そりゃあモテるはずだ。


校内を歩くだけで


黄色い悲鳴もたつさ。





優しすぎるから


期待、する。


俺も、例に漏れず…。



そこらの女より


真央がいい、


そんな想いで


俺を抱いたんじゃないかって。




これが俺の過ち。


女になりそこねた俺が


周りの望む真っ当な男になる事も


出来なくなった瞬間だった。

ひとひら☘☽・2021-04-17
幸介による小さな物語
幸介
MIRROR´MIRROR
スキナヒト
好きな人
チャラ男
遊び人
小説
物語
幸介/性と言う名の鳥籠シリーズ
過ち
独り言
君がいない
辛い
苦しい
叶わない恋
死にたい



燻り続けた俺の


まだ見ぬ“才能”



きっと何処かにあるはずだ


きっと何処かで報われるはずだ



ずっとそう信じてきた……


きっと大した努力もすることなく。





【STEP~第一話・就活】






「は……?え、決まった……?就職?」


「おー、40社受けて、やっとだよ。あーやっと報われたぁ」


椅子に背を預けて


んーっと背伸びをする親友、勇馬。


なんて、清々しい顔を


しているんだろう。



ざわつく心の底から


禍々しい妬みが噴き出し始めるのを


笑顔で必死に隠した。



「……よ、よかったじゃん!すげえよ、勇馬!」


「さんきゅ、さんきゅ!あとは琉生だけだな、どう?就活」


「この間受けたところがさ、好感触」


「お、じゃあ受かったら一緒に祝杯あげよーぜ」


「おう」








嘘だ。


何が、好感触だ。


履歴書を見た時の、


面接官の態度。


見ただけでわかる。


“お祈りメール”確定。



20社受けて、内定はゼロ。


未だ俺は食いつかれて


質問を重ねられた事がない。



就活。


これからの人生を左右する大事な一年。


その一年も疾うに、半分を切った。


勇馬も俺も


“就活なんて適当にやっとく”


そんな口約束で


互いの不甲斐なさを補っていた。



まさか面接の数に倍も差が出ているとは


思いもせず、動揺が隠せない。


目を白黒させながら


俺は勇馬と別れ


たよたよと歩いた。




「先……越された」



気がついてみれば


同期生の仲間はみな


就職が決まり


悠々自適な暮らしを


謳歌している。




「あー……情けな」



真昼の繁華街で


涙を堪えきれずに


しゃがみこんだ。


こぼれ落ちた涙が


アスファルトに染みていく。



視界の中のひとこまが


俺を殊更、涙に誘った。





涙がとまらない。





「あーれぇー?おにーいさん、何してるの?」


「は……?」



見上げれば


そこにはミニスカートの


女子高生が立っていた。



パンツが見えている……。




「あー、見たでしょ、工ッチ」


「ふ、不可抗力だっ」


「ねぇ、お兄さん童貞でしょ」


「な、ななな何を言うっ」



出会ったばかりの女子高生に


言い当てられた。



なんで、だ。


しどろもどろになりながら


怒張して否定する俺に


その女子高生は


忍び笑いをひとつ。



「じゃあ、お兄さんはどうして泣いてるのぉ?」



人差し指を折り曲げ


俺の涙を掬いとる。



「ど、どうでも……いい、だろ」



まさか就活で


親友に出し抜かれ


情けなくて泣いています


なんてこと、


格好悪くて言えない。




すると女子高生は



「じゃあ、美沙と遊んで?」


そう言って、俺の手をひく。



「は、?え、あ、ちょっどこ行く……っ」


「い・い・と・こ・ろ♪」



女の子の肌の柔らかさ


か細い指先


こんなの、何時ぶりだろう。




不覚にも胸がときめいた。




就活ストレスからの


ネトゲ廃人寸での俺。


不摂生が祟ったらしい。



女子高生の力に負け


俺は彼女に翻弄されて


行く先も知らぬまま


彼女の手引きに従った。





***


思いつきで小説(*´ω`*)


あんまり長くは続ける予定ありません


三回くらいで終わるかな笑笑


Looking for Myself


暗いんで笑


ちょっとコメディタッチなものを


書きたくなっちゃったのかも。


楽しんで頂けたら光栄です



さあ、明日もお仕事だぁ


ねないと、ですね


(*´ω`*)



おやすみなさい...♪*゚



幸介

ひとひら☘☽・2020-06-13
幸介
幸介による小さな物語
幸介/STEP
小説
就活
就職活動
親友
友達
おいのりメール
物語
才能
ゲーム
ネトゲ
片想い
ポエム
独り言
それだけでいい
辛い
好きな人





~Little promise~



「あーあ。つまんね」


と、光輝。


「ほんとねー」


と、私。



身体を重ね合わせながら


あまつさえ口づけさえ


交わしながらそんなこと


呟き合い


私たちは快楽の頂上目指して


登りつめていく。




昔はよかった


昔は……なんて


心の中で呟いては


身体を明け渡し


すっかり大人になった光輝に


仮初の愛を


声で体で与えていた。




「ねえ、光輝」


「んー?」


賢者タイムに身を任せ


煙草を吹かす彼を呼ぶ。



「あれ、思い出せた?」


「あー、また約束?」


「うん」


「ぜーんぜん。何回目だよその質問」


「そっか……」



ふくれっ面で俯くと


上半身の肌をさらした光輝は


均整のとれた腕を伸ばし


その指先で私の頬に触れた。


ごつごつとした、


少しタバコ臭い男の手。



昔は、よかったな……


昔は。


そんな思いを噛んで


私は苦く笑う。




「なあ、約束って?」



光輝は無邪気に笑って見せた。


身体はまるで男なのに


この笑顔は


昔からちっとも変わらない。


ほんと、ずるい。



「小さい時、したんだよ…約束」


「どんな?」


「……思い出してよ」


「めんどくせ」



変わらず笑う光輝を見つめて


思わず、涙が零れそうだった。



「あーあ、昔はよかったなあ」


「あー?なんでだよ」


「光輝がおりこうさんだったから」


「今だって利口だよ?一流商社マンだし」


「いくら頭が利口だって、幼なじみと……こんな」


「あー?」


「……なんでも、ない」



付き合っても、いないくせに


身体を求め合う関係になるなんて


やっぱり馬鹿だよ。



光輝も、そして私も。






あーあ


昔はよかったなあ


昔は。






「みーさき!」


「なあに、こーき」


「これやるよ」


そう言って


無造作に指にはめられた


シロツメクサの指輪。


あっけにとられて


光輝の顔をながめると


顔を赤らめて彼は


こう言った。




「みさきはおれの奥さんになるんだからな」


「奥…さん?」


「結婚すんの!わかった?」



強引なプロポーズ


小さな結婚の約束に


胸が熱くなった。




「うん……わかった」


「約束だぞ、忘れんなよっ」


「うん、絶対、忘れない!」




これが、後生大事に


守ってきた私の宝物。



光輝との、約束。



身体を求め合う関係は


五年続いてる。



「忘れんなよって……言ったくせに」


「……んー……?」


煙草を吸い終わり


微睡み始めた彼に


本音が口から飛び出した。


喉の奥が熱い。



「んーん、眠っていいよ」


「……みさ、き」


「ん?」


「頭……なでて」


「うん」


私が光輝の頭を何度か撫でると


目を閉じた彼の口元が綻ぶ。



「お前の手……やっぱすき」



唐突な「好き」に


心臓が否応なく跳ねた。


告白されたのは


残念ながら


私の、手、だけだけれど。



「ねえ、光輝」


もはや、眠りに落ちたことを


注意深く観察すると


私は彼の頬に優しく


啄むようなキスをして



「私はね……光輝の全部が好きだよ」



そう、告げた。



身体だけでもいい。


今は。



いつか


そんな日が来るなんて


確証はないけれど



幼い頃のあの約束がある限り


私は縛られ続けるのだろう。




光輝がいつか


私をお嫁にもらってくれる、


その時まで。




あーあ、昔はよかったなあ


昔は。


そんな心にもない嘘を


呟きながら。

ひとひら☘☽・2020-10-29
幸介
幸介による小さな物語
幸介/リトルプロミス
前編
片想い
幼なじみ
両想い
お嫁さん
奥さん
忘れられない恋
忘れられない
結婚
約束
ポエム
小説
物語
たとえ君が
独り言

~宗時と阿国~



「太刀を持って参れ!大太刀じゃ!」


宗時は腹に据えかね


息巻いて叫びながら


城の中をあちこちにと


足早に歩き回る。




「と、殿っ」


宗時の後を追うように


家老は彼の顔色を窺った。



「殿、何をなさるおつもりで」


「……戦じゃ」


「い、戦ですと…!?落ち着かれなさいませ、何故、その様な」


「浅間の奴め、阿国を嫁に寄越せと言いおった!」


「妹君をですと?それはまた……何とも急な。しかし殿、浅間殿と言えば我らと比べれば兵数も領地も上。こちらは痩せた土地ばかりで糧も満足に用立てられるとは思えませぬ。とても太刀打ち出来るとは……」



家老は白く長い眉の間に


皺を沢山蓄えた。




宗時は


一度は押し黙ったが


憤怒も冷めやらぬ。



「ならぬ。……阿国を嫁になど、絶対にならぬ」


「殿……」



家老は半ば諦めた様に息をつくと


厚い雲がかかった曇天を見つめた。




***


「阿国……」


宗時は阿国の首筋に


鼻先をこする。



「兄……様」


阿国は兄と呼びながらも


熱く潤んだ目を宗時に向けた。




「兄などと、儂を呼ぶな……血の繋がりはないのだから」


「宗……時様」


「それでよい」



切なそうに微笑むと


宗時は阿国の唇を


一思いに吸い上げた。



行灯のあかりが


小さな離を温もりに満たすと


衣擦れの音がひとつして


二人はより密着し


より抱き締め合った。




抱き締められると


その身も心も幸せに満ちる……



阿国は、吐息とともに


妖艶な声をひとつあげた。



すると宗時は


実に愛しそうに


笑んでこう告げる。




「阿国は何時も愛らしい」


阿国は潤む瞳を伏せ


奥ゆかしく笑った。



「阿国、良いか」


啄むような口付けを


繰り返しながら


宗時は熱く息をつく。




「……喜んで」



阿国は身体を明け渡すかの様に


宗時の首に腕を絡めて


その逞しい胸へと顔を添わせた。



宗時は阿国の柔らかい身体を


優しく貪りはじめる。





小さな離で


二人の愛は大きく燃えた。



いつも通りの、夜だった。





二人は兄と妹だった。



しかし、阿国は幼き日から


人質にと


他国から養子に出された子で


宗時とは何ら血も繋がらぬ。



宗時も阿国も


年齢を重ね青く成長する頃には


心惹かれ合うようになり


父、宗達が亡くなってからは


なし崩しのように


愛を分け合うようになった。



しかし、若と呼ばれた宗時は


今や一国の主。


いかに血の繋がりがないとはいえ


阿国は、宗時の妹だ。



これが、許されぬ愛である事は


二人も疾うに理解している。



羽根をひらいた孔雀のように


着物がふわりと広がって


あられない姿で息を整える阿国を



腕枕で支えた宗時は


その髪の毛を撫でた。



すると、阿国は


涙をぽろぽろと零し始める。



「何故泣く……?」



そう、問いつつも


宗時は浅間重吉の元へ


嫁に行くことが


嫌なのだろうと思い


阿国をきつく抱き締め言った。




「……大丈夫だ、阿国を嫁になどやるものか。約じゃ、戦をしてでもそなたを守る。」


愛しい者を守る。


それが愛と父に繰り返し教えられた。


しかし阿国は


未だ涙を流し続けると


呆然と宙を見つめ震える声を絞る。




「いけませぬ……」


「何がじゃ」


「無益な戦など……阿国は嫌にございます」


「無益なものか、阿国を守る為ならば」



宗時が声を荒らげると


宗時を睨むように見つめた阿国も


声を張った。



「阿国の為ならば、国をも犠牲になさいますか……戦ともなれば何千の兵が、民が苦しみましょうか。それに……」


大きく目を見開き


呆気にとられた宗時の顔を


目の当たりにすると


幼き日の想い出が噴く。



この国へ貰われたばかりの頃は


一時の友国とはいえ


やはり敵国の娘。


冷遇を余儀なくされた阿国を


傍で優しく支えたのは宗時だった。



ずっと小さな時から


慕い続けた、阿国の恋。



無くしなくない、幸せ。




「……宗時様も討死ぬやもしれませぬ」



「儂は……!」



「阿国は……例え宗時様が生涯の兄となっても……貴方には生きてほしい」


「……阿国」


「阿国は……浅間様の元へ行きまする」



宗時は零れる阿国の涙を


何度も何度もその温かな指の腹で


拭い続ける。



阿国は嗚咽を堪えると


震える唇を無理やりに引き上げ


にっこりと笑った。



「ねぇ、兄様……どうか阿国のわがまま、聞き届けて下さいましね」



「阿国……っ」



宗時の頬には


とうとう大粒の涙が伝う。



何故、離れねばならぬのか


何故、こんなにも愛しいのに。



言葉にならない想いを力いっぱい


抱き留めることで阿国に放る。





一心に伝える声なき愛を


一心に受け止めた阿国は


もはや戦にはならぬと安堵した。



「兄」はいつでも


阿国の願いを聞き届けてくれる、


優しく、強き人だったから。





「阿国、国を出ようか」


その様な戯言


叶わぬと知りつつも


紡がずにはいられなかった。



「どこへ行きましょうか」


「そうじゃな……そう言われると迷うではないか」


眉を下げた宗時に


くすくすと阿国は笑う。



「何処でも良いです、共に居られるのなら」


「阿国……儂はそなたを心底に慕う」


「阿国もです」


堪らず、阿国の小さな唇に


宗時は口付けをくれてやった。


もうひとつ


もうひとつと


終わりなきそれを繰り返す。


息を吸うことも忘れ


ふたりは深く、


これまでに無いほど


激しく求め合った。



月の綺麗な、夜だった。






この愛は今宵で終わるのだろう。



それでも



例え二人が引き裂かれても


例え二人に他の誰ぞの子が産まれても


例え二人が年老いても


例え二人を死が分かつ時が来たとしても



この瞬間の愛は永遠なのである。




愛の華は永えに咲き誇り


次の世にその全てを賭ける。



実を結ぶ、その日を


毎夜、恋しく、夢に見て。



***


|ョ´д`*)


朝からこんな内容でごめんなさい笑



忙しくて小説になかなか手をつけられず


書く気も失せていたのですが


ふと、書きたいなと思った題材が


これでした。



久々なので、まあーひどいもんです


これから徐々に


復帰出来たらいいなあと思っているので


リハビリ作品


多めに見てやってくださいね笑



それでは今日も


コロナに気をつけて


頑張りましょう(*´ω`*)




幸介

ひとひら☘☽・2020-08-09
幸介
幸介による小さな物語
小説
独り言
笑顔
ポエム
殿
時代小説
好きな人
好き
叶わない恋
嫁入り
いつかきっと
辛い

過激な表現があります


ご注意下さい( ⸝⸝ᵕᴗᵕ⸝⸝)







「真央……俺もう、ヤバいわ」


昇りつめるその動きとは裏腹な

脩哉の掠れ声に

俺まで弾け飛びそうだ。


「うん……いいよ」


耳元にそう添えて俺も

脩哉の身体をきつく抱いて

一緒に果てた。






こんなはずじゃ…なかったのに。


弾けた躯をぐったりと委ね合い

脩哉の荒い息遣いを肌で感じて

俺は、思うんだ。



どこで間違ったんだろう…?




性と言う名の鳥籠シリーズ

MIRROR´MIRROR~スキナヒト





過ち、というならば


出生した瞬間?


いや、父親のアレと


母親のアレとが結びついた瞬間か。


俺は、“私”だ。


せっかく可愛らしい真央という名を


父母から授けられておきながら


俺に与えられる服は


黒や青、頑張っても精々赤だった。


純白のフリフリつきのドレスが着たくて


物心着いた頃に母に強請ったことがある。


その時の母の引きつった顔と言ったら。



タイトルをつけるとすれば


The困惑、The混乱、The青ざめ


そんな言葉がよく合うと思う。



それはそれきり、


両親がひいた“男”というレールの上を


必死に歩くことにしていた。




「好きな子いないの?」


母がにこやかに聞けば


「二組の麻耶ちゃん」


嘘をついた。


本当は


男の子が好きだった。



大人になったら


女になれるんじゃないか


そんな馬鹿馬鹿しい願いより


大人になったら


ちゃんとした男になろう


そう心に誓っていた。


それがみんなが幸せになる方法だと


言い聞かせてた。




それがどうだろう。


今のこの状況はなんだろう。


男のにおいが充満した部屋。


無造作に脱ぎ捨てられた服。


あらゆる体液に塗れて

湿り冷たくなったベッド。


裸の俺と、裸の脩哉。


しかも、脩哉は


「もしもし?どーした?ん、今度の日曜日?おー、俺も誘おうと思ってたんだよ。……あったりまえじゃん、好きだよ。え?やりたい?俺も俺も」


終わったばかりだというのに

女と電話をしている。


片腕に抱えた俺の髪の毛を

いたずらしながら、だ。


ふと見上げれば


嫌でも目に入る。



好きな男の笑顔。


俺がこいつに


させてやれない顔だ。



こんなはずじゃ、なかった


その想いを小さなため息にして


葬るのは一体これで何度目のことだろう。





「また電話ちょーだい。声聞けると嬉しいから。おー、じゃあなー」



機嫌よく弾む声で通話を終えて


スマホを放り投げた脩哉は


甘えるように顔を擦り付けて来る。


「今の子、誰」


「愛花」


「新しい彼女?」


「んー…いや、セフレ?」



笑いながら最低な物言いをする彼を


睨みつけて俺は


わざとらしく溜め息をあげた。



すると脩哉は黄昏時の


伸び始めた不精な髭を


ぐりぐりと肩に押し付け始める。


地味に痛い……。


「……何か御用ですかー」


「いじけんなって」


「いじけてなんかない」


「いいだろ?俺ら別に付き合ってるわけでもねーし」


「だったらこの関係ってなんだろうな」


「んー……セフレ?」


「馬鹿野郎」


「いってっ!」


心底、脩哉の軽さに苛立って


俺は彼の頭に拳を振り下ろす。


「真央くんこっわーいッ」


頭を擦る脩哉の笑顔に


殊更苛立って、


みっともない程


毛のある膝を抱いて呟いた。



「お前さ、女遊びやめろよ」


「えー?なんで」


「お前に遊ばれる女が可哀想」


「男のお前はかわいそーじゃないの?」


“男”の。


その言葉が心に突き刺さった。


「俺は……っ」


上手く言葉が出てこない。


一息つき今にも泣き出しそうな心に


そっと蓋をして


気のない言葉を返した。




「別に」


「へぇー?その割には俺の事咥えると離さねえじゃん?」

「下ネタやめろ」


脩哉はころころと


箸がころげた様に笑った。





女好きでお調子者で


適当で自由人


勝手気ままに


手当り次第



そんな高倉脩哉に


俺、矢野真央の心は


見事にフォールドされている。




鏡よ鏡


脩哉が世界で一番


大好きなのはだあれ?




目の前でベッドの上の


俺たちを映す鏡に


心の中で問いかけた。



俺じゃない女の名前が


鏡から返ってきたら


すっぱりと諦められるのに。



「なぁ真央」


「……なんだよ」


「またしたくなった」


「俺はもうヤダ」


「えー?」


白い歯をこぼしながら


唇を塞ぎ舌でそこをこじ開ける。


そして俺はまた流される。


流されて溺れていくんだ。



淡い期待を胸に…。



鏡よ鏡


脩哉の一番好きな人は


オレですか?














|ω・)


こんばんは


幸介、改め幸(さち)です


(◍˃ ᵕ ˂◍)



私、幸の近況を報告すると


今、女の体に戻ろうと


お仕事頑張って


彼と一緒にお金を貯めて


頑張っているところです


\(* ॑꒳ ॑* )/


声帯の手術して


女の子の声を


取り戻しました



本当は書きかけの小説に


手をつけなければならないんですが



時間が空いちゃって


本人もどこまで進めたかすら


覚えていない状態なので


今後ゆっくり


読み返してから


手をつけたいと思います




鳥籠シリーズ


第…四弾?になるのかな?



今回は


チョー遊び人VS男でいたいMTF



を、コンセプトに


緩く激しく書いていけたらいいなって


思ってます(´・ω・`)


ていうかこれ


アップ出来るかな??


引っかかる予感しかない笑

ひとひら☘☽・2021-04-14
幸介
幸介/性と言う名の鳥籠シリーズ
幸介による小さな物語
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独り言
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好きな人
スキナヒト
君がいない
大切な人
辛い
片想い
小説
物語
mtf
MTFを超えて

処刑場 LOOK AT ME
~非力という名の罪~
後編


⚠閲覧注意⚠







「ねえ、君名前は?」


「俺?カイト。お前は?」


「私、モモ」


「モモって美味しそうな名前だな」


「カイトだってタコ違いじゃない」


「俺は空を飛ぶ方だから」



彼は、空の見えない格子窓を


見上げ手のひらを翳す。



「また……」


「え?」


「また空が見たい」


「きっとそのうち見られるよ」



カイトの顔は歪んだ。


そして辛そうに笑いかける。



どうしてそんな顔するの?


問えない疑問を腹の中に押し込むと


苦く切ない味がした。





刻々と時は過ぎ


私たちの中の生きた細胞も


生き死にを繰り返す。



カイトと同じ部屋で


過ごし始めて5日が経った頃


彼の辛そうな声が私を呼んだ。




「なぁモモ」


「なに?」


「きっとさ、きっとここは」


カイトはそれっきり


押し黙ってしまう。


「どうしたの?」


それでも食い下がると彼は


どちらからともなく繋いだ手に


痛い程の力を込めて告げた。




「モモ、お前こんなとこにいちゃダメだ」


「カイト何を言ってるの」


「逃げなきゃ」


「え?」


「だってモモはこんなに綺麗だ」


ドキンと


鼓動が跳ねた、


その時だった。


金属音がしたかと思うと


ウウウウウイイイイイイン


聞きなれない音がして


壁が動き始めたのだ。




「くそ、遅かったか」


カイトはそう叫んだ。


私は恐怖に戦きながら


他の仲間と共に


右往左往するしかなかった。



「何?何なの?」


壁が無機質に


押し迫ってくる。


壁の隅へ逃げれば


跳ねっ返りの板に押し出され


また壁の迫る部屋へ


移動を余儀なくされてしまう。



「カイト、カイト怖い」


「モモ、大丈夫だよ」


そう言って私を安心させるように


身を寄せたカイトの体は


小刻みに震えていた。



私たちは折り重なるように


壁から逃げ惑うしかない。



部屋から細い通路へと


無理やり押し出され


幾つ目の部屋に


着いた時だっただろう。



小さな空間。


格子窓も何も無い、


外界とは完全に


シャットアウトされた小部屋。



カシャン…という音を最後に


鳴り響いていた機械音が


ピタリと止まった。


















静寂が不穏を醸す。


この静けさが恐ろしい。




「死ぬんだ、私たち死ぬんだよ」


ひとりの女の子が


泣きながらそう叫ぶ。



「死ぬ……?死ぬって、何?」



私は揺れる瞳でカイトを見つめた。


カイトの目は悲しみに染まっている。


言葉なくも、伝わった。



私たちの命は、ここで終わるんだ。


意味もわからず


……意味もなく



「ねえカイト」


「うん」


「生きたい」


「うん、生きよう」


生きよう


交わした約束を


もう一度彼が呟いたその刹那のこと


ゴオオオォォォォ


不穏な轟音と共に地獄が始まった。



「あ、あぁぁぁ」


1人の男の子がそう叫んだが早いか


ぐるんと白目を向いてひっくり返る。


やがて痙攣が始まり


涎をダラダラと垂らして


もがき苦しむ。



他の子も次々と倒れ、


小さな息を繰り返し


やがて同じように


小刻みに震えた。



恐ろしい地獄だった。


何故?


私たちが何をしたの?



「カイト、カイトッ」


「モモ……、出来るだけ息を吸わ」


その声を最後に


カイトはまるで獣のような声をあげて


卒倒した。



そして私もまた


カイトと時同じくして


冷たい床に倒れる。



息が、出来ない。



苦しい


誰か


誰か




目の前が涙に霞むと



お父さんとお母さんが


笑った気がした。




「カ、イト」


ガタガタと震える彼を


助けたくて懸命に手を伸ばす。



たった、5日


5日だけ


5日ぽっち


一緒にいただけの関係だった。



それでも私を捨てた両親や


彼に虐待を重ねた父親より




きっと私たちは



ずっとずっと満たされた時間を



温かい時間を過ごした。



「かい、と、かいと、かいとッ」


届け


届け私の声




私を守ろうとしてくれたカイトに


ひとりじゃないよ



それだけを伝えたかった




最後に


私は大きく哭いた



大きく哭いて


仰向けに倒れた視線の先の


天井に


痙攣する手を伸ばす。




「空を見たい」



そう言ったカイト



「生きよう」



私たちの約束






ねえ



誰か私たちを見てください



LOOK AT ME



私たちが誰なのかわかりますか





私たちは……。









・・・



その日、沢山の亡骸が焼かれた。


入れ物から溢れんばかりの亡骸だった。




俺はその残骸の


小さな白い欠片を集めた。



すると


すす汚れた首輪が落ちている。



「死んだ時取り損ねたか」


俺はその首輪のプレートを


軍手でこすった。



「モモ、か」


犬だったのか、猫だったのか


もはや、わからない。



生命あったもの、奪われた生命





こんな事は



保健所の一作業に過ぎない。



日常茶飯事だ。



俺は、ひとつ、ため息をついた。



今日も、報われない生命がやってくる。


非力という名の罪を背負って


人間のエゴで天へ昇る生命だ。



今日も俺は、


小さな生命を奪う片棒を担ぐ。


苦しまずに逝けるのだと


自分自身に言い訳をしながら。




本当に安らかにいけるのならば


ドリームボックスという名の


ガス室の中は


あんなに爪痕だらけでは


ないはずなのに。





処刑場LOOK AT ME
~非力という名の罪~



完結




***



ごめんなさい
今回は少し重たい内容です


私は許せません


いかなる理由があっても
例えそれが法で裁かれなくても
家族を捨てる事は罪です


どうして人を捨てる事は
保護責任者遺棄に繋がるのに

家族として飼ったはずのペットは
そうはならないのでしょうか


人も動物も同じ命なのに。



それでも
現在日本では


ドリームボックスで
息を引き取る動物は
年間4万匹を越えます


それだけの生命が
人間のエゴによって
犠牲となっています



目を逸らさないで
考えてください


この事が
どれだけ残酷な事なのか


私たちが考える事をやめては
きっと、この不条理は
なくならないのです。







本日は遅いので
来ている贈り物については
明日改めてお返しします

(*´∀`*)

ひとひら☘☽・2021-05-05
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