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#彼女は不透明だった

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全1作品・



僕の目には確かに映っていた。

けれど、世界にとっては

数センチも満たない綻びだった。






















#彼女は不透明だった
















『問題です。
書かれている文字を暗記してください』


記憶
 ̄ ̄ ̄

『覚えられましたか
いつかこの文字があなたの役に立つでしょう』


机の上に置かれたメモ用紙に
そう書かれていた。

そして、メモ用紙の下に
一冊の本が置いてあった。

恐る恐る開いてみたが、どうやら日記のようなものだ。

しかし、中身は白紙であった。


「誰がこんなバカげたメモを」

と、そう思った

だがどうしてか『探せ』そう言われたみたいで
誰が残したかも分からないメモ用紙を持って
この日記とメモの持ち主を探すことにした。


なぜなら、宛があったのだ。

昨晩友人たちを家に泊めたのだった

あいつらなら、こういう宝探しのようなクイズを出しかねない。

そう思っていた

しかし、学校に行って彼らを問い詰めても

誰もこの日記とメモを知らないという。


「みんなで僕を騙して面白がってるのか?」


「違うって、ほんとに俺たちは知らないんだ」

そういうばかりであった。

じゃあこれは一体誰が?

すると、


「あ、その日記帳私知ってるかも」

近くにいたクラスの女子がそう言った。


「本当?」


「うん、でも確かそれって……」



聞いたところによると、

1つ下の後輩の女の子の日記だそうだ。

その子はとても人気者で

いつでも笑っていたという。

だが、ある日を境に学校には来なくなった。

彼女の近しい友人が少し原因を知っていると

そう言っていた。


その日はその話だけを聞いて

普通に授業を受けて帰った。


少し気になって
何も書かれていないとは知っていたが
どこかのページに何かあるのではと
日記をペラペラめくり始めた。

数ページほどめくったとき、
白紙だったはずの日記に文字が浮かびあがってきた。


2020/12/17

私は学校に行くのを辞めた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
理由は何個かあるけど、
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
バイトを始めたかった
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
でも夢はまだ諦めてない。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

そう書いてあった。

不思議なことに今日僕が聞いた話と

同じことが書かれてあった。

奇妙に思ったがそれ以上に好奇心が強かった。







この日から始まった。

“彼女”を探す日々が__





本当に魔法のようだった。

彼女について知る度

日記はどんどん埋まっていった。



2020/09/14

貰ったお小遣いで日記を買った。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
今日は私の誕生日だ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
祝う人がいないから、これは
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ささやかな私へのプレゼント
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



2021/10/01

今日も笑ってしまった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
今日の私は失敗だ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
当たり障りなく平凡にいたい
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
存在が確かにあるだけでいい
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


すると、ある1ページが目に止まった。


2020/11/23

今日も先輩と一緒に帰った
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
本当に好きだ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
先輩の声を聞けて幸せ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
私だけが知っている話も
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
私にしか話さなかった話が
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
あるというだけで嬉しい
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


確かに僕は彼女を知らないはずだった。

だけど、


「…これは、俺のことだ」


なぜかそう確信できた。

彼女とはどこかであったのだろうか

いいやそんなはずはない。

出会うような場面が一体あったか。


なら、この確信はなんだ

疑問と結論の無限ループだった


埒が明かなかったので、とりあえずは寝ることにした。

次の日学校に行って、友人たちに尋ねてみた


「僕に後輩の女の子を紹介したことある?」


「は?」

友人たちは何を言ってるんだという風に僕を見た。

「寧ろ俺たちが紹介された側だわ」


「え?」

僕が紹介した?

そもそも出会いすらないのに…


「お前の彼女って紹介してきたじゃんか」



その日僕は朝から少し熱っぽかったんだ。



フラッ「かの…じ、ょ」

僕に彼女がいたという事実と衝撃は


「え、あ、おい!!」

「大丈夫か!?」


僕の回らない頭を撃ち抜いて止まった。














『…きて…ぉ、きて…起きて!』

ハッと、その高い声に目が覚めた


ここは?

『もー部活中に寝ちゃダメですよ!』

ああ、ごめん

『大会前なんですからね!部長!』

うん。あれ、君は?

『え、ひどい。自分の彼女じゃないですか!』

えっ

『まだ寝ぼけてますかー?』

いや、そんなことは


彼女…

彼女…?


部活帰りに一緒にコンビニに寄ったり

二人で旅行をしたり

そんな思い出がひしひしと何処からか湧いてきた。





そして場面が切り替わり、




『先輩…もう死にたい、いい?』

ダメだよ

『辛いよ。お母さんは私を見てくれないし。お兄ちゃんは私を殴るし。お父さんは…』

分かってる。だけど、君がいないと僕は

『口だけでしょう?』

違うよ。本当に好きだから

『だったら助けてよ…』

ごめん…



そうだ、彼女は家庭が複雑だった。

けれど相談できるような人はいなかった

そんな中僕だけには全てを話してくれた





だけど僕は…


『ねぇ、先輩にとって私は必要なのかな?』

大切な人だよ

『そっか。でも、』

でも?

『自分にとって大事でも、世界にとってもそうだとは限らないでしょう?』

そりゃあ、そうだけど

『私は先輩にとって大切な存在ならそれでいいんだ、だから甘えてもいい?』

うん、いいよ

『撫でてください』

分かった。

『ねぇ私頑張ったでしょう』

うん。

『だから』

もう、いいよ

『…ありがとう』


きっと最後の会話だった。


その年彼女はいなくなった

背中を押したから僕が。





「…い、お…ぃ、おーい」

誰かがまた僕を呼んでいる。


「起きろーーー」


「…るさい」


「あ、起きた」


「なんだよ」


「ぶっ倒れたからびっくりしたぞ!」


「…ああ、そうか」

夢、だったのか

いや“記憶”だったんだ全て。


そしてこの記憶が一体誰のものか


「そうか、ってなんだよ。心配してたのにー」


「ごめん、早退すると伝えて欲しい」


「んー…おーけ。お大事にな!」


「ありがとう」



きっと、みんな触れなかっただけだった

僕が何を探していて

なぜ、探していたのか。

みんな本当は知っていたんだ。




日記をペラリとめくった。

最後のページにはちゃんと

最後の記憶が刻まれていた



2020/12/31

この日記はここで終わる
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
もし気が向いたら何度か読み返して欲しい
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
先輩が私を忘れてしまった時のために
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
私はこれを書いていくの。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
なくしてしまっても欠片があれば
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
きっとまた思い出せる。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
何度忘れても許すから、何度も思い出して
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



彼女は生きていたかったのだ。

彼女の存在を否定した世界ではなく

彼女を忘れてしまう僕の世界で。


だから選んだ

必ず思いだせるように


日記の中にはいつも隣に僕がいた。

この日記は僕の記憶だった。





ふと思い出してメモを取り出した。

すると、メモだったはずの紙を開くと、何かの診断書に変わっていた



『一過性全健忘』



そうか、これが答えだったのだ





































名前を知っているだけの

他人にとって彼女は半透明で



時折忘れてしまう

僕にとって彼女は不透明だった。

︎︎玄島 燕_・2021-12-03
彼女は不透明だった
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