「ごめん、付き合ってみたらなんか違った」
楽しみにしていた三回目のデート。
もしかしたらステップアップもあるのかも
そう思っていた私に
彼が言い放った言葉。
前の夜から
自分磨きに徹して
ストレッチ、浮腫防止
いつもより入念にお肌のお手入れ
当日は朝からお風呂なんて入って
つるっつるのぴかぴか。
メイクだっていつもはナチュラル。
でも今日は
少しでも可愛く見せたくて
ほんのりチークを入れてきた。
骨折り損のくたびれもうけ。
…バカみたい。
空を見上げて息をつくと
立ち上る息が白い。
ああ、こんなに寒いのに
彼はもういないんだ……。
ふと見渡せば
カップルばかりが目につく。
手を繋いだり
腕を組んだり
中には男の子が
女の子の腰に手を当てて
エスコートしてる人もいる。
私と彼には
そんな雰囲気全くなかった。
部活が一緒で
クラスも一緒。
自ずと仲良くなったら
趣味も合う。
何より彼と話していると
ドキドキして
楽しくて安心出来た。
一度、私の不注意で
指の骨を折った時には
毎朝、家まできて
荷物持ちをしてくれた。
彼が好きだって言ってくれた時に
あの頃からずっと
お前のこと想ってた
彼は、そう私に告げた。
あんなに優しかったのに
付き合ってみたら
何か違ったってなんだろう。
私の何が違ったの?
私、何がいけなかったの?
ずっと私のこと
思ってくれていたのに
たった二ヶ月で
心が変わってしまうほどの事を
私はやらかしてしまったらしい。
彼を責めるより
何よりも
私はその事が辛かった。
「あー、麻衣じゃん、あれ、1人?修哉いないの?」
声をかけてきたのは陸。
私と彼の共通の友達。
陸もまたクラスも部活も一緒だ。
日常が突然非日常になって
頭がついていかなかったのに
陸の何気ない言葉に
また日常に引き戻される。
途端に、実感した。
私は修哉に、振られたんだ。
すると涙がひとつ
またひとつと
零れ始めた。
「う……陸、あ、あたし、ふら、ふられ…っ」
「なっ、マジか!!おいっ。バカ泣くなよ、麻衣、ちょ」
陸は私の突然の涙に驚いて
あたふたし始めるけれど
私の涙腺はどうやら壊れてしまった。
涙が止まらない。
困った陸は私を半ば強引に
カラオケボックスに連れ込んだ。
「ふぅーーー、やべ、焦ったあ」
「ごめ」
「なんだよ泣き止んだの?」
「……うん」
「せっかく大声で泣いても大丈夫な場所に連れてきたのに」
けらけらと笑う陸が救いだった。
これで陸にまで
お葬式みたいな顔をされてしまったら
それこそ、みじめだ。
「陸…」
「あー?なに」
「聞いてもらってもいい?」
「なんなりとー」
気の抜けた返事に
涙がまた滲む。
陸はわざとカラオケのリモコンに目を落とし
私の涙を見ないよう心を配ってくれた。
修哉が好きだったこと
付き合い始めた時の喜び
はじめてのデートでキスしたこと
これからたくさん
一緒にいられると思っていたこと
昨日まで一緒に下校していたこと
何か違うと、振られたこと
ひとつひとつ、話すうち
私はもう一生分泣いた。
最後は言葉にならなかった。
認めたくなかった。
修哉に好きで
居続けてもらえなかった自分が
悔しくてたまらなかった。
「麻衣ー」
陸は、おしり一つ分
私に近づいて
頭を、ぽんぽんと
撫でるように叩く。
「お前はさ何も悪くないよ」
「でも…」
「でも、じゃねーの。悪くない」
「だって」
聞かずん坊の私に
陸は苦笑しながら体を向き合わせる。
「俺、お前の彼氏でもなんでもないけど、麻衣のいいとこいっぱい知ってるわ」
「例えば…どこ…?」
「頑張り屋だろ、麻衣は」
「…そう?」
「今日も…」
さらっ、陸は私の髪の毛を流す。
「修哉のために頑張ってきたじゃん?かわいいよ今日の麻衣」
不覚にも、胸がときめく。
振られたばかりで
私の中のときめきメーター
おかしくなっちゃったかな。
陸は優しい。
さっきから鳴りっぱなしの陸のスマホ。
きっと友達と約束があったに違いない。
それなのに私の為に時間を割いてくれた。
正直、修哉の喪失感は大きい。
なんせ初めての彼氏だった。
涙に暮れる日も
何日続くかわからない。
でも、こうして励ましてくれる人がいる。
私は、独りじゃないんだって
そう思えるから…
私は必ず、立ち上がる。
いつかまたきっと
修哉みたいに大好きな人を作って
今度こそずっと一緒に
長い人生の道を歩めるように
強く、そして綺麗になろう。
漠然とそんな事を思って私は
「ありがとう」
泣き腫らした顔で陸に笑いかけた。