鬼はなづめど、我は眠る
ー第四話ー
あれから、狐崎くんとは
何度か二人で作業するようになった。
狐崎くんは愛想がよく、
仕事もできる。
「そーいえば有紀ちゃんって彼氏いるの?」
小さな飾りを貼っている最中、
狐崎くんが話しかけてきた。
手を動かすだけでは口が暇で
話しかけてきたのだろう。
「うん。いるけど、それがどうしたの?」
飾りに目をやったまま、
私は耳を傾ける。
「どんな人なの?」
「不器用だけど…、素敵な人だよ」
朗茉のくしゃっとした
可愛い笑顔が脳裏に浮かぶ。
「……へぇー…残念。
僕、有紀ちゃんのこと好きなのにな」
「え…? はっ?」
突然の告白に私は手を止めた。
顔が一気に熱くなる。
狐崎くんは
私を試すようにじっと見つめる。
口角が微かに上がり、
私を面白がっているようだった。
「あ、……え、えっと…続きやろっか」
何年か前の"トラウマ"が蘇った。
せっかく忘れかけていたのに……。
*
高校生の私は、
今よりずっとネガティブで暗い
いわゆる"地味子"だった。
友達は一応いたが、
充実した毎日とは言えなかった。
そんなある日…
「松山さんが好きです。俺と、付き合ってください!」
学校一の人気者の先輩に告白された。
夢かと思うくらいに嬉しかった。
先輩は当時の私の憧れだった。
「…はい」
「マジ? くくっ、あははっ! あんたまじウケる!」
先輩はお腹を抱えて笑う。
まるで私を見下すような笑い方だ。
私の知っている先輩じゃない。
「え…?」
「俺みたいな人気者が、お前みたいな地味子と付き合うわけねーだろ?」
「それは、どういう…」
「分かんねーかなぁ!? 嘘コクだよ、うーそーコーク!」
片手で両頬を掴まれ、
はっきりと言われ
私のメンタルはズタボロになった。
偶然通りかかった友人が
スマホで先輩の発言を
録音してくれていたらしく、
先輩は退学まで行かなかったが
このことが学校中に知れて
皆から避けられるようになった。
結局気まずくなったのか、
卒業する前に先輩は引っ越していった。
でも私の傷は、消えなかった。
男性不信になったのだ。
大学生。イメチェンをして投稿した日
キャンパスで大勢の女子に囲まれる
男の人がいた。
それが朗茉だ。
あの先輩と重なるところがあったが
朗茉は先輩と違って謙虚だった。
いつもちょっと戸惑っていて、
プレゼントを貰った時は
感謝の言葉を忘れない。
私はそんな、真面目で優しい彼に
惹かれていったんだ。
恋人同士になった後も、
私がトラウマを抱えていることを
受け入れてくれた。
*
失礼だと分かっているが、
狐崎くんは悪い意味で
先輩と重なる部分が沢山ある。
優しい同僚だと分かっているけど…
やはり、朗茉とその友達以外の男性は、
なかなか心の底からは信用出来ない。
「僕、諦めませんから。
貴方が僕を好きになってくれるまで」
「……うん。…残りの飾り持ってくるね」
関係者用扉を開け、
飾りが積まれた車へ向かう。
「お願いしまー…」
ガチャン
ドアが閉まり
足音が遠のくのを確認すると
天井を見上げ狐崎は笑った。
「……ふふっ…可愛いな。鬼無の前でこれ言ったら怒るだろうなー……さあ、僕の可愛い有紀ちゃん…僕の所へおいで…次会った時、君を落として見せるよ」
狐崎は黄土色と白色の耳を生やし、
成功を想像して笑っていた。
続く >>>>
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有紀ちゃんのトラウマが明らかに。
斎睦くんはそれを知らずに
有紀ちゃんを
朗茉くんから奪おうとします。
びんさんにバトンタッチ