#本音の僕を隠して

アイス












17年間。

生まれてからずっと1番近くて見守ってきた。

悲しい時も辛い時も寂しい時も。

手が届くか届かないかそれくらい近い距離で。

男勝りで負けず嫌いで正義感が強くて、ゴリラなんてあだ名がついてるやつ。

だけど本当は泣き虫で怖がりなくせに必死に隠す不器用な幼馴染。

そんなあいつが愛おしくて大切で、ただただ守りたかった。

特別な名前なんてなくても“特別”なんだと思い上がっていた。

だってあいつが俺の名前を呼ぶから。

隣で楽しそうに笑ってくれるから。

そう。俺は自惚れてたんだ。

あいつに彼氏が出来て初めて思い知る虚無感。

俺とは正反対の優しそうな先輩。

もしこれが映画や漫画なら最後には俺を選んでくれるのか、なんて甘い考えに嫌気がさす。

俺に彼氏を紹介した時のあいつの幸せそうな顔が頭にこびりついている。

そんなあいつの顔が俺を否定する。

いつも一緒に帰っていた帰り道。

あいつは彼氏と帰るらしい。

いつも一緒に買ってたアイス。

今は彼氏と半分こしているのだろうか。

1人で歩く帰り道は長くて重い。

手を伸ばせば届く距離だった。

でも伸ばさなかったのは俺だ。

もう今はどんなに伸ばしても届かない。

夕焼けの河川敷。

告白のロケーションは完璧だ。

もし俺が先に告白してれば俺が彼氏だったのかな、なんていう考えを無理やり払う。

もしなんてない。

自惚れてた結果がこれだ。

自傷気味に出た溜息が風にのって消える。

代わりに聞こえたのはLINEの通知音。

[今日の晩御飯、私の家だって！食後のアイスよろしく！]

いつかのあいつの声が蘇る。

彼氏が出来て最初で最後の2人の帰り道。

アイスを買って肩を並べて歩いた。

手が届くか届かないかそんな、幼馴染の距離を保って。

“ねーねー。”

家に着く少し前、アイスはとっくに食べ終わっている。

“いつもありがとうね。”

照れくさそうに前髪を弄りながら言う。

“どうしたんだよ。急に。”

俺も照れ隠しに俯いた。

“いや、なんかさ、先輩にあんたの話した時に、良い幼馴染に恵まれたなぁって思って。”

良い幼馴染。

あいつにとって俺は良い幼馴染という“特別”。

素直なあいつが少し嫌いになる。

でも、それ以上に自分が嫌いであいつが好き。

どうしようもない。

思い出して苦笑いになる。

[了解]

無愛想ないつもの返事を返す。

あいつにとってこれが俺だから。

今更優しくなんて出来ないし。

今更気の利いた返事なんて出来ない。

もう全てが遅すぎた。

だから、これからもあいつにとっての“特別”でいようと思う。

せめてあいつの幸せを願える、あいつの笑顔を願える“特別”でいたい。

この先何が起きようと。

あいつ以上の“特別”を見つけても。

幼馴染としていつまでも。

コンビニに入っていつものアイスを２つ買った。

僕のできることは

繋いだその手を

離さないことだった

大丈夫

君は自分が思うより

ずいぶん強いから

今日その手を離します