はじめる

#鍵盤

読んでると、
思わず胸がギュッとしめつけられる、
そんなポエムを集めました。

全8作品・







「素敵な音だね」

そんな優しい想い出は

君がいたあの夏の記憶___













「優!

いい加減そんなもの止めろと

あれだけ言ったじゃないか!!」


部屋中に父親の声が響き渡る


「ちょっと、いいじゃない

好きなことをしていたって」


「生ぬるいんだよ

お前の考えも!優のやりたいことも!

第一なあ……」


繰り返される親同士の言い争い



足音をも消して僕は部屋を出た




“そんなもの”




“生ぬるい”




今日はまだかわいいものだったそれら



毎日のように続く罵倒の日々









僕はただ

あの音色に触れていたいだけなのに











学校が終わり帰路の途中に見据える館




昔は結婚式場だったらしき廃墟




ギィ、と軋む戸を押して

奥へと続く一本道を歩いた



当たり前のように

今日もそこに人はいない



並べられた椅子の間を抜け

更に奥の‘あるもの’へと向かう



家と学校以外で初めて見つけたもの


学校のよりも

ずっと優しい雰囲気に

僕は一目で触れてみたいと思ったんだ



うっすらと被る埃を手で払い

ゆっくりと蓋を開ける


軽く息を吸い

僕はその音を奏でた



時に優しく、時に激しく

それに触れている間だけは

自分が自由になれた気がした


誰にも縛られず自分だけの世界へ




『凄い、月光だ』



夢中で気づかなかった人の気配

突然聞こえたその声に

振り返った僕の瞳に映ったのは

歳の近そうな少女だった



初めて現れた人の姿に驚いた僕は

「あ、えっ、と…」

と躊躇うことしかできなかった


『ああ、ごめんね

此処でそれ弾いてる人

初めて見たからつい』


照れくさそうに頭をかいたその人は

真っ直ぐに僕を見据えて言った




『素敵だね、君のピアノ』




ピアノ



音楽家だった母の影響で

幼い頃に始めたものだった

弾かされている、と考えていたのが

いつしか

‘弾きたい’と思うようになった




『ねぇねぇ今の月光でしょ?

もう一回弾いてみてよ』


目を輝かせて言うその人は

名を美羽と言った





それからも美羽は何度もここへ来た

美羽が退屈しないようにと

僕は色んな曲を弾いた


でもどの曲を聴かせても

月光のように題名を口にしなかった



「今日はこれ」


そう言って奏でたのは

リストの『ラ・カンパネラ』

父に隠れて練習した曲だった


『おわ、速い曲

優ほんと凄いな』


ピアノに触れそうで触れない距離で

美羽がそう言う


『でもやっぱり私

この曲も分からないや』


笑ってはいるが

どこか寂しそうなその表情に

僕は目が離せなかった




「美羽もピアノ弾く?」



太陽の眩しい日だった

いつも通り聴いているだけの美羽に

僕はそう尋ねた


『んー、でも私出来ないから』


曖昧に眼を剃らす美羽の手を

僕は自分の方へ寄せた


「弾いてみようよ

簡単なのなら出来るよ」


困ったように笑いながらも

うん、と頷いてくれた


「二人で弾こう」


『連弾?』


「そう

やりたい曲ある?」


少し悩む素振りを見せた美羽は

『カノン』

と小さく呟いた

2日程前に僕が弾いた曲だった

「分かった」



演奏中に美羽の横顔を盗み見る

その表情は真剣そのものだった



美羽の覚えは早く

ものの2.3日で完璧に弾けるようになった


「凄いよ、美羽

もう普通に弾けちゃった」


『優のおかげだよ

大変だったけど楽しかった』


椅子から腰を浮かすと

鍵盤に触れて言った



『優のピアノ、すごく綺麗なんだよね

自分じゃ分からないかもしれないけど

優がピアノに触れている時だけ

違う世界に居るみたいなの』


顔ごとこちらに向けて

美羽が笑う


『ありがとう優』


透明で美しくて

どこか哀愁の漂うその瞳が

優しい弧を描いていた


「な、何もしてないよ」


急に気恥ずかしくなり

僕は必死に目を泳がせた



『ねぇ、優

何か弾いて』


いつものように美羽が僕を

演奏へと諭す


じゃあ、と呟いて演奏したのは

ショパンの『ノクターン』


夕焼けが終わり月が姿を現した今に

ぴったりだと思った

雲ひとつない宙を見つめ

僕はノクターンを奏でる


曲が終わり鍵盤から指を離した僕は

隣に居る美羽へと視線を映した


「え?」


ピアノを見つめたまま

美羽は静かに泣いていた

頬を伝う涙も気にせず

ゆっくりと瞼を降ろした


『綺麗な音だね

やっぱり私、優の音好きだ』


自分のピアノを認められた事

奏でる旋律を綺麗だと言ってもらえた事


優しさの溢れるその全てに

僕の瞳からも涙が零れた


『その曲、何て言うの?』


美羽が曲名を聞いてきたのは

初めてのことだった


「“ノクターン”」


『“ノクターン”』


そう反復すると

美羽は小さく微笑んで呟いた


『夜想曲、か』


鍵盤を撫でて目を瞑る美羽


「気に入った?」


『うん』




『ありがとう、優

私にピアノを聴かせてくれて

ありがとう』


月夜に照らされた美羽の笑顔が

今までで一番美しかった
















次の日

美羽の姿は見当たらず

一枚の手紙がピアノの上に置かれていた


『優へ__』


そう書かれた封筒を

荒い手つきで開き中の便箋を取り出した




『急に居なくなってごめんね

私は優に言ってなかった事があります


私は脳の病気を抱えていました

余命もあと僅かで

迫り来る死を待つだけでした


そんな時

この場所で優と出逢いました


発病する前は

私もピアノを弾いていました

だけど病気が見つかり

思うように体が動かせない事もあり

自然とピアノから離れました


弾けない間ずっと聴いていたのは

優と初めて会った時の‘月光’でした


優しく、美しく

時にどこか切な気に奏でる優に

私は心を奪われました


曲名も思い出せなくなる程

脳も悪化していき

何度かはきっと

優を不快にさせたんじゃないかな


それでも見棄てず

私の手を取ってくれたときは

思わず涙が零れそうでした


優との連弾、楽しかった

まだまだなくせに

自分がやっと優に追い付けた感じがして


最後に聴いたあの曲

‘ノクターン’

あの時の優が一番自由だった

繊細なのに大きくて

このまま何処かへ翔んでいけそうで


思わず泣いてた私に

優も泣きながら優しく笑ってたね


思えばきっとずっと前から

私は優に恋をしていました


ピアノを弾く姿

くしゃって笑うところ

不意に見せる寂し気な表情

私を導く優しさ


全部、全部大好きでした


優がこれを読んでる頃は

きっと私はもういないけど

優のピアノずっと覚えてるから


優がおじいちゃんになって

こっちに来たとき

その綺麗な音をまた聴かせてよ


ありがとう、優

ずっと大好きだよ』




涙が溢れるのは時間の問題だった

頬が濡れるのもお構い無しに

僕は震える両手で鍵盤に触れた


もう美羽に会えない


そう思うと何もかもが崩れそうだった


でも美羽が希望をくれたから

また会えるよって

美羽が笑ってる気がするから


僕はもう少し頑張ってみるよ


僕が奏でるのは

美羽との出会いの曲


『月光』


僕のこの想いごと

君に届いてくれないかな


願わくば、君の元へ


僕は今も此処で

あの澄んだ大きな宙に向かって

君への旋律を響かせる

豹瀬 夏椰・2020-04-15
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読みにくいです、ごめんなさい
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僕らの奏でる小さな星で

1度しかないこの人生を

あなたはどういう物語を作っていますか?

1ページ(1日)を空白なく大切に生きよ?

美咲 ひとこと見てね!・2020-05-26
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12月11日
まるノッテ
Notte

これらの作品は
アプリ『NOTE15』で作られました。

他に8作品あります

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鍵盤の上
君の手が綺麗に踊る
奏でられる音は
僕が好きなジャンル
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ー今だけは勘違いさせてね。

夢を捨てた少年少女 (元)lovers秘密結社・2020-04-12
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