#魔女

鳥居の向うで
あの魔女が手招きしている。
「練らなければ…」
虚ろな表情で、おぼつかない足取りで、
君は鳥居の方へ歩き出した。

私が「魔女になりたい」と言ったとき
みんな笑った。
あの魔女だけは無表情で
どこか遠くを見るような目をしていた。

2人きりになるとあの魔女は
ねるねるねるねを私に手渡した。
そして、ニヤリと笑って、うなずいた。

冬に魔法をかけた魔女はトビラを拓いた

そして
ねるねるねるねのCMに出演していた
あの魔女も
かつては恋する乙女の一人だったと
思うのだ。

あの魔女が書き初めで書いた

〝色即是空〟

つまり

練れば練るほど

色が変わるのだ。

クリスマスの朝
あなたの枕元に
ねるねるねるねが置かれていた。
つまり、あなたは
あの魔女から
選ばれてしまったのだ。

魔女がねるねるねるねを固めたという
製品が売っているらしい。

あの魔女はもう居ないが、
固められたねるねるねるねを見たら
あの魔女は、怒るだろうか。
それとも笑うだろうか。

知る由はないが、
一度食べてみたいとは
思うのだ。

紅白歌合戦を見ても

誰なのか

知らない人ばかりで

分からないのだ。

僕のテレビの記憶は

20年以上前の

ねるねるねるねの魔女が

テレビに出演していた時代で

止まっているのだ。

ねるねるねるねを練り進めると

色の変化に比例して

僕の心は空虚になって行ったのだ。

練り終わったとき

僕には泣く気力も感情もなかった。

そして

あの魔女は笑った。

ある地域では
お正月に
ねるねるねるねを食べる
風習があるのだという。
明治時代
米が不作でお餅が作れなかったとき
魔女がやってきて
ねるねるねるねを配ったと
言い伝えられているのだ。

みんなが疲れて
寝静まった
12月26日の
午前0時

あなたと
ねるねるねるねの魔女の
クリスマスが
幕を開ける

クリスマスはキリストの誕生日だが、では、サンタクロースとは何者なのか…

別に知る必要はないのだ。

あの魔女の存在を知らなくても、ねるねるねるねの色は、変わるのだから。

新宿の雑踏の中
ねるねるねるねを練っていると
人の流れの渦に飲み込まれるような
つまり
練られているような
奇妙な感覚に陥った。
帰ろうと思って歩き出すと
自分の家に向かっているつもりなのに
なぜかあの魔女の家の方に
進んでしまうのだ。

彼女は、普段は普通の大学生。

しかし、裏の顔は、ねるねるねるねの、あの魔女なのだ。

あの魔女が発表した

今年の漢字は

〝練〟

なのだ。